アリストテレス入門 (ちくま新書 301)

著者 :
  • 筑摩書房
3.15
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本棚登録 : 407
感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480059017

感想・レビュー・書評

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  • アリストテレス。その膨大さ、翻訳の難解(であろう)さにビビって、評判の良いこの入門書から入る。

    プラトンの思索の深さは、対話篇という方法に宿っている。
    アリストテレスの深さ、広大さは、どこからくるのか?それは観察と情報収集という方法に根付くのだろう。
    カテゴリーにしろ論理学にしろ、アリストテレスの独自さの根っこには、膨大な情報に立ち向かう方法からうまれてきたのかな、と思わせるものがある。
    それを支えているのは「やむにやまれぬ知ることへの情熱」でしかないものがある。
    また、未完で終わった(ように残ったものからは見える)体系も、膨大な情報量と情熱との前に時間が足りなさすぎたようにも感じる。

    イデアを批判していることは、例えば、知識は経験を経て得られるものということ。イデアがあるのであれば、それは感覚や経験から直接、観想されるのではなかろうか、と。いや、知識はあくまで抽出されるのだ。つまり、帰納法的なものなのかな、と、理解した。

    論理学を創始したこと、また、論理学に使う名辞をアルファベット表記したことには恐れ入る。
    ゲーデルが自己言及させた方法も、ここに始まるのだ。

    と、同時に非形式論理も扱っている。

    具体的、というのを、形相と質料のそろったものとし、そこから形相だけを分離して考えることを抽象という考え方は目から鱗だ。抽象化というのをここまでわかりやすく説明したものはないだろう。

    プラトンをこの世界の事物をそれ自体として自足したものと考えずに、その外にイデアを想定したのと対照に、アリストテレスは明らかにこの世界のなかで考えることを前提としている、という対比がとても面白い。アリストテレスはものの本質を個別的な実体に内在するものと考える。イデアは個別的な実体にはみえない。ラファエロの絵はこの対比としてみてとれる。

    面白かったのは、アリストテレスがやはり体系としては未完ともみえる対立を残してること。立場による、というような相対性にいること。
    これはカテゴリーなどのような厳密さを追求した結果、厳密さが伴わずにはいられない矛盾、限界への発見に基づいたのではないか。
    結果的に複数の視点が共存していることこそ今日的には重要な点となるようにも思える。

    可能的なものと現実的なものとの区別も面白い。可能的なものが、プロセスを経て、現実性のものになり、現実性のものが実施される、その実施、行動、活動にこそ幸福が宿る、というのは、サン=テグジュペリを読んだあとだけに、まさしく!となる。

    アリストテレスの天動説があったからこそ、それを否定するものとして、コペルニクスがありえたわけである。
    アリストテレスが種というものを定義して、それを、固定した形相を受け継ぐもの、としたからこそ、種の起原としてダーウィンは種の進化を唱えることができたわけだ。

    すべての学問がなんらかの善を目指しているのだが、善そのものを目指すことはない、というのも、プラグマティックと言っていいのか、素晴らしい最高のプラトンへの回答でもある。

    相対的であること、保留されてること、帰納的であること、プラグマティックであること、広大であること、創始者であること、プラトンの対立者であること、アリストテレスの重要性はなかなか説明しきれないことがこの本だけでめちゃくちゃわかった。

    さぁて、気を引き締めて、アリストテレスに入るか。

  • 入門書として、よく構成されている。記述もできるだけ誤解のないように配慮されている。

    哲学書を読む中で、しばしばアリストテレスの概念が引用され、なんとなく理解してきたことが本書ではっきりとした輪郭をつかむことができた。それも彼の発想の源までたどる説明をしてくれたおかげだ。

    刺激は少ないが、主要な概念をきっちりと抑えることができる、事典的な効果をもった本である。

  • 書名の通り、アリストテレスの入門書である。しかも、(専門家から見ればどうだか知らないが、素人の僕から見れば)この種の入門書に期待される諸々の基準を十全に満たした内容と見える。簡潔な文体で、アリストテレスの様々な業績を解き明かしていく。

    ざっくりとした印象だが、アリストテレスは物事をやたらと分類するのがお好きなようで、この点現代のいわゆる「学者肌」の人物と通じるところがある。というか、実際のところ、彼が実践した分析思考という学術研究のアティテュードが現代にいたるまで引き継がれてきているというのが本当なんだろう。なにしろ彼は「万学の祖」と呼ばれる人物である。

    それはともかく、彼はいろいろと分類し、その過程でいろいろと概念を発明している。したがって、本書にもそのような概念があちこちに出てくる。これらについて、逐一丁寧な説明はなされるものの、読み進めていくうちに説明された内容を忘れてしまったり、他の概念と混同して訳が分からなくなってしまったりというのは初学者の常である。というか僕がそうなりがちなのだが、その際には巻末についている索引を利用して、該当語句の初出箇所に立ち戻ってみるといいと思う。

    新書に索引がつくのは珍しい。詳細な出典一覧もそうだが、大変配慮の行き届いたつくりだと思った。

  • [ 内容 ]
    プラトンとならぶ古代ギリシア哲学の巨人アリストテレス。
    彼はのちのヨーロッパ哲学に影響を与えただけではない。
    いわゆる三段論法を中心とする形式論理学の基礎を築き、具体・抽象、普遍・個別、可能・現実といった概念を創始して、近代自然科学の発展をささえる知の総合的な枠組をつくりあげた。
    われわれがさまざまな事柄を考える際の思考法そのものに関わる問題を、彼はどのように追求していったのか。
    本書は、そのねばりづよい知の探求の軌跡をたどるアリストテレス再発見の試みである。

    [ 目次 ]
    序章 アリストテレス再発見
    第1章 知への欲求
    第2章 論理学の誕生
    第3章 知の方法
    第4章 自然と原因
    第5章 実体と本質
    第6章 現実への視点
    第7章 生命の意味
    第8章 善の追求
    第9章 よく生きること
    終章 アリストテレスと現代

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • アリストテレスを知らずに生きてはいけまい。

著者プロフィール

大阪府立大学総合教育研究機構教授
1949年 青森県生まれ
1978年 京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
1997年 大阪府立大学総合科学部教授を経て現職
【主な著訳書】
『アリストテレス入門』(筑摩書房)
『西洋哲学史(古代・中世)』(共著、ミネルヴァ書房)
G.E.R.ロイド『初期ギリシア科学』(共訳、法政大学出版局)
クリュシッポス『初期ストア派断片集2、4』(共訳、京都大学学術出版会)
クリュシッポス『初期ストア派断片集3』(京都大学学術出版会)

「2006年 『初期ストア派断片集 5』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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