街と犬たち (光文社古典新訳文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784334754600

感想・レビュー・書評

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  • 原題は「LA CIUDAD Y LOS PERROS」by MARIO VARGAS LLOSA
    1963年発表。作者27歳。
    杉山晃の訳……新潮社の単行本………「都会と犬ども」1987
    寺尾隆吉の訳…光文社古典新訳文庫…「街と犬たち」…2022
    新潮社版の訳者解説には重大なネタバレがあるらしいが、新訳のほうは配慮あり。
    実際巧みな仕掛けに驚かされた。
    解説から読むクチなので、新訳で読めてよかった。
    視点人物が変わる小説には慣れっこだが、本作は単にカメラ位置がAさんなのかBさんなのかに留まらず、視点人物にカメラが寄り添うか少し上方から描写するか、という点から違う。結果一人称と三人称が入れ替わる。
    それはまだわかるが、仕掛けがその中に紛れ込んでいるものだから、まんまと。

    いわゆるラテンアメリカ文学のブームがドカンと来たガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」1967の数年前。
    バルガス=リョサでいえば「子犬たち」1959、「緑の家」1966に挟まれた、本作1963。
    マジックリアリズムとは関係ないが、視点の切り替えなどは後の作品を準備したものだろう。

    個人的な感想としては、「緑の家」「ラ・カテドラルでの対話」「密林の語り部」などよりも文脈依存度が低いぶん、親しみやすい、はっきりと青春小説ともいえる、入門書に合っていると思う。
    いわゆる南米土着性が濃くないぶん、現代小説としても読み深められそう。

    頭のいい白人のアルベルト(文屋=ブンヤというニュアンスだろう)、気弱な黄色人種リカルド(奴隷=ドレイくらいのニュアンス)、黒人のボアの馬鹿な感じ、ジャガーの悪ガキ、四角四面なガンボア、などキャラクター性が強いのもいいし、アルベルトがリカルドと話していて「こいつ友達になりたいんだろうな」と気づくあたりはBL風味も。
    人物構図としては意外と、夏目漱石「こころ」の先生とKに似ているようにも思う。
    ホモソーシャルな社会、女性を間に挟んだ(贈与対象とする)ホモセクシュアル、については石原千秋「謎とき村上春樹」で読んだ。
    漱石ーリョサー春樹と横滑りに連想するのも面白い。
    またテレサという少女が重要人物なのに、視点人物が96%、男性。
    約80の断片のうち、テレサが視点人物になるのは、わずか3場面に過ぎない。
    ここから読み換えていく……妄想を膨らませるのも面白そう。
    おそらくラテンアメリカ文学の一部はもともとマチズモ批判でできていると思うが、さらにホモソーシャル批判という視点で読み直すのも、今ならできるのかも。

  • 南米ペルー・リマの全寮制軍人学校を舞台にした小説。著者の体験をもとにしているらしく、時代は1950年代前半と思われる。主な登場人物は最上級生にあたる16~17歳の少年たちと、教師である軍士官など。本文は620ページほどあり、全二部とエピローグからなる。

    主人公はレオンシオ・ブラド軍人学校の最上級である5年生のアルベルト・フェルナンデス。普段は軍人学校の宿舎で生活しており、週末ごとに母の待つ自宅へと帰り、街の生活を満喫する。アルベルトは文筆を得意としており、同級生たちからはエロ小説やラブレターの代筆をせがまれ、小遣い稼ぎのネタにしている。アルベルトは低所得者層出身の生徒が多い軍人学校にあっては珍しい白人であり、生まれも名門の上流だが、後述のような荒れた学校生活にも馴染んでいる。軍人学校進学の経緯としては、浮気を繰り返す父親の意向によるところが大きい。

    兵士たちによって管理されるレオンシオ・ブラド軍人学校は規則が厳しい全寮制学校だが、その反動もあって生徒たちの生活は荒れている。具体的には、煙草や酒の闇取引、盗み、試験問題の不法取得とその売買、校外への脱走、自慰コンクール、賭博、鶏相手の獣姦や苛烈ないじめなど、宿舎内で可能と思われるあらゆる非行がなされている。それらを主導しているのは、最上級生のうちの4人からなる「円陣」と呼ばれるグループである。

    「円陣」の始まりは、現在の最上級生たちが入学当初の3年生だった時点で(3年生が最下級生にあたる)上級の4年生からなされた「洗礼」と呼ばれる恒例の下級生いじめが発端となっている。当時の主人公たちの学年である最下級生たちはこの「洗礼」に反発し、上級生に対抗する目的で「円陣」を結成した。その後は断続的に学年間の抗争が繰り広げられたことが回想にて語られる。「円陣」はその後解散したのだが、名前だけを残して、喧嘩が滅法強く動物的な勘をもつジャガー率いる4人の不良グループとして再生し、現在に至る。

    最も重要な人物として挙げられるのは主人公のアルベルトのほか、ジャガー、一人だけ非行を拒否し皆からいじめられている「奴隷」と呼ばれる少年、そして教官にあたり生徒からも信頼されているガンボア中尉を挙げることができる。この4人を含む主要登場人物については、光文社文庫のしおりに11人が掲載されており、読書中の確認にも便宜が図られている。しおりに掲載される以外では、奴隷が想いを寄せるテレサの存在も物語の大きなポイントになっている。

    小説の舞台は学校内だけではなく、週末の自由な校外の生活も描かれる。校外の生活の一貫として、時間軸を前後して綴られる回想の多さも本作の大きな特徴であり、特に過去のガールフレンドとのやりとりや駆け引き、そして少年の暮らす家庭内の不和などが取り上げられる。回想描写の注意としては、序盤はおそらくアルベルトによる回想のみなのだが、終盤を中心に途中からはアルベルト以外の回想も増えていく。この点が明示されないことも多いため、読書中に混乱するところがあった。並びに本作は、現在の時間軸においても主人公のアルベルトだけでなく、複数の登場人物による多視点で描かれる。

    物語の起点としては、最序盤で円陣の一人が化学のテスト問題を盗もうとしたことが発端となる。盗難に気付いた士官たちが犯人が見つかるまでのあいだ全生徒を外出禁止と定め、これがある理由から外出を強く希望する一人の生徒の焦りを誘い、取り返しのつかない大きな事件へと至る。この事件の発生が第一部の終わり、全体の半分にあたる。

    作品の雰囲気として、荒れた学校生活や家庭内の不和などに印象づけられる第一部の時点と、終局のエピローグでの乖離が大きい。アルベルトの行動をきっかけに、主要な登場人物の一人の胸中と背景が明かされたことが、その大きな要因だろう。序盤では予想しなかった、青春小説とも言い表せる意外にも爽やかな読後感と、士官学校の大人たちの腐敗とのギャップが印象的だった。回想部を中心に冗長に感じる嫌いも残る。

  • バルガス・リョサが20代の頃の初長編作品にして出世作を新訳文庫で。舞台になるのはリョサ自身も学んだペルーのレオンシオ・プラド軍人学校。日本でいうと高校生くらいの年齢なのかな、15歳くらいの男の子たちが寄宿生活を送っている。

    中心となる人物は、文章を書くのが得意で、仲間たちの手紙の代筆やエロ小説を書いて小銭を稼いで「文屋」と呼ばれているアルベルト。喧嘩が強いわけではないが、要領よく立ち回り、クラスの中ではそれなりのポジションに収まっている。

    クラスのリーダーはジャガーと呼ばれている少年。彼はとにかく喧嘩が強く肝が据わっていてカリスマ性がある。そしてその取り巻きのカバ、ボア、ルロスらは「円陣」と呼ばれている。そして内気で要領も悪いためジャガーの「奴隷」と呼ばれている少年リカルド・アラナ。

    物語は、彼ら複数の少年たちと教官のガンボアらの視点がころころいれかわりながら、現在と過去回想が混在しつつ進んでいくリョサらしい構成。

    暴力的で混沌とした寄宿舎生活。ジャガーが手下の一人にテスト問題を盗み出させたことから事件が起こる。生徒たちは犯人がみつかるまで謹慎を言い渡されるも誰も犯人を告げ口しなかったが、家の近所の少女テレサに恋している奴隷が彼女に会いたさのあまり教官の一人に犯人を教え…。

    このテレサ(テレシータ、テレ)という少女が、ある意味キーマン。一人称で語られる少年の過去、それがいったい誰の回想だったのか、終盤でわかったときに読者はミスリードさせられていたことに気づく。共通点はこのテレサの存在。つうかテレサもてすぎ(笑)

    一部の最後で、訓練中に奴隷が亡くなる事故が起き、学校側は銃の暴発として片づけようとするが、奴隷に友情を感じていたアルベルトは、テストを盗んだ犯人を奴隷が告げ口したことを恨んだジャガーによる報復ではないかと思い、ガンボアにそれを訴え出る。

    結局、奴隷の死の真相は謎のままだった。個人的にはジャガーは犯人ではないんじゃないかと思ったけれど…。私はジャガーのことが結構好きだったので彼を信じたいたけかもしれない。

    アルベルトは奴隷に友情を感じながらも、奴隷が片思いしているテレサと自分のほうがいい感じになってしまった罪悪感も抱えており、ジャガーと戦ったのは奴隷のためというより贖罪の気持ちだったのだろう。

    • 淳水堂さん
      yamaitsuさんこんにちは。

      古い版で読みましたがとても好きです。
      状況は厳しいけれども青春小説でもあり、いじめや左遷や階級など...
      yamaitsuさんこんにちは。

      古い版で読みましたがとても好きです。
      状況は厳しいけれども青春小説でもあり、いじめや左遷や階級など理不尽なことも多いけれど、やることやって納得している感じもあり案外読んだ感じは悪くないんですよね。
      バルガス=リョサから3つ選ぶなら「緑の家」「世界終末戦争」「都会と犬ども(※旧訳の題名)」です。
      2022/12/08
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんばんは!

      確かに本作、後味はけして悪くないんですよね、過ぎ去った青春の1頁的な距離感だし、アルベルトもジャガーも後悔し...
      淳水堂さん、こんばんは!

      確かに本作、後味はけして悪くないんですよね、過ぎ去った青春の1頁的な距離感だし、アルベルトもジャガーも後悔してなさそうなところがいい。奴隷だけは可哀想でしたが…。

      私は今まで読んだリョサの中では同じく「緑の家」と、あとは「密林の語り部」「楽園への道」が好きだな~
      「世界週末戦争」はまだ読んでいないのです、近いうちに読みたいです!
      2022/12/08
  • フルメタルジャケットとスタンドバイミーを煮込んでラテンアメリカ風味にしたような作品。「緑の家」がさっぱりだったので身構えていたが、本作は非常に読みやすく、終盤はかなり入り込めた。

  • ・驚きの世界の描写で、ペルーでよく出版が出来たと思う。

  • 最高のスピード感
    僕は誠実さに関する青春の物語だと思いましたがどうでしょう

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