- Amazon.co.jp ・本 (720ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480022387
感想・レビュー・書評
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子どもの頃、水木しげるの描く妖怪や「ゲゲゲの鬼太郎」が大好きだった。水木しげるその人も超好き。
にもかかわらず水木作品を漫画でちゃんと通読したのはひょっとすると初めてかもしれない。
こんなめちゃくちゃで行き当たりばったりのストーリー(例えば「ストトントノス七つの秘宝」)がどうしてこんなにも面白いのかと思いつつページをめくる手はとまらなかった。
また行き当たりばったりどころか、バカバカしさの極限をいっている、堂々といっている(例えば「屁道」とか)。それにも不思議な感動を覚えた。というか、完全に負けた、という気分にさせられる。
とはいえ基本的な設定はあって、河童そっくりの三平という少年が、河童に河童と間違われて河童の国に連れていかれ、そこから河童との縁が生まれる。そして、三平そっくりの河童といっしょに人間界に戻ってくる。
で、すごく水木しげるらしいアイデアだけど、2人は1日おきに交代で学校にいくことにするのだ(1日おきに寝てられるから。最高)
あとサブのキャラクターとして化け狸と死神がいる。死神は三平の祖父と父の命を奪い、なお三平につきまとう。そうそう、この三平の父というのがまた変わっていて、絶滅しかかっている小人を助けたという人。その恩返しで、小人たちは三平を手助けすることになる(なんか、こうして設定を説明してるだけでまた、感慨がせり上がってくる)。
基本、こうしたキャラたちが、トムとジェリー的なドタバタ喜劇を演じる。
さてナンセンスのすばらしさはさておき、なんでこんなに面白いのかと考えてみて気がついたけど、圧倒的に絵の力だと思う。登場する妖怪の迫力もすごいし、背景画の異界の雰囲気もすばらしい。だから何をしたって説得力があるのだ。
(また気まぐれな社会風刺なんかもなされていて、学生運動がからかわれたりたりしていた。なんかもうすごいな、と思ったのは、ひょんなことから水泳の全国大会に出ることになった三平が、そのへんを歩いていた昭和天皇をひっつかまえて道を尋ねるところ。水木サンの表現だからこそ世間は許すだろう、許したにちがいない)
子どもの頃を思い出すとともに、なぜ漫画を通読する気にならなかったがだんだんわかってきた。
この世界観がなにより大好きだったからだ。だからストーリーなんて二の次だったのだ(というかあってないようなものだし)。
それよりか、妖怪の絵に付された説明書きとかを読んで、そこから始まる物語を自分で空想して怖がったりするほうがより楽しかった。
だってそもそも、自分にとっての極楽や地獄のイメージはことごとく、水木サンが描いたそれでこしらえられたものなのだから。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『河童の三平』が出てくる作品の総集編。コンテンツは『死神』『空中水泳』『ストトントノス七つの秘宝』『屁道』『猫の町』。全編をとおしてタナトスがシームに感じられ、ダンテの『神曲』を彷彿とさせる。ストトントノスはインディアナ・ジョーンズ型冒険活劇でそのままRPGゲームになりそうな。三平(先祖に河童の血がはいっている)、河童の三平は所謂あかん勇者キャラ(笑)なによりワキキャラがすばらしい、両三平の父と祖父、死神、小人達、タヌキと突き抜けててラブリー。屁、シリ、そして肥たんご、、特に屁道で屁音楽となるともう感涙にむせぶしかない(あはははは)。可笑しくて、そしてなんか寂しくて泣ける、背景画がやっぱりすばらしい水木マンガです。
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怪異妖怪冒険活劇の傑作。河童に間違えられてしまうところから既に普通では無いが死神や狸が現れたりと展開の予測ができないほど理不尽。そんな理不尽にもクヨクヨすんなよと三平が間の抜けた顔で語りかけてくるかのような感じがします。
ラストも意外すぎですが狸の友情に泣けてきます。 -
これを読もうと思ったのは、主人公の三平の家に居候していたタヌキが 死んでしまい透明になってしまった三平を(人間以外には見えるのだ) 風に吹かれながら見送る寂しい場面を偶然目にしたからだ。しかし全部読んでみると、七つの玉を探して冒険する『ストトントノス七つの秘宝』編や三平が屁の力で国体に出るというとんでもないエピソードがあり、バラエティに富みすぎているようでもある。しかもその間に祖父、父親は死んでいき、母親は東京に働きに出たが病気で床に伏してしまうという悲惨な状況が 繰り広げられる。それなのに最初から最後までなにか淡々とした感じ
で物語は進んでいく。この「寂しくて淡々としている感じ」でかつとんでもないエピソードが繰り広げられるというのが、原作版の『ムーミン』と似ているように 感じられた(もちろん、『ムーミン』はもっと上品だが)。
余談だがこの中に登場する小人の家族が三平を助けようとミニサイズの まな板や包丁で炊事をしたり、野いちごを採ってきたりする場面を読むと なんだか自分も「働こう」という気持ちになれるので良いと思う。 -
河童の三平(ちくま文庫)
著作者:水木しげる
発行者:筑摩書房
タイムライン
http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
facecollabo home Booklog
https://facecollabo.jimdofree.com/
理不尽でおかしくて、何故か泣ける。 -
一こま一こまに愛情が。たぬき大好き。
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前編に流れる坦々とした潔い諦めの空気が泣ける。タヌキや河童がかわいい。
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「豊かな自然の中で、のびのびと育った少年三平と、河童・狸・小人・死神そして魔物たちが繰りひろげる、ユーモラスでスリリングな物語。」
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この夏、「100分de名著」のスペシャルバージョン「100分de水木しげる」で佐野史郎が「うんちとオシッコとおならと血」で語っていたマンガです。ヤマザキマリが語っていたP82の「とうとうひとりぼっちになってしまった」の畳にゴロンの寂寥感も体感したかった…でもこのちくま文庫、なかなか手に入らなかったのです。秋が行き冬になって、やっと神保町で発見。やった!少年マガジンで連載されていた「ゲゲゲの鬼太郎」や「悪魔くん」は異様なマンガとしてトラウマになってるけど少年サンデーの「河童の三平」…いまいち印象薄かったんだよなぁ…でも時を超え、大人になって、こうやって一気読みするとものすごい作品として登場した感じです。小学校の何十年振りかの同窓会で、ほとんど印象なかった女の子がものすごいいい女になって現れたような感じ。このいい女、人生の虚しさと寂しさと優しさと意地悪さを全部、わかっている人なのです。これ小学生にはわからないよ〜。いや、善悪超えたチャイルディッシュなドタバタだから、わかる子供にはなかったのかも。佐野史郎、ちゃんとキャッチしているし。こうやって振り返ると手塚チルドレンだった自分には水木しげるのフォークロアな感じ、忌避していたのかもしれません。でもこの歳になって、成長のその先を見据えている時に「河童の三平」に再会出来たこと、めちゃくちゃラッキーだったかも。河童とたぬきと死神と人間と、孤独と死を前提にしたドタバタ、自分だけの神話として大切にします。