カンタヴィルの幽霊/スフィンクス (光文社古典新訳文庫)

  • 光文社
3.64
  • (4)
  • (7)
  • (10)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 124
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753214

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  この頃のイギリス文学を読むと、人々は友情と愛情に厚く、人がちょっと怪我したり、何か事件が起こると、次々と人は「うあああああ」と号泣しぶっ倒れる印象がある。愛について語る時も、キラッキラしている。表現が全身で行われていると思う。
     アーサー・サヴィル卿の犯罪は、皮肉が聞いたホラー。手相で大騒ぎしている恋人や婦人達を馬鹿にしたように見ていたものの、いざ主人公は手相で恐ろしい予言をされる。その予言を、恋人にしてしまうことを避けるために完全犯罪を行うのだが、とうとうどうしようもなくなる。すると、手相の男がちょうど橋のところにいたので突き落とす。これでほっとしていると、このまえきゃーきゃー手相で大騒ぎしていた女たちが「あなた本当にそんなこと信じていたの? ばかじゃねーの」といって笑う。主人公は強がってかマジなのか「ええ、手相を信じたおかげでこんなハッピーエンドを得られたのですから」と言って終わり。
     カンタヴィルの幽霊も、イギリスの幽霊VSアメリカの一家で、ギャグが面白い。歴戦の幽霊もアメリカ一家の前ではまるで敵わない。でも、娘がいなくなることでアメリカの一家が焦燥してしまう場面もちゃんと書かれていて、物語としてとても良い。そしてこれも実にハッピーエンド。あと、イギリス貴族への皮肉に容赦がない。
     もっとも文学的で哀愁があったのが、秘密のないスフィンクス。名短編だと思う。謎でありたい女の、誰もいない部屋で主人公となること。素晴らしい。
     模範的億万長者はタイトルのまんまだが、これもほっこりするハッピーエンドだ。
     ワイルドの短編は、幸福な王子のときもそうだけれども、なんだか泣けて、そして幸せで、暖かい。なんていいお兄さんなんだ!と思えるのが作品から出てきている。
     ただ、秘密のないスフィンクスだけは、何か、妙なリアルというか、作者自身の影を感じさせるような、寂しいものがあった。そして、とても良かった。

  • アーサー・サヴィル卿の犯罪、カンタヴィルの幽霊、そのほか二つの短編も楽しめた。だけど、、、スフィンクスと絡めてエイダ・レヴァーソンの短編と回顧録を入れる必要があったのだろうか…

  • ワイルドの小説はワイルドらしい道徳的説話集になりそうでならないところをうまく語る短編になっている。「カンタヴィルの幽霊」については、一般的に幽霊より人間の方が強く人間が脅かされるだけだが、この幽霊はかなり弱い。この着眼点は面白い。「スフィンクス」は流麗な詩といったところ。このような詩も書けることがワイルドの教養の深さでもあると思う。
    後半のエイダ・レヴァーソンはなかなか辛かった。ワイルドの友人・同時代人ということで「回想」では同時代人ならではの事象に言及されているが、個人的にはそこまで興味が持てず、私自身がそこまで細かい話に興味がないということなんだと思う。

  • 好きな短編小説の類。詩も入っていて、詩とかはよく分からないけど一応読んでみて、やっぱりよく分からない。海外の短編はサキとかカポーティとかフィッツジェラルドとかヘミングウェイとかO・ヘンリーとかロアウド・ダールとかマーク・トウェインとか好き。これもちゃんと偏りがあるのだろうと思う。

  • 何で読んだだらうか。スフィンクスの話のあらすじを読んで心惹かれたことを覚えてゐる。
    あらすじでは謎こそスフィンクスといふことだつたが、それはかなり大雑把すぎるあらすじだらう。さういふ話があつたらしいとしめくくつてゐるところに謎があるのではないか。あくまで、この話は伝聞でしかない。謎の内容ではなく、謎を問いかける存在そのものこそが謎。スフィンクスの異国的な姿かたちとあひまつて、謎はひとを魅了する。現存するエジプトのスフィンクス像のその先にある謎。
    カンタヴィルの幽霊は、喜劇的な物語の中に、皮肉と哀愁、そして浄化を含んでをり、単なるコメディではない、印象的な物語。劇で上演されたならかなり舞台映えする作品だと思ふ。
    また、ワイルドにゆかりの深いエイダ・レヴァーソンの作品の中でも、ワイルドの裁判関係の出来事の回想録は、ジッドの描くワイルドとは異なる、ワイルド像が垣間見られた。良くも悪くも、ワイルドの大きな転換点となつた。夫人との関係や彼の行動、友人の視点である以上、同情のまなざしが含まれてゐないといふことはあり得ないが、それでも彼は彼なりのやり方で生き抜いてゐたことを感じさせられた。

  • オスカーワイルドを初めて読んだ。奇妙な小説。

  • お得な一冊。後編にてエイダ・レヴァーソンという女性の作品が掲載。解説は彼女と作者の関係に触れ、ワイルドの私生活が覗ける。何だか有名な人らしいなという印象しか持っていなかったが、エキセントリックな愛人の父親に憎まれ、同性愛という理由で逮捕された人なのね。やはり作品はウィットに富みながらも繊細でロマンチック、三島由紀夫ぽいなと思いました。エイダの方は女性であることを心から謳歌しているような陽気な作風で、花のような存在感がある。

    全体的にとても好きなので、他の作品も読んでみるつもりです。

  • ワイルドの小説、詩と彼の友人であったエイダ・レヴァーソンの作品を収めた本。
    過去数百年、館に滞在するイギリス人を怖がらせてきた幽霊が館を買ったアメリカ人一家には相手にされずに苦戦する滑稽な表題作『カンタヴィルの幽霊』が面白かったです。お国柄の違いでしょうか、現実的なアメリカ人相手に頑張り甲斐の無い幽霊が段々と哀れに思えてきます。
    後半のエイダの作品群内の醜聞当時のワイルドの姿が書かれた『回想』は当時身近にいた人物の評として彼をリアルに感じることができました。

  • 東雅夫氏がブログにて映画『クリムゾン・ピーク』を観る前に「カンタヴィルの幽霊」を読んでおくと吉と書かれていたので手に取りましたが、これがものすごく個人的にはアタリ本でした。表題作はもちろんのこと、ワイルドの友人であるエイダ・レヴァーソンの回想や作品も付録で載っており、これもまたかなり惹きこまれ、こんな本を出された南條竹則氏と光文社はホントすごいです!「スフィンクス」については、まだまだ知識の足らない私には難解でしたが、また時期を置いて読み直してみたいと思います。

  • オスカー・ワイルドらしいちょっと怖いショートストーリー。
    表題作は、ちょっとユーモラスで悲哀を感じる幽霊。
    良いですね!!

全12件中 1 - 10件を表示

ワイルドの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
恩田 陸
ポール・オースタ...
チャールズ・ブコ...
ピエール ルメー...
原田 マハ
ヴィクトール・E...
谷崎潤一郎
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×