黒の狩人 上

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 243
感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344015593

感想・レビュー・書評

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  • 北、砂、と続けてシリーズ三作目。間をあまりおかなかったため、ちょっとした「飽き」が生まれていたのを感じながら、それでもこれもまた一気に最後まで読み切ってしまった。今度の主人公は、前二作でもレギュラーだった新宿署佐江刑事。前二作の主人公たちと遜色のない、ちょっとダーティな、しかし胸のすくヒーローぶり。しかも、佐江がヒーローになった分、その脇に、毛というサブキャラが登場していて、前二作と鏡写しのような人物配置になっているのも面白い。さらに北、砂と同様、由紀という魅力的な女性キャラも登場させて、読者の気を惹くのも忘れていない。

    相変わらず登場人物が多いが、複雑な人間模様を破たんなく最後まで描き切っている。今回は日本の暴力団の存在は控えめ。事件の中心となっているのは中国人。天安門事件までさかのぼって、最初は台湾、その後は中国本土からとなっていく、中国人たちの日本への移動の流れと、その事情や背景などに加え、警察庁公安部、外務省、そして中国の安全局と、それぞれの諜報合戦、駆け引きもたっぷり描かれていて面白い。

    中ほどまで、描かれている事件が複数あって、全体の絵がよくわからず、佐江はいったい誰を追い詰めていっているのかすらわからない、というややこしいストーリーに、読む側も息切れしそうになる。途中何度か登場人物どうしの会話で、現状整理される部分があるのは、少しだけうざったい気がしないでもないが、それがないとほんとに訳が分からなくなる危険もありそう。我慢して読んでいくと、後半でさらに二転、三転があり、あっと言わされて、そのまま一気にフィナーレに畳み込んでいく。最後まで飽きさせない、極上のエンターテインメント。振り返ってみると、この三作には順位はつけられない。どれもがそれぞれとびきり面白かった。

  • 狩人シリーズ最新作、『黒の狩人』。
    確か新聞広告や書店のPOPにはものすごく大胆なことが書いてあって、そりゃあ期待大? と思ったものです。(なんだったかは忘れましたけど)

    最近の裏社会や犯罪を書こうとするとどうしても避けられないからなのか、それとも単に大沢さんのツボにはまっているからなのか、最近の大沢さんの作品では中国人(在日、来日含めて)の組織が絡んだ物語となっていることが多い。
    まあ仕方ないことなんだろうな、と各種アンダーグランドな書籍を読んでいると思わなくもないのだけど……。たまには違うのも読みたいなーと思います。

    「北」はミステリーとしてはオーソドックスなつくりだった。ヤクザの立身出世にまつわる影、といういわゆる普通の(?)物語だった。狩人は、マタギの血を引く優秀な県警刑事。
    「砂」はキャリアとノンキャリという新宿鮫でも描いているテーマを、ここでは直接対決させた。狩人は、「狂犬」と呼ばれたこちらも優秀だった元警視庁刑事。
    さらにいずれの「狩人」にも恋の花が咲いた。(砂は切なかったけど)
    で、「黒」はといえば、今回の獲物は公安警察と、「情報」。そして狩人は今まで味のある脇役として出ていた四課刑事、佐江。
    過去2作の狩人っぷりにくらべ、どうも劣るとしかいいようがない。

    物語自体は面白くて、ぐいぐい引き込まれ、読み進められるものだ。
    だからこそ、残念で仕方がない。

    優秀だけどどこか危うく、刃物のような魅力を備えた「狩人」が主人公で、その脇を、味があったり、毒があったり、癖があったりする脇役が固める。
    そうすることで、このシリーズは成り立ち、より主人公の魅力がきらめき、脇役も深い印象を与えていたのだ。

    ところが、その「脇役」の佐江を主人公に持ってきてしまったがために、今回は脇役たちの魅力がイマイチ伝わってこない状態になってしまった。
    また、物語を彩っていた恋の物語が今回はない。何故なら、主人公が佐江だからだ。全2作を魅力あるものにしていたのは、主人公と相手の女性とのやりとりであったり、その切ない感情であったりしたのだが、それが今回は皆無。当たり前だけど。
    もうひとりの主人公である野瀬と、水森との情報を通じた恋はある。そして野瀬はそれを意識していないのに、水森だけが野瀬を愛し、守ろうとしたのは、今までの流れと同じだ。
    ……それなら水森を主人公にすればよかったじゃん! (それじゃあ物語にならないんだけど)
    というボヤキのひとつも出てしまう。

    佐江は、主人公である優秀な狩人を、脇から時に支え、時に反発して、そして物語を締めくくるあくまでも「普通の刑事」であったはずだ。
    もしも次回作があるのなら、佐江は今までどおり脇役として活躍させ、また新たな魅力を持つ主人公を作り上げてもらいたい。
    主人公作るのがめんどくさくなっちゃったのか、などと素人ながら思っちゃいましたよ。

  • 中国公安部、日本の組対、公安、そして外務省に暴力団、スパイと盛りだくさんのストーリー。人物に魅力があるので楽しめた。

  • 中国人ばかりを狙った惨殺事件が続けて発生した。
    手がかりは、頭部と四肢を切断された死体のわきの下に残された「五岳聖山」の刺青だけ。
    手詰まりとなった捜査に駆り出された新宿署の刑事・佐江は、捜査補助員として「毛」と名乗る謎の中国人とコンビを組まされる。
    そこに、情報のためなら身体を使うことも厭わない外務省の美人職員・由紀が加わり、三人は事件の真相に迫ろうとするが―。

  • 感想は下巻で

  • 狩人シリーズといっても、主人公は毎回違う。今回はいままで脇役だったさえない太った刑事がやっと主人公に。

    読んでるこっちも、情報戦にまどわされて、こんがらかるー。
    日本はスパイ天国というから、こんな話けっこうあるんだろうか。
    そういえば、先日もアメリカでロシアのスパイがつかまって、どうなるのかと思ったら、スパイ同士を交換。。アメリカもスパイ送ってるんじゃん。

    それはさておき、予想もつかない展開で、はらはらしながら読みました。事件の真相はなんだか、煙に巻かれた気がするけど、国家間が絡むとしょうがないのか。

    シリーズの中では一番面白かったです。

    普通そうに見える人が実は凄腕だった!なんて設定はベタだけど結構好きかも。キュンとくるよね。

  • 狩人シリーズの佐江刑事が、スパイ的な役割を演じながら、中国諜報機関、中国マフィア、台湾マフィア、新宿暴力団などと関わっていく辺りの関係が複雑でした。思ってもいない展開にわくわくしながら読みました。

  • 登場人物が多くて(それがたとえ漢字の中国人でも)覚えれない自分にがっくし。相変わらず「セクシーかっこいいハードボイルド」は健在で、外国人犯罪でもそれほど残虐ではない描き方はスマートですが、ちょっと長い。

  • 引き込まれて一気に読んだ。歌舞伎町を中心とした、海外マフィアの暗躍振りがフィクションとは言え、恐ろしい。

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著者プロフィール

1956年愛知県名古屋市生まれ。慶応義塾大学中退。1979年に小説推理新人賞を「感傷の街角」で受賞しデビュー。1986年「深夜曲馬団」で日本冒険小説協会大賞最優秀短編賞、1991年『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞長編部門受賞。1994年には『無間人形 新宿鮫IV』直木賞を受賞した。2001年『心では重すぎる』で日本冒険小説協会大賞、2002年『闇先案内人』で日本冒険小説協会大賞を連続受賞。2004年『パンドラ・アイランド』で柴田錬三郎賞受賞。2010年には日本ミステリー文学大賞受賞。2014年『海と月の迷路』で吉川英治文学賞を受賞、2022年には紫綬褒章を受章した。


「2023年 『悪魔には悪魔を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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