ニュータウンクロニクル (光文社文庫)

著者 :
  • 光文社
3.00
  • (0)
  • (8)
  • (7)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 80
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334791094

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 郊外につくられた、大規模な人工都市「若葉ニュータウン」。1971年から2021年まで…ニュータウンの変遷を、そこに住む人々の悲喜こもごもと絡めながら綴られる、十年毎の団地年代記。
    高度経済成長期、バブル全盛期から不景気突入、震災、そして今。時代の移ろいと共に、ニュータウンの立ち位置も変わってゆく。連作短編という形式が、人々の歩みを語るのにピッタリだなと思った。どの時代も、どのエピソードも、懐かしく少しほろ苦い。よりよい暮らしを求め、時代の流れに翻弄され、上を見ては躓き。様々な世代の喜怒哀楽が、どこか自分の軌跡と重なるようだ。
    そして、ニュータウンの歴史についても初めて知ることが多く、どれほどの人々が夢を抱いて新しい生活に飛び込んだんだろうと思うと、何だか感慨深かった。こんな風に伏線が回収されるのか!と、あの人この人の「その後」をさりげなく気付かせてくれるのも嬉しい。改めて…町は生き物なんだなと思える。その「町」を生かすのは人なんだと、これまた改めて強く思える一冊だ。

  • 題名を見た時に、自分が未就学児から中学生まで住んでいた団地での、生活、友人関係、町の移り変わり等とダブるのではないか?と思い読み始めました。解説も参考文献も見ず、「わが丘1971」から読み進めるにつれ、モチーフは「多摩ニュータウン」だとわかりました。自分が住んでいたのは多摩ニュータウンではない、都営団地で入居した時期は1971年より早いのですが、ほとんど変わりません。この小説は、年代記としての物語ですが実際、人工都市に住んでいた私には昔を懐かしみもしますが、自分の故郷が人口の減少、建物の経年劣化によって建て替えられることで跡形もなく無くなることに寂しさを感じます。どんな街でも最初は開拓地であり、それが後世まで続くのか否かは誰も判りません。京都や奈良も、その当時では新しい街だったと思います。それと比較すると50年は短いスパンなのかもしれません。

  • モデルが多摩ニュータウンだと分かり感慨深く読み終えた。時代背景も自分とかぶっていたからまるで実話のように思えた。ラストは今後この街がどのように変化していくのか想像してくださいというような感じで10年後、見届けられるかな…

  • ニュータウンを舞台にした、1971年から2021年の、10年ごとの連作。歴史の一部一部を切り取った作品。大きなドラマはなく、小さな凸凹が起きる話。ほっこりでもなく、ドキドキでもなく、ちょっとどっちつかずだった。

  • ニュータウンの誕生から衰退までの50年を10年ごとの出来事でつづった短編集。取り留めの内容で小説ならではの大きな展開もない。

  • あらすじ
    1960年に計画された団地「若葉ニュータウン」に住む人々の歴史をそこに住む様々な家族の視点から描いている小説。団地の第一期の入居が始まった1971年、高校を卒業し若葉町の町役場に勤めたばかりの小島健児の視点から物語は始まる。その後、10年ごとに若葉ニュータウンの中のある地点、ある家族のそれぞれの物語を6つの短編としてまとめている。例えば1971年には、入ったばかりの入居者の生活向上のための集会や、1981年では増えてきた子供に対応する小学校の分校の話などのその年代ごとの環境に影響される家族の姿が描かれる。70年代の高度経済成長から90年代のバブル景気、2011年の震災、そして現代に至るまで背景としての団地がその社会状況を表しながら変化していく様を描いている。


    感想
     団地に住んだことは無いが、それぞれの時代に何かしらの懐かしさみたいなものを感じる。舞台は明らかに多摩ニュータウンで、自分は殆ど行ったこともなければ、住んだこともないにも関わらず団地とその家族を通じた様々な描写に感じる懐かしさについて考えてみようと思った。懐かしさとは、コトバンクによれば「1、魅力的である。すぐそばに身を置きたい。2、かつて慣れ親しんだ人や事物を思い出して、昔にもどったようで楽しい」という事であり、特に「2」にあるようなかつて慣れ親しんだ物事を思い出す事とそれに浸って楽しいと思う二段階の感覚が同時に現れるような事だと思う。楽しいというのは大事なことで、もし嫌な気持ちや恥ずかしい気持ちになる場合、それは懐かしいとはならないだろう。その場合、その思い出を楽しむ余裕がないから、懐かしさとはならないなのではないかと思う。
     70年代の話を読んでいて「隣のトトロ」を思い出した。それはバスの描写が「トトロ」における父の帰りを待つサツキとメイを連想させ、さらに「トトロ」を見ていた時の楽しさを思い出すのだろう。80年代における小学校の描写にはクラスの分裂が世界の分裂にも思えたことを思い出し、90年代にはトレンディードラマを見ていた微かな記憶が蘇る。
     2000年代以降では登場人物や起こる事件をリアルタイムで経験していた事が、そのリアリティとともに思い出される。一方で実際に、現実の多摩ニュータウンに行った時に感じたのはハイテク感とか、要塞感とかであり、小説の中の若葉ニュータウンは自分が他の映像コンテンツで見てきた団地をいくつか組み合わせたものが再現されていたなと思う。最近、懐かしさを感じるのは、例えばエルレガーデンを聴くと懐かしさを感じるように具体的な経験と結びつくものだ。この小説には団地で生活する上での子供からお年寄りまでの様々な年代の描写がコンパクトに具体的にまとめられている。その具体的な描写に自分の中の過去の思い出の楽しい部分との接点が刺激されるのかなと思う。

  • 多摩ニュータウンの50年を描いた連作小説

    多くの家族が憧れていた多摩ニュータウン。高度経済成長を経てバブル景気、バブル崩壊、震災など、それぞれの時代をたくましく生き抜いた人々の物語

    役割を終えたかに見える人口都市のこれからがどうなるか。コロナ禍の今、主人公たちの今後の物語も描いてほしい

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1969年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務の後、劇作家として活躍。2007年「ミチユキ→キサラギ」で第3回仙台劇のまち戯曲賞大賞、12年「春昼遊戯」で第4回泉鏡花記念金沢戯曲大賞優秀賞を受賞。13年に『お父さんと伊藤さん』で第8回小説現代長編新人賞を受賞し、小説家デビュー。著書に『おまめごとの島』『星球』がある。

「2017年 『PTAグランパ! 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中澤日菜子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×