- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480061577
作品紹介・あらすじ
民政党議員だった斎藤隆夫の「粛軍演説」は、軍部批判・戦争批判の演説として有名である。つまり、輸出依存の資本家を支持層に持つ民政党は、一貫して平和を重視していたが、本来は平和勢力であるべき労働者の社会改良の要求には冷淡だった。その結果、「戦争か平和か」という争点は「市場原理派か福祉重視か」という対立と交錯しながら、昭和11・12年の分岐点になだれ込んでいく。従来の通説である「一五年戦争史観」を越えて、「戦前」を新たな視点から見直す。
感想・レビュー・書評
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昭和11年2月20日第19回総選挙から、昭和12年7月7日盧溝橋事件までの1年5ヶ月に絞って書かれた本。
ポイントは宇垣内閣の失敗にあるとみた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦前日本に関して一般に抱かれているイメージは、昭和11年の2・26事件により軍ファシズムの時代が到来し、その軍ファシズムの手によって,翌12年7月7日の盧溝橋事件が惹き起こされた、というものである。その大前提となっているのは、まず国内政治においてファシズムが民主主義を押しつぶし、国民は戦争に向かう日本政府の動向について全く情報を与えられず、戦争を予期し反対しようとした人々には、反対行動はもとより言論の自由も全く与えられなかった、という歴史認識である。しかし本書を読むと昭和12年7月の日中戦争直前の日本では、軍ファシズムも自由主義も社会民主主義もすべて数年前と比べようもなく、力を増していると筆者は述べている。つまり政治が活性化していて、民主化の頂点で日中戦争が起こり、その戦争が民主化を圧殺していったという論なのだ。その詳しい真偽は本書を読んでもらうしかないが、従来の通説でない新しい視点だと思った。詳細→
https://takeshi3017.chu.jp/file10/naiyou28003.html -
昭和11から12年にかけて生じた日本近代史における危機ないし転換点の実態を明らかにしている本です。
昭和11年の二・二六事件以来、軍によるファシズムが支配的となり、民主主義が押しつぶされて日中戦争へ突入していくことになったという見かたがひろく流布していますが、著者はそのような歴史像が誤りであることを論証しようとしています。たとえば、マルクス主義経済学者の大森義太郎による人民戦線論が発表されており、そのなかで彼が選挙を通じて国政を変えていくことをひろく国民に訴えかけていたことからも、言論の自由が完全にうしなわれていたわけではないと著者は主張します。
その一方で、大森の国民戦線論は、まったくべつの理由によって現実性をうしなってしまったことを、著者は示しています。民政党と政友会の二大政党が、それぞれの置かれている状況のなかで憲政のありかたについての主張をおこない、美濃部達吉の天皇機関説も純粋な憲法学的観点からではなく、そうした政治的な状況のもとでそれぞれの態度が決定されていきます。とりわけ著者は、美濃部が議会を軽視した円卓巨頭会議の構想をいだいていたことを指摘し、民主主義の擁護者とみなすことができないと論じています。そのうえで、小泉内閣の政治状況に触れつつ、「改革」と「平和」というディレンマが当時においても存在していたという問題を提起しています。
また盧溝橋事件から十五年戦争へと入り込んでいく展開についても、作家の中野重治や哲学者の戸坂潤、軍事評論家の武藤貞一などが、その後の展開についての見通しを示していたことに触れて、国民にはこのときの危機について知るすべがなかったとはかならずしもいえないことを指摘しています。 -
昭和戦前と言うと軍部の膨張ばかりがイメージとしてあるが、自由主義も社会民主主義も含め様々な勢力が政治の舞台で蠢いていた。広田内閣後の宇垣一成への大命降下、石原莞爾らの工作による組閣流産から趨勢が変わったが、それでも日中戦争前夜まで日本では民主主義がそれなりに機能していた、とのこと。いままでの理解がガラッと変わる分析で新鮮だった。
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著者は歴史家には珍しく?単なる叙述ではなく概念化する事に特徴がある。満州事変→515という戦争→テロの前期の危機と、226→日中戦争というテロ→戦争の後期の危機を比較し、後期に着目し論じている(226はテロではなくクーデターではないか?と思うが)。この辺は井上寿一の「昭和デモクラシー」に通じるものがある。肝は第5章であり、戦争と民主主義を考える上で、社会大衆党の躍進をどう捉えたらよいのか?という点については今後考察を深めていきたいと考えている。
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2019年1月13日に紹介されました!
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昭和10年に騒ぎとなった「天皇機関説」の本質は、議会制民主主義どころか、議会を軽視した「円卓巨頭会議」構想(コーポラティズム?)。当時、エリート層の一方の極には皇道派・青年将校・右翼・政友会、もう一方の極には統制派・新官僚・民政党・社会大衆党・天皇側近と総理経験者。冒頭で語られるこの構図にまず混乱する。
引き続いて筆者は、陸軍・自由主義(既成政党=政友会と民政党)・社会民主主義(社会大衆党)の三つ巴の構図を基本に置くが、単純な三者関係とはしていない。昭和11年2月総選挙では民政党と社会大衆党が躍進。直後の二・二六事件を経て皇道派が凋落。翌昭和12年の総選挙では社会大衆党が更に躍進したが、直後に日中戦争が勃発。
後書きで筆者は、「一方の極に『戦争とファシズム』があり、他方の極に『平和と民主主義』があるという単純な図式も、また前者が一方的に後者を追い詰めて日中戦争に突入したという図式も、筆者が調べてきた史実と一致しない」と述べている。自分自身、この「図式」を無自覚的に信じてきたようで、だからこそ、本書を一読してこの時期の政治の複雑さに少々混乱している。 -
151031 中央図書館
2.26事件の頃が、やはり太平洋戦争にまで至る大きな節目であった。 -
最近読んだ昭和史系の本では一番おもしろかった本。
特に昭和初期のイメージを根底から覆される。