ミストレス

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334928940

感想・レビュー・書評

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  • 大人の恋愛を描いた5話からなる短編集。

    「ミストレス」
    主人公は外科医の男性。
    妻と出向いたコンサートで居眠りをして、夢の中で魅力的なコンサートミストレスを見る。
    彼女の正体とはー。

    「やまね」
    恋人の親友と浮気、つき合う事になり結婚まで考える男性。
    所が、つかみどころのない彼女と連絡がつかなくなりー。

    「ライフガード」
    新婚旅行先のタイで元恋人の男性そっくりのライフガードと出会う女性。
    元恋人は喧嘩の仲裁で亡くなったが、彼は本当は生きていて、このライフガードではないのか?

    「宮木」
    危険な地域でジャーナリストとして活動する男性。
    彼の海外での活動は10年以上に及び、その間、妻は日本にいてほったらかし。
    やがて久々に日本に帰った彼が目にしたのは、他人に乗っ取られた所有マンションと妻の姿だったー。

    「紅い蕎麦の実」
    主人公の男性が知り合った、援農メンバーの一人の女性。
    いかにも農家のオバちゃんという素朴な雰囲気の彼女の正体とはー。

    大人の恋愛小説で、官能的な描写も多々ある。
    個人的には「やまね」という話が印象的だった。
    ああ、こうきたかーという感じで、こういうとらえどころのないような女性を描くのがこの作者は上手だな・・・と思った。身近にモデルがいるのかもしれない。
    ただ、読んだはしから忘れてしまうような印象の本ではあった。

  • 「平成の宮木たち―官能の果てに 」

    妻と出かけた避暑地のクラッシックコンサートで、外科医が夢現に見た舞台の上のコンサートミストレス。彼女から想起された激しい感情の正体とは?表題作「ミストレス」ほか「やまね」「ライフガード」「宮木」「紅い蕎麦の実」官能の向こうにある女性たちの真実の姿が見えたとき、切ない思いに胸が揺さぶられる5編を収録。

     全般にそこそこ濃厚な性描写があって、篠田さんにしてはこういうテイストの短編集は珍しいなと思ったら「ライフガード」を除く4編は「小説宝石」の春の官能小説特集寄稿の作品とあった。ただ刺激的なシーンも決していやらしくは感じなく、官能的なダンスの動きのように思えるのは、女性作家の手によるもののためか、それとも篠田さんファンである自分のひいき目か。もっとも女性作家でも過激でえげつない性描写する人もいますからね。

     どれも短編ながら、常人には理解し難い体質の女性であるとか、援農グループで知り合った中年女性への言葉にし難い思慕とか、謎が謎を呼び、彼女ははたして何者なのか⁈という部分で最後まで目が離せないなのは、嬉しい相変わらず。

     中でも「宮木」は最も目が離せなかった作品。ジャーナリストとしての気負いから記者をやめて、高級マンションに妻を一人残して中近東の紛争地へ渡り、音信不通のまま12年ぶりに帰宅した男。そこにはやつれて老いた妻が家を守り夫の帰りを一日千秋の思いで待っていた。彼の知らないクローゼットの奥の秘密の空間で多くの「友人たち」に支えられながら。12年ぶりに妻を抱き微妙な違和感を持った男が妻の秘密をつきとめ、真実を知ってなだれ込むラストまでは息を呑む。

     因みに男の名前は「勝太郎」。ここまで書けば、本作品のタイトルと合わせて、おそらくピンとこられる本好きさんも多いことだろう。そう、これ「雨月物語」の「浅茅が宿」が下敷きになってるんでしょうね。ただ作中では「宮木」が雨月の「宮木」ではなく、後拾遺和歌集にただ一首歌が残されているという遊女「宮木」に想を得たということが触れられている。

     音信不通にしていた夫が久方ぶりに帰宅した家。そこに待っていた「変わり果てた妻」。雨月の宮木は霊となっていたのだったが現代の宮木は…。宮木だけではない。若き日の痛みを抱えて生きるコンサートミストレスも、永い眠りについた「やまね」も、聖女の中年女性も。上田秋成の「雨月物語」の切なさは怪異の向こうにあったが、篠田節子「ミストレス」のそれは官能の果てにある。

  • 官能的なホラー短編集。
    前作ブラックボックスも興味深くおもしろい作品ではあったけれど
    こういった作風の方が好きだ。

    表題作でもある一話のミストレスが特にいい。
    篠田作品にはクラッシック音楽が、特にバイオリンがよく似合う。
    現実と幻想が交錯する怖くて美しい一編。

    読み終えて、もっと読んでいたかったなぁ…と感じた。
    次作にも期待。

  • ちょっと不思議で官能的な短編集。この作家にしては珍しいかも。

  • 文芸誌の官能小説特集に掲載した短編とあって、珍しく性的な描写が盛り込まれている。とは言え、今までそうしたシーンが苦手であえて避けていたであろう作者だけに、生々しさはなく上品に匂い立つようなムードに仕上がっている。得意のホラー的要素を盛り込んだのが、成功している。

  • 私の中で外れ無しの作家さん。もしかしたら読んだかな?と思って読み始めたら「官能小説?」
    でもやっぱり面白かった。

  • 【計り知れない女の謎】霧のような雨の日に読了。渇きを感じるからか、天候にはよく合う作品かなぁ。5短編ホラー⁈うーん官能の部類なのか…。「ミストレス」必要だと心で叫ぶ幻惑心の叫びは響く。ただ他は物足りなさを感じ3作品で途中下車。男性はこの作品のような女性を求め守りたくなるものなのか。羽毛に包まれたような安らぎは男女とも求めたくなるものだと思うけど今作では私は安らぎに落ちていけなかった。私には再読が必要なのかな。

  • 5編からなる短編集。
    最後の「紅い蕎麦の実」がよかったので★3つ。
    読み終わり、官能小説特集に寄稿したものという記述に描写が濃いなぁと違和感を持っていたので腑に落ちた。
    残りの4編、特に「宮木」は世界観と長さが合わず、まとまりきらない印象が強く残った。短編はまとまらないのも、スッキリ終わらないのも余韻として必要だとは思うけど、そこをこえて物足りなさを感じた。

  • (収録作品)ミストレス/やまね/ライフガード/宮木/紅い蕎麦の実

  •  5編から成る短編集。表題は最初の作品のもの。
     篠田節子さんといえば現実と非現実の揺らぎが印象的で、本作でも最後の作品以外は夢や幻想を連想させる物語だ。細やかな描写力ゆえか、登場人物の見る幻想がまさに目の前に現れている感覚で、薄気味悪くなる。ただ、3編目の「ライフガード」は、ややロマンの方に傾いてあまり共感できなかった。
     最後の「紅い蕎麦の実」は、中盤は退屈だったが終盤にきて読みが加速した。主人公の心の揺らぎが興味深い。若い恋人麻衣の、読みの深さや突然の失踪にも緊迫感があり、面白い構成だと思った。

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

篠田節子の作品

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