よく生きる (ちくま新書 564)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480062680

作品紹介・あらすじ

「よく生きる」。これは、時と所を問わず、人間にとって究極の問いである。人は強くて、同時に弱くなければならない。人は強くなければ自分の存在を守れない。しかし、それは動物としての生存の維持である。人は、弱くなったとき、他者の心を理解し、他者と真の交わりに入り、存在の根源に帰入する。それが人の幸せである。古今東西の哲学、宗教、文学を通して、人間のこの真実を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 岩田靖夫 「 よく生きる 」 生きるとは何かについて ソクラテス、レブィナス、宮沢賢治などから わかりやすく説明した本。今年一番の凄い本。図書館で借りたが Kindle購入


    ソクラテス「哲学の原則は 生きることではなく善く生きること」
    *人間の生=人間らしい=善く生きること=正しく生きること
    *吟味なき生(欲望的、動物的な生)は生きるに値しない
    *一国の主になっても〜大きな力を持っているわけではない

    著者の結論〜幸福とは
    *自己実現は 人間が生きるための条件〜人間は自分自身の力で やりたいことをやって生きる
    *生きる喜びは 他者との交りにある〜他者とは私が自由にできない者。他者が応答してくれた時 その応答は喜びをもたらす
    *私たちと私たちの存在の根源〜宇宙のすべての存在者の根源との関わり〜普遍的な霊性→生と死は同じもの
    *人間は本性的に社会に生きる存在者→どのような社会を作るか
    *何のために生きているか〜かけがえのない人に会うため〜かけがえのない人に会うことによって 自分もかけがえのない人になる

    福沢諭吉「学問のすすめ」
    *人間は無知だから 奴隷根性で生きる
    *自分として生きるために 学問として知識を持つ必要がある
    *物事の道理を知らなければ 自主独立の人間になれない

    カント「啓蒙とは何か」
    *何事も自分で判断できない状態=精神の未成熟
    *啓蒙された人間=自律的人間=自分の理性により判断し生きていく人間

    宮沢賢治「よだかの星」人間は弱いほど本質的な意味でいい
    *人間は 能力や地位で武装して 人を引きつけようとする〜その力がなくなれば、その人は見棄てられる
    *弱いのに近づいてきた人こそ その人自身と付き合いたい人

    宮沢賢治「雨にも負けず」
    *欲は無く→欲望を断つことが大切
    *一日に玄米〜野菜を食べ→粗衣粗食→人間の本当の喜びは 心穏やかなこと
    *あらゆることを自分を勘定に入れず→自分の事ばかり考えると人間は不幸になる、自分を忘れるほど幸福になる
    *死にそうな人がいたら 怖がらなくていいと言う→そこに浄土がある
    *みんなに木偶の坊と呼ばれ→自分がいるのかいないのかわからないように生きる

  • 岩田靖夫(1932~2015年)は、古代ギリシャ哲学を専門とする元・仙台白百合女子大学名誉教授で、文化功労者(2003年)。
    本書は、1992~2005年に、仙台白百合女子大学、清泉女子大学、聖心女子大学で行われた講演や様々な学会等での発表の中から、「よく生きる」というテーマに関わりのあるものを集め、2005年に出版されたものである。
    私は、10年ほど前に購入して、読み止しであったが、先日、渡辺和子さんの回想録を読んだこともあり、今般通読してみた。
    著者の根本理念は、自らを「ソクラテスの弟子の端くれ」というように、『クリトン』にある「もっとも大切にしなければならないことは、生きることではなくて、善く生きることである」というもので、ソクラテス、プラトン、アリストテレスをはじめ、宮沢賢治、レヴィナス、ドストエフスキー、ニーチェ、親鸞、ロールズら、古今東西の哲学者・宗教家・作家などの思想を引用して持論を展開している。
    具体的な論点としては以下の4つを挙げている。
    ◆人間の幸福の第一は自己実現である。「人間が自由で自律的な存在者である」ことの基本的な意味は、自分自身の力で、やりたいことをやって生きるということ。自分で自分を支えられないような人生、他人に命令されるがままの奴隷的な人生であってはならない。
    ◆しかし、各人が自己実現に励む社会は必然的に競争社会になり、否応なしに勝者と敗者が生まれる。よって、自己実現は人間が生きるための条件であって、生きる意味ではない。人の本当の喜びは、自己実現のうちにあるのではなくて、他者との交わりのうちにある。
    ◆人は自己を実現して自分の存在を確保し、他者との交わりによって愛の喜びを味わっても、挫折、病気、老化、死のような問題についての確たる態度を持てなければ、真の安らぎを得ることはできない。そこで、私たち個々の存在者は「根源」から送り出され、死を通して「根源」に帰るのであり、その「根源」は、「存在」、「神」、「絶対者」、「天」、「空」など様々に呼ばれるが、いずれにしても、善意に満ちた親であり、我々はその親元に帰るのだと信じることができれば、安らぎが生まれる。
    ◆人間は本性的に社会の中で生きる存在であり、その人間社会の究極理念である「自由」と「平等」を実現するために、人類は、民族という枠に囚われず、世界市民として国境のない自由で平和な世界をめざさなくてはならない。
    (2019年5月了)

  • 新書にしては大変重量のある内容であり、質、量ともに充実していた。
    よく生きる、というテーマについて導き出されたいくつかの提案は、是非とも自分の目で目にするべきだと思うが、特に感銘を受けたのは、第3章の「神について」である。

    その存在についてスピリチュアルな考察をするのではなく、よく生きないといけない理由、善き人でなければならない理由、そうあろうとする理由が、心に訴えかけられる。

    非常に意義ある読書体験だった。

  • 著者がおこなった講演や研究発表の中から、「よく生きる」という問題に関するものを13編収録している。やさしい語り口だが、扱われている問題はきわめて本質的だと思う。

    自分がもって生まれた能力を可能な限り展開させて生きてゆくこと、すなわち「自己実現」は、人間の生にとって重要な意味を持っている。だが、このことは人間が「生きること」の半分にすぎない。あとの半分は、他者との交わりのうちにある。自分を強くして、自分を守って、自分が傷つかないようにいつも用心していると、人は孤独になる。自分の「傷つきやすさ」(vulnérabilité)を他者にさらすとき、はじめて本当の意味での他者との交わりが開かれる。

    著者はこうした他者との交わりの根源を、ユダヤ・キリストの神の概念の中に見ようとしている。新約聖書には「神は愛である」という言葉がある。神が自己自身の中で自足していたのであれば、世界を創造するはずがないと著者は言う。神は愛であるがゆえに切に他者を求め、世界を創造したのである。愛の発露は、相手の応答を求める行為である。その相手は、反抗にせよ同意にせよ、自分に応答しうるものでなければ愛は成立しない。ここから著者は、神がみずからに反抗しうる人間を創造したのは、神自身が人間の反逆のために苦しんで苦難を受けることを求めたのだと述べる。

    私たちは神の姿を直接見ることはできない。ただ、『マタイ福音書』に記されているように、「この世でもっとも弱い者、もっとも虐げられている者、もっとも孤独な者、もっとも見捨てられた者の姿をとって神は現れる」のである。こうした著者の考えの背後にあるのは、弱者からの呼びかけに神の痕跡を見ようとするレヴィナスの思想と言ってよいだろう。

  • ソクラテスや福沢諭吉などの話などを出し、「よく生きる」ということを解説している。

    人間の長い歴史の中でようやくたどりついた民主主義。人は自由に生きることが大事であって命令や権力に左右されるべきではない。自己実現が生きることであるが、人間が本質的に持つエゴイズムがそこにはどうしても現れてくる。

    財産とか名誉とか社会的地位とか何だとか宝物をいっぱい抱え込むと人間は自由を失う。人間が憧れを持つのは「力」でそれによって人をひきつけ存在を強めようとするエゴイストである。それを得ることは「善く生きる」ことなのか?そうじゃない。

    なんで生きているのか?それはかけがえのない人に出会うためである。と著者はいう。

    自分の中に自分というものは存在せず、他人との関わりの中で自分が存在するのである。

    自分がどんなに力をつけて自分に見せつけたところでどうなる。大事なのは他人との交わりのなかで自分の存在の意味が見えてくるということだ。

    非常に読みやすい語り口で、大事なことを何回も違う表現などで繰り返すのでとても頭に入ってくる。「善く生きる」ということを考えさせられたと同時に「生きるとは何か」に納得がいき腹落ちした。

    色々な物語も混ぜられすごい読みやすいです。良書。

  • 「私と他者との間には深淵があるということです。」

    読み終わってから2年以上あるが、頻繁に心に浮かんでくるフレーズ

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