強権と不安の超大国・ロシア 旧ソ連諸国から見た「光と影」 (光文社新書)
- 光文社 (2008年2月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334034399
作品紹介・あらすじ
光が強ければ強いほど、その影は濃くなるものだ。世界一の産油国となり、経済発展著しいロシアを「表の顔」とすれば、「裏の顔」は謎に包まれた部分が多い。暗殺事件・チェチェン紛争・独裁体制…。これらはたしかに深い闇だ。しかし、旧ソ連新興独立諸国を数多く訪れ、体当たりで調査・研究してきた著者は、翻弄される側の国ぐにからロシアを覗いてみることによって、その"KGB体質"を明るみに出していく-。一方で今、「日本ブーム」が旧ソ連地域で盛んだ。外交においても、ビジネスにおいても、かの国ぐにとの関係が深まる今日、本書は日本人が直視しておくべき「現実」である。
感想・レビュー・書評
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ロシア研究者として、時々メディアにも登場するようになった著者によるロシア・コーカサス地域の情勢について解説した1冊。出版は2008年なので、ロシアのウクライナ侵攻どころか、クリミア侵攻よりさらに以前の本なので、必ずしも現在の情勢を正しく述べているわけではないですが、2008年というのはプーチンが最初の大統領任期を終えて、メドベージェフに一旦大統領職を譲った時期で、その後のプーチンの政権運営の基礎となる時期だけに、参考になる内容も多かったです。著者はソ連圏の中でもアゼルバイジャン、アルメニア、グルジアといったコーカサス地方(黒海とカスピ海に挟まれた地域)を研究の対象としており、現地に滞在していたからこその情報も豊富です。
ロシアが伝統的に周辺国家の政治的混乱や、エネルギー供給を利用して影響力を保持してきたこと、密告・監視を主としたKGB体質が色濃く残っている事、そのような闇の一面に一方で、ソ連時代の方が教育等の公共サービスが無料であり公務員のモラルが維持されていて、ソ連崩壊後の方が周辺国では治安が悪化したので、ソ連時代を懐かしむ人たちも多い事など、多くの側面を紹介しています。
意外だったのはコーカサス地域の国々は非常に親日的である(った)事実です。コーカサスの国々は長年ロシアと領土問題を抱えており、北方領土問題でロシアと対峙する日本に共感を覚える関係であって、さらに日露戦争で一旦はロシアに勝利した事が神話的に信じられているとの事。さらに日本が国際的には中立的な立ち位置と認識されているので、援助等も下心のない物として受け取られていたようです。
著者が現地滞在中に遭遇した体験(列車で国境を越えようとして乗務員に襲われかけたり、空港でテロリストと間違えられたり)なども紹介されていて、私とほぼ同年代の女性(本書執筆時は30代)が治安の悪いコーカサス地域を一人で動きまわるには、相当危険な目にも遭われたようですが、自分の目と耳で集めた情報を基にしているだけに説得力がありました。本書後半には、今後の展開としてプーチンが石油・ガスといった資源をフルに外交カードに利用しつつ、大統領の再選を目論んでいるとの予測を述べられていますが、まさにその通りの展開になっていることが、著者の情勢分析の正確さを物語っている気がします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ロシアという国をきちんと見つめるきっかけになったので星4つ。ロシアは、ソヴィエト連邦が解体された後にできた国であるから社会主義が色濃く残っていることに気付かされた。ソヴィエト崩壊後にできた国々はエネルギーの供給面でロシアに頼らざるを得ないところがあり、一小国として完全に独立しているとは言いがたいところも感じる。光が強い分だけ影が色濃く出るというはじめ書きは、ロシアを表す簡潔な言葉だと感じる。
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著者自身の体験を元に、大変真摯な姿勢で書かれている良著だと思う。
後ろに地図などの資料をつけてるのも◎
ロシアの周辺国をクローズアップしているので、新聞などでわからなかったグルジア紛争の背景がようやくわかりました。
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カフカス地方の専門家であり『コーカサス国際関係の十字路 』の著者によるロシア関連本。僕が読んだのはこちらの方が後だったけど、出版は「コーカサス・・・」より半年くらい前。教科書的だった「コーカサス・・・」に比べて、ジャーナリスティックな内容で、興味深く読めた。ロシアと距離を置きたい南カフカス地方や中央アジア諸国の思惑とそれを許したくないロシアの思惑をめぐるいざこざが詳細にリポートされてる。南カフカス諸国が意外に親日であることや、それをふまえた上での日本の中央アジア外交のあるべき姿の考察など、距離的にも心理的にも「遠い国々」でありカフカス諸国についてのよりよい理解への第一歩となる良書。ロシア情勢に興味があるのなら是非。コラムにはさらりと凄まじい経験がかかれてて、こんな目に遭ってまでこの地方の研究をつづける熱意に敬意を抱きます。
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豊かな天然資源を背景に、大きな経済成長という光を放つロシア。旧ソ連の国々からの視点で見ることにより、現在も続く濃い闇の部分を浮き彫りにしています。
日本人にはなじみの薄いコーカサス地方を中心としていますが、留学の経験も交えて読みやすく、まさに光と影がくっきりと際立ってとても面白かったです。日本外交の一面としても知らないことが多く、興味を惹かれます。 -
東京外語准教授で、日本におけるコーカサス研究者で唯一現代を研究対象に扱う廣瀬先生の新書。学術的な内容は薄いが、学部生が旧ソ連圏、特に未承認国家などの「旧ソ連圏の周縁」を理解するのには適した書。氏が現地で経験された体験談も非常に興味深い。
また沿ドニエストルについても、執筆前に調査に行かれたという事で、氏がメインの調査地域としているアゼルバイジャン以外の情報が豊富に扱われている点も本書の価値といえる。それはこれらの記述が氏の他の著作にはない新しい調査結果である事、もう一つに沿ドニエストルに関する報告書は六鹿・静大教授くらいしか論じておらず(北大、松里教授も一部論じているが)、その意味でも本報告の平易なエッセイは読み安くて良い。 -
旧ソ連構成国の内実がよくわかる一冊。細かく注釈がついているのもよい。
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コーカサス地方に行った彼女が、実体験を踏まえて旧ソ連の国々について綴った一冊。
旧ソ連の国々の中に半独立国があることも知らなかったし、それに対してロシアが加担してることも知らなかった。
全体を通して旧ソ連情勢を知ることができて、とても勉強になった。 -
ロシアとか東欧あたりの社会の状況の一端を知れる本。
実際にそれら地域に頻繁に訪れている著者が見聞きしたことが内容になっているので、現実味があった。
東欧諸国のなかには親日の国が少なからずあることを初めて知った。 -
主に著者の経験をもとに、
ロシアや旧ソ連諸国の現状について記された一冊。
著者の主張や意見が全面に出ており、
その語り口も含め好き嫌いが別れるところか。
沿ドニエストルに関する記載は初見であり興味深かった。