- Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309204765
作品紹介・あらすじ
膨大な標本、世界初の自然史博物館、有名人の手術、ダーウィンよりも70年も前に見抜いた進化論…。「このジョン・ハンターはまぎれもなく、イギリスの誇る奇人の伝統を脈々とうけつぐ人物であり、その影響は医学の世界をはるかに凌駕している。かれの奇人ぶりは群をぬいており、それが証拠にかれは当時、そしてその後の小説などに多くのモデルを提供している。本書を抜群におもしろくしているのは、そうしたかれの奇人的なエピソード群のためであり、そしてそれが現代のぼくたちにつきつける問いかけのためだ。」近代外科医学の父にして驚くべき奇人中の奇人伝。奇人まみれの英国でも群を抜いた奇人!『ドリトル先生』や『ジキル博士とハイド氏』のモデルとも言われる18世紀に生きた「近代外科医学の父」を初めて描く驚嘆の伝記。
感想・レビュー・書評
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高校卒業、くらいまでに出会えたら最高なんじゃないかと思った伝記。目次一覧も、表紙の胎児のスケッチも、裏表紙のモーツァルトばりの肖像画も、読む前と後では興味深さが段違い。面白かった。
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これ、面白いですよ。
とても一言では言い表すことができない人物。
一番ざっくりとした言い方は「奇人」でしょうか。
彼が生きていた18世紀イギリスは、麻酔も消毒の概念もありません。
しかも、医者は患者の体に刃物を入れる仕事は下賤の仕事だと思っていますし、患者も宗教的に来たるべき復活の日のために死後の解剖とか超嫌がります。
病気は悪い体液のせいなので、静脈開いて瀉血&毒物飲まして嘔吐というのが治療の常識でした(ヒィ!!)。
そんな中ジョンは違いました。実験、観察、考察といった論理学的手法を使い、実技と知識を極めてゆきます。
彼の興味は人体のみならず、動物や地学・博物学まで広範囲におよびます。
あのダーウィンより半世紀も早く進化論に気づいていました。
20世紀になってから常識となった、救急救命の「素早い対応・気道確保・人工呼吸・電気ショック」といった流れを、不完全ながら理解していました。
彼の思考は最高200年先取りです。
後年、「近代外科学の父」「近代歯科学の父」と呼ばれただけでなく、天然痘ワクチンで有名なジェンナーの師であり、住んでいた家は『ジキル氏とハイド氏』のモデルにもなったという、エピソードてんこ盛りです。
前回読んでいたジョン・スノウが学界に完全黙殺されてたのと違って、こちらのジョンは論争を巻き起こし、敵対勢力によって集中攻撃されます。死後も。
その敵対勢力に、身内も入っていたのがなかなかどろどろしております。
兄ちゃんがまたタイプの違った出来る人で、袂をわかつことになったりしてスリリングです。 -
こういうタイプの天才好き。
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18世紀の解剖医ジョン・ハンターの伝記。
ハンターは外科を科学に発展させた貢献者とされる。死体解剖や動物実験、標本作成等、徹底して実験・観察し、根拠に基づいて理論を立てる。当然のようだが、現代の目から見ると、むしろ当時の医学界で主流だった理論のでたらめさに驚く。体力を奪うばかりの瀉血や、水銀など明らかに有毒な物質の薬。もっとも現代でも怪しげな民間療法・薬には事欠かない訳だから、既存の医学に沿っているかどうかだけではなく、科学のメソッドにより検証されているかどうかという点を気に掛けることを忘れれば、いつでも18世紀に逆戻りする危険はあるのだと教えてくれる。
人物としては、奇人の一言。読み書きは得意でない。激高しやすく、敵を作りやすい性格。権威を鵜呑みにせず「自分の頭で考える」ことを生涯通じて教え、大きな思想的影響を及ぼす。そのため彼の周りには人が集まり、研究と議論の場ができた。種痘を発明したエドワード・ジェンナーも愛弟子の一人。
コーヒーハウスでの議論コミュニティに設けられた入会儀式が興味深い。「ハンターはメンバーを厳選するために、基準の高い入会儀式を設けていたという。メンバーになろうという人間に、侮蔑と嘲笑の集中砲火を浴びせるのである。その人個人を攻撃するのではない。その人が現在の地位または職を得るためにこれまで指針にしてきたと思われるあらゆる固定観念と権威を攻撃し、その人の思考の柔軟性を試すのである。(p184)」
またハンターの関心は幅広く、人間の医学ばかりでなく、珍しい動物を集め、標本を作った。多くの生物の解剖や観察を経て、進化論に似た理論にまでたどり着いた。博物学、生物学、医学が混然としていて、科学研究は自然哲学と呼ばれていた時代である。信仰上の理由から拒否感の強かった検死が、病気の原因を知るものとして受け入れられるようになっていく(p149)など、ハンター自身の活躍だけでなく、科学が科学として成長していく鮮烈な勢いのようなものが感じられる。
もっともハンターの功績には、そうしたラフな時代であったから可能だったことという側面もある。死体調達の墓荒らしは当時としても人倫にもとる行為だし、本書では言及されていないものの、都合の良い状態の死体を得るため殺人を犯したケースが全く無かったとは思えない。
倫理的な問題と言えば、第13章の「アイルランドの巨人」と呼ばれた巨人症患者バーンのエピソードが印象的。当人は死後自分の体が解剖医に渡ることを嫌がり、海洋葬を強く依頼していたにも関わらず、ハンターは手を尽くして奪い標本にしている。バーンの人生が幸せとは言い難いものだったらしいことを考え合わせると、標本としての医学的価値と、された側の尊厳という矛盾を考えさせられる。[ https://booklog.jp/item/1/4062162032 ]を思い出した。また未読だが[ https://booklog.jp/item/1/4152083654 ]も、おそらく共通の視点を提示するものだろう。
人間について科学的方法で検証することと、その行為自体が持つ倫理とのせめぎあい。ハンターの住まい兼研究所は「ジキル博士とハイド氏」のモデルになったとされるが、科学という営みの持つ両面性を象徴しているようでもある。 -
医療の黎明期というより、最早暗黒時代に、実験的理論的に外科や解剖学を突き詰めていった医師の伝記。
ジョンの発想力のすごさ、人柄の独特さも良かったが、やっぱり医療は人に不可欠で必要とされる反面、直感的にどこかまずいのではという部分が含まれている事を感じて興味深かった。 -
10/29 読了。
皆川博子「開かせていただき光栄です」のタネ本。ハンターの業績とは直接関係ないけど、コンドームはドクター・コンドームが開発したという箇所が1番びっくりした(笑) -
皆川博子さんが書かれた小説の参考文献。
奇形の章を興味深く拝読。巨人とこびと。
著者も訳者も女のシトと気づく。さすが血に強い。 -
非常に面白かった。
既存権力に逆らって主張を貫きそれでも出世していく様は爽快。
しかし科学の探求を名目に犯罪を繰り返すのは悩ましい。
IPS細胞前の胚の話もあったが、未来から見れば倫理的許されないことも必要なことであったと評価されるのだろうか。
そんな話を抜きにすれば彼の貢献は著しく、あっという間に読み終わり名残惜しかった。 -
奇形や珍獣は片っ端から解剖して標本に。ダーウィンより70年も前に進化論を見いだし、「ドリトル先生」のモデルにもなった、いかにも英国的な奇人博物学者の一途な生涯。