東京カフェ散歩 観光と日常 (祥伝社黄金文庫)

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396315917

感想・レビュー・書評

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  • この手のカフェ本は最近数多い。そういうものをいちいち買っているわけではないが,本書は裏表紙の帯に掲載されているカフェの店内写真に見覚えがあったので,中身をペラペラめくってみた。幸い,目次に掲載されている96のカフェの店名が書いてあったので,私の「見覚え」はすぐに確認できた。一度私が誕生日イヴェント・ライヴを企画・開催させていただいた「谷中ボッサ」だ。それから,本書の副題「観光と日常」というタイトルも気になった。カフェと散歩というのは比較的結びやすいものだが,それを「観光と日常」という視点から論じるというセンスがいい。そして,1店1店の解説文もそれなりにヴォリュームがあり,またその文体もそれなりに誠実さがあって,私でも読めると思い,購入。写真撮影も自分で行っているということだし,その写真もなかなか味があった。
    吉祥寺のパルコブックセンターで購入し,その日は吉祥寺で映画を観て調布までバスで移動したりしていたので,ほぼその日の内に読み終わった。最近のカフェの雰囲気は好きだが,コーヒー1杯に500円以上はなかなかかけられないので,カフェとしていった店は少ない。でも,96店中10店は行ったことがあった。
    谷中ボッサをはじめとして
    同じ谷中のカヤバ珈琲
    代官山のeau cafe
    小伝馬町のcafe紅
    新宿丸井地下のブルックリンパーラー
    荻窪の6次元
    の6店はいずれもライヴで行ったお店。本書に掲載されているのはそういうイヴェントも開催するようなちょっと変わったお店も多い。ということで,それなりに楽しめた本。

  • カフェでゆっくり読みたくなるようなカフェ本。
    カフェの紹介だけでなく、そのカフェのある街のエピソードや一つひとつのカフェ特有のエピソードを綴ってくれているのがとてもステキ。
    また、数ある雑誌タイプのカフェ本ではなく、文庫というのもなかなかいい味出してます。

  • 文庫サイズでこれだけ贅沢に写真ていいですね。
    いつか行ってみたいカフェばかり。

    ひとりで行くならここ、とか
    友達と行くならここ、とか
    おばさんの妄想は止まりません。

  • 川口葉子さんの本は、小説みたいに文章いっぱいでお店を紹介してあるので大好き。
    この本は持ち運びやすいように文庫本サイズ。手軽にパラパラ読める。

  • 咳喘息だと診断されちゃった。お茶の水の大学病院でのことだ。
    異様な乾燥状態の続く東京では、ひと月以上も苦しい咳が続くこの病が密かに流行っているのだという。帰り途に加湿器を買った。

    新宿三丁目のビックロに初めて足を踏み入れた。
    加湿器の売り場は6階だったが、家電量販店とユニクロとがコラボした売り場が物珍しくてきょろきょろしまくった。3足980円のいつもの靴下を6階に行く前に「ついで買い」。レジで、「会員様ですか?」と問われスマホの赤いアイコンを見せると、「会員様ですね」と、5%引いてくれた。
    加湿器は1万円。キャンペーン中とのことで、ビックカメラのポイントではなくて特典は全てJALのマイルに加算してもらった。通常の5倍、500マイルもついた。
    こう書くと、最先端の商業施設を使い倒しているみたいだ。事実はかなり違う。実は私は、配管がむき出しになった天井や、エスカレーターの手すりの、いささかレトロなえんじ色を見て、「ああ、ここは」と想い至っていた。

    70年代の終わりの年の4月、上京初日の私は「ここ」で電気シェーバーとヘアドライヤーを買った。当時ここは三越新宿店の家電売り場だった。
    今の人には信じられないだろうが、その頃デパートで家電品を買うのは普通のことだった。家具もカメラも当然衣類もなんでもデパートで買った。クレジットも分割もない、全て現金で買った。しかも全て定価だった。
    凋落はすぐ始まる。まず家電とカメラ販売の主流はヨドバシみたいな量販店に変わった。ついで家具は大塚家具みたいな大型専門店にとって代わられ、それこそ三越の新宿南館は大塚家具の新宿店に変わった。最後は、衣類。最早洋服を買うところとして百貨店に期待する人はほとんどいない。だから、「ここ」にビックカメラとユニクロが入っているというのは、百貨店の栄枯盛衰を象徴しすぎている。

    ところでこの『東京カフェ散歩』である。
    たかがカフェのガイドブックと甘くみたら大間違いだ。いま見ている現在の東京、過去の東京、文学作品の中の東京、個人的な記憶の中の東京、それら全てが「層」となっている街の透視図をカフェという「点」を軸に描いた都市文化論であり、街の歴史だし、さまざまな人の物語でさえあるただものではない一冊なのだ。
    「田舎から出てきたばかりの僕」みたいな感傷をきっかけに、昔と今の「新宿」、「百貨店」、「自分」を考察してしまったのは、実はこの本を病院の待合室で読んでいたからだったかもしれない。

    正直に言うとこれよりも、3年目に読んだ『京都カフェ散歩』の方がずっとよかった気もする。ただ、京都と京都のカフェを偏狂的なまでに愛する私の濃すぎる色眼鏡なのだろうけれど、「東京には碌なカフェがない。だいたい東京のカフェはどこも喧しすぎる。京都のカフェで喧しいのも東京からきた観光客だ」と、八つ当たり気味に言いたくなる。
    「こないだ六本木でさあ」とか大声で叫ぶように話すのが聞こえてくると、同じ東京から来た観光客であることが恥ずかしくていたたまれなくなる。
    標準語と称する東京弁の尖がった発音と、京ことばの柔らかい発音とイントネーションの違いからくるものであろうと、一応冷静に弁護してあげなければいけないかもしれないが、六本木の「ぽ」と「ぎ」の下品なとげとげしさと比べちゃうと、「先斗町」の「ぽ」の柔らかでつややかな響きの違いはどうしようもない。
    それからもうひとつ。3年前の『京都』のほうがいいと思えるものがある。
    『京都』の挿絵写真では、人物やインテリアの1点にのみくっきりピントが合っていて、あとの背景は美しくぼやけて暗闇に溶け込んでいた。京都の町とカフェと人を映すのに似つかわしい写し方だった。ところが、『東京』の方は、筆者の使っている撮影機材が格段に高性能なのだ。画面の隅々までくっきり明瞭に写りすぎているのだ。
    あえて、余韻を引かぬ最新のデジタル機材を用いた意図が作者にあったのだろうか。
    過去を断ち切るのに躊躇いのない街。人の営みよりもビジネスが大手を振る街。それが東京だ。

    だが、そんなわが街東京の「層」を無理やり透視するのにカフェを覗き穴にしてみる。その筆者の志向には私も共感する。
    例えばこんな部分もあった。予備校生時代から馴染みの喫茶店が神保町にある。その隣のカフェが、かつて文学者や編集者が集う名店だったことをこの本で初めて知った。かつての馴染み客の名前の中に、思潮社の創設者の名を見つけて、私は小さく鳥肌を立てる。
    あるポルトガルの詩人の詩集を今読み耽っている私は、こんな酔狂な詩人に注目した思潮社なる出版社はたいしたもんだ、そう思っていた。

    カフェはたかがカフェじゃない。立派な「穴」なのだ。

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著者プロフィール

ライター、喫茶写真家。全国2000軒以上のカフェや喫茶店を訪れてきた経験をもとに、
多様なメディアでその魅力を発信し続けている。
著書に『東京 古民家カフェ日和』『京都 古民家カフェ日和』(ともに世界文化社)、
『喫茶人かく語りき』(実業之日本社)、『名古屋カフェ散歩』(祥伝社)他多数。

「2022年 『金沢 古民家カフェ日和』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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