功利主義入門: はじめての倫理学 (ちくま新書 967)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066718

感想・レビュー・書評

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  • 世間の功利主義者への風当たりは強い。「最大多数の最大幸福」をスローガンに掲げる功利主義者は、みんな(つまり多数派)の幸福を大事にするから少数派を置き去りにするし、権威主義的で非道徳的だと。いやいや、まあ急進的な原理主義的功利主義者はそうかもしれないけれど、功利主義ってそんな悪魔の経典みたいなんじゃなくてね、という話。直感的には、目の前の困っている人を助けてあげたいけれど、国を統治する人がそれをしていたらキリがないですね。むしろ、統治者の目に見えていない人たちが犠牲になっている。そのための指針として「最大多数の最大幸福」という基準で測ってみるのはどうですか?ほとんど無視されていた労働者、奴隷、女性などの多くの人々の幸せを等しく勘定に入れましょうよ、という考え方です。原理主義的になりすぎるとどうかと思いますが、真っ当な指針だと思いませんか?

    本書では、功利主義の説明に続いて、幸福と快楽の関係性や、「人間は非合理的な意思決定を行いがちだ」という心理学的・行動経済学的な知見にもとづいた考え方と功利主義の関係についても解説されています。全体的に読みやすく、小ネタも面白くて好き。最後の「ブックガイド」もおすすめです。

  • 道徳科の勉強のために読みました。

    今まではトロッコ問題とかについて話すと主観のぶつけ合いだったのですが、
    理論的に倫理学について学ぶことで、
    客観的な判断基準が出来ると思いました。

  • 功利主義というより功利主義の批判的継承に興味があって読んでいる

  • 幸福を考える上での功利主義の立ち位置がよくわかった。
    個人の効用を高めるのにリバタリアン・パターナリズムが有効というのはなるほどと思った。個人の自由意志を尊重しつつ選択肢を提示するのは確かにそうだし、政府の役割が「最小不幸社会」を目指すべきというのも納得。
    結局、絶対的・定量的に幸福度を測るものはないのだから、一人一人が正しいと思うものを選択して、それで満足のいく結果が得られることが重要だと思う。そのために、適切に判断する能力や選択したことに対して責任を持った多王をしたいと思った。

  • 良書。

  • 思想が誤解されがちな功利主義を改めて入門する本であると同時に倫理学の入門書として本書は位置付けられています。結婚制度に絶対反対の立場であったゴドウィンがウォルストンクラフトと結婚することで転向し、結婚制度に積極的な態度をとるようになったエピソードはとても面白かったです笑

    2人から生まれた子供がフランケンシュタインの著者で有名なメアリー・シェリーで近代フェミニズムの先駆けとなった母親の意志を受け継ぎ(当初母国の英国では全く受け入れられなかったけれど)、フランケンシュタインの中で家庭の天使とされた女性を批判し、フェミニズムを見事に描き出しています。

    本書中では、倫理学の分野ではもはや忘れ去られている?幸福論についても言及が行われています。幸福とは何かについて再度問いをたて検討を行っています。著者の見解では、政治レベルでは最大幸福原理を追及、個人レベルでは時には己の際限なき欲求を戒めつつも、自分が現に持っている欲求を追及すべきだそうです。
    うーん全ての人間の欲望が満たされるのが先か、地球が人類が真っ当な生活を送れる水準を保てなくなるのが先か、もはや地球環境レベルの話もふまえて議論していくべきかなと個人的には思います。
    いわゆる先進国における欲望の肥大化を戒め、他の国々・地域に資源の分配を行うのであればすぐにでも達成できそうな話ですが・・・。本書中でも心理的麻痺の話がありましたが、意外とそこまで考えが至る人がまだまだ少ないということですかね。

    また本書末のブックガイドが良かったです。次読む本の参考にしたい。

    ところでJ美さんは序盤と最後以外全く出てこなかった気がしますが気のせいですか?

  • ゴドウィンはウォルストンクラフトとの出会いで功利主義思想に修正を加えた。その娘はフランケンシュタインの作者。

    現代の功利主義は、家族や道徳的規則も考慮する間接功利主義。行き過ぎを戒める規則功利主義。
    元祖は、直接功利主義で行為功利主義。

    同性愛と異性愛に道徳的な違いはない(ベンサム)
    男女に違いはない(ミル)
    動物と人間に違いはない(シンガー)。
    最大多数の中に、どこまで入れるか。
    常識的な規則が、功利主義的に見ると不公平に扱っていることがある。

    幸福は多様だが、不幸は同じ=ホバー。最小不幸社会を目指す。
    医療現場のトリアージは、功利主義的な考え方。

    津波のときは、てんでんこで逃げる。自分のことだけを考えて逃げることが一番効率的。

    リバタリアンパターナリズム=自由だが、望ましい方向が自然と選べるように導くべき、という考え方。
    トゥルーマンショーの主人公は幸福か。薬で幸福感を得ることは幸福か。

    群衆を見ても助けようとしないが、個人を見ると助けようとする。人間の命の重さが等しいと考えると功利主義的には非合理。

    ビルゲイツは寄付先を選ぶとき、多くの人に影響を及ぼしていて、過去に無視されてきた問題、に対して寄付する。功利主義的な考え方。直感を排除する。

  • 功利主義の概要とそれにまつわる諸問題を、わかりやすくていねいに解説している入門書です。

    著者はすでに『功利と直観―英米倫理思想史入門』(2010年、勁草書房)を刊行しており、そちらではかなりていねいに功利主義と直観主義の対立を軸に倫理学の思想史を紹介していますが、これに対して本書では「体系性はあまり重視せず、むしろ倫理学に対する読者の関心を高めることに意を注いだ」と「あとがき」に書かれているように、より親しみやすい内容の入門書となっています。

    倫理学は、いったいどのような立場から、どのような方法にもとづいて、倫理についての考察をおこなっているのかという基本的なところから説きはじめています。著者は、功利主義の立場から公衆衛生の諸問題に対してどのような解決策を示すことができるのかという問題に対しても、アウトラインにとどまってはいるものの、みずからの見解を示しており、さらに幸福度の評価という困難な課題についても一定の見通しを提出しています。もちろんこれで完全に問題が解き明かされたというものではありませんが、読者を倫理学的な議論の場へと招き入れることには成功しているように思います。

  • かなり面白い。が、考え得るケースが膨大にあり、思考を放棄したくなる。

    功利主義では全ての人は一人としてカウントされる。首相だろうと身内だろうと一人であり重み付けされない。社会全体という俯瞰的な視点から個人を観測する、さながら最大利得を目指すマルチエージェントシミュレーションのようなもの。

    功利主義の3つの特徴。1.帰結主義。こう行為するとこういうことが結果として起こるだろう、という事前の予測に基づいて行為の正しさを評価する。2.幸福主義。何かの役に立つという理由からではなく、それ自体に価値があることを内在的価値と呼ぶ。幸福主義によれば、この世界で内在的価値を持つものは幸福だけであり、それ以外は手段としての道具的価値を持つに過ぎない。3.総和最大化。各人を一人として数え、誰もそれ以上には数えない。

    ーメモー
    倫理学とは「倫理について批判的に考える」学問である。よりよく生きるために社会の常識やルールを考えなおすための技術である。ある党派的な諸原則を押し付けられるのではなく、批判的な思考能力を高め、自分で思考できるようにすることが、本書の狙い。

    ー倫理の学び方ー
    1つ目は守るべきルールを学び実践できるようになること。2つ目はルールについて疑問を発し、自分なりの答えを出せるようになること。

    批判的に考えることの主目的は、ルールの根拠を確認することにある。みんなが従っているルールだから従うのではなく、確信をもって従うのだ。

    倫理的相対主義・・・俺の中ではOK、あなたの中ではNG。人それぞれ規範が異なる。他人の倫理観についてとやかく批判すべきではないとの考え。
    →倫理は相対的か?元をたどると共通のルールがあることがわかる。
    →倫理的相対主義への批判。他人の倫理観についてとやかく批判すべきではないというのなら、その倫理観を他人に主張すべきでない。

    動機は倫理における一番大切な事柄ではない。なぜなら人は善い動機から非倫理的な行為をすることもあるし、利己的な動機から倫理的な行為をすることもある。動機の善し悪しではなく、倫理的な行為がなされるかどうか。動機の問題ではなく、その行動に主眼がある。

    人間は利己的だから倫理は無駄。
    これに対する反論は2つある。1つは倫理は動機(利己/利他)によらないとの見方。利己的であっても倫理的/非倫理的な行動をとりうる。もう1つは人間は常に利己的ではないとの見方。利己と利他は対義的ではない。倫理/非倫理と利己/利他で見るといい。

    ジェレミーベンタム・・・政治においても道徳においても、何をなすべきかを考える際に指針となるのは、功利性の原理において他にない。最大多数の最大幸福を指針として行為せよ。自然は人間を苦痛と快楽という2人の王の支配下に置いた。

    なぜ最大多数の最大幸福を追求したければならないか。
    →社会全体の幸福の実現のため。実現に向けて:功利主義に従う人はそれでいい。それ以外の人は?→サンクションによって拘束する。


    功利主義の3つの特徴。帰結主義:結果ではなく、事前に予想される結果に基づいて評価される。幸福主義:行為が人々に与える影響こそが倫理的に重要な帰結。総和最大化:各人を1人として数え、誰もそれ以上には数えない。


    メタ倫理学:「〜は正しい」と言うときの正しいとはどういうことか、「〜は善い」と言うときの善いはどう言う意味か

  • とにかく親しみを与えてくれる 興味持てたらもっと深めてくれたらええんやでという優しさがある すぐ読めるので何回も読んじゃう

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著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学。博士(文学)。東京大学大学院医学系研究科専任講師等を経て現在,京都大学大学院文学研究科教授。
主な著書に『COVID-19の倫理学』(ナカニシヤ出版,2022年),『実践・倫理学』(勁草書房,2020年),『正義論』(共著,法律文化社,2019年),『入門・倫理学』(共編,勁草書房,2018年),『マンガで学ぶ生命倫理』(化学同人,2013年),『功利主義入門』(筑摩書房,2012年),『功利と直観』(勁草書房,2010年,日本倫理学会和辻賞受賞)など。

「2022年 『オックスフォード哲学者奇行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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