アラバスターの手: マンビー古書怪談集

  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336070340

作品紹介・あらすじ

少年を誘う不気味な古書店主、呪われた聖書台の因果、年代物の時禱書に隠された秘密、ジョン・ディーの魔術書の怪……ケンブリッジ大学図書館フェロー、英国書誌学会長を務めた特異な経歴の作家による、全14篇の比類なき書物愛に満ちた異色の古書怪談集!

【荒俣宏氏推薦!】
英国は「学者が怪談を書く」国だ。開祖M・R・ジェイムズは教室でホラーを朗読し、マンビーはナチの捕虜収容所でこれを書いた!

解説=紀田順一郎「怪奇小説の正統を目ざした文献学者」

感想・レビュー・書評

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  • 怪奇、幻想、書物愛、アンティーク、ミステリー・・
    ゴシックの薫り高い14編のホラー短編集。
    国書刊行会編集部の刊行でアラマタさん推薦、紀田順一郎さんの解説。
    英国の作家A・N・L・マンビーによる、1949年に生涯唯一残したという小説が今秋ようやく登場した。これが読まずにいられようか。

    なんて言うと意欲満々に聞こえそうだが、正直怖かった。。
    「お願い、これ以上のことは起きないで!」と祈るように頁をめくり、読後はなかなか寝付けず、ようやく寝ても悪夢にうなされた。
    生々しい描写は殆どないのに、全体に漂う禍々しさ。
    それがよけいに想像力を刺激して怖い。
    流れるようにクラシックな文体はほのかに品があり、どれもラストの数行で深い余韻を残す。
    巧い。とにかく巧い。
    苦手分野であるにも関わらず、つい読みふけってしまった。

    本好きの少年を誘う不気味な古書店主。
    先祖伝来の地所にある廃寺院の碑文に隠された秘密。
    とあるカトリック教会に鎮座するアラバスター像をめぐる不可思議な出来事。
    由緒ある屋敷の品物が競売にかけられることになって起こる怪事件。
    古書店の目録に載っていたジョン・ディーの魔術書をめぐる怪異。
    …どの話も学者や古書愛好家が主人公。
    実在の古書・骨董・絵画・芸術品・建築などの来歴をたどるうちに隠された怪異に遭遇するという、正統派(?)の怪奇小説だ。

    マンビーの経歴が少々変わっていて、ダンケルクの戦いの後捕虜となり、収容所の中でこれらの作品を書いたらしい。
    戦後はケンブリッジのキングズ・カレッジの図書館司書を経て、書誌学者、ライブラリアンとしての方向にかじを切ったため、作家のしての活動は本書のみということになる。
    刊行を待ち続けたファンの方々は14編では物足りないかもしれない。

    「英国は学者が怪談を書く国」だとアラマタさんは言う。
    開祖M・R・ジェイムズは教室でホラーを朗読したそうだが、そのジェイムズに捧げる言葉が扉に出てくる。
    学者・古書愛好家ものというジェイムズの世界を踏襲した作品たちは、きっと小説大好きな皆さんも満足されるだろう。
    書物愛に満ちたゴシック・ホラーは、陶酔をさそう魅力がある。怖がるのは私くらいかも。。
    大掃除でかなり疲れたので今夜は眠れると思うが、ああ、もう一度開いて読んでしまいそう。

    • goya626さん
      ホラーでエンドルフィンが出るヤツってどんなやつなんや、信じられんわ。
      ホラーでエンドルフィンが出るヤツってどんなやつなんや、信じられんわ。
      2020/12/30
    • nejidonさん
      goya626さん!大笑いです( ´∀` )
      ちょっと前にTVで見た実験でしたが、皆さんごく普通の方ばかりでした。
      決してサイコな面々で...
      goya626さん!大笑いです( ´∀` )
      ちょっと前にTVで見た実験でしたが、皆さんごく普通の方ばかりでした。
      決してサイコな面々ではなかったですよ(*'▽')

      今年はたくさんお話出来て楽しい時間を過ごせました。
      どうぞ良いお年を。来年もよろしくお願いします♪
      2020/12/30
    • goya626さん
      nejidonnさん
      私こそ、楽しかったです。よいお年をお迎えください。こちらこそ、来年もよろしくお願いします。
      nejidonnさん
      私こそ、楽しかったです。よいお年をお迎えください。こちらこそ、来年もよろしくお願いします。
      2020/12/30
  • 英国怪奇小説家マンビーの全十四篇の短編集。
    ・甦ったヘロデ王  ・碑文  ・アラバスターの手
    ・トプリー屋敷の競売   ・チューダー様式の煙突
    ・クリスマスのゲーム  ・白い袋  ・四柱式ベッド
    ・黒人の頭  ・トレガネットの時とう書  ・霧の中の邂逅
    ・聖書台  ・出品番号七十九  ・悪魔の筆跡
    紀田順一郎の解説・・・詳細なマンビーの経歴と作品解説。
    翻訳者に感謝、マンビーの作品集は初めてです。
    うちの蔵書の由良君美編『イギリス怪談集』に
    「霧の中での遭遇」(井出弘之/訳)が載っていますが、
    略歴不詳になっていました。だからこその作品集!
    ドイツ軍の捕虜となり、収容された捕虜収容所内での雑誌に
    寄稿したのが始まり。戦後、この十四篇の短編集を発表。
    その内容は、献辞を捧げているM・R・ジェイムズ同様の、
    英国怪奇小説。彼の衣鉢を継ぐ作家と目されました。が、
    その後はケンブリッジのキングス・カレッジの司書、フェローと
    なり、作家よりも書誌学者への道に舵を切りました。
    舞台は、古い陰気な古書店、寺院、教会、古い屋敷、山中等。
    そこを徘徊する禍々しい者たち、過去の行為に触発された怪異。
    遺された日記や手記、告白、遺品、風景や建物の内外の描写の妙。
    ジェイムズへのオマージュ的雰囲気を醸し出しながらも、
    重厚なジェイムズの作品とはやや異なった、多少軽妙な言葉が
    英国怪談を彩っています。
    そして、なによりも古書や古物の知識の深いこと。
    「アラバスターの手」のヒヤっとする感触、「悪魔の筆跡」の
    ラストの書き込みがゾクゾクして好みでした。

  • 【今週はこれを読め! SF編】稀覯書や古文書をめぐる怪奇譚、黴の匂いと書架の陰翳 - 牧眞司|WEB本の雑誌
    http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2020/10/20/124254.html

    アラバスターの手|国書刊行会
    https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336070340/

  • 古書怪談という言葉に惹かれ、購入した本書。蠱惑的なモチーフが多く、この手の怪奇作品が好きなのだと改めて実感した。人物達の語りに心躍ると同時に心地良さを覚える。建築物の描写が好き。「甦ったヘロデ王」「悪魔の筆跡」辺りが好みだが、印象深かったのは「霧の中の邂逅」。 何とも言えぬ、哀しい気持ちになった。

  • ホラー。短編集。
    古書やアンティーク雑貨、洋館、歴史にまつわる怪談集。
    収録作品のうち、何作かは捕虜収容所の雑誌に掲載された作品らしい。
    全体的に、派手さはないが、とにかく雰囲気が良い。
    ヨーロッパの少し古い雰囲気を味わえて、好きな人は好きそうな印象。

  • 大満足の正統ゴシックホラー。
    古書、稀覯本、百年前の廃屋、古い邸宅、閉じられた暖炉、曰く付きの墓碑銘や相続品。それら全てに、おどろおどろしい物語があった。

    いきなり怪物とかは出てこない。こんなホラーが読みたかった。

  • 古書怪談集と銘打たれているが、山の怪談と言える「白い袋」「霧の中の邂逅」も良かった。特に後者は映像化して見せてほしい(もちろん古地図の風情も含めて)。『精神科医の悪魔祓い』を読了したばかりの身としては「悪魔の筆跡」に妙な現実味を感じてしまうが、実際には “善意の幽霊”のほうがいかにもその辺をウロウロしている可能性が有りそうで、じんわりと怖い。

  • 『チャールズ・ウィンチカムがドーセット州に所有するスタプトン屋敷には、執筆にうってつけの書斎がある。私はそれを知っていたので、ロンドンを離れるときも、良心のとがめは一切感じなくてすんだ。ある学会の定期刊行物に掲載する論文の締め切りが迫っていたうえ、この十日間、大英博物館の仕事が忙しかったのだ』―『碑文』

    俗にライトノベルと呼ばれる本はほとんど読まないのだけれど、この英国書誌家の記した本は、改まった心構えを必要とせず夏に怪談話を聞くような気持ちで読めてしまうので、差し詰め半世紀前の英国版ライトノベルという感じか。もっとも、古色蒼然とした雰囲気と英国紳士特有の(鼻持ちならない、とは言わないまでも)物言いに満ちた怪奇譚は、スノッブな雰囲気に満ち満ちているけれども。

    各逸話の出だしは決まって語り手がどのような経緯でこれから語る怪奇な話を知るに至ったかを語るところから始まる。語り手の置かれた状況は一見不必要な詳細のようにも映るし、詳細は省くとしながらも脱線するように触れられる些事はいかにも語り手が古書や書誌への造形が深いこと(すなわち興味をそそられればじっとして居られない性格であること)を読者に知らしめる約束事を示すようなプロローグだ。この雰囲気は、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ譚における事件の始まりを思い起こさせる。ただしそれはあくまで個人的に感じ方であって、作家アラン・ノエル・ラティマー・マンビーが意図していたと言いたい訳ではない。この怪奇譚で謎を解くのはワトソン博士の語るホームズではなく語り手自身だし、ホームズのように推理を披露する訳でもない。

    怪奇譚としてはどれも今風のスリラーのように捻ったどんでん返しに次ぐどんでん返しがあるわけでもなく、言ってみればとてもあっさりとしている。謎解きなのだが、もちろん、本当の意味で謎は一つも解かれないまま終わるので物足りなさすら感じさせかねない。恐らく、プロットばかりを追いかけていると本当の面白さを逃してしまう類の本なのだと思う。逸話の舞台はどれも短篇が発表された時代よりも昔の設定で、尚且つそこに更に古い言い伝えや謎めいた古書が登場するという仕掛け。当時の英国の読者はマンビーが書き込んだ地名や建造物の名前からもっと現実味のある舞台を想像できた筈だ。例えば英国文化に疎い自分でも、サウス・ケンジントンの自然史博物館に故人の収集した岩石標本(当時、併設されていた地質博物館は独立した英国地質調査所所轄の博物館であった筈だが)を収めた、等と書かれていれば、その中世風の立派な建物と天井の高い内部の様子や標本が保管されている研究棟の情景が具体的に目に浮かぶ。そんな具体的な情景を思い浮かべながら、そして彼の地の薄暗い照明しかない部屋の中でこれらの怪奇譚を読んだなら、印象は大きく変わるに違いないと想像する。そういう意味ではこの怪奇譚を充分味わい尽くすには、見慣れぬ固有名詞が出て来る度に丹念に調べながら読む他ないのかも知れない。季節は陽が何時までも沈まない夏ではなく、むしろ日暮れの早い冬の方が雰囲気を醸し出すかも知れない、などと思いつつ。

  • 稀覯書、先祖代々受け継がれる領主の館、アンティーク、教会の言い伝え…イギリスの怪奇小説好きなら読んで間違いない一冊でした。
    これらの創作については後半生は筆を折り、書誌学者・ライブラリアンとして生きた人らしく、特に稀覯書関係のネタが手堅い感じで面白かった。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50211041

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