リャマサーレス短篇集

  • 河出書房新社
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本棚登録 : 101
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309208534

感想・レビュー・書評

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  • 待ちに待っていた本。
    手に入れた瞬間、うわー装丁素敵だな、と。
    ざっくり言うと、
    ・あるシチュエーションに落ち込んだ人物を描写するシニカルでブラックなユーモアに満ちたコント。
    ・いまや失われた人や時代への愛惜。
    の2種類。
    私が求めていたのはもちろん後者。
    だがほどよく前者もありバラエティ豊かで、決して詩的小説だけではないという作家の多面性を感じることのできる、いい一冊。
    あと、当事者以外の息子娘世代が、上の世代を思うという形式も、短編らしい一ひねりでいいスパイス。

     @

    ◇読者へ

    ◇Ⅰ『僻遠の地にて』1995の短篇集 7篇
    ■冷蔵庫の中の七面鳥の死体 ……シニカルの極致。
    ■自滅的なドライバー ……★前者、だがどこかフリオ・コルタサルっぽさもある。
    ■腐敗することのない小説 ……既読。「黄色い雨」文庫版では「不滅の小説」。
    ■夜間犯罪に対する刑の加重情状 ……世にも奇妙な物語っぽいか。
    ■遮断機のない踏切 ……「黄色い雨」文庫版で既読。
    ■父親 ……ちょっとジュヴナイルの書き出しっぽい。
    ■木の葉一枚動かんな ……★そうそうこれこれ。失われたものへの愛惜だか沈滞だかを、息子視点から。

    ◇Ⅱ『いくら熱い思いを込めても無駄骨だよ』2011の短篇集 13篇
    ■ジュキッチのペナルティー・キック ……シチュエーション・コント。
    ■マリオおじさんの数々の旅 ……★一見村上春樹にありそうな。しかしヴィットリオ・デ・シーカ監督、マルチェロ・マストロヤンニ主演「ひまわり」への言及が抜群にイメージを喚起する。
    ■世界を止めようとした男の物語 ……浮浪者に過去ありき。
    ■姿のない友人 ……浦沢直樹「マスターキートン」とか弘兼憲史「黄昏流星群」にありそうな!
    ■いなくなったドライバー ……★あっ。これ他人事じゃない。
    ■行方不明者 ……→「狼たちの月」へ。
    ■依頼された短篇 ……太宰治がやっつけで書きそうな話だな。
    ■尼僧たちのライラック ……★尼僧ではないが勝手に映画「汚れなき悪戯」を連想。あの映画の数十年後とか。
    ■ラ・クエルナの鐘 ……→「狼たちの月」へ。
    ■暗闇の中の音楽 ★→「無声映画のシーン」へ。また炭鉱事故という点で、→森崎和江「まっくら」へ。そして死を悼む音楽。
    ■夜の医者 ……→「狼たちの月」へ。
    ■プリモウト村には誰ひとり戻ってこない ……★→「黄色い雨」へ。
    ■明日という日(寓話) ……1ページの掌編。
    ◇Ⅲ『水の価値』2016の短篇集 より、1篇のみ
    ■水の価値 ……★これは自分の祖父の現状を思って切ない。そして小道具に視点が合う短篇として抜群。

    ◇訳者あとがき 木村榮一

  • 大好きな『黄色い雨』のリャマサーレス。
    短編の見本みたいな作品ばかりだった。
    見事。
    ブラックユーモアあり、哀愁や虚無感、寂寥感に満ちたものあり、その中に時折織り込まれる、スペイン内戦の傷跡や、山岳地方の生活の過酷さ。
    と書くとしんどそうだけど、作者の目が温かいので、いいんだなぁ…。
    「水の価値」が特に胸に残っている。

  • 『黄色い雨』のリャマサーレスの短編集。
    2つの短編集『僻遠の地にて』『いくら熱い思いを込めても無駄骨だよ』の合本のようです。
    『僻遠の地にて』から収録されている前半の7編が特によかった。
    失敗に向かっているのがわかっているのに止められないコルタサル的不条理世界をユーモラスかつ、どうしようもなく破滅に突き進む登場人物達への共感たっぷりで哀しくもほほえましい。
    後半は、もの悲しさがより前面に出てきて、ちとさみしい。

  • 自分もかなりの田舎に生まれて、地理的に人間が偏屈になったり、偏った情報が正義!みたいな気持ちはわかる。日本も同じように山川あるり、閉鎖的なベクトルの角度が日本と似ているような気がするんだよねー。そんなことをしみじみ思う程、この短編種は牧歌的というか、田舎くさいというか、思ってたのと違うというか。人と違うことをするのは勇気がいる。ホームで電車待ってる時に傘を差すとかさばるので持参タオルをかぶるとか。でも田舎って比べる対象の人間が少ないからその機会もないんだよなー。虚無感もある(別に田舎の本ではない)

  • 前半は、不器用な人たちが軌道修正できなくて悲劇的結末に突っ込んでいく話いろいろ。自分も臨機応変に対処できないタイプだから、身につまされてしまった。ブラックユーモアとして楽しめるひとは楽しめると思う。身につまされつつも、笑ってもらおうとしている意図は理解できた。

    後半のスペインの寒村が舞台の数編にリャマサーレスの持ち味が出ていて好み。内戦があってもそれが終わればみんなで生きていくしかない。そして木村先生のあとがきがよかった。海外文学の研究者が研究・翻訳すべき作品を発見していく過程が興味深かった。

    良いなと思う短篇もあったのだけれど、余韻を残すというより放り投げているように感じる結末のものが多かった。よくいうとシルビナ・オカンポ的というか。リャマサーレスについては、自分は短篇より長篇のほうが好きみたいだ。

  • 「遮断機のない踏切」がなぜかずっと心に残っている。止まった時間を生きている人の話。ラストも良かった。

  • 短篇集。冒頭に「フリオ・リャマサーレスがこれまでに書いた短篇の完全な集大成と言っていい。」とある。人生のコントロールできなくなった人や人間の寂しさ、孤独が描き出される短篇が多く感じられた。ちょうど落ち込むことがあり、短篇を読んでいると自分を冷静に落ち着いて見つめ直すことができ、助かった。独特の哀愁がある。

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著者プロフィール

1955年、スペイン生まれ。詩人、作家。著書に『黄色い雨』『狼たちの月』『無声映画のシーン』(いずれも木村榮一訳)など。

「2022年 『リャマサーレス短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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