異脳流出: 独創性を殺す日本というシステム

著者 :
  • ダイヤモンド社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478890158

作品紹介・あらすじ

創造力を発揮するために今の日本に欠けているものは何か。なぜ日本人にノーベル賞は少ないのか。外国で活躍する研究者たちはなぜ日本に帰りたがらないのか。七人の「異脳」たちの足跡をたどり、その独創性の源を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 成田悠輔氏の話を思い出した。

    ー「異国性」というアプローチとは、いわばアウトサイダーになること。部外者になる、あるいは、広い意味での“外国人”になることで、言ってはいけないことに挑む。

    例えばビジネスの現場では、コンサルフィーを払ってコンサルタントを雇う。コンサルタントは良くも悪しくも部外者であるが故に、組織に気を配らずに、空気を読まない発言が可能。同様に、自分が日本人でありながら、日本の外にいる事で、好きなことを言える後ろ盾になる ー

    日本にいると、しばしば組織の論理を優先し、自我を押し殺す必要が生じる。組織の論理には、内外の利権や配慮、忖度が塗れている。コンプラやハラスメント、ポリコレ、中間業者、OB、OGの存在、儀式、慣例、虚礼…

    本著は、日本から飛び出して活躍するノーベル賞候補レベルの7人の研究者へのインタビュー。青色発光ダイオードで特許紛争していた中村修二氏がとりわけ有名だろうか。

    ー 日本は警察官僚の天下り先が電球型信号機の利権を押さえているのでLEDが中々普及しない

    本著は7人の生き様、判断に至るストーリーを楽しむ他、研究内容を学ぶにも適した良書だ。ノーベル賞レベルの高度な研究内容を噛み砕き、非常にわかりやすく解説する。

    例えば、羊のドリーに続き、クローンマウスのクムリナ生み出したハワイ大学の柳町氏。クラゲの蛍光タンパク質のDNAによるトランスジェニックマウス。肌だけでなく内臓も青く光るネズミだ。

    地球温暖化予測で有名な真鍋氏の項では、温暖化の現象についての解説。太陽からは比較的波長の短い可視光線などの光が地球に来る。一方地球からは赤外放射が出る。地球の温度が高ければ高いほどたくさん出る。この両方がバランスして、地球は放射の熱平衡の状態を保っている。

    太陽からくる光とバランスする地球の温度はマイナス17度。しかし実際に地表の平均温度は15度位。つまり地球の放射熱平衡を満たす温度と実際の地表の平均温度の間には32度の差がある。この差を埋めるのが温室効果ガスの働きで、温室効果が地球の表面を温暖に保っている。

    外部の論理を意識して生きるのが社会性動物としての宿命。しかし、それを逸脱せねば、極々緩やかにしか社会は変化できず、現在の環境変化のスピードには追随できない。異なる論理が通用する異国に行くか、異端を受容するか。弱者への配慮はある程度必要だが、出る杭を打ち続ければ、一番凹んだ弱者に合わせた歩行速度となる。逆トリクルダウンは、報われない。

  • 海外に拠点を構え、ノーベル賞候補者と呼ばれるような独創的な研究活動を行っている7人の研究者へのインタビューを通じ、日本の研究環境の窮屈さと、海外の自由さ・素晴らしさを印象付けようとしている本。成功した研究者の生い立ちや、若い頃の経験を知ることができる、という意味では興味深い内容の本である。ただ、環境の良し悪しに関しては人によって適性が違うだろうし、わざわざ海外まで出ていって成功した人は、日本より海外の方が水が合っていたからこそ成功できたワケなので、そういった人ばかり集めて1つの結論を導こうとするのは無理がある。日本に留まって息苦しい思いをしている人を日本に縛り付けることは良くないのと同様、海外適性が低い人を無理やり日本の外に出そうとするのも良くないと思う。(適性が高いか低いか、行ってみないと分からない面もあるので難しいところだが、行ってから低いと判明するのは悲劇である)

  • ●No.20

  • 分類=科学史・科学者。02年1月。

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著者プロフィール

岸宣仁
1949年埼玉県生まれ。経済ジャーナリスト。東京外国語大学卒業。読売新聞経済部で大蔵省や日本銀行などを担当。財務省のパワハラ上司を相撲の番付風に並べた内部文書「恐竜番付」を発表したことで知られる。『税の攻防――大蔵官僚 四半世紀の戦争』『財務官僚の出世と人事』『同期の人脈研究』『キャリア官僚 採用・人事のからくり』『財務省の「ワル」』など著書多数。

「2023年 『事務次官という謎 霞が関の出世と人事』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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