入門 組織開発 (光文社新書 755)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334038588

感想・レビュー・書評

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  • 『マンガでやさしくわかる組織開発』で参考文献として挙げられ、新書版で読みやすいだろうと思い続けて読んでみました。後で気が付きましたが、著者が同じなんですね。

    こちらは『マンガでやさしくわかる~』よりももう少し詳細について記述があります。使われている言葉も(もちろんそれぞれに説明はありますが)「X理論・Y理論」「学習する組織」「マネジリアルグリッド」といった、ビジネス書では出てくる専門的な言葉が使われています。

    ただ、当然ながら「当事者自らが主体的に自分の組織を良くすることを目指す」といった組織開発の根本的な部分は同じですので、すっと入っていけるように思います。

    チームを率いる人や、メンバーに主体的に仕事をしてほしい、といったことを考えているマネージャーやリーダーは得られるものが多い本になるでしょう。

  • 組織には二つの側面がある。ハードな側面とソフトな側面がそれ。ハードな側面は部門・部署、制度・規律、職務内容と手順などの明文化されたもの。一方、ソフトな側面は、意識・モチベーション、コミュニケーション、信頼関係・影響関係など可視化されていない心理的側面。

    ハードな側面のほうはバブル崩壊後に大規模な変革が行われて今に至るそう。一方、ソフトな側面のほうは軽視している経営者が多いのではないか、とある。でも、このソフトな側面は重要なのです、というのが本書の出だしなのでした。

    組織開発とは、大きく、このハード面とソフト面を変革して、より合理的に利益を得ていけるようにすることと、働く人たちがより無駄なストレスなく活き活きと働くことができるようにすることを推し進めていくものです。

    組織開発はアメリカで1950年代終盤に生まれた概念で、1960年代には日本にも入ってきています。ただ、日本では人事異動の際に組織開発に携わっていた人たちが、うまく次の担当者へと引き継ぎができない構造になっていて、そのノウハウは早くも70年代には失われていったそうです。しかしながら、近年再注目されてきていて、本家アメリカでは70年間の歴史の中で受け継がれ発展してきた分野でありますから、アメリカに学ぶ形でまた日本も再導入しようという先駆けのひとりなのが、著者なのでした。著者はアメリカでプログラムを受けており、その知見をこうしてもたらしてくれているのです。

    マネジメント観には「X理論」と「Y理論」と呼ばれるものがあるといいます。「X理論」を持つマネージャーは、人は生まれつき仕事が嫌いで、したがって人には監督と命令が必要とします。そして、目標に達成無い場合は罰則を与えるべきだとします。一方、「Y理論」を持つマネージャーは、人は自ら実現したい目標のために自己統制を発揮し、個人と企業の目標が一致すれば、人は自発的に自分の能力を高め、創意工夫をし、自発的に行動すると考えます。

    「X理論」のマネージャーは指示命令的で、その結果、部下は受動的になりやすくなります。「Y理論」のマネージャーは部下に適切な目標と責任を与え、部下の力を引き出すような関わりをし、その結果、部下は主体的になっていきます。

    著者は、現代日本が抱える問題として、本書刊行当時(2015年)に50代以上の上司が上意下達で育ってきた人たちであるため、「X理論」の考え方を持つ人が多いことを挙げています。現在の現場の社員などは、主体的に考えて動くことが必要とされているのに、上司は自らの「X理論」に基づいてふるまうことで、若い社員の主体性が育むことを阻んでいることを指摘しているのでした。

    どんなチームや職場、組織を作っていきたいかといったことには、経営層や上司のマネジメント観が密接に関係してきますから、若い社員の成長や働きがいなどのためには、上層部の意識の変化が必須ということになります。

    昨今さまざまな本が出ている「コーチング」や「ファシリテーション」といった手法にしてみても、組織を活発にするものなのは間違いないものだととしたって、その手法を行使する者のマネジメント観が「X理論」であるならば、あまり意味をなさなくなるというようなことも書いてありましたし、なるほどそうなだろうな、と納得がいきました。

    「コンテント」と「プロセス」という言葉が出てきます。「コンテント」とは、WHATの側面で、つまりは何が話されていて、何が取り組まれているかという、話題・課題・仕事の内容的な側面になります。一方、「プロセス」はHOWの側面で、関係的過程、つまり「いま、どのような気持ちか」「どのように参加しているか」「どうのようにコミュニケーションがなされているか」「どのように課題や仕事が進められているか」「どのように決められているか」「お互いの間にどのような影響があるか」といったところを見ていきます。「プロセス」は人間関係的な部分に踏み込む視点だと言えると思います。だからこそ、企業の風土や現場の空気のマイナス面に光を当てることができ、言語化し意識化を進めることでそれまでマイナスだったところをゼロに戻す努力をしていくことができるようになる。

    他方、ゼロからプラスに転じていく手法もあります。AI(アプリシェイティブ・インクワイアリー:真価の探求)がそれにあたるもので、組織や個人の潜在力・強みに着目し、それらがさらに発揮される未来を描いてアプローチしていく、という道筋をたどります。

    他にもさまざまな手法を、紙幅の関係かとは思いますが、その骨子とでもいうべきところを手短に説明していくような体裁で、組織開発というジャンルに触れられる仕組みになっています。これって、職場のハラスメントを無くすための根本的アプローチになっているので、経営層のみならず人事担当者などもまずこれらを知っておき、それから自分の内にインストールするかのようになじませていくと、その企業・会社の発展ひいては社員や職員の活気やパフォーマンス向上に繋がっていくのだと思います。そしてそれらを経て、企業イメージ向上があとからついてくるものだと思われます。

    最後に、「マネジアル・グリッド」という言葉と考え方を付記します。グリッドというくらいですから座標でその職場環境の様子をあらわします。「1.9型 社交クライブ型(人や関係性を重視する)」「9.1型 専制型(業績最優先で人の関係性は考えない)」「1.1型 伝達型/消極型(業績も人との関係も最低限)」「5.5型 妥協・中間型(業績と人との関係の両立は無理なので両者のバランスをとるあり方)」。また、「9.9型 理想型(業績と人の両立。組織目標と個人目標の統合)」という本当にかつては理想とされたタイプがあるのですが、まず組織開発で組織のソフトな側面を改革していくことによって、達成が見えてくるものだと思われます。本書でも、この理想型を目指すことの大切さが説かれています。

    というところですが、たとえば実践してみたとすると、非協力的な従業員などが絶対にでてきますよね。目に浮かびますからねえ。でもそこに負けずに、ぐいぐいと、働きやすくて働きがいのある職場にするために、この組織開発、それもソフトな側面についての開発は、どこの組織や会社でもやっていってほしいなあと願うところなのでした。

  • 組織開発についてちゃんとした本を読んだことがなく、学びの多い時間になりました。
    チームビルディングとか1on1とはサーベイフィードバックなどは組織開発を推進するための手法の一つに過ぎない。手法ありきで導入するのではなく、組織開発に最善の手法を選ぶことが大事。

  • 読点が多くて、カタカナやアルファベットの略称などが注釈無しでたくさん出てきて、読みにくかった。
    なんとか最後まで読んだけれど、結局自分のような下っ端レベルから取り組めそうなことを吸収することはできなくて、がっかりしてしまった…。

  • 「何をするか」(doable)という「手法」よりも、「あり方」(being)が大切。
    組織開発での究極的な問いは、「あなたはどのような職場や組織を作りたいのか」「あなたはどのような関係性が育まれている職場や組織をつくりたいのか」。

    「社会関係資本」は目減りする。
    会社の他部署に知り合いがいれば、何かを訪ねたり、依頼したりすることがしやすくなります。ネットワークという関係性が資本。何もしなければ関係性や風土は目減りしていき、組織の土台が弱体化する可能性がある。

    AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)
    私たちが現実をどのように捉えているかは、私達の関わり方やものの見方、語られ方によって形作られ、構成される。

    ・AIのパラダイム
    【強みや潜在力の価値の発達】→【なりたい未来の共創】→【あるべき状態の明確化】→【行動計画】

    ・問題解決のパラダイム
    【問題の特定】→【原因の分析】→【可能な解決策の検討】→【行動計画】

    ・「言葉が世界を創る」
    「目標に届かなかった。何が行けなかったのか」と問えば、できていない問題点に目が向き、エネルギーが低くなる。
    「目標に届かなかったが、自分たちの強みは何で、どうやったら発揮できるか」と問えば、強みに目が行き、それらを活かしていくことが語られる。

  • 仕事で組織レベルの改善について考える必要があったため、最近のノウハウではなく基礎を知りたいと思い購入しました。戦略や制度といったハードの側面はさまざまな事例があるけど、人や関係性といったソフトの側面はあまり学ぶ機会がない。特に日本では研究も少ない。本書を通じて、1960年代アメリカでの組織開発の起こりから現代までの歴史から紐解かれています。OD(Organization Development)実践者が組織に対してとりうるモードを分類し、体系として解説されており、まさに入門といったかんじです。そもそもOD実践者というロールを意識したことがなかったので、その立場から組織を捉えてみようと思いました。また、やはりGEでの事例が取り上げられており、組織開発の好例として別の本を読んでみようと思いました。内容は消化しきれていないので、いまの組織に当てはめながら他の本も参照して理解を深めたいです。

  • 組織開発における基礎知識が体型立てて学べる。

    一番の学びは、
    目に見える「コンテント」ではなく、
    「プロセス」を捉え働きかける必要があること。

    また、「何をするか(Doable)」ではなく、
    「どうあるか(Being)」に注目すべきということ。

  • 組織開発の基本知識がコンパクトにまとまっています。タイトルの「入門」に偽りなし、です

  • 組織開発をザクっとかつ体系的に学べた。細かいところはもっと深い文献に頼るとして、大まかに学べて良かった。
    ソフト面への働きかけの手法も概要を学べた。

  • 早速使いたいワードが沢山。

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著者プロフィール

南山大学人文学部准教授。
著書:『心理学―Introduction to Psychology―』(共編著,ナカニシヤ出版,2008年)

「2022年 『ファシリテーションとは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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