ギフテッド

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334914967

感想・レビュー・書評

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  • 主人公の独身女性の凛子がクリスマスイブの昼下がり姪たちのクリスマスプレゼントを書店で選ぶシーンから始まります。

    凛子はT大卒(たぶん東大)で、家で翻訳の仕事をしている30代後半の女性で前職はストレスで辞めています。

    姪たちは自分の妹の子どもたちで、長女の小学五年生の莉緒は勉強ができて虫が好き。
    次女のまひろはバレエを習っていて音感がいい子。
    末っ子の真之介は自閉症スペクトラム症ではないかという疑いが後に出てきます。

    凛子が友人の精神科医の綾乃に莉緒の中学受験の家庭教師を頼まれたことを相談すると、綾乃は莉緒が先天的に平均よりも顕著に高い能力を備えていて、ある特定の分野で並はずれた才能を示す子ども、である『ギフテッド』ではないかといいます。

    そしてギフテッドの子が抱える問題は「困り感が伝わりにくい」ことだと言います。
    そして凛子は莉緒の家庭教師として中学受験に対応していこうとしますが…。

    凛子には初恋の男の子で、やはり今思えば『ギフテッド』だった少年『流れ星の君』がいます。
    一度だけ二人で流れ星を見て、星座の話を聞いたことがあるのです。
    凛子は大人になってもいつもその少年を探していました。
    そして、少年の行方がわかり、莉緒の中学受験も決着がつきますが…。


    中学受験は本当に大変そうですね。
    私が子どもの頃はそんなに流行っていなかったですけど、今、都会の子どもたちにとってはかなり切実な問題なんですね。

    莉緒の将来の夢と決断にははっとさせられました。
    「国力を強化するための教養と個人が幸せになるための教養は別物だ」
    「大人が正しく判断して、決めてあげなければならない」などの言葉が心に残りました。

  • ギフテッド児とは、先天的に平均よりも顕著に高い能力を備えていて、ある特定の分野で並外れた才能を示す子供のこと。そして、生まれついての脳の機能として、深く学び、深く考えずにはいられない子供のこと。
    主人公凛子には、ギフテッドと思われる姪がいて、中学受験の勉強をお手伝いするのですが、T大卒の凛子とも対等に会話のできる聡明“過ぎる“子ども。学校でも塾でもうまくいかず、問題ばかり起こしてしまうのです。こういう子を落ちこぼれならぬ浮きこぼれというのだそうです。そして、発達障害と誤診されてしまうこともあるとか。
    T大卒の凛子も、学校ではなかなか気の合う友だちができず、就職先でも『T大卒のくせに』などと言われ‥‥
    いわゆる普通の人たちからはみ出してしまう人は、やはり生きづらいのですね。発達障害の人たちへの支援は進んできているけれど、浮きこぼれている人たち、特に子どもに対しては、聡明“過ぎる“がゆえに生意気で扱いづらいと思われるだけで終わってしまう。
    この物語で何よりも印象に残ったのは凛子の受け答えの素晴らしさ。これこそが聞き上手。おそらく、それゆえに新しい居場所が見つかってゆくのですが、ギフテッドの子たちにも過ごしやすい居場所が見つかるといいなと思います。

  •  ちょっと前になるかな…ギフテッドの子供たちに焦点をあてたテレビ番組を観たのと、ブクログでこの作品を知ったのがきっかけで、読んでみました。ちなみに、「ギフテッド(Gifted)とは、生まれついての脳の機能として、深く学び、深く考えずにはいられない子ども」であり、人口のおよそ2%がギフテッドに該当するようです。

     この作品の主人公は、最難関の大学を卒業後一流企業への就職を果たすも退職し、現在は翻訳の仕事をしている凛子…、凛子は独身だが妹は既婚で3人の子供がいる…。長女の莉緒は昆虫好きで知能が高いがために周囲と馴染めない子、まひるはバレエ好きで協調性があるが勉強はイマイチな子、真之介は言葉が遅く自閉症スペクトラムではないかと思われる子…それぞれに個性があり悩みもあるが、凛子は莉緒の中学時受験に力を貸してほしいと妹から頼まれる…。凛子は莉緒と接する中で、莉緒はギフテッドではないかと実感する…。

     読み終えて感じたのは、どんな子供でも自分に正直にまっすぐに育ってほしいなって…。3人の子供たち自身にも生きにくさってあるけれど、それぞれの個性を委縮することなく存分に発揮しながら、成長していってほしい…それをそっと見守れる、応援できるのが大人だと感じました。まだ小学生なら、大人がそうするべきじゃないのか、それに気づいたゆえのエンディングで、安心できました。

  • T大卒で一流企業に就職したが退職し、今はフリーの翻訳者である凛子。
    凛子には、結婚し3人の子どもを持つ妹がいる。
    どうやら小学生の姪の莉緒が、中学受験を控えているが学校でも塾でも上手くやっていけないらしい。

    凛子が莉緒の受験勉強をみているうちにある特性を持っていることに気づく。

    発達障害とひとくくりに言われがちだが、先天的に平均よりも頻著に高い能力を備えていて、ある特定の分野で並外れた才能を示す子どものことで、ギフテッド児という。
    ギフテッドの特徴として『好奇心が旺盛であらゆることを知りたがる』『完璧主義で自分にも他人にも高い水準を求める』『感受性が強く、不安や悲しみを人一倍強く感じる』『繰り返しや暗誦を嫌う』『やると決めたらやり抜く』『人々やものごとを仕切りたがる』『権威に批判的な態度を取る』

    並外れた能力をもつ個人は、その能力が平均的な能力からあまりにもかけ離れているために、幼少時から偏見や無理解の対象になりやすいだけでなく、発達障害や様々な精神疾患と「誤診」されることが多い。

    これが莉緒に当てはまるとわかり、凛子が勉強を見ているうちに何が彼女にとって理解でき、向上できるのかを探していく。

    莉緒と接していくうちに凛子の人には見せていない心の内側も変化していったように思う。

    子どもたちを見ていると新たな発見もあり、教えられることもある。
    しっかりと子どもを見ていないと見落とすことになるのかもしれない。

  • 凛子(主人公)は、地元の高校から東京のT大に進学し、その後一般企業に就職したがなじめず、今はフリーランスで実務翻訳の仕事をしながら、東京都内に住んでいる。
     妹と三人の姪っ子達に会いに行くのを楽しみにして、何かプレゼントを渡すことが恒例になっている。とりわけ長女の莉緒とは特に仲がいい。この子は、読書家で、かなり読み応えがあるような本でも喜んでくれる。論理的思考が得意で、妹よりも口が達者であり、弁が立つ。しかし、所詮は子供だ。軽率な発言が多い。相手を論破したところで、合意は得られず、人間関係が悪化して、自分が不利になるだけである、ということを踏まえた上での立まわり方は、まだ身に着けていないのだろう。凛子が訪問した日も妹と莉緒が対立していた。そして、やれやれというように肩をすくめると、莉緒は二階へと上がっていった。

     妹「お姉ちゃん、助けて」「莉緒の受験に力を貸してほしいの」

     凛子「力を貸す、って、勉強を教えるってこと?」「うーん、家庭教師なら、一応、大学生の頃にやった覚えはあるけど、教えたのは高校受験の勉強だったからなあ…。中学受験の問題は、自信ないかも」

     妹「お姉ちゃん、T大卒じゃん。中学に入るための問題が解けないわけないって」

     岡田(妹の夫)は、整形外科医で莉緒のS女(中高一貫校)合格を希望している…。問題を抱えながら家庭教師を引き受けてしまうのです。

     凛子は友人の精神科医綾子に相談してみた。
    確かなことは言えないけれど、「姪っ子ちゃん、たぶん、ギフテッドじゃないかな」

     以上が導入部分のあらすじですが、もう一つの物語が差し込まれています。それは著者が本当に伝えたかったことではないかと思いました。

     多くの問題や障害があるのを知りました。どんなに優れた子供であっても幸せになるとは限らないし、充分な教育を受けられない環境の家庭もあります。
    世の中が平和的で明るい未来を望みます。
    読書は楽しい。

     いつも原稿の文末に「読書は楽しい」と書いて締めていますが、勿論、惨劇や悲しく苦悩の物語が平和的で楽しいとは思っていません。現実を直視したうえで、「読書を通して知ることが出来た言葉の発露として、「読書は楽しい」と表現しているのです。
    ご理解くださいませ。

  •  特定分野については、幼少時から勘がよく学習能力に優れ、いわゆる「天賦の才」に恵まれていることから「ギフテッド」と呼ばれる子どもたち。
     彼らの持つ資質はたとえ長じても消えることがなく、学業や仕事のうえで有利に働くとされる。けれど……。

     他人より秀でた能力を有している子どもの生きづらさと成長を描くヒューマンドラマ。
             ◇
     森川凛子はフリーランスの翻訳家。大学進学のため上京し、卒業後もそのまま東京で暮らしている。
     不惑を目前に控えて独身、恋人なしの凛子だが、高卒後に凛子を追って上京した妹が結婚して近くに住んでいるので、妹やその子どもたちに会うのが目下の楽しみだ。

     ある日、凛子は妹から、長女の家庭教師をしてほしいと頼まれる。
     長女は小学6年生で名を莉緒といい、中学受験を予定している。エリート医師の父親には勉強を見てやる時間がなく、母親である妹は高卒のため教える自信がないとのことだった。

     幸い莉緒は伯母の自分に懐いているし妹のたっての頼みでもあるため、快く引き受けることにした凛子だったが……。

         * * * * *

     主人公の凛子の設定がよかった。

     地方の公立高校から国内最高峰の国立大学へ進学した才媛ですが、いわゆるT大エリートのような思考ができず、自分は本当に頭のよい人間ではないと思いこんでいました。

     確かに物事の判断基準を合理性に置いて取捨選択することは苦手のようで、キャリア官僚には向いていないでしょう。
     
     けれど繊細で共感力が高く、相手の気持ちを考えて行動できるなど、人間性という点では優れています。
     そのことは、姪の莉緒への対応によく表れていました。

     莉緒は興味のある分野にはかなりの集中力を発揮する反面、苦手な反復演習や暗記などの単純学習には嫌々取り組むところがあります。さらにケアレスミスも多い。
     けれど凛子の目に映る莉緒は、知的好奇心が旺盛で理解力や論理的能力も高いという十分に優秀な子どもなのです。

     凛子は莉緒が「ギフテッド」ではないかと見当をつけ、指導するというよりも寄り添っていくというスタンスを選択します。
     実に細やかな気遣いであり、教育者としての適性が凛子にはあることがわかるところです。

     そして莉緒への関わりを通して、自身の適性に気づいた凛子が、誘われていたフリースクールの講師の話を引き受けるラストシーン。予定調和的ではあるけれど、微笑んで読了できてよかったと思いました。

     最後に莉緒について。

     ギフテッドは孤高の存在となりがちなので、莉緒が凛子という理解者を得たのは大きかったのではないでしょうか。
     独りよがりの父親に対し、莉緒が見事な戦略で志望校合格を果たしたシーンには胸がすきました。
     この莉緒の成長は、凛子の存在あってのことだと思いました。

         * * * * *

     心の師として尊敬するかなさんのレビューがこの作品を読みたいと思ったきっかけでした。
     さすがに師匠が高評価していらっしゃった作品。読後感もよく、とても楽しめました。
     師匠、これからも参考にさせてくださいね。

    • かなさん
      Funyaさん、おはようございます(^^)

      毎度のことながら、師匠なんて(;'∀')
      でも、この作品とってもよかったですよね!
      ラ...
      Funyaさん、おはようございます(^^)

      毎度のことながら、師匠なんて(;'∀')
      でも、この作品とってもよかったですよね!
      ラストが本当によかったなぁ~って読み終えられました。
      こちらこそ、Funyaさんのレビューも参考にしつつ
      読書続けたいです。
      2023/09/22
  • 『ギフテッド』著者新刊エッセイ 藤野恵美 | 本がすき。
    https://honsuki.jp/pickup/55526/

    ギフテッド 藤野恵美 | フィクション、文芸 | 光文社
    https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334914967

  • ただ嫌悪して批判するのではなく、冷静に相手の気持ちを分析し、共感できる部分、できない部分をきちんと言語化できる主人公は、今までの小説ではあまりなかったタイプでした。とても好感のもてる主人公と引き込まれる文章、好きです‼️

  • ギフテッド=神様からの贈り物と言うくらいだから、並外れた天才児を指すという認識だったけど、書かれていた基準が思ったより低くて意外だった。
    知能が低いことに対する支援は当然必要と思われるけど、高いことに対する支援は忘れられがち。
    こういう子の良さも存分に発揮出来る世の中になったらいいなと思った。
    莉緒ちゃんがギフテッドかどうかはよくわからないけど、聡明で真の賢さを持った子だと思う。
    こんな子が未来の総理大臣になってくれたらいいな。

  • 勉強ができない、人の心がわからないという悩みは
    物語の中で目にすることが多いけれど
    人より勉強ができたり、人の気持ちがわかりすぎてしまう苦しさをストレートに描いた物語は
    あまりなかったのではないかな。
    人は能力があり過ぎることでもマイノリティーになってしまう。
    ひと目見て答えがわかるような算数の問題を
    授業中ずっと教室で聞いていなければいけない子どもの辛さを
    このまま大人は見て見ぬふりをしていていいのだろうか。
    多様性を認めるというのなら、何よりもまず
    子どもの教育の場にどんどん取り入れてほしいな。

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著者プロフィール

1978年大阪府生まれ。2004年、第2回ジュニア冒険小説大賞を受賞した『ねこまた妖怪伝』でデビュー。児童文学のほか、ミステリーや恋愛小説も執筆する。著書に、「2013年 文庫大賞」(啓文堂大賞 文庫部門)となった『ハルさん』、『初恋料理教室』『おなじ世界のどこかで』『淀川八景』『しあわせなハリネズミ』『涙をなくした君に』、『きみの傷跡』に連なる青春シリーズの『わたしの恋人』『ぼくの嘘』『ふたりの文化祭』などがある。

「2023年 『初恋写真』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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