正義論の名著 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066121

作品紹介・あらすじ

西洋思想史上、「正義」について考えることは、「道徳」「倫理」「政治」などの問題とかかわりあいながら、つねにひとつの軸となってきた。「公正さとは何か」「正しさの基準はどこにあるのか」などなど、今日でも喫緊の課題として論じられるこれらについて、大思想家たちの「名著」は大きなヒントと刺激を与えてくれることだろう。プラトン、アリストテレスから、ホッブズ、ロック、ベンサム、ニーチェ、さらにはロールズ、デリダ、サンデル…。この一冊で主要な思想のエッセンスがわかる。

感想・レビュー・書評

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  • ギリシャで登場した「正義(デイケー)」という概念について、西洋の政治哲学がどのように考えてきたのかをコンパクトにまとめたもの。ときに徳の中身として道徳哲学的に説かれ、ときに国家の正当性の基準として社会哲学的に説かれる「正義」について考えるはじめの一歩となる本だった。
    (2024.04.07)

  • フロイト入門の著者と同じ。
    アリストテレスとかの時代から現代までの正義に関する哲学の話。
    社会契約や市民論、ロールズの無知のヴェールとか色々と参考になった。
    各々の哲学者の一部の論文の抜粋と説明で、西洋の哲学の在り方と推移が感じられた。
    特に驚いたのは、イリヤという自己の肉体の消失から考えを始める思考実験で、果てしない孤独と苦難を、他社に話しかけられる事により存在を認められ、その責任が生じるというとんでも理論はヤバいw
    また、正義とは究極に達成出来ないものとして今この時空に存在しているらしい。

  • 社会契約論と市民社会論の対立をヘーゲルが思想的に統合したものの、マルクスとニーチェによって崩壊。との事だが、そういう風に考えたことはなかったので勉強になったし、単なる名著紹介に留まらず、思想史的な潮流の整理にもなる。
    結局、社会契約論はロールズによってリニューアルされ、「ロールズ産業」という形である種の復活を遂げたように思うが、市民社会論はフランクフルト学派によってリニューアルされたと考えるべきなのか、そして両者は対立関係にあるのか否か等々が本書からはわかりにくかった。もうそのような二項対立で考える時代でもないのかもしれないが。

  • 『オデュッセイア』からデリダまで、歴史を振り返るかたちで「正義」の移り変わりが一気に読めた。ちくま新書の名著シリーズの中で、本書がいちばん流れがつかみやすかった。

  • 「正義」という言葉を発するとなんとなく思い浮かんでくるのは、「社会契約論」。

    好きか、嫌いかは別として、そこが思考のスタート地点となっている。

    「正義」という概念自体が、西欧と関連していて、思考がそっちのフレームに支配されてしまうんだな〜。

    というわけで、この「正義論の名著」は、西欧(アメリカ含む)における正義論の流れを整理してくれている。

    でてくるのは、ホメロス、プラトン、アリストテレス、キケロ、アウグスティヌス、トマス・アキナス、マキアヴェッリ、ホッブス、スピノザ、ロック、ルソー、カント、ヒューム、アダム・スミス、ベンサム、ヘーゲル、マルクス、ニーチェ、ベンヤミン、ハイエク、ロールズ、ノージック、ウォルツァー、サンデル、ホネット、レヴィナス、デリダ。

    ホメロスの「歓待」から始まりデリダの「歓待」に終わる正義論。名前をみているだけで、なんとなくワクワクしてしまう私はなんなんだろう?

    西欧の「正義論」の大きな流れが分かることで、なんだろう自分が誰的な発想で考えているのか、というフレームに気づきやすくなっただろうな〜、と思う。そして、「正義」が一番、大事な概念であるわけでもない。

    「正義」という言葉を発すると、「なにが正義か」という話になっちゃうんだけど、それ以前に、「正義が一番大事なことなのか?」という問いを抱くことができるといいな。

  • 正義論の変遷は、哲学というより、社会学なのかな、と感じた。
    人、社会の進化と共に、ワガママ=正義となりつつあるようにも感じる。
    選挙で選ばれた人を認めない、その統治が受け入れられない、という主張が普通になりつつある時代。
    新しい正義論がどう述べられるのか。
    今後も気にしたいですね。

  • 【目次】
    目次 [003-006]
    はじめに [007-011]

    第一章 公共善と正義 013
    ホメロス『オデュッセイアー』――ゼウスの正義 014
    歓待/復讐の正義

    プラトン『国家』――正義は、国家や人間における調和である 018
    正義は強者の利益/正義と国家/国家の三つの階級/魂における正義/正義とは/不正な人の魂の状態/不正という災厄

    アリストテレス『ニコマコス倫理学』――正義とは公的な善の実現である 028
    正義とアレテー/正義の政治学/普遍的な正義/特殊的な正義/幾何学的な正義/矯正的な正義/正義としての貨幣

    キケロ『義務について』――徳の女王としての正義 039
    ギリシアの正義論の限界/キケロの普遍的な正義論/他国への正義/奴隷、女性、未成年への正義/公共善としての正義/徳の女王としての正義

    アウグスティヌス『神の国』――「遍歴の旅」の途上の正義 046
    神の国と地の国/最高善/ローマの正義の批判/地の国の正義/遍歴の旅の途上の正義

    トマス・アクイナス『神学大全』――天上の浄福を準備するのが支配者の正義 052
    トマスの正義論の目的/法と正義/正義の種類/体制論/世俗の支配者と魂の支配者

    マキアヴェッリ『君主論』――自由な共和国における正義 061
    正義と公共善の絆/マキアヴェッリの大衆観/マキアヴェッリの君主観/マキアヴェッリの願い/君主と民衆/公的な徳

    第二章 社会契約論と正義 071
    ホッブズ『リヴァイアサン』――国家が正義を執行する 073
    ホッブズの人間観/自然状態における平等/自然権/自然法/社会契約/正義の自然法/国家と正義/正義の回復の道

    スピノザ『エチカ』――民主的な国家のうちで最高の自由と正義が実現する 084
    スピノザの人間観/国家の成立/自然権の保持/正義/最高権力と正義/最善の国家/国家体制と正義

    ロック『市民政府論』――不法に抵抗するのは正義である 095
    ロックの自然状態/社会状態と所有権/所有権の基盤としての労働/歯止めの解消/貨幣/不平等な私有財産の承認/二重の不正/政府状態の設立/国家の形態

    ルソー『社会契約論』――社会契約が正義を実現する 110
    野生人と正義/社会状態と正義/正義の発達の三段階/革命の必要性/社会契約の課題/政治体の成立/国家法と正義/社会契約と正義

    カント『人倫の形而上学』――永遠平和のうちで地球的な正義を 124
    社会の成立/正義の社会/公民的な状態へ/法と正義/国家における正義と革命/国家体制論/世界公民状態へ

    第三章 市民社会論 137
    ヒューム『人性論』――人間はその本性からして社会を作り、正義を実現する 139
    社会の形成と効用/人間の反社会的な要素/三つの財産/正義の実現/正義の起源/情念論/穏やかな情念/道徳と正義

    アダム・スミス『道徳感情論』――人間には正義を望む道徳的な感情がある 150
    共感の概念/正義を守る法/中立な観察者/「内部の人」/社会の形成/見えざる手/経済学と正義

    ベンサム『道徳および立法の諸原理序説』――最大多数の最大幸福 164
    最大多数の最大幸福/サンクション/立法者の視点/快楽計算

    ヘーゲル『法の哲学』――正義を欠いた幸福は善ではない 173
    人格と正義/不正と正義/道徳と正義/幸福と正義/市民社会と国家

    第四章 現代の正義論 181
    マルクス『ドイツ・イデオロギー』――イデオロギーとしての正義 183
    イデオロギーとは/搾取の不正義/分配的な正義/正義の社会

    ニーチェ『道徳の系譜学』――約束する人間の正義とルサンチマンの正義 189
    「約束する人間」の誕生/正義の弁証法――共同体の正義/正義の弁証法――矯正の正義/正義の弁証法――正義の止揚としての赦し/反動的な人間/ルサンチマンの正義/キリスト教の役割

    ベンヤミン「暴力批判論」――未曾有の正義 199
    暴力と正義/二種類の暴力/警察/神話的な暴力と神的な暴力

    ハイエク『法と立法と自由 二 社会正義の幻想』――配分的な正義は不正 205
    開かれた社会/正義に適うルール/社会正義の不正/正義論批判

    ロールズ『正義論』――公正としての正義 212
    『正義論』の目的/社会契約の前提/原初的な状態と正義の状況/無知のヴェール/ロールズの原理/ロールズの正義

    ノージック『アナーキー・国家・ユートピア』――正義の国家は最小国家 223
    相互保護協会/超最小国家の誕生/最小国家の誕生/ロールズ批判/最小国家の魅力

    マイケル・ウォルツァー『正義の領分』――財が異なると、正義も異なる 231
    正義の内実/財の多元性/複合的な平等/財の領域

    マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』――善は正義よりも優先される 238
    付加なき自我の批判/正義と善/道徳的な責任の三つのカテゴリー/目的論

    ハーバーマス『討論倫理』――討議において正義と連帯が実現する 244
    ロールズの正義論の評価/三つの欠陥/討議的な倫理/討議と正義

    ホネット『正義の他者』――不正から正義を考えよう 250
    不正からみる正義/愛の圏域――個人としての承認/法の圏域――人格としての承認/連帯の圏域――共同体に参画する人格としての承認/三つの圏域の正義の衝突


    レヴィナス 『全体性と無限』――他者との語り合いが正義である 256
    イリヤ/存在の不快/他者と時間/責任/正義/貨幣

    デリダ 『法の力』――正義とはアポリアである 263
    法と脱構築/法の脱構築/正義と脱構築/第一のアポリア――規則の適用/第二のアポリア――決断不可能性/第三のアポリア――切迫性/贈与のアポリア

  • 道案内としては秀逸な書です。

    各論者の正義論をこれだけ簡潔に要約するのは尋常ではない作業のはず。特に現代に近づけば近づくほど、これまでの論者への批判や系譜、根拠などを踏まえて書かねばならないので、最後のレヴィナスやデリダが紙面が足りていない様子になるのは仕方がないのではと思います。

    こういった要約紹介の道案内本の読み方としては、誰のどういう部分に共感・違和感を覚えるのかをピックアップし、自分の考えをメモしておくのが良いのではないでしょうか。それが、政治や法の根底にある正義の問題ならなおさらです。自分はそのようにしています。
    そのようにして自分の中に浮かばせた関心の雲は、いつどのようなきっかけで相互につながるかわからない、というのが経験からの示唆ですね。面白いです。

    CPは最高です^^不十分だと思ったらもう少し本格的な正義論の本へ進めばいいのです。

  • [ 内容 ]
    西洋思想史上、「正義」について考えることは、「道徳」「倫理」「政治」などの問題とかかわりあいながら、つねにひとつの軸となってきた。
    「公正さとは何か」「正しさの基準はどこにあるのか」などなど、今日でも喫緊の課題として論じられるこれらについて、大思想家たちの「名著」は大きなヒントと刺激を与えてくれることだろう。
    プラトン、アリストテレスから、ホッブズ、ロック、ベンサム、ニーチェ、さらにはロールズ、デリダ、サンデル…。
    この一冊で主要な思想のエッセンスがわかる。

    [ 目次 ]
    第1章 公共善と正義(ホメロス『オデュッセイアー』―ゼウスの正義;プラトン『国家』―正義は、国家や人間における調和である ほか)
    第2章 社会契約論と正義(ホッブズ『リヴァイアサン』―国家が正義を執行する;スピノザ『エチカ』―民主的な国家のうちで最高の自由と正義が実現する ほか)
    第3章 市民社会論(ヒューム『人性論』―人間はその本性からして社会を作り、正義を実現する;アダム・スミス『道徳感情論』―人間には正義を望む道徳的な感情がある ほか)
    第4章 現代の正義論(マルクス『ドイツ・イデオロギー』―イデオロギーとしての正義;ニーチェ『道徳の系譜学』―約束する人間の正義とルサンチマンの正義 ほか)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ちくま新書の第一の名作です。少し読んだものの、新書とは思えない内容の重厚さに、積ん読にしてしまい、3年かかって読み切りました。
    読んでいてしみじみ感じたのは、人間の知識や科学技術は過去2,000年で大きく膨れあがったけれども、考える能力はさほど進歩してないなあということです。たとえば、もしソクラテスやカント、アダム・スミスが目の前にいて、道徳を説かれたとして、論破できる自信はないです。

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著者プロフィール

中山 元(なかやま・げん)
1949年生まれ。東京大学教養学部中退。思想家・翻訳家。著書に『思考の用語辞典』などが、訳書にカント『純粋理性批判』、ハイデガー『存在と時間』などがある。

「2022年 『道徳および立法の諸原理序説 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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