よろこびの歌

著者 :
  • 実業之日本社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408535609

感想・レビュー・書評

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  • 「終わらない歌」を読み終えた時「よろこびの歌」の存在を知った。
    読みたいという気持ちが素直にわきあがり手にした。

    宮下奈都さんの小説は、心のもどかしさ、素直さ、知りたくない内面を言葉にしてくれる。そして、光を感じさせる。

    「よろこびの歌」は著名なヴァイオリストの娘、御木元 怜が逃げ込んだ先の新設高校で、怜だけでなく、怜の周りの女子高生もが、自分と向き合い、自分の未来と向き合っていく小さな物語7音。

    好きな音色たち。

    「よろこびの歌」怜が歌を感じるフレーズがいい。
    「カレーうどん」千夏の”うれしい”が気持ちいい。
    「サンダーロード」史香の強さが温かい。
    「夏なんだな」ひかりがひかりを見つけようとするのがいい。
    「千年メダル」怜が「よろこびの歌」を奏でようとしていく未来がいい。

    読み終え「終わらない歌」がもっと良い物語になった。

    読み終えた時、
    言葉でもいい、表情でもいい、触れ合ってもいい。
    なんでもいい。
    大切にしているということを相手に伝えていきたい余韻が響きました。

  • 続編の『終わらない歌』を先に読んでしまった後にこちらに辿り着きました。
    順番が前後してしまいましたが、終わらない歌の登場人物たちの思い出を振り返る感じで読めて良かったです。

  • 3月に入り、受験生の皆さんも長い努力からほっと息ついている時期かもしれません。志望校に入れた方も、そうでなかった方も、新しい生活に自分の道を見つけられると良いですね。

    本書に登場する玲も声楽家を目指し音大の付属高校を受験しましたが失敗。普通科高校で自分の行くべき道を見つけられず、著名な音楽家の母とも上手くいかず、クラスの中でも自ら孤立していました。

    7音階のお話しの中に登場する学生たちも皆、思春期の中それぞれの心の悩みを抱えて過ごしています。純粋に歌う事のよろこび、合唱を通じて響き合う歌声の魅力、やがて皆、自分の殻から外に出て繋がっていきます。そして玲は本来の目指すべき道へ。

    合唱コンクール「手紙 十五の君へ」をアンジェラアキと合唱部の子供たちが泣きながら歌っていたシーンを思い出します。皆の歌がつながった時、いろいろなこころの中の感情が吐露されるのでしょうか。素晴らしい経験だと思います。

    仕事を早めに切り上げて図書館に寄ると、受験生の皆さんが机で一生けん命頑張っている姿をいつも見かけす。閉館時間ぎりぎりまで、赤本と格闘する姿、ちゃんと見てましたよ。

  • 著名なバイオリニストを母に持ち、自身も音楽の道に当然進むものだと思っていた玲。しかし受験に失敗し、新設の私立女子校の普通科に進むはめになり・・・「自分がいるべき場所はここじゃない」と感じ、何事にも無関心・無気力にただ日々をやり過ごしていた彼女が、合唱の指揮者に抜擢されてしまったことをきっかけに捨てきれない情熱で空回り、他の皆も徐々に巻き込まれていく。

    それぞれ「あの子はいいよな」なんてコンプレックスを感じながら距離感を推し量っていて、最初からうち解けてる訳じゃないんだけども、つながっていく。

    合唱コンクール、懐かしいなぁ。皆で歌うことの気持ち良さ(玲みたいに上手くなくても)って本当によろこばしいものだと思う。

    ブルーハーツばっかりじゃなくて、ハイロウズも聴いてみようかな。このタイトルから広沢タダシの「喜びの歌」が脳内再生されすぎて困ります。

  • ブルーハーツは大好きだ。
    ブルーハーツが解散し、そのなかの二人が中心になって創ったグループ、ハイロウズも大好きだ。
    ボーカルの甲本ヒロト独特の渋みがかった声は耳について離れなくなる。
    作者のエッセイによると、彼女もハイロウズの大ファンらしい。

    この「よろこびの歌」は七つの章すべてが、ザ・ハイロウズの歌のタイトルからとられている。
    一人称で登場人物それぞれの目線から書かれた作品だが、見事にタイトルにマッチした内容になっている。

    主人公は音大付属高校受験に失敗し、高校生活の目的を失いつつある御木元怜。
    そして、彼女の周りの何人かの女子生徒たち。
    合唱コンクールの失敗を皮切りに、彼女たちの考えに変化が訪れる。
    卒業式で三年生を送るクラスの出し物に再び合唱をしようということがきっかけで、自分の人生や生き方、学校や他人との関わりについて深く考えるようになる。
    人をよろこばせよう、いや自分自身をよろこばせよう。そのために歌おう。
    高校二年の女子たちが一歩一歩階段を駆け上がり、大人になっていく。
    何とも爽やかな物語だ。

    それにしてもこの年頃の女子高生のなんと難しいことよ。
    僕の時代の彼女たちもこんなにいろいろなこと考えて苦しんでいたのかなあ・・・・・・。

  • これはいいなー、宮下さんでようやくしっくりくる作品に巡り会えた気がします。

    ただ、ザ・ハイロウズの歌を知らないってのが…自分が残念。
    知ってたら☆5つけたかなぁ。

    音楽をテーマにした作品だと、すごい才能を持った子が出てくるわけだけど
    御木元玲は、すでに挫折をして音楽科のない高校に入学して
    ぼんやりと無為な日々を過ごしている。
    でも、彼女がどんだけ歌が好きかということが
    その後のクラスメイトの語りで明らかになってきて
    最終章の前向きなキラキラにつながっていく。

    普通の女子高生が、それぞれ抱えているぐるぐるやどろどろやがつがつを
    きれいにラップして、人前ではさらさらだけを見せている、
    というところが、すごい本質をついていてどきっとした。
    そこからリスクを冒して先へ踏み込めるか、
    友達関係にも将来にも大きく影響しそう。
    最近、もはや延長上にいるとは言えないくらいの過去になったせいか
    青春の心の揺らぎや切実さみたいなものにとても素直に共感してしまう。
    この年になったからこそ、客観的にみられるからこそ理解るということなのかな。

  • 僕が通っていた高校も合唱コンクールがあった。コンクール前の1週間は準備期間として5、6限の授業がなくなるからラッキーなんて思ってた人が多かったと思う。まじめに練習するのは大抵女子で、男子は不毛な会話をしてたり、歌ってたとしても耳をすまさなければ聞こえないぐらいの声量で歌ってた。音楽の時間でもそんな調子だったから、先生に怒られるのはいつも男子で、「ちゃんと歌ってよ!」いきなり泣き出す女子に「うぜー」と思い、険悪な空気が充満していたあの時が懐かしい。まあでも不思議なもので、本番2日前ともなると「そろそろ本気出す!」ってことで男子の調子が急に良くなった。先生にも「やればできるじゃない」とおだてられてますます調子に乗る男子。賞をとることはできなかったけど、あの時間ってすごく青春だったなあと振り返る。

    本書『よろこびの歌』は私立の女子高を舞台にした物語だ。この高校に通う生徒はそれぞれの事情を抱えて入学してきた。世界的に有名なヴァイオリニストの娘であるが、音大付属高校の受験に失敗した怜。実家がうどん屋であることにコンプレックスを抱いている千夏。中学時代、ソフトボール部のエースで4番だった早希(本書ではあと3人の視点から描かれているが、読者の楽しみを奪わないようにここで止めておく)。

    彼女たちが通う高校は行事が多い。合唱コンクールもその一つだが、30人いる2-Bの生徒のうち数人を除いては練習に出てこず、やる気を見せなかった。指揮者に任命された怜の厳しい指導に白ける者もいる。そんなまとまらない状態で合唱コンクールに臨むも、結果は散々なものだった。歌も一本調子、伴奏者の千夏のピアノのミスもいつも以上に目立った。

    次に行われたのは初冬のマラソン大会。7キロ弱のコースを走るというものだが、運動神経が無い怜にとっては地獄のようであった。ビリを独走していた彼女だったが、その耳に歌が聞こえてくる。クラスメートがトラックに集まって歌って、怜を応援しているではないか。合唱コンクールで歌った『麗しのマドンナ』を。自分のことを言わない代わりに、相手のことを知ろうとしない。そうゆう表面だけの薄っぺらい関係を続けていくのは楽だろう。きれいな部分だけ見せて、ぐるぐるとかがつがつとか、そうゆういろんな感情を出さず、「友達」でいつづける。そこには諍いや対立は生まれない。だけど・・・。このマラソン大会での出来事をきっかけにして怜が変わり、クラスのみんなも変わっていく。

    「青春」って青い春って書くけど、この「青い」にはいろんな色が混じっているんだろうな。華やかなピンク色だったり、どろどろした黒色だったり、晴れわたった空の色だったり。そうゆう色で僕たちの青い春、青春って描かれていく気がするんだ。幸せなことに僕たち日本人は四季を感じれますよね。作品中の宮下さんの表現を少し拝借すると、人の心にも四季があると思います。夏があって、そして秋が来て。人によってはずっと冬のままの人もいるでしょう。人それぞれ好きな季節あると思いますが、春という季節はわくわくしませんか。心躍るようなわくわくする気持ち。『よろこびの歌』を読んで春を感じました。次の春はまだ先だけれども。でもおかげで、高校の頃の青春を思い出すこともできました。登場人物が成長していく姿を描いている小説は個人的に好きです。読んだ後、自分も少し成長していると感じれるから。

    • まろんさん
      はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。

      「うぜー」から「そろそろ本気出す!」に至るエピソードがあまりに楽...
      はじめまして。フォローしていただいて、ありがとうございます!まろんです。

      「うぜー」から「そろそろ本気出す!」に至るエピソードがあまりに楽しくて
      笑い転げながら読んでしまいました。
      宮下奈都さん、好きです!
      1冊読むと、取り出してしまっておきたい言葉が必ずあって、栞がいくつあっても足りなくて。
      この『よろこびの歌』は、性格も趣味も家庭環境もばらばらの少女たちが
      ちょっとずつ新しい方向に踏み出しながら、
      今の自分にしか歌えない歌を歌うところが素敵でした。
      続編の『終わらない歌』が出ましたけれど、イナカの図書館にはまだ置いていなくて。
      あの少女たちがどんな女性になったのか、気になりますよね!

      ★の評価を顔文字でわかりやすく解説してくださるセンスも素敵なfright5さんの本棚とレビューを
      これからも楽しみにしていますので
      どうぞよろしくお願いします(*^_^*)
      2012/12/28
  • 新設されてまもない「明泉高校」に通う女子高生のお話。
    彼女たちは 何かしら悩みを抱え逃げ道を探して この明泉高校に通っているところがある。
    それぞれ人と深く関わらないように過ごしてきた彼女たちが、合唱コンクールを機に 歌うことの「よろこび」、人とつながっていく「よろこび」を感じて 前向きに進んでいくところに感動した。

    題名の「よろこびの歌」のように よろこびを感じられる本でした。

    ハイロウズの歌を知っていれば また違った感動もあじわえたのかな~

    • まろんさん
      そうそう!私も、ハイロウズの歌を知ってたらなぁ!と思いながら読んでました。
      だって、店でハイロウズが流れる数分を励みに働けるくらい好きって
      ...
      そうそう!私も、ハイロウズの歌を知ってたらなぁ!と思いながら読んでました。
      だって、店でハイロウズが流れる数分を励みに働けるくらい好きって
      なんだかとってもうらやましいことですものね?
      それぞれの章タイトルになった曲と、お話の雰囲気が
      どんな寄り添い方をしているのかも知りたかったし。

      それにしても、出てくる女子高生たちがひたすら愛おしかった本でした♪
      2012/08/23
  • あのアンソロジーの続きはこうなってたんだ。歌を通じてクラスメイトたちと打ち解けていく玲が良かった。みんなそれぞれに何かを背負っている。ただそれを知ろうとするかそうでないか。自分が歩み寄るってことも大切なんだな、と実感。2011/406

  • ジュブナイル小説を久しぶりに読んだ気がする。
    忘れていた感覚を思い出させてくれる作品。
    読んでいて、くらもちふさこの「おしゃべり階段」を見直したくなった。
    若い時の悩み事は、他人には「そんなこと」でも、悩んでいる当人にとっては「そんなこと」では済まされない。
    いつだって、今の悩みが1番だ。
    音楽の力を肯定する作品て、好きになっちゃう。構成的には8編で書いて欲しかったな。最後は1オクターブ上がって、成長した主人公に回帰すると勝手に思い込んでいたので。

著者プロフィール

1967年、福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、第3子妊娠中に書いた初めての小説『静かな雨』が、文學界新人賞佳作に入選。07年、長編小説『スコーレNo.4』がロングセラーに。13年4月から1年間、北海道トムラウシに家族で移住し、その体験を『神さまたちの遊ぶ庭』に綴る。16年、『羊と鋼の森』が本屋大賞を受賞。ほかに『太陽のパスタ、豆のスープ』『誰かが足りない』『つぼみ』など。

「2018年 『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。   』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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