リトル・ピープルの時代

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344020245

感想・レビュー・書評

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  • 社会
    思索

  • <span style="color:#0000ff;">P102
     (「ビッグブラザー」の与える)大きな物語が衰微して消費社会が浸透し、価値相対主義が前提化すると、そこから解き放たれた人々(リトル・ピープル)は「何が正しいか/価値があるか」わからない宙づり状態に耐えられず「自分の信じたいものを信じる」用になり、その決断を相対化の視線から守るために小さな共同体にひきこもることになる。
     そしてその小さな共同体を護るために病力性を発揮することになる。その端的な例が(略)オウム真理教である。

     (村上春樹は)リトルピープルだけが存在する世界だけに追いつくので精いっぱい</span>

     で、その世界をとらえきれていないとし、ポップカルチャーからウルトラマンと仮面ライダーを引用することで、「リトルピープルだけの世界」を記述しようとする。

    <span style="color:#0000ff;">P355 村上春樹は、ビックブラザー(大きい物語や強大な敵を与えるもの、圧倒的な外部)には誰もなれないことには敏感だったが、(ビック・ブラザーが衰微していく中で)誰もがリトル・ピープルとして機能してしまうことには鈍感だった。
     しかし、虚構の中のヒーロー達はその鈍感さを許されることはなかった。なぜならば、彼らこそが、まさに市場に渦巻く消費者たちの欲望によって、否応なく、父として機能すること=正義という名の暴力を執行することを宿命づけられた存在だからだ。

    (P359)
    「光の国」という絶対的な<外部>から来訪したウルトラマンに対し、カルト的な秘密結社によって昆虫の力を移植された改造人間である仮面ライダーは私たちの世界の<内部>から発生したヒーローだ。そして私たちは、そんな世界の<内部>から湧き上がってくる力を手にすることで、想像力を行使する=「変身」することができるのだ。

    (P380)
     第1章、第2章を通じて、本書はグローバル/ネットワーク化以降=リトル・ピープルの時代における想像力の在り方について論じてきた。それはいい換えれば、私たちにとっての「壁(システム)」が国民国家から貨幣と情報のネットワークに変化したときの虚構の、物語のあり方について考えることでもあったはずだ。世界は一つにつなげられ、<外部>(ここではないどこか)を喪い、<内部>(いま、ここ)だけが存在する。しかし、それは想像力が枯渇したことを意味しない。<いま、ここ>にどこまでも潜り、そこから汲みだされた力で<いま、ここ>を多重化していく想像力の追求こそが、第一章で紹介した村上春樹の挑戦であり、第二章で紹介した仮面ライダーたちの戦いであり、そして本節で紹介したネットワークを背景にしたポップカルチャーの台頭、特におたく文化においては、日本的未成熟というビッグ・ブラザー的な(大きな)物語でなく、「繋がりの社会性」を背景にしたネットワークへのn次創作回路の肥大こそがその創造力の源泉として機能している。
    </span>

    <span style="color:#009900;">P205
     日本のロボットアニメの歴史とは、男性器的なものの軟着陸の歴史でもある。「鉄人28号」や「マジンガーZ」も(祖)父から子への伝言として登場した。国内アニメーションにおける「ロボット」は男の子が「父」から与えられて獲得する巨大な身体として設定され、彼らはその巨大な体を用いて敵と戦っていった=大人社会に参加していった。(略)少年に父親(科学者、もしくは軍事組織の司令官として描かれる)が与える拡張された身体。それが「ロボット」だ。

    P207
     「マジンガーZ」以降のロボット・アニメはリトルピープル的な存在(主人公の少年)がロボットという「依り代」を与えられることでリトル・ピープルのままビッグブラザーを「演じる」ことを可能にしたと言えるだろう。
    </span>

  • 創作論

  • 新進気鋭の評論家宇野常寛氏の村上春樹論等.いや~良く書いたなと言うのが正直な感想.私自身村上春樹の作品は一通り読んでるが,同じ作品を読んで,こんな風に感じ,分析する人もいるのねっていう部分では勉強になった,

  • 平成ライダー批評読みたさに手に取った1冊。
    なので第2章「ヒーローと公共性」は面白かった。

    概要+印象に残ったとこ+ちょこっと私観箇条書き。

    ・「正義」と「ヒーロー」は時代背景に要請されるように変容する。

    ・現代は「ビッグ・ブラザー(大きな物語)」が壊死した「リトル・ピープル(個別の物語)」の時代。

    ・著者の宇野さんは白倉P+井上脚本が好みなのかな。私は「あえて」教義的な正義を描いた「クウガ」も高寺Pも好きだ(批評に好き嫌いで返すのもアレだけど)。

    ・「リトル・ピープル」の時代=現代は「目的」のためにコミュニケーションするのではなく
    コミュニケーションそのものが「目的」。
    幸福感に満ちたコミュニケーションを見ることで欲望を満たす。

    ・今の朝ドラ「ひよっこ」の面白さはまさに「コミュニケーション」の理想系を描くとこだ(空気系)。

    ・BL作品や百合作品のような同性同士のコミュニケーションを描いたものに萌える欲望は、この作中の言葉を借りるなら借りるなら「コミュニケーションそのものへの欲望」だ(異性が入ると「恋愛」という目的を要求される)。

    ・コミュニケーションの連鎖を現実認知で描くとバトルロワイヤル系に、理想化して描くと空気系になる。

    ・インターネットや携帯電話の普及で「世界の終わり/世界の果て」は消滅した。だからこそ「今ここ」に深く潜って「今ここ」を多重化する想像力が台頭した(聖地巡礼現象)。

  • 2012年刊。村上春樹、ウルトラシリーズ、仮面ライダー(特に平成ライダー)をもとに、1968年頃から現在までの文明批評を試みようとするもの。村上春樹もほとんど読まず、平成ライダーシリーズも全く見たことがないので、よく判らないが読後感。ライダーでなくガンダムでも同じ説明ができそうにも思えるし、個人的には拡張現実の章だけでも充分か。ただ、今のアニメーションに興味が持てない理由は解った。多重化された現実をおやじ向けとして見せている作品はないし、今となっては、学園モノはノスタルジー以外の何物でもないからなぁ。

    PS.最近の作品を見るにようになり、アニメーションに関しては少し印象が変わる。数から言えば猛烈に氾濫しているアニメーション。当然、狙うべきターゲットは作品により違い、上の世代を意識した作品がないではない。上記の印象・感想は、あくまでもメイン作品に限って、ということになるのかもしれない。

  • 村上春樹を軸にウルトラマンそして仮面ライダーやエヴァといったサブカルチャーを対比させながら、竜を殺したら毒蛇が溢れかえった21世紀を俯瞰していく。私は春樹ファンなので内田樹のような全肯定批評以外は受け付け無いので著者の批評には違和感もありますが、仮面ライダーとの対比はつくづくと面白かった。電王以降はリアルタイムで見ているのでなおさら。
    ポップカルチャー好きなら読んでおいて損は無い。

  • 春樹は「敵」を前に苦戦している。そのころちまたには無数のヒーローたちが散乱していた。
    『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』『ねじ巻き鳥クロニクル』そして『1Q84』へと至る春樹と「敵」、父を巡る長い戦いと、その傍らで紡がれてきた二つのヒーロー、ウルトラマンと仮面ライダーを、庇護するもの・越えるべきもの・倒すべきもの・思いはせるもの、そしてたらざるをえない「父」と時代とを重ね合わせて読み解く。
    論旨は非常にわかりやすい。また、例えも非常にわかりやすく厚い本の割にはさくさくと読み進む。

  • この世界は終わらないし、世界の<外部>も存在しない。私たちは<いま、ここ>に留まったまま、世界を掘り下げ、多重化し、拡大することができる。それは、革命ではなくハッキングすることで世界を変化させていく<拡張現実の時代>である。

    逃げる場所などないということを、覚悟すべし。

  • 村上春樹を通して、現代の世界観を考察する。

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著者プロフィール

1978年生まれ。評論家。批評誌「PLANETS」「モノノメ」編集長。主著に『ゼロ年代の想像力』『母性のディストピア』(早川書房刊)、『リトル・ピープルの時代』『遅いインターネット』『水曜日は働かない』『砂漠と異人たち』。

「2023年 『2020年代のまちづくり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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