ヒトラーの側近たち (ちくま新書 932)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066244

作品紹介・あらすじ

ヒトラーに共鳴・心酔し、あるいは打算で、ヒトラーの支配妄想を成就させようと画策したナチスドイツ。直観力に優れ弁は立つが、猜疑心が強く気分屋のヒトラーに、なぜ、ナチスの屋台骨である有能な側近たちが追随したのか。彼らにより強化され、エスカレートしていったヒトラーの支配妄想とはいかなるものだったのか。ゲーリング、ヘス、ハイドリッヒ、アイヒマン、ヒムラー、ゲッベルス…独裁者を支えた側近は、政局や戦局のときどきに、どのように対処し振舞ったか。過激な若者集団が世界に巻き起こした悲劇の実相をえぐる。

感想・レビュー・書評

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  • ある組織で、有能な部下に恵まれ有能な指導者が成功し、そして独裁し、徐々にイエスマンだけが残り、最後は惨めに終わる。
    この歴史が常に繰り返されてきた。歴史という記述から学ぶことはできるが、自分と同時代の人々の現実として、日本の多くの企業の中で同様のことが起こるようになって久しい。私自身もこの十年くらい独裁者とイエスマン側近の姿を身近で見るようになったし、見聞きする日本のいろいろな組織の話にもそのような例が多くなった。先日東京の本屋でこの本を見かけて、究極の一例としてのナチスドイツとヒトラーという典型の中で、側近たちとヒトラーの日々がどのようなものだったのか興味を持って購入した。

    ゲッペルス、ゲーリング、ヒムラー、ボルマンといった有名な人たちも当然登場するが、エッカルト、ベッヒシュタイン夫人、ハンフシュテンベルグ、グラーフ、ショイブナー、ワグナー家のヴィニフレットなどのナチス党の発展に寄与した人たちとの関係などは、初めて知ることが多かった。経済を統制したシャハトの仕事は、機会があれば別の文献等でもう少し調べてみたい気もする。

    本書はヒトラーが第一次世界大戦で従軍した後から、ベルリンの地下壕で死ぬまでを時系列でたどりながら、彼の周囲に居た人々について説明をしてくれるのでとてもわかりやすい。
    本書のエピローグのタイトル「彼らはどこで誤ったのか」が本書のテーマであり、読者の興味である。このエピローグをいくつかにわける小見出しは「国民の不満と過激な若者集団」「個人崇拝のエスカレート」「反ヒトラーは、むしろ軍部から」「ドイツの悲劇」と連なり、著者の結論は「問題はヒトラーを囲む彼らはあまりにも長く総統の独裁に黙ってつき従ってしまったことである。」ということだが、これは敗戦が決定的になっても2年間にもわたって事態を放置された「ドイツの悲劇」の原因として述べた結論であって、第二次世界大戦やユダヤ人の虐殺をもたらした原因として述べているのではない。

    著者はこう結んでいる。
    「二〇一〇年十月から今年の二月にかけて、ベルリンのドイツ歴史博物館において「ヒトラーとドイツ人」という異例の展示会が開催されたが、そのなかでヒトラーに最後までつき従ってしまったドイツ国民のテーマは、まだまだ尽きることのない反省と議論と回顧の対象であることを明らかにしている。」「ヒトラーの手先となってしまった側近たちは、その問題の中心的存在なのである。」

    最近になって、「ヒトラー~最期の12日間~」や「ワルキューレ」など、ヒトラーに絡む映画がつくられているのは、理由はともあれ同様の関心を持つ人が世界にいるということなのかもしれない。
    誰もが自分が「愚かな独裁者」や「暴君」になりたいとは思っていない。なりたくないものに進んでなって行ってしまう人間の性質を学ぶには、他人の事例を知り、自分で経験を積んでいくしかない。その「知りたい」という欲求が高まっている事実が背景にあるといえよう。
    第二次世界大戦終結後これまでの70年間は、私達世界の人間のある多数にとって反省と議論と回顧の期間であったのだろうが、今の我々の身の周りはすでにその反省と議論を生かした行動が求められる時代になっているのである。

    独裁者の暴走を防げるのは側近だけであり、側近の無為を防げるのは独裁者だけである。絶望的なこの命題を解く鍵はあるのだろうか?
    つい最近になって読んだ「動的平衡」にも述べられているように、生命体は自らの分子を高速で入れ替える流れによって自己を維持させているのである。私は一つのヒントをそこに見いだしている。
    もちろん単に「若返り」がすべてを解決する訳でもないし、唯一の方法でもない。しかし生命を維持させているのが多様性、補完性であることは広く応用が利く知識である。

    ロンメル(本書では「ロムメル」)将軍は国民に人気があり、名声の高いままに死んだ。ケネディや山本五十六もそうだった。しかし彼らは自ら進んで退場したのではない。彼らがそのまま生きていたら彼らの名声がどうなったかはわからない。
    独裁者の陥穽は自身の心の中にある。それは独裁者の崇高な使命とはかけ離れた小さな個人の心理に関係がある。「もし人から好かれたまま死にたいのなら、前と外を向いたまま去って行くことだ」としか今の私には言えない。数多くの事例はそれを示している。
    一度頂点にたってしまったら、死なずとも何らかの方法で消えるしか道はないのだ。今のところ。
    本書を読んでその私の考えが変わることはなかった。

  • ヒトラーとナチス・ドイツのことは、授業で習った以上には知っていた。

    ヒトラーがあれほどの権力を握るために、
    側近たちが果たした役割は大きい。
    それ以上に、あれほどの事をやらかした裏にも、
    側近たちの存在も非常に大きい。
    イエスマンばかりの側近たちに囲まれて、
    ヒトラーは優越感に浸っていたのだろうか。
    側近たちは、権力が欲しいためだけに、イエスマンで居続けたのだろうか。

    せめて側近の誰かには、間違っていることを鋭く糾弾してほしかった

  •  大澤武男氏による、ヒトラーのナチ・ドイツの重要人物の簡略な列伝的な概説書。ヒトラーのナチ党立ち上げから第二次世界大戦のヨーロッパ戦線の終結に至るまで基本的に時系列に沿いながら、側近たち、従者、愛人などの果たした役割や彼ら、彼女らに対するヒトラーの思いや言葉、後世の評価などをおりまぜうまく一冊の書物に仕上げている。ヨーロッパ近現代史、ことに第二次世界大戦やナチ・ドイツ関連は主に犯罪、戦争犯罪、ホロコーストや虐殺などの側面からだけでも膨大な人物が関わっているが、本書を通読することでその研究なり勉学の基礎的人脈網や人物の経歴や果たした役割などを概観できる。入門書としては優良推薦図書に推薦できるものであろう。

  •  ヒトラーが政権を取るまで、ミュンヘン一揆で投獄され、議会に進出して総統になり、第二次世界大戦が始まり、戦局が悪くなってから暗殺未遂で狙われ、最後は地下壕で自殺するまで、というヒトラーの生涯にだいたい沿う形で、ヒトラーが頼りにした人物、関係が深かった人物を取り上げた本。「ヒトラーの側近」以外にも、例えばまだヒトラーが政権を取る前に、ヒトラーに財政援助をしたり精神面で支えた〇〇夫人(複数いる)とか、最後はヒトラーの妻となりヒトラーと自殺したエヴァ・ブラウン、あるいはヒトラーを暗殺しようとした「ヴァルキューレ作戦」で有名な片目のシュタウフェンベルク大佐なども含まれる。
     よくホロコースト関係の本で、ヒトラー以外に「ヒトラーからヒムラー、ヒムラーからハイドリッヒ、ハイドリッヒからアイヒマンなどの部下たちへという順序で『最終解決』への道は準備され、遂行された」(p.149)みたいなことは目にするけど、そういった人たちに焦点を当てて書かれた本、というのを初めて読んで、興味深いことがたくさんあった。けど、結局もう誰が誰だか、人名が覚えられずによく分からんことになった。表とか組織図とかを示して欲しい。
     あとは気になったところのメモ。まずヒトラーの側近たちを見ることによって、ヒトラー自身がどういう性格、というか特徴があるのかということがよく分かった。「酒も飲まず無口なタイプ」(p.23)で、「孤独な存在」であり、さらに「物事をきちんと順序よく整理し、処理することができなかった」(同)ので、党の運営面は全部部下に任せてしまい、組織作りや資金のやりくりなどに全く興味を示さなかった、みたいな話が何度も出てくる。と同時に「まじめなヒトラーは未亡人ホフマンにきちんと感謝する礼を忘れなかった」(pp.24-5)とか、贅沢三昧のゲーリングに対し、「一国の元首としてはまったくめずらしいほど簡潔なヒトラーのいでたち、生活態度は、少なからず庶民の好感を得て」(p.106)いて、「ヒトラー自身、彼の生活スタイルを軽蔑し、横目で見ていた」(p.108)という、なんか律儀というか真面目という感じも伝わってくる。(の割には「党首ヒトラーが、後日豪華な住まいに住み、ベンツのオープンカーを乗り回すようになる」(p.22)とも書いてあるので、単に大事だと思う部分に関しては素直で実直な対応をするけど、あとは無頓着、というただそれだけの話かもしれない。国民の好感を得るために、特に政権を取った後は「質素」を演出しただけ、というのもあるし)
     あとは組織が急に大きくなりすぎたことに関して、「たとえばSA隊には失業者、元兵士、農民、用心棒や風来坊、また浮浪者まがいの若者などが不況下で生活を目当てにしてとめどなく流れこんできた」(p.64)ということで、そういった生活に苦しかったり教育も不十分な人たちを精神面だけでなく実質面でも取り込むことになった、という点が印象的だ。
     あとゲッベルス(いつもおれはゲーリングとごっちゃになるんだけど)は、「小柄で、片足が発育不足で不自由」(p.110)だったらしく、「安楽死政策」までやって遺伝云々を語り、見た目重視で人々を引き付けていた組織の上層部にそういう人がいた、というのが驚きだ。ちなみにこのゲッベルスは「ユダヤ人絶滅政策の首謀者として、最後の最後まで主人を見捨てず、ベルリン総統官邸で共に自決して果てるまで、"ご機嫌とり"に徹した」(p.113)ということで、ゲッベルス以外にもこの本にも何人か"ご機嫌とり"的な人物が出てくる。印象的だったのは、国防軍最高司令部長官だったカイテルという人物で、「目にあまるヒトラーへの黙従」(p.141)、「目に見えたへつらいの態度は、周囲からそれとなくひんしゅくをかっていた」(同)ということらしい。
     そして、祖国のために、という戦争が、ただのテロ組織による犯罪行為になったとき、あるいはこれ以上の無駄死にする自国兵を増やすまいとして、ナチに反対しようとする軍人はそれなりにいた、ということは知っておいてもよいと思う。まず最初、「戦争開始と共にはじまった占領地でのナチス勢力による残虐行為、ユダヤ人の虐殺等の目にあまる行動は、国防軍側からの抵抗に出くわす」(p.130)とあり、結局途中で加担はするものの、最終的には「戦況が次第に振りになるにつれ、ヒトラーの人命や軍人精神を無視した国防軍に対する過酷で、展望を失った命令と要求は、徐々に将軍たちの間に反抗勢力を生み、ヒトラー暗殺計画へと発展してゆく。心ある将校たちは祖国ドイツの全面的な崩壊から民族の名誉を救おうとした」(pp.130-1)の部分が印象的だった。最後のまとめの部分で「反ヒトラーは、むしろ軍部から」(p.222)とあり、この部分はおれにとっては新しかった。
     最後に印象に残ったのはp.196の写真。ヒトラーが地下壕暮らしの時には生気を失い、ちゃんと歩けもしないのに、最後の誕生日には「祝賀に来たベルリン防衛にはげむ少年たちを讃え、勇気づけた。ソ連軍の大砲の轟音がひびく総統官邸の庭でほほえみながら少年たちの肩をたたき、ほおをなでながらはげますヒトラー最後の写真」(p.195)というのがあり、ヒトラーの弱さと強さを同時に感じる写真みたいで、なんか複雑な気分になった。
     今回12月に一連のユダヤ人とかナチの歴史の本を読んだのは、放送大学の面接授業でこのあたりの講義を取ったからだったが、数年前にアウシュビッツに行った時に読んだ何冊かの内容を思い出せたり、やっぱりなんでこんな事態が起こったのかをあらためて考えることができ、勉強になった。録画しておいた海外のドキュメンタリーでNHKで放映されていたヒトラーの最期、みたいなのも観た直後だったので、この本は割とスラスラ読めたが、そういう話を知らないと、結構想像しにくいかもしれない。とりあえず人名が整理できる何かがあれば良かった。(18/12/24)

  • [ 内容 ]
    ヒトラーに共鳴・心酔し、あるいは打算で、ヒトラーの支配妄想を成就させようと画策したナチスドイツ。
    直観力に優れ弁は立つが、猜疑心が強く気分屋のヒトラーに、なぜ、ナチスの屋台骨である有能な側近たちが追随したのか。
    彼らにより強化され、エスカレートしていったヒトラーの支配妄想とはいかなるものだったのか。
    ゲーリング、ヘス、ハイドリッヒ、アイヒマン、ヒムラー、ゲッベルス…独裁者を支えた側近は、政局や戦局のときどきに、どのように対処し振舞ったか。
    過激な若者集団が世界に巻き起こした悲劇の実相をえぐる。

    [ 目次 ]
    第1章 政権への道(よみがえる若者ヒトラー―輝く一級鉄十字章;ナチス党員番号2―エッサー ほか)
    第2章 独裁支配の確立と戦争への道(国防軍司令官を前にした演説;独裁支配の演出―フリック ほか)
    第3章 侵略戦争と側近たち(安楽死政策の遂行者―ボウラー;安楽死政策の方法と勇気ある司教 ほか)
    第4章 破局を前にして(総統官邸地下壕;鳴り続ける電話 ほか)
    エピローグ 彼らはどこで誤ったのか(国民の不満と過激な若者集団;個人崇拝のエスカレート ほか)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ヒトラーの無茶苦茶さがよくわかったが、話の焦点はその側近となるため、全体の流れを把握できてればよく理解できるんだろうが、そこがわからないため中々退屈。

  • ヒットラーの個人独裁の政治は狂気に満ちているように思われますが、ヒットラーを支えた側近たちが非常に優秀であった反面、肝心なところでヒットラーの命令の前ではイエスマンでしかなかったのが悔やまれるところです。特に軍部の将軍達の態度は政治に隷属し過ぎて、ヒットラーの狂気をそのまま冷酷に実行してししまうという不幸な結果に終わっています。ヒットラーの側近と言われた紳士淑女達の人生を、どこで間違えたのか今更指摘しても詮無いことですが、日本人が同じイエスマンの集団にならないようにしておかないと歴史は繰り返すような気がしますね。

  • さらりと側近達が紹介されている。ヒトラー以外の存在を知るにはいい。

  • 礼儀正しい、孤独な、挫折感、そんな独善的な一人の人間が、彼に召命的なものを感じた周囲の人たちの支援や献身により、独裁者になっていく過程を時系列にまとめている。

    世界大戦後の天文学的賠償額やインフレとかで、高まったままの国民の不満が渦巻く中で、42歳の首相や30代の閣僚に期待するものがあったのだと思う。

    その中で、一人の凶器を作り出しのは、確かに狂信的な側近だと思うが、国民や周辺の国家だったのかも知れない。

    黙従するもの、反逆しようとするもの、登場人物は有名人もいれば、本書で初めて知った人もおり、興味深く読めました。

    側近たちの人物紹介の形式をとっているが、なかなか興味深い一冊だと思います。

  • 「若いときから礼儀正しいヒトラー」と「飼い主を求める野良犬のようにさまよっていた」ゲッペルス--ナチ高級幹部の実像を紹介する一冊。「出世できる」ためには何でも理由をつけて遂行する人間像は他人事ではないかも。誤記が目立つのが難か。

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