金色のゆりかご

著者 :
  • 光文社
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本棚登録 : 83
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334926120

感想・レビュー・書評

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  • うつの研修医啓介と、望まない妊娠をしたキレイな女子高生まりあが、困難を乗り越え、いい関係になるのかな?と思ってよんでたら、
    途中から海外養子縁組とか、赤ちゃんポストとか、なにやら難しい問題に踏み込んで行き、
    母とまりあの関係とか、両親の関係とか、物語としてもっと読みたかった感。
    でもまぁ、安易な性交や、妊娠、出産、女性のリスクはどこまでも深く、目に見えない心の傷までふくめるとこわいなぁ…。
    中絶が非人道的的であるとしても、産むのが最善でもなければ、いったいどうすればよいのか。
    など考えた。
    佐川さんの本に出てくる頭いい男子が好きなので、恋愛要素がもっと欲しかった。

  • 国際養子縁組という知られざる制度…いやここを間違えてはいけない、事業に鋭く斬り込む問題作であるのだが少し違った意味での問題作になってしまったように思う。
    「ある研修医の日記」的なルポルタージュじゃなくて小説として存在させているのだからこの結末はどうかと思うな。
    内容としては男性作家が描くのはやはり無理があると思われる妊娠、出産を取り上げてはいるもののその丁寧な扱いには好感が持て更にその奥に養子縁組という闇と紙一重の問題を内包しているとなれば肯定せざるを得ない。でもやはり「後編は?」と思わせるラストは消化不良は否めない。
    少子高齢化を問題視するのとは裏腹に望まれずに産まれて来た赤子にとことん冷たい我が国の制度に読者が共有の意識を持つことでまりあと幸太の未来が開ける!との扇動ならば納得もするのだが

  • 女子高校生のまりあがバイト先のコンビニで倒れ、医師の資格を持っていることから病院まで付き添った啓介。まりあは妊娠しており、もう人工中絶ができない週数だった。非合法な中絶を選ぶか出産するか、出産したらその子を自分で育てるか、それとも預けて育ててもらうか、望まない妊娠をめぐる色々な動きに巻き込まれていく啓介。
    やっぱり、こういう時に赤ちゃんの父親である男性が何の負担を負うこともなく、女性だけに心身の負担、戸籍の問題、育児と学業の両立、経済的な問題、といったたくさんの問題を背負わせることが社会として日本は未成熟だなと思う。シングルマザーであっても、学生であっても、妊娠・出産を安全に終えられて、自分で育てたい人には育児と学業や仕事との両立ができるよう、自分で育てられない人には赤ちゃんにとってより良い養育環境を整えるのが社会の責任なのに、日本はその辺がとても遅れている。
    女性が妊娠する性なのは明らかだけど、自分が望んだ時に妊娠できるよう、子どもの時からの性教育だったり、男女の対等な関係性だったり、そういうものは男女共に学び考えていかないといけないと思う。そして望まない妊娠の時には、どういう対応が必要か(緊急避妊ピルなど)もきちんと伝えていかないといけない。自分の産み育てる性を大切にしてほしいなと思った。

  • 前半は結構面白かった。予想していた展開とは違う、かなり社会派の作品でした。

  • 内容が現代を反映した学生の望まぬ妊娠。
    そしてそれらを取り巻く環境と、未婚の出産や養子縁組問題など様々な現代の問題と透過していて読み応えがある。

    物語の舞台が地元の為とても惹かれた。
    ただ1つ、終わり方には物足りなさが残る。
    少女の心は強くなった。
    その後の続きや問題の解決を正直さらに読みたかった。

    また名前入りのサインをある偶然の巡り合わせと御厚意により著者に書いて頂いた。感謝しております。

  • 低年齢未婚出産、赤ちゃん斡旋、国際養子縁組・・・。

    出産に関する社会問題を取り上げたまま終結してしまって、
    ちょっと残念な小説であった。

  • 読んでみて、???と思ったら、北川さんの「金のゆりかご」と間違え
    て借りてきた事が発覚ヾ(・ω・`;)ノ
    それでも読み進めてみると、望まぬ妊娠をした女子高生がひっそりと
    子供を生み、一度は国際養子縁組に出す事を決めるが、やはりとり戻す
    為に戦う、というストーリー。
    海外養子斡旋の実情、妊娠二十二週を過ぎてからの望まない妊娠をした女性達、産婦人科の抱える問題などが書かれていて、中々興味深か
    った。
    ただ、無事に赤ちゃんを取り戻す事ができたのか、その結末が書かれて
    いないので、そこが知りたかった!

  • 最初は未熟な女子高生とこれまた未熟な医師の卵の恋愛ストーリーかと思っていたら大間違い。性道徳が乱れ、望まれぬ妊娠が日常茶飯事となっている現状を踏まえ、今後大きな社会問題となる可能性のある、新生児の海外養子斡旋問題を取り上げた意欲作だ。 登場するのは、ナイーブなインターン医師の啓介。修中の大学病院で人の死に何度も直面するうちに軽度のうつを患って、コンビニでバイト中だ。そのコンビニで、地元有名進学校の女子高生が制服姿のまま突然倒れてしまう。とっさに診察をした啓介は、制服の下のさらし姿を見て妊娠による切迫流産を確信する。救急車で向かった先で判明したのは、妊娠7か月で堕胎可能な時期を逸していることと、その妊娠を彼女が誰にも打ち明けていなかったという事実だった、、、 美しく聡明な女子高生・まりあは、病名を偽り高校を休学して無事出産。生まれた子供の行方をめぐって、ここから、この小説の展開がダイナミックなものとなっていく。ヒューマンな先輩医師や弁護士などが登場し、日本の養子問題への取り組みが発展途上国以下であることを糾弾する。そして、さまざまな実例や医療現場での実態などが紹介され、この小説は熱を帯び、説得力のある展開をしていく。 著者はずいぶん深く取材を重ねたものと見える。それにしても、実態に見合わない、この国の法の未整備や取り組み不足に声も出ない。こんな世の中なのに、、、物語は事件解決前に終了してしまうのだが、決して暗い終わり方ではない。社会に対する問題提起をしながらどんどん先へ進んでいくこの小説は、なかなかの力作。

  • 研修医の『島村啓介』は軽度のうつと診断され、暫く休職することとなった。
    その後、アルバイトをしていたコンビニで、夜間、女子高校生が倒れる。切迫流産を起こしかけていた。病院まで付き添い、大方の事情を聴き、もう下ろせない月数になっていることもあり、彼女の今後を気に掛けるのだが・・

    一方、高校三年で妊娠してしまった『まりあ』は、堕ろすこともできず、産んでも育てるのは難しい現実に悩み、母親の言う通りにすることになる。それは-否認可の海外養子斡旋だった。


    一応、フィクションの話ではありますが、現実に存在する問題であるということで非常に驚かされる内容でした。

    確かに、産めるならそりゃあ産むことの方がいいとは思います。ですが、現実はとても厳しい。未婚の母に対する世間は言うに及ばず、経済的にだってそうだし、なんといっても、自分の生活が犠牲になることは確かですから。ときどき覗くサイトでも出産を悩むスレを見かけますが、結婚していてさえ悩むのであれば、現役高校生だったりしたらどうなることか・・「産めば何とかなる、ぜひ産んで」といったレスも見るけど、私はそんなことは言えない。だって育てるのはその人なんだから・・・産めば終わりじゃないし、産んでからが大切なんだから。

    その産んだ後の問題がこの本。日本の養子縁組制度は非常に遅れているらしく、結局戸籍に傷がつく(あえてこういった表現を使わせてもらいます)のを恐れて、裏の手段を取る場合もあるそうで。ですが、その分、赤ちゃんが危険にさらされることにもなりかねない。実際には、金銭が絡み、児童売春やポルノ、臓器販売といった危険もはらんでいる。

    あるいは、手元に置いても虐待をしたり、捨てたり、殺してしまうケースだって・・そんな子供たちを前に、生まれてきただけ幸せなんてことが言えるだろうか?

    授かった命は大切にすべき、そんなことは当たり前のことで、だったらその前段階できちんと考えてほしい。

  • 研修医の啓介は、あまりの激務に心身ともに疲れ、親掛かりのまま休養生活に入る。首都圏近郊都市での一人暮らし、暇つぶしとリハビリをかねたコンビニでのアルバイト中に、女子高校生が店内で倒れる。
    お腹にきつくさらしを捲いている。救急車に同乗して駆けつけた病院での救急医との運命の出会い。生と死を強く意識するようになり医師としての自覚を獲得していく物語。
    高校生の産み落とした赤ちゃんはどこへ運ばれたのか?海外養子斡旋関係者告発に、周囲の応援もあって気丈に立ち上がる女子高校生というところで物語は終わってしまう。
    日本は国連子どもの権利委員会による警告にもかかわらず、現在も海外養子についてのハーグ条約を批准していないそうだ。だから闇から闇への海外養子斡旋で、臓器提供組織に売られている可能性もある。望まれないで生まれた子どもの人権が守られていない国であることは事実なのだ。

著者プロフィール

1965年、東京生まれ・茅ヶ崎育ち。北海道大学法学部出身。在学中は恵迪寮で生活し、現在は埼玉県志木市で暮らす。2000年「生活の設計」で第32回新潮新人賞。2002年『縮んだ愛』で第24回野間文芸新人賞受賞。2011年『おれのおばさん』で第26回坪田譲治文学賞受賞。

「2021年 『満天の花』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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