- Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480056351
作品紹介・あらすじ
二十世紀最大の経済学者ケインズは、実に多面的な活動をした天才である。世界経済の動きとリアルタイムで対峙した巨人の生涯を振り返りながら主著『一般理論』とその他の著作について解説。知的遺産の今日的意義を考え、経済の動きを理解するために欠かせない視点と分析方法、そして、その発想・考え方を学ぶ一冊。
感想・レビュー・書評
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まだ真っ当なケインジアンだった?頃のマクロ経済学者の吉川洋によるケインズの評伝。当時、筆者は44歳と若手の経済学者であり、若いだけあって文体が瑞々しい。
本書では、ケインズの生涯に加えて、その時々のケインズの論文、パンフレットの概説がされている。他のケインズの評伝と違い、ケインズの最初の経済書である『インドの通貨と金融』が取り上げられている。『インドの通貨と金融』の中では、当時としては画期的な金本位制批判がされており、金本位制の代替案としてイギリス以外の各国がロンドンに決済手段としてポンドを資産として保有することが提言されている。この案がケインズも設立に関わった、第2次世界大戦後のブレトン・ウッズ体制下の管理通貨制度の雛形になっているという指摘は興味深かった。また金本位制は19世紀後半からすでに機能しておらずにヒュームが考えたような自動調節メカニズムなどなかったという話も面白い。
第3章では『一般理論』と並んで重要な本である『貨幣改革論』が取り上げられている。『貨幣改革論』で、ケインズは貨幣数量説自体を受け入れていたが、マーシャル、ピグー、フィッシャーとは違い、貨幣数量説が極めて限定的な条件でしか当てはまらないと主張していたようだ。ここでは『貨幣改革論』から『一般理論』へと至る過渡期のケインズの足取りが詳細に説明されている。第4章ではケインズの主著たる『一般理論』が取り上げられているが、吉川『マクロ経済学』のダイジェスト版であり、結構あっさりしている。最後の第5章では戦後のケインズ、ケインズ死後のマクロ経済学の歴史が述べられており、RBC理論への敵意、その後の筆者のモチーフとして何度も繰り返されている、ケインズとシュンペーターの止揚の萌芽が見られて面白い。
数年後に、吉川洋は構造改革に需要産出型産業政策をまぶした奇妙な政策提言をしていくが、この本自体は真っ当なケインズの評伝であり、ケインズに触れる最初の一冊としていい本だと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
経済学は哲学や自然科学に比べればはるかに易しい学問である。ところが優れた経済学者は非常にまれにしか現れない。なぜかというと、経済学は全く異なる才能が必要であり、一人で数学者・歴史家・政治家であり、哲学者でなければならない。以上は、20世紀の最大の経済学者ケインズが述べた言葉である。本書を読めばその意味がわかる。
大阪府立大学図書館OPACへ↓
https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000330785 -
厚さからわかるとおり、非常に内容が薄っぺらい本。 同じ新書でも伊東光晴のものと比べるとひどく、オリジナルな記述が何もないように感じる。
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クロ経済学の授業で数式としては知っていても、あまりイメージのわかなかったケインズの理論。ケインズがどうやって結論にたどり着いたのか、時代背景と連動させて説明してくれているので、具体的なイメージができる。どれだけ純粋で普遍的な理論を構築したとしても、何か具体的な問題意識から出発しているんだろう。その問題意識を知るためには、やっぱりその人が生きた時代や環境を理解しないといけないんだなあとあらためて思う。
最後にケインズ以後の経済学の流れに軽く触れていて、そこで著者はマネタリストや合理的期待形成学派などの反ケインズ理論を「馬鹿馬鹿しい楽天的マクロ経済学」と切り捨てているのだけど、じゃあそんな馬鹿馬鹿しくて楽天的な理論がどうして経済学の主流になったのか、ケインズの理論はどうして劣勢に立たされているのか、ってあたりが全く書かれていない。ケインズ派と反ケインズ派の理論を比較するのがこの本の趣旨ではないし、紙幅にも制限があるのだろうけれど、せめてヒントくらいは示してほしかった。根拠を見せないで切り捨てるのはなあ、とすこしひっかかったところだった。 -
マクロ経済学の教科書を時々参照しながらの読了。
著者やケインズの言葉が心地好い。
また、トービンのルーカスに対する言葉も実にじんと来る。
著述のトーンは、伊東氏のケインズの方がしっくり来るのは、
好みの問題。
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経済系は読みにくそうだなと思っていたけど、
これは伝記ものに近く、読みやすい。
第二章の「第一次世界大戦」は特に面白かった。
平和の経済的帰結、きちんと読んでみたいなあ。
「一般理論」の細かな説明は、結局読み飛ばしてしまった。
でも、全体的にはわかり易い内容だった。
決して伝記ではないんだけど、ケインズ経済学だけではなく、
それ以前の新古典派経済学や、マネタリズムなど、
よく理解できていなかった関係、それぞれの違いなどが、
歴史の流れにそって説明されているから理解しやすかった。
経済学のセオリーなのかもしれないけれど、経済の状況や、それに即した政策を
色々な例え話に変えて説明されているのも、わかり易さにつながっていると思う。
巻末には、ケインズ経済学に関する本の、テーマや立場を簡単に説明する文献案内もあって親切。
欲を言えば日本の文献だけではなくて、英語文献も載せてほしかった。そっちの方が要旨の説明にありがたみがある。あらかじめ読みたいテーマに即した本を探すのは、どうしても日本語より英語のほうが面倒だから。
それにしても、ケインズ、かっこいいね!
「文明の可能性の担い手」という言葉に感銘しました。
あとは、常に「目の前の台風」に対処していこうとする姿勢が、頼もしい。現実を見つめて、読み取る力がある人だったんだなあ、と。
著者のケインズに対する評価の高さが、いい意味でよく出ている本だなと思った。