たゆたえども沈まず

著者 :
  • 幻冬舎
4.08
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344031944

感想・レビュー・書評

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  • フィンセント・ファン・ゴッホの〈星月夜〉を表紙とする本作は、画家についての物語ではない。フィンセントの心情描写は一度も出てこないのである。むしろ、フィンセントをそばで支えた弟・テオドロス・ファン・ゴッホの物語といってもいい。テオの献身的な支えと苦悩を、日本人画商の視点から描き出すことで、フィンセントがなぜ絵を描き続けられたかを間接的に描き出すからだ。世界に認められるために悩み抜いたゴッホ兄弟に、時代は追いついていなかった。〈夜月夜〉は、セーヌに、パリに、ゴッホが受け入れられた世界を予言する作品だったのだ。

    もともとゴッホが好きで、映画鑑賞や美術館の特別展を鑑賞済みだからか、少し物足りない。ゴッホの死因も、マハさんは自殺と解釈しているが、少年たちによる他殺をゴッホが自殺に見せかけた、とする説もある。また、ゴッホが犯罪を実際に犯してしまうシーンなどは排除され、ゴッホの精神疾患もオブラートに包まれており、ゴッホの実物からかけ離れた〈いい物語〉になっているからかもしれない。ゴッホの苦悩や暗黒を私はもっと感じたかった。時代に受け入れられない天才の苦悩はこんなに生易しいものじゃないだろうから。

  • 200227*読了
    もう…感動、の一言。
    これが現実なんじゃないかと。フィクションなんて嘘なんじゃないかと。重吉は存在するのではないかと。そう思わせられます。
    日本に憧れつづけたゴッホ、浮世絵に影響を受けたゴッホ、彼は生前にたったの一枚しか絵が売れなかったけれど、今、日本はもちろん世界中に彼の絵が展示され、世界中の人々の心を震わせている。生きている間に夢は叶わなかったけれど、亡くなってから何百年経っても愛され続けている。こんな未来を彼は想像だにしなかったのだろうな…。

    そして、ゴッホを支え続けた弟のテオこそがすばらしい。彼がいなければ、ゴッホは美しい絵画を生み出すことはできなかった。
    林忠正もきっと一役買っているはず。浮世絵、ジャポニスムをフランスに広めた人。
    重吉も含め、ゴッホの周りの人々の人間性に胸打たれました。
    ゴッホは本当にアーティストで、精神不安定で、彼一人では生きていけない。そんな彼を守り、励まし、支えてきた人たちにも感謝。
    ゴッホのように取りつかれたように描き続ける人こそが真のアーティストなんだろうなぁ。神が与えたギフト。

    たゆたえども沈まず、というのはパリのことであり、セーヌ川に浮かぶシテ島のことでもある。そして、ゴッホや当時に生きた人たちのことでもある。
    わたしも何があっても沈まず、流れに身を任せて、たゆたえる人でありたい。いつか浮かび上がり、強く生き抜く人に。

    この小説はずっと読みたくて、いつ読むかタイミングを見計らっていたのだけれど、今、ゴッホ展を日本でやっているので、それと合わせてこの本を読むことにしました。コロナで不穏な空気が漂っているけれど、やっと読み終えたので、ぜひゴッホが描いた絵に会いに行きたい…。

  • 「フィンセント、テオ。2019年日本に来て下さい。
    こんなに多くの日本人があなた(たち)の絵を見ていますよ。」

    そう叫ばずにはいられない素晴らしいアート小説だった。

    もう私はフィンセントという人間に夢中だ。
    フィンセントやテオだけでなく、忠正や重吉の想いの熱量も伝わった。

  • 「ゴッホ展」これを読んでから行けばよかった。

    ゴッホの弟テオと架空の人物?加納重吉の視点で書かれている。読みごたえあり

    前半の日本美術や印象派を広めようとする部分は面白かった。
    中盤から後半にかけては、ゴッホの醸し出す不安?暗さ?がズーンとのしかかってくる感じで…( ;∀;)そんな中ヨーとの生活が少し救いかな。テオは幸せであったと信じたい。

    ゴッホの葬儀にタンギー爺さんが参列していたとは、、なんか良かった。

  • ヨーロッパで日本美術がブームになったこと、日本美術が印象派、それ以降の画家に影響を与えたことを知ってワクワクした。もっと林さんの活動を知りたいと思ったし、大好きなドガに加えてゴッホも見たくなった。

  • ジャポニスムの流行と、影響。
    新しい印象派の衝撃。
    時代の変化をリアルに感じられる美術小説。
    当時のパリにいるかのよう。
    売れない画家のフィンセントと、献身的に支えるテオ。
    兄弟の絆がありながら、時にすれ違い、傷つけあう。
    ゴッホ兄弟と、主人公たち日本人の、誠実な交流もよかった。

  • <傑>
    いやはやなんとも感動の作品であります。
    マハさんの絵画芸術作品を読む度に、僕も趣味に絵画鑑賞を加えようかと思うのですが実現しません。
    それよりもマハさんの芸術的小説を読んでいる方がづっと楽しいのでしょう。
    でも実は僕にはアムステルダムのゴッホ美術館を訪れた経験が有るのです。もう20年程前の事なので詳細は覚えてはいませんが、たぶん(笑)
    読み終えた時に再度最初のページに戻ってパラパラと読み返し「ああ、ここはそういう事だったのか」と納得したくなる様な素晴らしい本にはなかなか出会えないのです。
    最高傑作です。

  • 原田マハの小説は楽園のキャンバスに引き続き二作目。
    ゴッホというとさよならソルシエという漫画と、家にあるカフェテラスの絵の刺繍と、母が好きな星月夜……くらいがせいぜい私の思うゴッホだった。あと、小さいときに読んだマンガ偉人伝記。

    楽園のキャンバスでもそうだったけれど、実際にあった話と作者によるフィクションが混ざっているため、どれがどう本当の話なのかわからない。ただ、登場する絵は紛れもなく実在するものなので、物語に魅了された人は必ずその作品も調べたり見てみたくなると思う。歴史的な絵画というと絵と題名と作者といずれかがすっぽり頭から抜けてしまいがちだけれど、原田マハの小説で出会うものたちに限っては絶対そんなことは起こらなくなるので、私のような本好き素人の美術というジャンルへの入り口にふさわしいと思う。おすすめ!

  • 2018年4月28日読了。やーーっと読み終えました。疲れたーこの本。とにかく暗い、そして波がない。そして私には美術と横文字が合わないということがわかりました。この評価は原田マハさんのせいではありません、念の為。でも、ゴッホという人がどんな人かがわかった気がします。こんな破天荒な人生だったんですね。あとゴッホに日本人の二人がこんなに絡んでくるのも知りませんでした。史実に基づき書かれてるとは思うので、大いに信じようと思います。

  • 淡々と、その時代に生きた人々の苦悩や喜びが描かれてていき、結末へと一気に流れて行く。
    複雑な感情の描写が、冷静にリアルに積み重ねられていることで、後半の物語にぐぐっと引き込まれました。

    ゴッホをとりまく人々が生きたパリの様子に、フィクションではあるけれど、タイムスリップしたような体験が出来て楽しかったです。

    この本を読んだ後にゴッホの絵を見に行きたくなる一冊です。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

原田マハの作品

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