- Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
- / ISBN・EAN: 9784479570165
作品紹介・あらすじ
1820年代のアメリカ、ノースカロライナ州。自分が奴隷とは知らず、幸せな幼年時代を送った美しい少女ハリエットは、優しい女主人の死去により、ある医師の奴隷となる。35歳年上のドクターに性的興味を抱かれ苦悩する少女は、とうとう前代未聞のある策略を思いつく。衝撃的すぎて歴史が封印した実在の少女の記録。150年の時を経て発見され、世界的ベストセラーになったノンフィクション。
感想・レビュー・書評
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今年の『新潮文庫の100冊』に選ばれている本のハードカバー版です。
今から約200年前の体験談。
リンダは1813年、黒人奴隷の子としてノースカロライナ州(アメリカ南部)に産まれる。所有者の執拗な性的誘いから逃れるため、既婚の白人男性と関係をもち、子供を産む。それでも所有者はリンダを所有物として執着し、脅し、追い続ける。
リンダが所有者から逃げ、隠れ、1861年にニューーヨークで事実上の自由を勝ち取るまでの過程が著者の主観で書かれています。
いい人、悪い人がはっきり分かれているせいか、内容は重いけれど読みやすいような気がします。
当時の奴隷に対する仕打や扱い方がひどすぎます。
イギリスでの奴隷制度廃止が1833年。
リンカン大統領の奴隷解放宣言が1863年です。もう少し生まれるのが遅かったら…生まれる場所が違ったら…と思います。
奴隷解放宣言から160年。160年も過ぎていするのに、まだ差別は根強く続いています。黒人差別だけでなく、色々な差別があります。この現代にも奴隷として生きている人々がいることを忘れてはいけないと思い起こさせてくれます。
ただの冒険譚として終わらせてはいけない一冊です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これは、遠く離れた場所の遠い昔の話。ではない。
間違いなく現代の日本でも形を変えて行われていることであり、世界中で現在進行形の問題だと思う。
「奴隷」という言葉を出されると、「自分とは関係ない」と思ってしまうが、「差別」や「上の立場と下の立場」などの言葉に置き換えると身近に考えやすいのではないか。自分が絶対的優位だと確信している時、下の者にはとことん冷淡になれるという習性。簡単に言うと弱い者いじめ。人間は誰でもそういう性質を持っている。
私だって、その一人だ。機嫌が悪いとき子どもに八つ当たりする。疲れているから明日でいいわと犬のごはんをあげないまま寝てしまう。相手の機嫌が悪くなったら「あ、ごめーん」と笑ってごまかす。自分が優位に、上位の立場にいると信じているからできることだ。
事の深刻さが全然違うじゃん。とは、思わない方がいい。根っこの部分は同じだ。最初は軽い感覚で始まる。教室で起こるいじめも、最初は「いじり」と称して始まる。上司が部下を怒鳴りつけるとき、「注意しているだけだ」「お前のためを思って言ってるんだ」と自分で自分に言い訳しながら説教している。家庭で虐待される子供は「しつけ」という名の下に殴られている。
人間の抱える根源的な問題だということを一人でも多く自覚できたら、悲劇は少なくなるのではないかと期待する。
訳者のあとがきも、そういうことが言いたいのだと私は解釈した。 -
奴隷と呼ばないだけで、今も誰かの都合でそういう存在が合法的に作られている。気づかぬふり、見ぬふりしながら、その恩恵を受ける人々がいる。忘れないようにしたい。
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1861年に初めて出版されたとき、当初はペンネームでの上梓であり、また当時としてはかなりショッキングな内容であったため、知らず知らずのうちにフィクションの作品と思われ、さほど注目も集めなかったという本書。
近年の調査で、紛れもない実話ということがわかり、古典部門のベストセラーとなっているらしい。
正直なところ、文章の巧拙で言えば拙いことは否定できない。だが、それを補ってあまりある本書の魅力は、自分の信念に従った強き女性として、子を思う母としてのひるむことのない生きざまだろう。
紡ぎ出される彼女の語りに引きこまれほぼ一気読み。
この時代にあって、ここまで強く生きた彼女の強靭さ逞しさには舌を巻く。でもそういう人物だからこそ、常軌を逸した7年にも及ぶ潜伏生活を耐え抜き、晴れて自由の身になった後も、苦難の日々に目を背けることなく、同じように奴隷制に苦しめられる人々を救いたいと、自らの進んできた道を残し新たな活動の輪を広げていくことができたのだろう。
蛇足。
はじめの語りに比べて、後半の方が語りのテンポもよく、文章が良くなっていると感じるのは私だけだろうか。書いていくうちに、彼女の持っていた才能が呼び起こされどんどんうまくなっていった、ということかも? -
たまたま息子の学校からの推薦図書として手に取ったのだが、このような古典名作であるとは思いもしなかった。
訳者の堀越ゆきさんも解説の佐藤優さんも書いているが、人間力を身につけるためにも、世界の人々が必読と感じる。
たまたま、アメリカの奴隷制度の被害者となった著者の自伝になっているが、このような理不尽な世界は世界中のどこの国でも過去には経験していることであり、大いに猛省すべき行為であることを忘れてはいけないと思う。
非常に重い内容だったが、あっという間に読み進められる読みやすい文章だった。 -
私がこの時代にいたら、という訳者のあとがき
世界がもし100人の村だったら を見て、インドには今も私同じ年の子の奴隷がいると小学生の時見た
私は「もしも私だったら、この子に優しくしてあげて自由にしてあげたいのにな」と思った
支配側の立場でしか見れない感想 自分のことながら、なんとも情けない話だがしょうがない気もする。そうやって、優しい自分に酔いたいのはどこのだれでもだし…
この本の被害者に自分を置き換えてかんがえられるひとは少ないのではないか
人は皆、今の現代でさえ社会の奴隷であるが 人が人の 生から体、心、死まで管轄されることもそうない時代に
私たち、人間としてこれからどう、生きていけばいいんだろう -
実話だと言う。著者の人生に打ちのめされた。不条理に際した時の、信仰の持つ力と欺瞞を感じた。訳者のあとがきも素晴らしい。佐藤優のあとがきは蛇足。
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事実は小説より・・・
それが実感できる。
奴隷として生まれた少女が、自由を得るまでの話
自分を買い戻す、って・・・ 想像を絶する
人間ておそろしい -
借りたもの。
数奇な運命に翻弄された、黒人女性の自叙伝。
所々に引用された聖書の言葉に、彼女の信仰心の篤さと、教養の深さと行動力――それをよすがに己の信じる道を貫き、自由を手にした強さに感嘆してしまう。
彼女は信仰を持ち、奴隷法がそれに矛盾している事を指摘する。
白人と黒人の善悪二元論ではない。
キリスト教圏でありながら、「隣人愛」の精神が偽りである白人の主人。奴隷狩りに協力する自由黒人。同情的であっても経済的に困窮すると平気で売り渡す白人……
それでも手を差し伸べてくれる身内の黒人や白人もいる。
奴隷法に囚われた彼女は、大きな変革が怒らなくても出来る範囲で世界を変えようと考え、選択し、行動する。
フィクションにありがちな大逆転は無い。ノンフィクション故に、彼女は辛抱強く自由を手にするための機会を得る時まで耐えた。
読み進めるとその時代の空気と彼女の緊張が、リアリティを伴って押し寄せてくる。