白磁の人 (河出文庫 え 2-1 BUNGEI Collection)
- 河出書房新社 (2010年8月3日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (169ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309405018
感想・レビュー・書評
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「咲、白磁の小さな壺があったな。あれを持ってきてこの手に握らせてくれないか」
すっかり熱は下がったようなおだやかな表情であった。咲が巧の手に小さな八角壺を握らせた。巧はそれを頬に当てた。
「冷たくてとても気持ちがいい」
そつ呟くのを聞いて咲は、巧の熱がまだ高いことをさとった。
「白磁というのは本当にいい。こんなに冷たくて気持ちがいいのに、見つめていると心は温かくなってくる…」
(まるであなたの人柄そのものじゃあないですか、白磁の温かさは)
咲は巧の呟きに対して、心の中で答えた。
巧の病症は一時回復の兆しを見せた直後、再び悪化した。(148p)
映画「白磁の人」を観て、今も韓国の人たちの敬慕の対象であるという稀有の日本人、浅川巧について興味を覚えた。興味を覚えると、いろいろ知りたくなるのが私の悪い癖で、先ずは原作を読んだ。
ついでに言えば、八月の韓国旅行の準備でもある。浅川巧の墓参は一つ決定している。
映画は見事にこの原作を換骨奪胎、脚色していることを知った。悪軍人小宮中尉は、原作では途中で心を入れ替える事になっているが、映画では敗戦時に朝鮮人によって袋叩きにされる。映画では最も感動的だった巧の母親のエピソードは、原作では全く入っていない。
著者も書いているが、巧の態度は「クリスチャンだったから」というよりも「巧という人間が持っていた心の純粋さ」からきたものだと私も、思う。
浅川兄弟や柳宗悦の民芸運動は、朝鮮民芸の発掘に貢献したかもしれないが、当時の日本の植民地政策に何の痛痒も与えなかった。むしろ、武断政治から文治政治に移る時に利用された感さえある。個人は時代を変える事のできない事の証左でもあった。しかし、一方では、個人は人を変える事が出来る。それは、一粒の種かもしれないが、40年後の日韓新時代の一衣帯水に花開く事もあり得るのだとも思う。まだ、それは道半ばではある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
小説ではなくノンフィクションで読みたかった。
なんで小説という手法を選択したのだろう。あとがきを読む限り、最初から小説でとしか考えてなかったようにも取れるけれど。
「差別の源流」のようなものへの関心もあるし、半島史ももっとと思う。
でもこの本を読むと、まあいいじゃないか、という気にもなる。
でも、ついこの間まで韓流だなんだと大騒ぎしていたのに、こんなに仲をこじらせてしまって…。なんだか舌打ちしたいような気分だ。 -
薩摩焼の十五代沈壽官氏が心の拠り所としている本だと何かに書かれていたのを読んで気になっていた本。
読み終えてしばらくした今 思い起こしても、心を濯がれるような心地がする。
朝鮮白磁をゆっくりめでたいと思う。 -
まさかの映画化にびっくりしてます。6月9日公開!
日韓併合で日本が韓国支配を強めていた時代に、韓国の山野に緑を取り戻すために生涯をささげ、韓国人に愛された日本人・浅野巧の話です。
白磁とは朝鮮の磁器のことです。
当時の朝鮮では青磁だけが価値があるもので、白磁はつまらないものとされていました。しかし彼は白磁の『白』に純粋さと無垢の美しさを見出し、研究のかたわらに趣味で白磁を集めはじめました。
タイトルの『白磁の人』はその白磁の無垢の美と、主人公の清らかさを重ね合わせたものです。残念ながら若くして死んでしまうのですが、野辺送りの場面では、大勢の韓国の方々に囲まれて荼毘に付されます。それだけ慕われたのにはそれだけ韓国を愛し、韓国の方々を愛した人生があったからですが、その描写には涙を誘われました。
いつまで経っても心の清らかさを失わない人はいます。
大人になるにつれて純粋さを失ってしまう人と、そうでない人がいるのは一体なぜなのでしょう…
すぐには答えが見つかりません。
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原田マハのリーチ先生を読み、民藝に興味が湧いたと話したら、お勧めしてもらった本。
原田マハ先生のように、フィクションとノンフィクションが混ざったような物語。
浅川巧とは、なんて素敵な方なんだろう。
柳宗悦も大好きだけど、巧さんのように、柔らかく強く、愛に溢れた人...白磁の人になりたい。 -
浅川巧、浅川伯教兄弟の仕事と人となりへの入門書としては適当でしょうね。しかし、あくまでも小説であり、それを理解したうえで読むべきでしょう。
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日韓関係史上になお影をおとすあの時代に、朝鮮の人々に愛された日本人、浅川巧。第41回青少年読書感想文全国コンクール課題図書。国の垣根を越え、愛を持って暮らしていた人の話し。韓国、ソウル在住の人間にとっては不に落ちないところもあったが、概ねソウルに住む人々を良くとらえてると。再読無し。
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小説としては残念な出来だ。少年少女向けの偉人伝のようなつくりになっている。手軽に浅川巧のことを知るには勝手のいい本だが、浅川伯教・巧兄弟の生涯にじっくりと触れたい向きには『朝鮮の土となった日本人——浅川巧の生涯』を薦めたい。
兄の伯教と弟の巧を青磁と白磁とで形容する一文は気に入った。「青磁の気位の高い美しさと、白磁の飾り気のない温かさは対照的です。兄の伯教さんは、ちょうと青磁のように生き、弟の巧さんは、まるで白磁のように生きました」。そして、もう一文。「青磁にはね、気品があるでしょう。愛情を持って見る側に近付いてきます。まるで女性のように。気品があって美しいのでこちらも大切に扱おうとします。それに対して白磁は、静かでおおらかで自己主張をしない。見る側に決して負担を感じさせません。白磁を見ていると、まるで大切な友だちに会えたような気持ちになれます」 -
あの時代に朝鮮人からこんなに慕われた人がいたなんて知らなかった。