- Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344402621
作品紹介・あらすじ
九州の水郷都市・箭納倉。ここで三件の失踪事件が相次いだ。消えたのはいずれも掘割に面した日本家屋に住む老女だったが、不思議なことに、じきにひょっこり戻ってきたのだ、記憶を喪失したまま。まさか宇宙人による誘拐か、新興宗教による洗脳か、それとも?事件に興味を持った元大学教授・協一郎らは"人間もどき"の存在に気づく…。
感想・レビュー・書評
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この世の小説というものの中には説明できないこと、説明しなくてもいいことがあるんじゃないかって。恩田さんの作品は後者で割り切ったものが多いように思います。
「月の裏側」、この作品はホラーと分類されるようですが、いわゆる幽霊っぽい怖さはありません。自分はマジョリティに属していると思っていたのに気づいた際にはマイノリティの側に追いやられてしまうのではないかという恐怖感。誰がどちらに属し、誰が自分の側から離れて反対の側にいってしまうのか。組織の中にいてもこういう場面に立たされることは多々あります。ある意味でこれは幽霊と出会うよりも遥かに怖い瞬間、場面。これを広い意味でのホラーと考えるとこの作品で描かれるホラーは究極的に怖いです。
いつの世にもマイノリティがマイノリティでいるには強い意志が必要です。ただ、人はその強い意志を貫かなくてはならない理由を見失った時、またはその戦いに疲れ果てた時、逆にマジョリティの側に染まってしまいたい憧れ、欲求に苛まれる時があります。この作品では、そういった葛藤が、恩田さんらしい登場人物の心の内や緻密な情景描写と共に読み手に迫ってきます。マジョリティに染まることへの戦い。ところが不思議なもので、戦うことを止め、一旦マジョリティに染まってしまうと逆に今までの葛藤は何だったのかという位に安心感に浸ってしまうものです。迫ってくる波と過ぎ去った波といった感じでしょうか。この作品でもこの辺りの緊張と弛緩が見事に描き分けられていました。
大波が去って凪いだ海を見るかのような雰囲気が漂う結末。この何とも言えない、爽やかささえ感じる寂寥感がたまらない、そんな作品。思った以上に深いです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
九州の水郷都市で起こった複数の失踪事件。
失踪した人たちは数日後、何事もなかったかのように戻ってくる。
ただし記憶を失って…。
その事件に興味を持ち、調べ始める元大学教授・その教え子・元教授の娘・新聞記者。
主人公の一人である多聞が印象的だ。
「僕は愛される男なんだ」
こんなセリフをさらっと自分で言っちゃうような人。
だからといってナルシストなのではなく、淡々としていて周りにも自分にも執着がなさそうな人。いろんな意味でマイペース。
決意の夜の多聞の長靴は藍子が履かせたのかと思ったけれど、最終章の藍子の独白を読んだ感じでは藍子ではなさそう。
このタイミングのこの状況下で多聞に再会した藍子はなんだか不憫だなぁ。
まだ恩田作品を少ししか読んでいない身で「いつもの通り」というのも気がひけるけれど、いつもの通り大きな謎の解決・解明はなし。
お話の風呂敷がだんだん広がっていくのを読みながら「コレちゃんとたためるのかしら」と心配してしまったのだけど、たたむどころか、広げる余地があるままラスト。
登場人物の一人の言葉
―この世の中には説明できないこと、説明しなくてもいいことがあるんじゃないかな
この物語の謎もそれでいいような気がする。 -
個人的には怪談小説のような印象を受けた。
失踪ののち、ひょっこり戻ってくる。まさに怪談の神隠し系の話である。
恩田陸特有の叙情的な文章も相まって、余計にそのような感じを受けた。
なによりも文章が綺麗。内容としてはホラーとかSFのジャンルになるだろうし、映像化したら結構どぎついシーンとかあるんだけど、この文章のためか、ずっと綺麗な物語を読んでいるような感じだった。
個人的に好きな文章。
「都心のマンションの中で、ラジオやTVを点けっぱなしにして読む本と、こんなに静かな闇の底で、畑の真ん中の一軒家で一人読む本って同じなのかな」
今自分が住んでいるのが、畑の真ん中の一軒家で、夜になれば本当に真っ暗な場所に住んでいるためか、この一文が凄く印象に残った。 -
SFホラー。
何が本当で、何が嘘かはわからないけど
大多数になればそれが本当になる。
この世の中には説明ができないこと、説明しなくてもいいことがあるんじゃないか。
そうなのかもしれないな。
登場人物の多聞さんがでてくる不連続の世界 を続いて読みたい -
怖かった。怖かったけど再読したくなる。この終わり方やから怖いんやろなぁ。スッキリせん気もするけど好きな作品。
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全体的にどんよりとした雰囲気の中で、唯一教え子の多聞ののほほんとした性格に救われた。
恩田作品の中でも突出した不可解な気味の悪さ。この世には説明できないことが、私たちの知らない間にどんどん生まれているのかもしれない。
☆印象的な言葉☆
「人間は、一人では生きていけないが、一人で何もできないわけではない」 -
衝撃的な展開の底知れぬ恐怖に怯えました。
感化されやすいのか、読み終わってしばらくは何かずっと怖かった。
こうやって感想を書いてる最中も、ナニカがどこかで視てるんじゃないかと…
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不思議な雰囲気の主人公が
不思議な雰囲気の街でおこる
不思議な事件を解決する?はなし。
ミステリーなのかSFなのか小説のカテゴリーは
わからないけれど、冷や汗がでるような怖さがあった。
わたしはとても好き、でも多分好みがわかれそう。
なんとなーく解決したようなエンディングだけど、
ほんとは全然解決してなくて、ほったらかしに見える伏線もごろごろある。
すべては「知らなくてもいいこともあるのではないかしら」に収束するんだろうな。