- Amazon.co.jp ・本 (948ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480066428
感想・レビュー・書評
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現在の日本の現状を、1937年の、崩壊の始まりに直面していた日本の当時になぞらえる著者のあとがきは、本文を読めば納得させられるものがある。危機を深化させ崩壊をもたらした昭和維新に、今のどのような状況を見ているのかも良くわかる。筆者は、亡の次には興がくる、そのリーダー達はすでに出番をなっているはずだと書いているが、今、我々が選択を間違えば、再び「崩壊」を経験しなければならないことになるのだろう。しかし、選択肢は余りにも乏しく感じる。
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東京大学名誉教授(日本近代政治史)の坂野潤治(1937-)による、近代日本における憲政史概説。
【構成】
第1章 改革 1857-1863
1 「尊王攘夷」と「佐幕開国」
2 西郷隆盛の「合従連衡」論
3 単独出兵か合従連衡か
4 「尊王攘夷」の台頭と薩長対立
5 混迷の文久二年
第2章 革命 1863-1871
1 西郷隆盛の復権
2 公議会
3 薩長同盟
4 「公議会」か「武力倒幕」か
5 革命の終焉
6 「官軍」の解散と再編
第3章 建設 1871-1880
1 「建設」の青写真を求めて
2 「強兵」と「輿論」
3 「富国強兵」と「公議輿論」
4 「公議輿論」派の分裂と「富国」派の全盛
第4章 運用 1880-1893
1 農民の政治参加
2 「富国」路線の挫折と立憲政体構想の分化
3 「強兵」の復権と日中対立
4 憲法発布と議会開設
第5章 再編 1894-1924
1 積極主義と立憲政友会の結党
2 日露戦争と政界再編期待
3 大正政変
4 「民本主義」の登場
5 「憲政の常道」と「苦節十年」
6 原敬内閣と「民本主義」の対立
第6章 危機 1925-1937
1 内政・外交の両極化
2 危機の顕在化と政党の凋落
3 危機の渦中の民主主義
4 「危機」から「崩壊」へ
本書はそのタイトルに日本近代史を謳っているが、その中身を見れば、憲政史の通史と言えるだろう。外交史でもなく政治過程論でもないので、痛快さも泥臭さもない。政体の模索-確立-運用のダイナミズムが示されている。
冒頭から一般的な通史とは異なる分析が連続する。幕末史を尊王-佐幕、開国和親-佐幕という二つの二項対立だけではなく、いかなる「政体」を求めるかという点、その軸に西郷隆盛を据えるあたり面白い。そして、諸侯からなる上院と志士層からなる下院の合従連衡を目指すステップの具現化が「薩長同盟」であり「薩土盟約」であっと論じる。
ただ、辞官納地した大大名・徳川慶喜に対して、新政体における薩長のプレゼンスを維持せんがために武力討伐に踏み切る部分については、やはりしっくりこない部分がある。
憲政史である本書のクライマックスは明治新政府が憲法を制定するまでの過程すなわち、第3章と第4章となる。
征韓論争、台湾出兵、西南戦争を経て、西郷が死に、木戸・板垣が野に下った。
残ったのは大久保が唱道する「富国」つまり殖産興業への道であったが、これも早期に限界が見える。その限界の主因となったのが、唯一の直接国税にして、金納固定税であった「地租」であったとは、これまで意識したことがなかった。
しかし、1880年代の農民民権の拡大、議会開設直後の初期議会が地租軽減を叫ぶ地主層の意見表明の場となったことを考えれば、この租税の重要性は計り知れない。
西南戦争後の松方財政によるデフレ政策と、山縣有朋による軍拡志向の板挟みにあったのは地租を納める農民であった。結局は規模の小さな自作農が没落し、地主の腹が肥えて、減税を訴える求心力となった。
本書の面白さは帝国憲法の特色を、天皇大権等(後半の章で触れているが)ではなく、予算編成と徴税権に求めるところにある。しかし、著者が主張するこの文脈を押さえることで、その後の自由党から立憲政友会へのブリッジが見えてくる。
伊藤博文が総裁に座った立憲政友会の設立以降の政治史については、坂野氏自身の先駆的な研究成果も相まって、これまで他書において十分語られてきた内容とそう変わらない。
紙幅の関係もあるだろうが、原敬や浜口雄幸の人物像にしろ、本書における政友会と憲政会(民政党)の政策軸にしろ、いずれもやや単純化し過ぎているように感じる。
ごく短い期間ながら機能してはずの、政党政治がなぜ機能不全に陥ったのかについては、その時々の情勢もあろうが、もう少し構造的な課題があるのではないか。
しかし、いずれにせよ、政党政治・議会政治の危機に瀕していた1935年に、最大政党であった政友会が、美濃部達吉の天皇機関説を批判し、議員辞職に追いやったことが、近代日本の議会政治の未熟さを象徴していたと言えるだろう。
評者はこれまで、まともに日本近代史を勉強したことがなかった。
そのため日本の近代が築き上げた構造について、考える材料すらもたなかった。
本書はそのような勉強不足の人間に、考える材料を提供してくれる格好のテキストである。
政治を形作る場である「議会」とそれを支える「憲法体制」がいかに確立され、運用されたのかを知ることで、日本近代史が破滅へと向かった原因一つが見えてくる。
それにしても、法律学の学者が言う大日本帝国憲法の特色と歴史学者が提示する大日本帝国憲法と議会政治の運用はなぜかくも乖離しているのだろうか。言うまでも無く、法学部の教科書に指定されている憲法の本よりも、本書の方がはるかに明治憲法体制の本質を論じている。
実証主義を旨とする歴史家にとって、通史を書くのは並大抵のことではない。
しかも日本近代史80年の通史である。
新書とは言え450頁あまりとなるこの大著を完成させた近代政治史研究の泰斗に改めて感服する。 -
開国から日中戦争までの通史をまとめた良書。ところどころ筆者の解釈が主張されており、かなりの名著だと思う。
個人的に原敬をあまり評価しない点が面白かった。こんなに解釈が分かれる政治家はいないと思うし、だからこそ原敬は研究対象として面白いのだろうと思う。
史料の引用が随所でなされておるのも特徴。このせいでこの本は速読には向かない。じっくり取り組むのが良い。 -
日本人なら一度読むべき本かもしれない。厚いけどオススメします。
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新書だが2cmの分量。日本近代史の流れを7つの段階に区分し、最後の「崩壊期」を除く6つの段階を通観する。
憲政会と政友会の対外路線の転換の部分は、他の文献に比べ詳しく書かれており非常に勉強になった。
久々に一気に通読した。現代の政治状況も見据えているので、教材研究の参考にすべき良書。 -
幕末から日中戦争までの大きな流れを掴むことができる良書。
日本近代史を「改革」→「革命」→「建設」→「運用」→「再編」→「危機」に分類し、前後の繋がりをうまく関連付けながら考察している。
幕末から維新については西郷隆盛の「合従連衡」論を軸とするポイントが史実を整理する上で興味深かった。
以下引用~
・どのような革命も、「体制内改革派」と「体制外改革派」の一時的な提携なしには成功しない。・・・日本近代史では前者を「公武合体派」、後者を「尊王攘夷派」と呼んできた。
・西郷にとって一番大切な「合従連衡」の相手は、有力大名ではなく、その家臣の中の「改革派」であった。この「改革派」は「開国派」であっても「攘夷派」であってもかまわなかった。 -
ものすごく長かったけど、すごい濃さです。
政党政治を安易に信じるなかれ。
しかしそれに変わるものはあるのだろうか。
わが国の混迷は続く。。