ガイドツアー 複雑系の世界: サンタフェ研究所講義ノートから

  • 紀伊國屋書店
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感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314010894

作品紹介・あらすじ

ヒトの脳に存在する何兆ものニューロンという「物質」は、いかに「意識」のような複雑な現象を生みだすのか?免疫系、インターネット、国際経済、ヒトのゲノム-これらが自己組織化する構造を導いているものは何か?一匹では単純に振る舞うアリが、グループを形成すると、ある目的のために統率された集団行動がとれるのはなぜか?第一線の研究者を案内人として、その広大で魅力的な世界を訪ね巡る、本格的入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 多くの学術領域にまたがる複雑系こそ真理に至る道と言えるのでは、という期待を胸に本書を手にとったが、どうやら少し違う模様。理由の1つは、複雑系で現す世界が真理の1つの側面であり、1つのモノの見方に過ぎないと思われるため。もう1つは、複雑性の定義すら未だ確立されておらず、真理に至る道(統一理論と呼ぶらしい)を求めるには学問として若過ぎるため。それでも多くの学術領域に新しい考え方をもたらしたという点で、そしてまだまだ未開の学問である点で、非常に興味深い。

    本書では「自己組織化する集合の仕組み」「進化など自然界のシステムにおけるランダム性の影響力」「コンピュータで再現する生命」「フォン・ノイマン型アーキテクチャの限界」「モデリングによるシュミレーションとその弊害」「ネットワークとスケーリングに現れる"べき乗"則」などなど、現在進行形で探求の進む複雑系の各分野について満遍なく、それも批判的な見解も含めて紹介してあり、その中から特に興味を持った分野へ進むための導入とするにはうってつけだった。また、上記解説を始めるにあたり「力学」「カオス理論」「情報の伝達と計算」「進化と遺伝」などベースとなる領域の歴史(主流となった考えの推移)についても十分ページを割いてあり、科学から離れて久しい読者にも優しい作りとなっている。したがって複雑系という学術領域に対する網羅的でかつフェアな入門書といえる。

    なお本書は2回読んだ。というのも、私は遅読のため約500ページ(注釈除く)という分量を読んでいるとはじめの方の内容を忘れてしまう問題が発生するのだが、次の本に進みたい欲求を抑えて再度読み返すことにより後半の内容と前半の内容がリンクして少なからず理解を深めることができた。そのためレビューを書くのに購入から1ヶ月以上も経ってしまったわけだが、それでも上記で挙げ連ねている内容に抜け漏れも多く、とても理解しきれたと言い難いのは誠に遺憾である。その朧気な理解の中では社会科学分野のシュミレーションが面白そうだと感じたので、この方向に食指を動かしていこうかなと思う。モデリングによる予測はできそうなものだが、さてそれは操作/誘導できるものなのか非常に気になるところ。ひと昔前からバズっているビッグデータやデータサイエンスとも絡んできそうで興味は尽きないが、興味の推移に遅読がついて行けないありさまでとてもツラい。でも先ずはもう1冊ぐらい複雑系の本を読んでみるかな。できればもう少し薄いやつを。。。

  • 知能や生命のメカニズムは非常に複雑だと言われています.科学,そして工学の研究対象としても興味深いものですが,この複雑さは,例えばスパコンを使うなどして,計算を頑張ることで克服することができるのでしょうか.それとも,本質的に新しい考え方が必要なのでしょうか.
    1984年,「複雑なシステムの扱い方」を見つけ出すことを目的としてサンタフェ研究所が設立されました.本書は,そこで行われた,とても刺激的な,様々な取り組みを紹介しています.知能や生命,経済といった複雑なシステムに興味がある方におすすめします.

    ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00557862

  • まとまってる本ではあるが、2009年出版のため、深層学習以前の本だしな、という部分もあった。そういえば、著者の専攻もあってか、NNの話が出て来なかった気がするな。複雑系研究の業績にカオス理論を含めていたが、複雑系研究以前にカオス理論は成立してるし、サンタフェ出身者のそーゆーとこやぞ、みたいな。サンタフェ関連の本は何冊か読んでるが、自分が最近生命科学やり始めて、そっちの話題が分かるようになってたので、生命科学の話題が多めのこの本を読むには、個人的に良いタイミングだった。

  • 「複雑系」について興味があったため、読んでみた。

    まず、本書は分厚い。普通の本2,3冊分はある(500Pくらい)。それもこの本が複雑系のガイドツアーとして書かれているからであり、ページ数からも複雑系の扱う範囲の広さが窺える。

    複雑系は一言で言ってしまえば、「マクロの統一理論」といったところか。分野問わず通用する普遍的な一般理論を探求しているように感じた。
    本書ではコンピュータサイエンス、生物学、遺伝学などについて基礎的な知識を補足しながらそれらに対する複雑系のアプローチを紹介してくれている。ただ、それだけの量をまとめるとなるとやはり文量がとても多くなり、読むのはかなりタフだ(これを執筆した著者や翻訳した訳者には頭が上がらない)。

    でも、個人的にはそれが気にならないぐらい面白かった。突然だが、社会性昆虫のアリに興味がないだろうか。アリは単体ではそこまで知能はないのにアリのコロニーはとても複雑な動きをすることが可能である。単純なルールを持った個体が集団で複雑な動きを見せる。

    ここが個人的に面白いと思った点で、もしこういうことに興味が湧いたなら本書は是非読んでほしい。他にもコンピュータについて語りたいが長くなるので割愛する。

    分厚いけれども複雑系の持つ面白さを堪能できる、そんな一冊だった。

  • わかりやすい。簡略な理論のまとめ、研究の歴史的な経緯、具体的な実例、ちょっとしたこぼれ話などのバランスがよい。カオス、フラクタル、、セルオートマトン、スケールフリーなど話には聞いて興味があり、ちょっとレベルの高いものを読みたい一般読者にぴったり。内容が内容なので「ついていけないな」と感じる箇所もそこかしこにあるが、読みすすめるのに支障はない。ときにお節介なくらいの訳者のサポートもGood。

    積読にしているあいだに何年も過ぎてしまったので、AIや機械学習の分野では、また新たにいろいろ見えてきているのだろうな。

  • 計算機科学を基盤に,いわゆるカオスを研究している著者による,カオスに関連したトピックを網羅的に扱った一般向け講義を基にした内容.著者の専門ということもあり,様々なトピックの中では,生物学に関連したものが多め.一般向けということもあって,カオスそのものの事例だけでなく,背景にある物理学・生物学についても丁寧に説明されていて読みやすく,勉強にもなった.前半は20世紀の物理学・数学における発見により,従前の予測可能性や理論の完全性に対する期待が破られた,という文脈の中に,カオスを置いている.シンプルなモデルから,ランダムに見える結果が生じ,更にそれにも実は当初のモデルからは想像できなかった規則性が見いだせるというのが,カオスの骨格.遺伝的アルゴリズムの例にあった掃除ロボットのプログラムが面白かった.また,Wolframが考察した,1次元のセル・オートマトンの話は全く知らず,非常に興味深かった.生物の代謝などを規定する4分の1乗則が,血管のフラクタル構造の次元に起因しているという説も.あと,著者がHofstadterに師事するきっかけになったエピソードが,個人的には良かった.私は地球科学の専攻で,この手のトピックが直接関わる話は今のところ気象くらいしか出てきていないようだが,どちらかというと数値シミュレーションやそれに基づく予測のような分野で,この分野の知見が生きる可能性はあると思った.

  • ライフゲームやセルオートマトンについて少し話を伺って、「複雑系」に興味がわいたので読んでみた一冊です。「はじめに」にもあるように、数学や科学の知識が無くても読めて、「複雑系」のさまざまな世界が見渡せるようになっています。

    著者も書いているように、「複雑系」というものが何なのか、言い表すのが難しいですが、個人的には以下のようなことが1つの特徴なのかなぁと思いました。

    ・個々と周辺の相互作用によって、大きな変化が起きていく。その際には、情報伝達やフィードバックが大きな役割を果たしている(アリのコロニーや免疫など)
    ・複雑で全体としては法則を見いだせないような現象に対して、ミクロの観点からシュミレーションを行う手法として活用できる。初期値と、個々の相互作用ルールを設定することによって(気象予報や渋滞など)


    最初から全体を大づかみに理解できる、ととらえずに、個からのさまざまなアプローチによって最終的に理解を進めていく、という考え方が面白いなあと思いました。
    また、遺伝や進化の話が、自分の知っている高校生物レベルの話とはだいぶ違ってきているのだなぁというのも感じたので、このあたりの最新情報も知ってみたいなぁと知識欲が湧きました。

    この本も10年前くらいの本なので、現在では複雑系というものがどのような状況なのか(広く使われすぎていて、全体としての「複雑系」はあまり問われなくなっている?)、最新の話も知りたいなぁと思いました。

  • サイエンス

  • 【由来】
    ・「複雑系」でamazon検索。面白そう。

    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】

  • 複雑系科学の総本山、サンタフェ研究所の客員教授であり、ポートランド州立大学教授でもある学者の本。著者自身は、情報工学の専門家で同著内でも遺伝的アルゴリズムの説明に詳しい。また、同著では生命科学、生物学分野での複雑系の説明も多く、詳しい理論は理解できずとも、生命の不思議ささらに垣間見ることができて、好奇心を大いに刺激する。本の最後に書かれている「複雑系って一体に何」を取り扱う章は面白く、複雑系がアンチテーゼとして生まれつつ、自らの定義や学問の中での位置づけを、学者自身が苦悶していることがわかる。道理で、複雑系の本をいくつか読んでみても、いろいろな具体例や発端が説明されるだけで体系的には理解しづらいと思うものだと、気持ちが晴れて、余計に複雑系のことが好きになった。

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