創造的福祉社会: 「成長」後の社会構想と人間・地域・価値 (ちくま新書 914)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066190

感想・レビュー・書評

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  • 第1章では日本社会の将来を抽象的に述べています。コミュニティ感覚の醸成が歴史的にも求められるだろうと著者は言います。これについては本書では触れられていませんが、社会心理学者の山岸俊男さんの主張と重なる部分があるため、なかなかに興味深いです。
    経済の二極化、貧富の格差について、歴史的に必然と言っていますが、もう少し議論を掘り下げてほしいところです。分配の問題、著者はフロー(現金給付)ではなくストック(主に住宅)支援をすべきと主張します。これは特筆すべきであり、人口減少社会において、若者が親と同居するのではなく、ストックにより自立支援によって、親への負担を軽減させる効果が期待できます。目から鱗……とまではいきませんが、参考になります。

    コミュニティ感覚の醸成は確かに必要だと思いますが、大きな進展が期待できるかは何とも言えません。社会的ジレンマの一つでしょうが、『誰が』『どのように』行うのか、一般論の域を出ず、もう少し踏み込んだ論を展開してほしいと感じました。また先進事例等が挙げられていれば良かったのですが、それも乏しかったため、説得力に欠ける感は否めません。

    否定的に言いましたが、大筋では著者の主張に賛成です。

    第2章は人類の歴史から成長と停滞(本書では定常と呼ぶ)のサイクルを俯瞰していますが、スケールが大きすぎて若干の胡散臭さがあります。読めば分かると思いますが、些事は事実とは違っていても、大枠では的を射ているように思います。

    パイの拡大が期待できない今、考えられる方向は、著者の言う通り新たな価値観を創造することで、言わば別の資源(ここでの資源とは物質的なものではなく、例えばブランド化のような付加価値だったり、今まで活用されていないものを復興させることで、新たなパイを作ること)を開拓することだろうと思います。これまで以上に、もっともっと、社会のシステムが変わりそうです(例えば働き方やライフスタイル等)。

    序盤は面白く、中盤では盛り上がりに欠けた(退屈といってもよいくらい)でしたが、終盤では今までの議論がつながっていき、怒涛の巻き返しが続いてびっくりしました。つなげ方に若干の強引さはあるものの、納得させられるものがあって、興味深いです。
    僕の評価はA+にします。

  • 人類は第3期の定常期にきていて、心のビックバン、精神革命で今。その都度人のあり方に変化が起きていて、それらを参考にして今のあり方を考えることができるという話。
    GDP比で国ごとの教育費や医療費のことを比べているが、国民1人当たりで見るべきだと思う。
    人を多く活用して環境負荷をなくすビジネスモデルができると良い。
    子どもと高齢者は地域密着層。
    狩猟生活は人間エネルギー、農耕生活は動植物を制御するエネルギー、産業社会は地下資源エネルギーを利用している。

  • 資本主義における成長、拡大の限界→ポスト資本主義=リバタリアニズム→コミュニタリズムの復権

    長い歴史の中でメタ的に見ると、これは周期的なモノであると捉えることが出来るのか。

  • コミュニティの勉強。基礎周り。人口が資源量を超えた先、生産力が生活必要量を超えた先の社会の一仮説。政策論文ってこんなのなのね。仮説に仮説を重ねる形はまだ慣れない。

  • キーワードは定常化社会。
    定常という言葉には、安定感とともに変化しないといった印象もある。

    が、変化しないとは、ざっくり良いことなのか?良くないことなのか?

    どの程度の時間軸の大きさで定常化を定義するのか?
    また、立ち止まってその成熟とも言える飽和した状態を見直すというミカタもあろう。

    成長とは、スパイラルに変化するというイメージを持つとき、ある意味で一見定常とも言える状態を異なったミカタで見直すことの繰り返しであるかもしれないと思うのである。

    そのような視点で、ここから先の社会構造を見直すとき、回帰したミカタを考える一冊である。

    社会とは、内側での豊かさを外側にさらに大きく広げる欲求の連続で変化してきたように思う。決して経済的進歩を否定するものではなく、今ここで外側の豊かさを超えた新しい内側の豊かさとは何か?を考えるきっかけとしたい。

  • 効率化→生産過剰→総量(雇用等)が増大し続けない→椅子が空かない/非正規雇用など→若者の失業・貧困→少子化/職を持つorないでの格差拡大→消費が抑制→ ・・・のサイクル

    ◎各人が人生のはじめにおいて”共通のスタートライン”に立てる状況が大きく揺らいでいる
    ◎個人のチャンスの保障には、一定の制度介入が必要になってくる
    ◎福祉とは、どんな個人の潜在能力も社会に活かす取り組み

    解決策
    ・過剰の抑制
    ・再分配・・・シェアの普及
    ・見えないものを売る→文化、サービス、経験などへの価値増大
    ・雇用の増大・・労働集約型の業種(教育、福祉)に労働力のシフト
    →政府、社会保障、税の役割
    福祉社会化


    【人生前半の社会保障が必要】
    ・教育 (特に就学前、高等教育期)
    →保障の強化によって、各個人の潜在能力の発揮や自己実現の機会を広げ、経済という点からもプラスの効果を持つ

    ・ストックに関する社会保障(土地、住宅、資産など)


    【セーフティネット】
    ・コミュニティ
    コミュニティ自体の再構築の必要性
    →町づくり

    【アイデア】
    ・環境税を福祉サービスの資金に再分配
    ・新しい価値評価の思想
    GDP→GNH(国民総幸福度)

    【コミュニティ】
    ・多極集中型 コミュニティ醸成型の空間構造+福祉政策
    →問題は”社会的孤立”
    ・都市型コミュニティ が目標
    個人と個人が繋がれる仕組み

    ◎規範創りが重要

    個人→コミュニティ→自然 の連動
    都市型コミュニティ・・個人と個人が尊重、コミュニティの中でシェア
    パイ(総量)が広がらない→いかに内部で豊かな生活を送るか。見えないもの(文化)などの投資


    【ポイント】
    ・時間軸<空間軸 多様性や固有の価値の再発見
    ・これからはクリエイティブ産業が中心的に
    (文化、科学技術、アート、教育など)
    ・非貨幣的な動機付けが重要視
    ・”仕事・社会と大学等での学びの往復”が可能な社会作り
    ・「考える力」1つの答えのない問題を考えることそれ自体のプロセスや面白さ が創造性のコンセプト
    ・子供と高齢者の割合が増加→土着的、地域密着の時期→地域コミュニティが重要な役割

  • 「時間軸/歴史軸」(私たちはどのような時代を生きているか)、「空間軸」(グローバル化とローカル化はどのような関係にあるか)、「原理軸」(私たちは人間と社会をどのように理解したらよいか)の3つの構成から成る。3番目が面白いらしいが、理解力不足であまりわからなかったため、第1の軸中心で述べる。

  • 現代社会が今後どのような方向に進むべきであるのかについて作者の意見が述べられている。
    第三章の定常型社会についての作者の意見はとても面白い。

  • 最初、資本主義社会が限界を迎えた先の社会の在り方について主に論じた本かと思ったら、実はそれは広井先生も明確な結論を持っているわけではなく、むしろ大部分は資本主義社会以前の過去の定常型社会について論じられていた。

    資本主義を相対的に捉えようとするだけでなく、「人類」が類人猿から分岐した時からの「社会」の在り方について、かつてない広さの視野をもって論じている。
    途中、生物人類学や心理学の知見を取り入れた部分もあり、広井先生の知識の広さを感じさせる。

    一章は資本主義の歴史、二章は街づくり論などについて勉強になった。
    そして第三章が、視野が広い上にかつて聞いたことのない規模の話だったため、非常に興味深かった。

    内容はちょっと難しいけど、語り口は非常に分かりやすいのでおすすめ。

  • 前作「コミュニティを問いなおす」よりはちょっと高度になっていた
    成長が終わった定常型社会という提起は変わっていないけど
    さらに難しくなっていた

    もう一度、読み直さないと理解できない、ちょっと難解な本

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著者プロフィール

広井 良典(ひろい・よしのり):1961年生まれ。京都大学人と社会の未来研究院教授。専攻は公共政策、科学哲学。環境・福祉・経済が調和した「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱。社会保障、医療、環境、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等の主題をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。著書『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009年)で大佛次郎論壇賞受賞。『日本の社会保障』(岩波新書、1999年)でエコノミスト賞、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社、2019年)で不動産協会賞受賞。他に『ケアを問いなおす』(ちくま新書)、『ポスト資本主義』(岩波新書)、『科学と資本主義の未来』(東洋経済新報社)など著書多数。


「2024年 『商店街の復権』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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