渋沢栄一 近代の創造 (NON SELECT)

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (658ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396501006

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  • 渋沢栄一 近代の創造
    著:山本 七平
    紙版
    ノン・ブック

    山本氏の大作 なぜ、日本の近代化は成功したのか
    江戸という近世から、明治という近代への連続性と非連続性、
    その時代を、渋沢栄一という希代の天才児の目から検証するのが本書だ
    日本経済に計り知れない貢献をした渋沢栄一の幕末から明治への軌跡がそこにある

    物語は埼玉の寒村に始まる、そこに生まれた渋沢栄一は3つのものに恵まれる

    まず、富、それは、日本の近代をささえた、藍と、絹である
    それを商う渋沢の実家は、御上からの普請にて、2000両程度の割り当てにも動じないくらいのものだ
    次に、学問。大学中庸に始まる、四書五経の素養は、堅い書物を面白く会得ができるようになっている
    そして、商家の2代目たる経済観念である。年貢、米相場、藍や絹の商いといった観念を十代半ばにして身につけていたことである

    時代は、幕末、身分制については、農民が武士になることはもはやたやすくなっていた

    幕末水戸派の影響で、高崎の武器庫から武器を奪って、横浜へ攘夷打ちを行うことを企てたが、中止となり密かに、実家を離れて
    京へ逃れようとした、栄一に一橋家の用人、平岡円四郎より、一ツ橋家仕官の話が舞い込んでくる
    埼玉の田舎で勤皇の志士を名乗っていても、京都では相手にされず、仕方なく、一ツ橋家へ仕官する

    これが、渋沢栄一の、いや、日本にとって非常の幸運となる。
    将軍となった慶喜の臣となり、勘定組頭として後年、パリに行き、銀行や、株式交換所を見学するという、機会を得る
    そして、栄一は、両替商や、堂島の米相場などと見比べて、より効率的に動いていることにはおどろきはしたが、そのシステムそのものには驚きはしなかった

    ヨーロッパ視察では、パリだけでなく、スイスの民兵や、ベルギーでの重工業化などの産業に感激をしてもどっている
    鉄は国家なり、同僚にも、話し、ひいては天皇にも伝わるように報告している。いわば、後世の渋沢栄一はこの時に誕生したのである。

    留学中に、大政奉還となり、急遽、帰国となっている。
    その後、一ツ橋家の勘定組頭から、商法会所の職員へ、廃藩置県などの重要な施策に大蔵省の職員として参加、第一国立銀行にて大久保利通と衝突するまで
    官として動いている。また伊藤博文が推進していた経済施策についは、なんどアメリカを手本として進んでいたことが掲げられている

    第一国立銀行にあたっては、大福帳より複式帳簿の導入を計っている。
    BSと平均表を導入したのは、福沢諭吉とあるが、記帳の実務として、これを取り入れたのは、渋沢栄一であった。

    目次
    はじめに
    第1章 人類史の中の“明治時代”―渋沢栄一を生んだ時代と農村の風土
    第2章 経営型農民・尾高藍香の貨幣論―渋沢に最も大きな影響を与えた従兄の思想
    第3章 渋沢宗助の「勤勉の哲学」―企業家精神を叩き込んだ叔父の存在と石門心学
    第4章 封建制か、郡県制か―尾高藍香は『貞観政要』から何を学んだか
    第5章 豪農が志士に変るとき―彼らを「革命の衝動」へと駆り立てたものとは
    第6章 「高崎城乗っとり」計画の中止―決行直前、三十六時間の激論で、何が話されたのか
    第7章 不倒翁の「不易と流行」―十七歳の詩集から見えてくる渋沢の心の風景
    第8章 故郷出奔の父子問答―農民を捨てる決意、父への勘当を申し出る
    第9章 「徳川民法」の勘当・相続・養子―渋沢父子の行動を規定した『貞永式目』の精神
    第10章 異端国家・日本のダイナミズム―渋沢栄一は、いかにして農民から武士となったか
    第11章 徳川慶喜に倒幕を勧めた農民 一橋家に仕官し、当主に自論を披歴する渋沢
    第12章 「佐幕開港」の志士たち 平岡円四郎は、なぜ渋沢を引き立てたのか
    第13章 胃袋の存在に目覚めた志士 経済的裏づけがなければ、事は絶対に成就しない
    第14章 一橋家の財政改革 経済人・渋沢ならではの一連の業績
    第15章 「攘夷派」から「洋癖者」へ なぜ慶喜は、渋沢にフランス行きを命じたのか
    第16章 ”無偏見者”のフランス行 横浜出航から、ナポレオン三世謁見まで
    第17章 パリ万国博覧会の武士たち 渋沢は何に驚き、何に驚かなかったか
    第18章 欧州の「富国」と「強兵」 スイス、ベルギー、イタリア、英国で目にしたもの
    第19章 「合本組織」に学んだ雑務係 日本の悪弊「官尊民卑」を打破するために
    第20章 幕府瓦解と欧州留学生 滞仏二年弱、思いなかばでの帰国命令
    第21章 王政復古か明治維新か 失意の帰国、一変した国内事情、近親者の悲報
    第22章 明治元年の企業家精神 父との再会、静岡にて「商法会所」開設へ
    第23章 明治を創った旧幕臣 大蔵省に出仕、「改正掛」として国政全般に大ナタ
    第24章 「内的充実」か「外面的体裁」か 大久保利通との大衝突、第一国立銀行創立へ
    第25章 近代財政の無血革命 渋沢の意見書に、なぜ明治新政府は激怒したのか
    第26章 日本最初のサラリーマン社長 渋沢栄一の内なる「不易」と「流行」

    ISBN:9784396501006
    出版社:祥伝社
    判型:新書
    ページ数:664ページ
    定価:1400円(本体)
    発行年月日:2009年06月
    発売日:2009年07月01日第1刷

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    渋沢栄一というと明治時代に多くの企業を起業し、日本の資本主義を生み出した人物と捉えられることが多いけど、その人物形成は江戸時代に行われたということがよく分かる。
    というかこんなに波乱万丈な人生を歩んでいるとは思わなかった。このまま大河ドラマにしても問題ないほど山あり谷ありの人生だったと思う。また、豪農だった渋沢栄一を取り上げることは江戸時代の農民が貧乏だったという一般的な認識を改めるよい機会だ。
    また、単に利益を追い求めるためではなく、社会に還元することを志す渋沢栄一は現代日本にこそ必要とされる人物であるし、当時の労働運動を支援し、労働者の権利向上も考えていたという辺りも素晴らしい。まら、この人が明治政府の初期に政府に存在していなかったら日本はもっと苦難の道を歩まなければいけなかったと思うと頭が下がる。

著者プロフィール

1921年、東京都に生まれる。1942年、青山学院高等商業学部を卒業。野砲少尉としてマニラで戦い、捕虜となる。戦後、山本書店を創設し、聖書学関係の出版に携わる。1970年、イザヤ・ベンダサン名で出版した『日本人とユダヤ人』が300万部のベストセラーに。
著書には『「空気」の研究』(文藝春秋)、『帝王学』(日本経済新聞社)、『論語の読み方』(祥伝社)、『なぜ日本は変われないのか』『日本人には何が欠けているのか』『日本はなぜ外交で負けるのか』『戦争責任と靖国問題』(以上、さくら舎)などがある。

「2020年 『日本型組織 存続の条件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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