- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309208817
感想・レビュー・書評
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近未来のロシア。感染すればゾンビと化すウィルスが猛威を振るう町へワクチンを届けるため御者のセキコフと共に吹雪の中を出発するドクトル・ガーリン。その道中を記したロードノベルとなっている。巨人や、巨大な馬が出てきたりとファンタジックな世界へと引き摺り込まれる。
本書は2010年に発表された作品だが、当時のロシアの風刺が描かれているのだろうか?
ドクトル・ガーリンが主人公の長編小説もあるので、こちらも翻訳されたら読みたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ボリビアからの黒い病(ゾンビウイルス?)によりエピデミックが発生している町ドルゴエへ、ワクチンを届けに行くため急いでいるドクトル(医者)プラトン・イリイチ・ガーリン42歳。しかし外は吹雪、田舎の村で足止めを食らっている。そんなドクトルのために、パン運びのセキコフが車を走らせることになる。この車、馬車とは書かれていないが動力は馬で、それもウズラより小さい50頭の馬だというから想像がつかない。馬車しかないなら昔の話かと思いきや、近未来的でもある。馬は象くらいある大きな馬もいるらしい。猛吹雪の中、ドクトルとセキコフの珍道中が始まる…。
以前『青い脂』を読んでから、もっと読みたいと思っていたけれど、パワーが必要なのでなかなか読めずにいたソローキン。こちらはページ数もそれほど多くなく比較的読みやすかった。しかしドクトルがワクチンを届けに行った先でゾンビとの戦いが展開するのかと思いきや、これネタバレだけど、なんと1冊まるごとかけても彼らは目的地に辿り着けない!二人はずっと吹雪の中で右往左往、一難去ってまた一難、天気が良ければ数時間で着くはずの道のりなのに、いつまでたっても吹雪の中を彷徨い続けるはめに。
まずは奇妙なピラミッド型の物体が道に落ちていたせいで車が破損、引き返そうというセキコフを説得してドクトルは応急手当をして強行突破、やむをえず途中で粉屋の小屋に立ち寄るが、この粉屋は小人。奥さんはふつうサイズの人間。この奥さんがとても優しくて魅力的だったので、先を急いでいたはずのドクトルはついついお泊り、さらに奥さんとベッドを共にしたあげく、翌朝セキコフが起こしにきたのに起きず、ますます遅れることに。
二人が出発するとまたしても吹雪に行く手を阻まれ、今度はビタミンダーという人々の小屋に助けを求める。このビタミンダーというのがてんで謎。おそらく麻薬的な製品を作っているのだけど、他にも謎の最先端技術を利用していて、胎生フェルトという素材を使って、あっという間にセキコフが休むための小屋を建ててくれたりもする。ドクトルは彼らの一人の怪我の治療をしてやった見返りに、最先端の製品(序盤で道に落ちてたピラミッド型のもの)をもらって早速使用。どうやらドラッグの一種らしく、博士は悪夢にトリップ。
このとき博士が見る悪夢というか幻覚が、ほぼ拷問というかまあ日本でいわゆる釜茹での刑というやつで、すんでのところで現実に戻ってきたドクトルは、すっかり元気に(なんで!?)どうやら極限体験をすることで生のありがたみを噛み締め、生きることが楽しくなるという仕組みらしい(笑)まあそれでドクトルが元気になったのはいいけど、結果またここで無駄に時間が経過、慌てて出発するもやっぱり外は吹雪吹雪氷の世界・・・。
この後もさまざまな苦難が二人を待ち受けており、極めつけに巨人の死体にぶつかって、車がその鼻に刺さってしまう。うん、小人の粉屋がいたのだから巨人もいるよね…。巨人の鼻につっこんだ車を引き抜こうと頑張る二人の姿は、気の毒なのだけどどこかしら滑稽でもあり、まるでドン・キホーテとサンチョ・パンサのようだなと思っていたら解説にもやはり同じ例えがあり納得。そしてこれでもかこれでもかと次々ドクトルとセキコフに降りかかる不幸。そしてついに二人は…。
ドクトルが大変めんどくさく自己中で、セキコフが最初から最後まで可哀想だった。ドクトルのなにがなんでもワクチンを届けねばならないという義務感・責任感・正義感の強さは、医者としてのプロ意識の表れともいえるけれど、そのわりには寄り道が多く致命的なミスは常にドクトルがやらかす。粉屋の奥さんとよろしくやって寝過ごしたのも、ビタミンダーのところでトリップして時間を無駄にしたのも全部ドクトル。つまり自業自得。
一方、セキコフは素朴で善良、馬をとても可愛がっていて、ドクトルが馬を鞭打とうとしたときは代わりに自分が殴られるほど。ドクトルは彼を見下しきっていて、なんでもセキコフのせいにするが、短気で自己中で思い込みの激しいドクトルのほうが、個人的にはお友達になりたくない。しかし解説によるとソローキン自身はこのドクトルを気に入っていたようで、なんとドクトルの後日談で1冊あるらしい。
面白かったけど、とても疲れた。やっぱりソローキンを読むのは体力がいる。そしてもし私がこの本にタイトルをつけるなら「徒労」もしくは「骨折り損」かな。 -
なんとも不思議な本だった。SFなつもりで読み始めて、確かに設定はSFなんだけど、内容は伝統的なロシア純文学(よく知らないけど)をトレースしたかのような、ある種あざとい仕掛け方になっており、万人がイメージするであろう社会主義的な重苦しさに満ち満ちている。そして、どんな展開があるのかと思いきや…いや、これ以上はやめておこう。言うなればロシア純文学風はちゃめちゃロードムービー(ムービーじゃないけど)だ。読むのが徒労に終わるかもしれないが、それはそれ、この圧倒的世界観に浸るのも良いでしょう。
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SF幻想ドン・キホーテとでも例えればいいだろうか。不思議な道具や乗り物たちに???となりながら、読み進めていくと次々と???となり、登場人物たちは暴力的かつチャーミングで、何とも不思議な魅力が詰まっている。全体を通して閉塞感が息苦しく、しかしコミカル。
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久々のロシア文学は初ソローキン、荒唐無稽でなかなか面白い。
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ソローキンを読むときは、心と体の調子が良いときにしないと、という心構えがいらなかった作品。逆?に作者が伝えたいことがよくわからなかった。毎日スーパーの惣菜食べてたのに、いきなり母親が菜食に目覚めたような、そんな感じでした。
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久しぶりに読みやすい翻訳に出会った
ロシアの作品は名前が長くて閉口するけど
この本は大丈夫
人間がゾンビ化する黒い病のワクチンを
届けるために御者を雇い子馬50頭と
吹雪の中旅に出る
途中で出会うのは小人の粉やとその妻
麻薬を扱う不思議な人達
大男 大きな馬
そして吹雪の中御者は死に
医者は中国人に助けられる
どういう暗示 -
これぞロシア文学という内容。子馬で動く車や巨人が出てきたりするので、SFかと思いきやロシアの風刺小説だった。
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黒い病が流行っている地域にワクチンを届けようとする医師。しかし向かう先で着いた駅馬車には一頭も馬がいなく、しかも吹雪。困っている人々を救うためになんとかできるだけ早く着きたい。駅馬車の近くに車をもった人がいるとのことで、交渉し吹雪のなかワクチンを届けにむかう。
車といわれて想像したのが現実世界で走っている自動車だったのだけど、なんと車を動かすのはガソリンなどではなく小馬たち。50頭の小馬たちをボンネットのなかに整列させて動かす。そして黒い病が流行っている地域にむかう吹雪のなかで様々な足止めをくらう。
ストーリーはとてもシンプルで、よくこんなことが思いつけるなあという場面がいくつか出てくるけれど、ストーリーのシンプルさでとっつきにくいというわけでもなくスラスラ読めてしまう。
作中で出てくる小男、小馬、大男、大馬……帯の文句でかなり煽られているのでどうしてもそういう読み方をしてしまう。広大な大地で、ただひたすら雪という天候で理不尽な目に合う。村上春樹『1Q84』にでてくるリトル・ピープルだとか、凍りついた大男や最後に登場した人々など、色々と考えてしまう物語だった。