- Amazon.co.jp ・本 (508ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344011588
作品紹介・あらすじ
見るだけですぐに症状がわかる二人の天才医師、「痛み」の感覚をまったく持たない男、別れた妻を執拗に追い回すストーカー、殺人容疑のまま施設を脱走した十四歳少女、そして刑事たちに立ちはだかる刑法39条-。神戸市内の閑静な住宅地で、これ以上ありえないほど凄惨な一家四人残虐殺害事件が起こった。凶器のハンマー他、Sサイズの帽子、LLサイズの靴痕跡など多くの遺留品があるにもかかわらず、捜査本部は具体的な犯人像を絞り込むことができなかった。そして八カ月後、精神障害児童施設に収容されている十四歳の少女が、あの事件の犯人は自分だと告白した、が…。
感想・レビュー・書評
-
さすがに現役医師だけに
「手術」に関するくだりは
リアルを通り越して
怖ろしいほどの描写でした、
作者が医師ということでは
帚木蓬生さんぐらいしか
知らなかったので
面喰ってしまいました
その筆力がお見事なので
最後まで読まされてしまいました
(ブクログ・メイトの)何人かの方が
書いておられますが
手にするときは
確かに
かなり「覚悟」をして
おかなければ
なりませんね詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
他人の痛みと自分の痛み
小学生の頃、「信号は青になったら渡りましょう」
なんて教わったが、どう見てもあれは「緑」だと
もしかして周りの人はあれが「青」に見えている?
それとも色彩に関して私に問題が?
しかしそうではなかった
緑は新しい色の名前で青は古くからの名前らしい
そのなごりで緑を含めて「青」と呼ぶらしい
隣の芝生は青い、などもそうである
そんな経験から、他人と自分は同じように
物事を五感で感じているのだろうか、と
この著書では痛感について投げかけられた
また、それとともに刑法39条の
犯罪の責任を問えない人の立場について
犯罪意識などをどう捉えれば良いか
果たして犯罪を犯罪と思える人間から
犯罪意識を持っていない人間のことが理解できるのか
それらについて考えさせられた
余談だが、事件の舞台が、私の小中学校の校区で
土地勘があるため、登場人物の移動を詳しく著者が描いているのが
正確なので、足を運んでじっくりと調べて
リアリティを追求した上ででの
フィックションを作り上げようとした
著者の努力が伺える
その方向性での構成の中で、病院の院長の行動についての意図が
最後まで明かされなかったのが腑に落ちない -
医者だからこそ描ける医療とミステリーが融合した大作。
専門的な言葉も出てくるが、わかりやすく解説も書かれており読みやすい。
刑法39条を問題提起に置かれてるけど、この法律について色々考えさせられる。
分厚い内容やけど、しっかりした読み応えがあり、満足できた。
常軌を逸した人物の描き方が半端ない。
ここまで下衆な奴を描けるのかというのに驚いた。 -
TVドラマ化までに読んでみたが、うーん。
全体を通し生々しくて全く共感出来なかった。
医療系作品だと海堂さんのほうが個人的に好きかも。
残念ながら、久坂部さんは苦手。
まだ無痛しか読んでないが…。
ただ映像化されるとどうなるか気になるので、ドラマは見てみてます。 -
物語は神戸で起きた一家四人惨殺事件を軸に展開する。
この作者さん、以前『廃用身』を途中で挫折したから心配したけど、今作は面白くて一気読み。ラスト一行でモヤモヤしてたら、続編が出てるらしい。納得。
基本的には刑法三十九条がテーマ。弱者である精神障害者を守るための法ではあるけれど、遺族としては納得できるものではないし、それを悪用する人間も多い。
今さら感のあるテーマながら、外見に表れた徴候から病気を見抜くことができる医師という設定が面白い。同じく天才的な診断力をもちながら、まったく別の道を進む二人の医師。先が見えてしまうからこその苦悩が少し切ない。
現役医師という作者さんらしく、遺体の状況や手術、解剖シーンはかなり詳細でリアル。苦手な方はご注意を。 -
痛みを感じない人間にとって、どうすればそれがわかるようになるか…なかなか難しい問題だと思われる。外見に現れる症状で病名がわかる医師と、痛みを感じない障がい者。この二人がキーマンとなって話は進んで行く。著者は医者というだけあって、なかなか過激な描写もあり、気持ち悪くなってしまう人もいそうだと思ってしまった。事実、読みながら飛ばした部分もあった。生きている人間を麻酔なしで解体するくだりなどはどうしても読めなかった…。覚悟して読んだ方がいいなあという感想を改めて持った。
-
続きが気になってどんどん読みたくなった。しかし登場人物の誰にも好感が持てず、誰にも感情移入できなかった。結末も今ひとつ。
-
“痛み”って、どこにでも付いて回るから、それがナイ世界なんて考えられない。そういう“普通の感覚がない”とそれを知りたいって思うことは、当然かも。
かなりグロいけど、犯人の悲痛さ、それを周りで見てる人のむなしさのようなものを感じた。
結構、最初からなんとなく犯人は分かったけど、面白かったと思う。 -
久坂部羊の作品は刊行順に読んでいますが1作ごとに毛色が違います。今回の作品はすさまじかったです。一体どうなっていくのか、読むスピードが加速していきました。非常に面白かったし考えさせられました。ただ最後の展開は・・・なかったほうがよかったように思います。
-
(No.12-15) 医療ミステリです。
『神戸港を一望できる坂の上の閑静な住宅地。その瀟洒な家で、凄惨な一家殺害事件が起こった。
小学校教諭の夫、その妻、5歳の長女、3歳の長男、一家4人が鈍器で撲殺され、壁に寄りかかるように並べられていた。別々の場所で殺害したものを、そうやって並べたのは意図的なもの。何かのこだわりに違いない。しかも犯人は頭蓋骨を粉砕するほどの凄惨な犯行の後、その場でプリンを食べている。
解剖を担当した法医学者は、この犯人には情性欠如の疑いが強いとコメント、捜査員の間に重苦しい空気が流れた。捜査員達の頭に浮かんだのは刑法39条。
「心神喪失の行為は罰しない。心神耗弱者の行為はその刑を軽減する」
しかしともかく捜査員は犯人特定のために捜査を続けた。そして8ヶ月の時間が過ぎてしまった。』
「廃用身」「破裂」と、老人問題をリアルにあぶり出した久坂部さんが、今度は刑法39条に取り組んでいます。非常に微妙な問題で、前2作と同じく、ここまで書いていいの?という感じでした。
最初に、この作品はフィクションであり・・・というお馴染みの文章に加えて、「作品には・・・様々な障害を持った人物が登場しますが、その人格および行動は、登場人物に固有のものであり、それぞれの疾患や障碍とは一切関係がありません。」も付け加えられています。
それでももしかして患者団体から、抗議を受けることもあるかもしれないとちょっと心配です。
今回の主人公為頼英介(ためよりえいすけ)は開業医、古びたアパートの一画で小さな診療所を開いています。一見パッとしない医者ですが、実はある才能の持ち主。それこそ「黙って座ればぴたりと当たる」診断が出来るのです。顔、身体の微妙な兆候から、生まれつきの障碍、最近の病気、さらにその病気の今後の経過、すべて分かってしまうのですから凄い。
そういう医者が患者にとっての最高の名医かと思えるが、為頼によれば全く違うのです。
治療するとき、治らないと分かっているのに治療するということは嘘をつき続けるということ。病気が見えない医者は治るかどうか分からないから、希望を持って治療することが出来る。
治る場合も、見えない医者は自然に治った病気でも自分が治したという幸福な錯覚が出来る。為頼はそういう欺瞞が出来ないのです。
為頼が出来るのは、命を縮めてしまう害のある治療から患者を守ることくらいだというのですから、確かにむなしいでしょう。
しかしもう一人こういう才能を持った白鳥医師が登場します。彼は為頼と全く違う道を歩んでいます。
病院経営をビジネスと考え、患者に快適な環境を整える。もちろんホテル並みの病室や待合室を提供するには、お金はかかる。
そして治療成績を上げるため、治らない患者は他の病院に紹介してしまうのです。
全く考え方の違う二人の医者。為頼と関わりが出来た、精神障害児の施設で働く菜見子や、事件の捜査をする刑事達。その他登場人物は大勢います。刑法39条を悪用して犯罪を犯そうとする人物も出てきます。
ものすごく凄惨な犯行場面もありますから、そういうのが苦手な人はこの話はだめかも知れません。私はそのあたりはいそいで読み飛ばしました。
けっこう分厚い本でしたが、のめり込んで読みました。すごく面白かったです。