水木しげるのラバウル戦記 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480032867

感想・レビュー・書評

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  • 図書館で借りたのは文庫でないもの。絵が大きくてよかった。文庫だと小さいだろうな。
    しかし水木しげるの絵の上手さには驚いた。

  • 水木しげるが、二等兵として従軍した体験を絵と文章で綴ったエッセイ。

    所属部隊が全滅し、自身も片腕を失い、マラリヤで生死の境をさ迷う。過酷な体験が綴られているのだが、途中までのトーンは意外に明るい。
    本人が言うとおりまだ20歳そこそこの若さで、先行きを悲観するほどの見通しもなく、未知の風景や現地住民との交流を楽しめるタイプだったためだろう。体もかなり丈夫だったようだ。
    読み進めると、本人や部隊が、戦争全体の中でどのような役割を果たしていたかあまり見えてこないことに気づく。上官の訓示や、仲間内の噂などで情報を得てはいるものの、一兵卒からは戦局など分からず、その場その場の受け身の体験だったのだろう。
    一方、日々の暮らしや印象の記録は細かい。陸軍と海軍は別文化で、同じラバウルにいても食料にかなり違いがあったらしい(p92, p124, p144)。素人からすると同じ国の組織なのだから堂々と融通すればいいのにと思うが、そうはいかないのが軍なのか。

    明るいとは言っても武勇伝的なトーンではない。ユーモアある語り口ながら、戦友、慰安婦(p30、p67)、捕虜(p41)には同情を寄せ、軍隊内での暴力には「批評家めいた目つき(p45)」を向ける。分かりやすく読者に呼びかけはしないものの、「反戦」の気分が全体に流れている。

    復員直後や終戦直後の絵は、いわゆる水木しげる漫画ではない普通のデッサン。あまり十分な道具もない中でも生き生きしている。当たり前だが普通の絵も上手い人なのだ。

  • 水木しげる、この3月(2022年)で生誕100年の特集をしている雑誌を見ていたらがぜん興味が出てきた。ラバウル小唄を歌える私はとりあえず、このラバウル戦記を借りてみた。借りてみてびっくりしたのだが、これは漫画ではなく、エッセイ(表現が軽すぎるけど)のようなものだった。
    この本は3つのパートからできていて、昭和24年頃からのもの、その後絵では食べて行けなくなり中断、その後娘に伝えるラバウル戦記の絵本から、それから戦時中に描いたスケッチからなりたっている。

    ゲゲゲの女房をNHKの朝のドラマで見ていた。それの通りの我が道を行く能天気な人だったのだろうと思える内容だった。戦地に行くのにまるで旅行気分。戦闘が起こっているのに熟睡している。景色が奇麗で見とれたり、植物やちょうちょや虫も日本とは違うと観察したりしていた。本人曰く『若かったから』と言っているが、同い年の人達は二度と日本へは帰れずに死んでいくという覚悟を持って行っていたし、敵兵にびくびくしながら戦地に居た。その中で若かったという理由だけで戦地を楽しめるだろうか?そういうところからも水木しげるという人は只者ではないと思える。(あと、胃が丈夫だったからと、体力があったからとも言っていた。要するに健康だったからだと)そんな性格だからよく上長にびんたを食らわれられる回数も相当多かったようだ。

    しかし、ある時その戦時中とは思えない事態が一転する。一緒に戦っていた海軍も所属していた陸軍も全滅。運よく水木しげるだけが生き残ったが、後方部隊に合流するも現地人のスパイに狙われたり、ジャングルの中を這いずり回ったり(これは比喩だけど)並大抵の努力と運だけではなかっただろう。無事に合流しても『何故逃げ帰った。みんなが死んだんだからお前も死ね』と言われてしまったり…。

    そしてそんな中、マラリアにかかる。42度もある中、敵襲の爆撃により左手を失う。(実際には軍医に七徳ナイフみたいなもので切断されたらしい)傷口には蛆が沸いたり大変だったようだ。

    でもこれをきっかけに負傷兵が集められ、そこで畑仕事などをしている時運命の土人(土に生きている人を恵愛をこめてこう呼んでいる)と仲良くなる。持って生まれた人懐っこさか、人から好かれる性を持っていたのだろう。その土人に助けられ、食べ物をもらい、どんどん元気になる。そしてそこで終戦を迎える。
    その場で除隊をしようかと、軍医に相談したが帰国してからでも遅くはないと説得されて帰国。7年後に戻ってくると土人のトペトロやイカリアンと約束するが、やっと戻れたのは23年後。なかなか見つけ出すこともできなかったがついにトペトロの義弟と再会。トペトロは少年からおじさんになっていた(笑)。そして最初に芋や畑をくれたイカリアンが女酋長だったことを知る。
    数十年後、トペトロに御礼として中古車をプレゼントした。トペトロは『やっと恩が返ってきた』と言った。そうか、だからあんなに土人との生活が暮らしやすかったのかと理解したらしい。
    こう書いてしまうと誤解を生むと思うが、最初の出会いは何も持っていない水木しげるにイカリアンが施したのは決して見返りを求めていたからではないと思う。水木しげるが興味深い人間だったからだと思う。

    ゲゲゲの鬼太郎やゲゲゲの女房を見たり読んだりして楽しんでいたが、水木しげる本人がこんなにも、漫画やテレビよりも面白い人だったとは思わなかった。
    続編もよんじゃうぞ。
    総員玉砕せよ!はちょっと怖いから二の足を踏んでいる。

  • 再読。淡々と語られていくのがかえって生々しい。ラフに描かれているスケッチが上手い。過酷な状況を生き抜いたすごみを感じる。なのにどこかユーモラスで、読んでて苦しくならない。水木先生はやはり超人なのだ。

  • ことさらに特別視することは(きっと御本人も嫌がるだろう。苦笑なさるかもしれない)したくないが、「戦争」という空気にのまれず、けれどたしかにそのときの体験を描き残した方として、また本として、とても尊敬する。普通だったら、きっと悲壮感にあふれて(そして、そうでなければきっとやっていけない)、緊張して、いわれるとおりに物事をこなそうとするだろうから。稀有な、方だと改めて。

  • 貴重な記録。
    土人の生活がよいと思う水木しげるの感性がよい。

  • これを読んで、軍隊というのは内輪でもこんなに暴力が蔓延していたのだと知った。ビンタ、ビンタ。難癖つけて殴る。何の意味もなく殴る。初年兵同士殴り合わせるとか。古兵が威張る。「敵よりもこの古兵にやられてしまう」。でも単純に考えて、そんなことで実戦で力を出し切れるのか。軍隊というのがそういうものなのか知らないが、なんか違うだろうと思う。
    若いから耐えられると何度も出てくるが、それだけにお腹もすき、空腹との戦いも想像以上のものだろう。
    すごい数の蚊や蟻やネズミが顔や体を覆うところはそれだけでもゾッとする。
    従軍慰安婦の小屋(一人で一小屋)一つにつき50人くらい並ぶ。「やられる女の側は下手すると死ぬのではないか」。
    九死に一生を得たが、マラリアに苦しみ、左腕を失う。もう終戦も近い頃なのに、そんなことその時はわからない。
    救いは現地の人たちとの交流。水木さんは隙あらばこっそり軍隊を抜け出す。食べ物も分けてもらえる。
    水木さんの絵とユーモアあふれる文章で戦場の悲惨さを伝える。水木さんの軍隊に似合わないマイペースな感じが伝わるのだが、そのために酷い目にあったことは割とサラッと書いてある。すべての現実を深刻に書いたなら、読めないほどの日々だっただろう。

    2016年に買って、本が行方不明になっていた。引っ越しもはさんだので、その機会にも徹底的に探したつもりだった。4年後、何食わぬ顔で本棚に並んでいた。信じられない。

  • 絵を見せてもらいながら、水木しげる本人に戦地での思い出を語ってもらっているようで、妙な感覚になりました。部隊から一人だけ生還するという話は知っていましたが、本隊に合流するまでの話はこの本で知りました。とてもたいへんな状況を切り抜けた話は、みなさんもぜひ本を読んで確認してみてください。

  • 太平洋戦争真っ只中、ラバウル(現パプアニューギニアの都市)の日本兵たちは過酷な状況で活動していていた。戦況は悪化していた。食料は少なく、体力が落ちればマラリヤやデング熱に侵されてしまう。さらに初年兵たちは古兵たちにこき使われ、理不尽な暴力指導も行われていた。

    初念兵であった水木サンも理不尽なビンタ指導や労働をさせられていたが、悲観せずに自分の楽しみを見つけて過ごしていた。
    土人たちと交流し、彼らを愛し愛された水木サンのラバウルでの体験。
    (差別的な意味ではなく、”土と生きる人”という尊敬の意味を持って現地の人を土人と呼んでいる)

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    理不尽な指導にもめげず、土人と交流し続けて、現地除隊まで希望したという水木サン。達観しているというかなんとういうか、本当にすごい感覚を持った人だ。死んでもおかしくない状況に置かれて爆撃で左手を失って、それから日本に帰って漫画家として大活躍するだもんなあ。偉大だ。

    そして戦地は地獄だ。
    戦争している国々だけでなく、巻き込まれた現地の人、連れてこられたインド兵や徴用された従軍慰安婦、全員が苦しんでいた。
    戦争で苦しむために生まれてきた人なんていない。戦争は悲しみを産むだけ。

    水木サンのスケッチ画がどれも素敵だった。
    もっと水木サンのことが知りたい。『ゲゲゲの女房』観ようかな。

  • 2020年2月読了。

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著者プロフィール

1922年(大正11年)生まれ、鳥取県境港市で育つ。太平洋戦争時、ラバウル戦線で左腕を失う。復員後、紙芝居画家を経て貸本漫画を描き始め、1957年『ロケットマン』でデビュー。以後、戦記もの、妖怪ものなど数多くの作品を発表。1965年『テレビくん』で第6回講談社児童漫画賞を受賞。1989年『昭和史』で第13回講談社漫画賞を受賞。1991年紫綬褒章受章、2003年旭日小綬章受章。主な作品に『ゲゲゲの鬼太郎』『河童の三平』『悪魔くん』『総員玉砕せよ!』『のんのんばあとオレ』など。2015年11月死去。

「2022年 『水木しげるの大人の塗り絵 あの世紀行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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