欧州・トルコ思索紀行

著者 :
  • 人文書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784409230565

作品紹介・あらすじ

2015年春、著者は半年間に及ぶ旅に出た。移民の料理を味わい、街の移ろいに想いを馳せる日々。だが、滞在先のトルコの村でシリア難民の若者と出逢い、難民のレポートを開始。帰国後は、シリア内戦とヨーロッパの難民受け入れをめぐる状況変化に向き合い続けている。中東研究の第一人者が、新しい戦争の時代に入りつつある世界の輪郭を、路上から描きとる。

感想・レビュー・書評

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  • トルコを軸にイスラム移民の研究をしている著書がフランス、スコットランド、ドイツ、そしてトルコを旅しながら、2016年の世界情勢について思索する紀行本。

    序盤の欧州旅行はどちらかといえば街中の情景や観光地、飲食物について書かれており旅情感が強い。しかしトルコに入ってからは移民問題、イスラム国・民主統一党(PYD)・クルド人民防衛隊(YPG)・クルディスタン労働者党(PKK)などの宗教や人種を基盤にした組織との問題、政権の腐敗、欧州ロシアとの外交などトルコが抱える国内外の問題が中心になっていく。

    戦火によって母国を追われ海外に逃げざるを得なくなってしまった人達、9.11以降世界中から非常に厳しい目を向けられ続けているイスラム教徒のフラストレーション、過激化するヘイトクライム、国家という実態を無くしフランチャイズ化していくイスラム国…泥沼化していく世界情勢をトルコから見つめる一冊。国内のニュースでは決して知ることのない世界がわかる。

    これは遠い国の話ではない。移民政策、ヘイトクライム、差別…これらの問題を野放しにしておけばテロも戦争もすぐ扉の前に迫ってくる。

  • ◉「ムスリムの社会を訪ねればすぐにわかることだが、「ようこそおいでくださいました。私はあなたに何をして差し上げることができるでしょうか?」この一言から人と人との関係が始まるのである。」(P238)

  •  著者の記した本にはグイグイと惹き込まれてしまう強さがある。なるほど、本著では著者の欧州をフィールドとする熱い思いを感じることができた。

     「フランスは、啓蒙したはずなのに、なぜ宗教に戻るんだと怒り、英国は自由を保障してやったのにテロを起こすとは何だと怒り、ドイツでは、もうムスリムの顔は見たくないと怒るのである。」なるほど、フランスはライシテ(laïcité)という世俗主義の原則で公共の場に宗教を持ち込むことを禁し、英国はコミュニティの形成や公共の場での宗教活動は許され、ドイツはキリスト教の国として反イスラム感情を生んでいるということだ。

    以下は覚書き
    イラクでは、北部のクルド、南部のシーア派、西部のスンニ派に分裂し、バクダードのシーア派を中心とする中央政府に統治能力はない。北部のクルドが事実上の独立を達成した。
    クルド人はトルコ、シリア、イランにも暮らしている。
    シリアでは、北部地域でクルドの民主統一党(PYD)が支配している。PYDは米国とドイツの支援を受け「イスラム国」と闘った。
    トルコ政府軍←→クルド分離独立を掲げるPKK
    PYDとPKKが共鳴しトルコ国内での自治領の拡大を狙う。
    シリアにはロシアの橋頭堡としての基地があり、国連安保理でのシリアへの武力行使はロシアの拒否権により承認されない。
    シリア政府軍とロシアによる反政府組織への空爆等の激化。
    シリア難民の流出→トルコ→エーゲ海→ギリシア→マケドニア→セルビア→ハンガリー→ドイツを目指す

    欧州にいるムスリムのアイデンティの危機→一部が過激な思想に
    本来は攻撃性はないイスラム教の教え
    領域、宗教、民族などで共存の道はないのか

  • 思索

  • 直近のイスラム圏情勢を気に留めている人であれば読んでみて損はない。

  • トルコ、フランス、ドイツ、イギリス、結構主要な国々の事情が書かれていて、おもしろい。
    ケバブ、、やっぱり本国で食べるのはおいしいけど、外の国だとおいしくない!別物になっているよねえ。日本でもトルコの本物のケバブを出すお店が増えてほしいな。

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著者プロフィール

1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学文科卒業。社会学博士。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、同支社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。著書に『イスラームから世界を見る』(ちくまプリマー新書)『となりのイスラム』(ミシマ社)『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』(集英社)ほか多数。

「2022年 『トルコから世界を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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