類推の山 (河出文庫 ト 4-1)

  • 河出書房新社
3.70
  • (18)
  • (28)
  • (37)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 323
感想 : 30
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309461564

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 世界中の神話には様々な象徴としての山が登場するけれども、
    崇高だが必ず近づき得る、どこかに存在するはずの、この世の中心たる山を探そう!
    想像の世界に聳える山に、本当に登るのだ!!
    ……と、意気投合した「山が好き」な人々が盛り上がる、
    形而上的登山小説(笑)
    登る前に、まず問題の山を探す必要があって、船で航海ってところが、
    バカバカしくてイイ。
    タイトルは硬いが、中身はクスクス笑える愉快な法螺話。
    でも、著者が病死したため未完(涙)
    遺稿の中から発見されたという覚書は、
    小説を書き進めるためのメモであると同時に「登山論」にもなっていて興味深い。

  • 一つの存在と別の存在を結び付けるのは、物理の世界ではどうか知りませんが、言語の世界でこれほど容易なことはありません。アナロジー(類推)とは言葉のセカイでは古参の技法だからです。時に、ある登山家が「登山と人生は似ている」と言ったとしますと、ぼくはこの一節をくだらないと思うでしょう。登山と肩を並べられた人生様に多少の同情を感ずるからです。ですが、このフレーズは稚拙かもしれませんが、登山と人生の間にかならすしも類似性を見出せないわけではありません。アナロジーというものには、言語が言語として意味を成すための最終防衛ラインとして、多くの誤謬や陳腐さの存在を覆い隠そうとする機能があると言っていいようです。

     今作中に散見されるアナロジー(類推)は、あえて上述したような言語の寛容さに身を預けている具合です。便宜上雑に名前を付けますが、このような類推を「アナロジックアナロジー」と呼ぶことにしましょう。接頭辞のana-は上昇という意味でポジティブさを、また他方では穴(ana)だらけの理論(logique)を指します。そのような形容詞に相応しい類推です。ろいうのも、ポジティブであることと穴だらけの理論とは仲良しだからです。大衆が美や若さの神話を信じるように、説明の難しい原初の衝動に対する漠とした憧憬を抱くときを思い浮かべてください。アナロジックアナロジーとは、ありきたりな人間の感動の内に多く見いだせる種類の、期待と盲目に満ちた人生と何かを結びつける粗末な類推のことと考えてくれてかまいません。

     そして今作では、そのような漠とした憧憬への衝動の挿話や、人が希望とともに類推の山を踏査していく様まで、アナロジックアナロジーをテンポ良く配することで華麗に描いてみせています。登山に向かった登場人物全員がソゴル氏の「アナロジックアナロジー」を過信し、誰一人その論理的誤謬を指摘せず盲目に信じるに至りますし、その言葉に含まれた希望(あるいは希望的観測と言い換えてもいいですが)にすがりつつ、しかもその希望的観測が必ず実現していくという具合で、深刻な現実に対する逆説を派手に弄するように物語は展開していきます。あたかも「信じる者は救われる」という金言の「信じる」ことと「救われる」ことの間に立ちふさがる決定的な言語的無縁隔絶乖離を一笑に付すかのようなアナロジックアナロジーです。

     人々が真理への頂を登っていくその様を一歩一歩目に見える形で描き、誰もが希望を信じ希望の存在を実地で確認できるような、夢のように美しく脆い、少年の心をくすぐる幻想的な登山の物語、それが類推の山です。一読の価値はあります。

  • 人類にとって山は、天と地を結ぶ神話的な象徴として存在し続けてきた。そんな象徴としての山――つまり類推の山――の頂は不可視なほど高く、かつその入り口は人間の生活圏になければならない。
    しかし、世界各国の伝説に登場する象徴的な山々は、ヒマラヤさえその頂は可視圏となってしまった現代においては、類推の山としての役割を果たし得ない。
    しかしそんな現代にも類推の山、つまり地理学的にはヒマラヤより遥かに高いけど人々が麓には近づける山が、この世のどこかに存在しているはず・・・。

    そんなトンデモ理論で始まる本書は、上述の理屈に賛同した理屈屋の登山家たちがグループを結成し、その山に挑む冒険譚というかたちをとる。

    科学的、衒学的、詩的な記述が満載ながらも、どこか全体にファンタジックで神話的な色彩を帯びた本書は、その膨大な情報量にも拘らずなぜか軽快に読み進められる楽しさが特徴で、何とも言えない魅力を放っている。
    (トンデモ理論の産物と思われた類推の山が、案外あっさり実在のものとして発見されてしまうのが可笑しい)

    そんな魅力的な本書であるが、残念ながら著者の絶筆となり未完である。
    本当にこれからますます面白くなってきそうな展開で途切れるので実に惜しい。

    調べてみたら著者のもう一つの小説『大いなる酒宴』が今年翻訳出版されている。
    これは買わざるを得ないか。

  • 訳者のX投稿より興味を持ち、読んでみた。大人の冒険小説という感じ。先を読みたい気持ちと、読み込むに相応しい精神状態を己に求める欲求との間で、妙に時間が掛かってしまった。正直、感覚的に理解できない部分もありながら、素直に「物語」として読んでしまったが、まぁ正解はないのだろう。未完であるのが残念ながら、私たちはまだこの先を受け取る準備が出来ていないのだろうかとも思う。不思議な物語。

  • ①文体★★★☆☆
    ②読後余韻★★★★★

  • 2008年11月26日~27日。
     もどかしい。やはり未完で終わっているのがもどかしいのだ。非常に面白い内容だっただけに、やはり最後まで読みたかった。永遠に無理な注文なのだが。
     確かに作者の最期と重ね合わせることも出来るだろうが、やはり作品としては未完なんだよなぁ。悔しいけれど。

  • 新宿紀伊国屋「ほんのまくら」フェアで購入。

    「これからお話しする一部始終の発端は、一通の封筒の上の見知らぬ筆跡であった。」

    へえ、こういう話だったのか、と思った。
    おそらく普段なら決して出会うことのないような観念的な物語ではあったけど、ちょくちょく面白いフレーズが挟まれる。
    でも、読みながらなぜか眠くなってしまうこともしきり。
    「慣れ」が足りなかったのかも知れないな。

    非ユークリッド的にして、象徴的に真実を物語る、登山冒険小説。

  • 未完だから4つ星。
    ちりばめられた伏線みたいなモノたちを誰かに回収してもらいたい。

  • 080116

  • 著者の死によって未完成なまま描かれた美しく深遠な世界

ルネ・ドーマルの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×