自衛隊史: 防衛政策の七〇年 (ちくま新書 1152)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • / ISBN・EAN: 9784480068606

感想・レビュー・書評

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  • 佐道昭広『自衛隊史 防衛政策の七○年』(ちくま新書、2015年11月)税別900円

    中京大学総合政策学部教授(日本政治外交史)の佐道昭広(1958-)による自衛隊をめぐる戦後防衛政策の概観。

    【構成】
    第1章 「再軍備」への道 防衛政策の形成
     1 警察予備隊から自衛隊へ
     2 戦後防衛体制形成期の問題点
    第2章 五五年体制下 防衛論の分裂と高揚
     1 日米安保条約改定と自衛隊
     2 戦後平和主義と自衛隊
     3 年次防の時代
     4 「中曽根構想」と自主防衛論
    第3章 新冷戦時代 防衛政策の変容
     1 「防衛計画の大綱」策定
     2 「ガイドライン」の成立
     3 総合安全保障論とは何か
     4 「日米同盟」路線強化へ
    第4章 冷戦終焉 激動する内外情勢への対応
     1 冷戦終了後の新たな課題
     2 震災とテロ
    第5章 「新しい脅威」の時代
     1 「新しい脅威」と日本の防衛政策
     2 変化する防衛政策
     3 安全保障政策の転換
    終章 新たな安全保障体制に向けて

    初めての単著となった『戦後日本の防衛と政治』(2003年)以降、『戦後政治と自衛隊』(2006年)、『自衛隊史論』(2015年)と自衛隊をめぐる戦後政治史に関する研究を著者は手がけてきた。
    研究のテーマは防衛政策決定をめぐる国内政治および防衛行政・防衛庁内の政官軍関係である。
    本書は、特に最初の2冊と内容が近似しているが、以前の著作が主として中曽根内閣の政策までを射程にしていたことに対し、本書は冷戦後、2010年大綱まで扱っている点で異なっている。(至近刊行された『自衛隊史論』は未読であるが、ちらりと見た限りでは政策と国民世論の反応を軸にした内容のような印象を受けた)

    このため、他書と同じく占領期にはじまる再軍備過程、年次防と呼ばれる中期防衛計画が戦略性を持たない場当たり的に書き換えられてきた過程が紹介される。加えて、冷戦崩壊後の国際安全保障への自衛隊のコミットと対中戦略・島嶼防衛をめぐる近年の動きが紹介されている。

    本書は一般書であり、「分かりやすさ」に重点が置かれているためか、『戦後日本の防衛と政治』に比べ、主観的な表現が散見される。
    特に前半については、文官優位、内局優位の特異さを強調するために何度か海原治のオーラルを批判的に引いているが、政治主導が希薄とはいえ国家施策を1官僚のパーソナリティに帰してしまうところに違和感がぬぐえない。
    また、自衛隊の存在を否定的にとらえてきた「戦後平和主義」の思想も批判的に紹介されているが、「戦後平和主義」と呼ばれる思想も経年により担い手に変化があり、主張の多様性もある中で、やや乱暴な括り方のように思えた。国内政治・世論の変化にはかなり目配せをしているが、東アジア地域の安全保障環境の変化については言及が少なく、そのため主張が平板となっている印象がある。

    以上、やや批判的に書いたが、最初の『戦後日本の防衛と政治』には評者自身大変勉強させてもらったし、中島信吾『戦後日本の防衛政策』と並ぶ2000年代前半に出た戦後防衛政策の中核的な研究であったと言える。そこから10数年が経過した時点で出された本書であったため、その期待が大きかったのかもしれない。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/689703

  • 再軍備から平和安全法制の議論までの、我が国の防衛政策の歴史。
    その時々の防衛政策がなにを志向して立案、実施されてきたのか、それがどう連なって今日に至るのか、コンパクトに纏まっている。

  • 自衛隊と平和主義や日米安保、政治との関係史など。
    以下、本書より。

    【あり得ない専守防衛】
    専守防衛は、平和憲法下における日本の基本的防衛方針を示すものとして定着した。
    この言葉自体は、国会審議では自衛隊創設期から現れているが、本格的に使われるのは60年代。
    戦後平和主義の下で日本の防衛に関する姿勢を説明する便利な政治用語として使われた。
    やがて「防衛白書」でも使用され、日本の防衛政策の基本方針として定着していく。
    ただ、軍事戦略の用語として「専守防衛」という言葉はない。
    「戦略守勢」ならば存在するが、相手からの攻撃を待ち、しかも最小限度の抵抗しかしないというのは軍事戦略上は考えられない。
    戦後平和主義の下、本来は政治的に用いられた言葉が基本的な防衛政策と考えられていくところに、日本の防衛問題の難しさもある。

  • こういった、『通史』をちょっと読むだけでも、昨年無駄に大騒ぎしていた人達が『急ぎすぎる』『何故今なのか』と言っていた法整備が、(案件によっては)数十年前に提起されながらも先送りされ続けていたことを『ようやく』『今になって』法制化したに過ぎないことがわかるので新書って便利だなと心から思う。
    何回じゃ無いし、分量も新書に収まっているので中学校の副読本にちょうど良いんじゃないかな。

  • 本書の著者は政治史・外交史を専門とする研究者である。

    決して読みやすい本とは言えないが、2015年に紛糾した日本の安全保障問題の全体像を把握するにはオススメできる。

    強行採決された安保関連法案については「戦争法案だ」「戦争法案はレッテル貼りだ」という全く噛み合わない状態が続き、その隔たりは今のところ埋まりそうにない。
    本書はその間を埋めるのに役立つ1冊だろう。


    自衛隊の存在の必要性を完全に否定する人は多くないだろう。
    東日本大震災をはじめ、災害救援などでの活躍は多くの命を救った。
    実際、2015年1月の内閣府による調査では92%以上の人が自衛隊に良い印象を持っているそうだ。

    しかし、1960年代頃には「自衛隊は憲法違反」として、自治体によっては住民登録を拒否したり、成人式に参加させなかったりといった自衛隊員への差別が行われたという。
    今では想像できないが、そういった歴史的経緯は知っておくべきだろう。


    念のため、そもそも自衛隊がどのようにできたのかの経緯を簡単に書いておくと以下のようになる。

    まず戦後GHQの占領下において、1947年に日本国憲法が制定された。
    これにより日本は軍事力を持てない状態となった。
    ただしGHQ占領下であるから、軍隊がなかったわけではない。

    その後、米ソ冷戦状態となり、1950年に朝鮮戦争が起こる。
    日本にいた米軍はこれに参加するが、そうすると軍隊を持たない日本は誰がどう守るのか、という問題がある。
    そこで作られたのが警察予備隊だ。これが陸上自衛隊の元となる。
    ただし、戦前の日本軍に関わる人々は警察予備隊から排除されたそうである。
    これは日本人に残っていた軍人に対する不信感の表れでもあるだろう。

    一方、日本近海の密漁・密貿易などの犯罪を取り締まるため、海上保安庁が1947年につくられ、海上部隊もつくられるが、こちらには戦前の海軍のメンバーが多く含まれたようである。
    さらにマッカーサーの指示により機雷掃海のため朝鮮戦争にも加わり、機雷による「戦死者」も出ている。

    その後、サンフランシスコ平和条約・日米安全保障条約により、1951年に日本は占領状態ではなくなった。
    それに伴い、警察予備隊は保安隊となり、1955年に陸上自衛隊となる。
    一方、既に存在していた海上部隊は海上自衛隊となり、後に航空自衛隊も作られた。
    以上のように陸上自衛隊と海上自衛隊、そして航空自衛隊が異なるのルーツを持っていることは、後々まで影響があったようである。
    詳しくは本書をお読みいただきたい。


    日本が国際復帰を果たした直後から「憲法と自衛隊・自衛権」の問題は起こったが、それらは多くの書籍で述べられていると思うので割愛する。


    その後、現在までの自衛隊の歴史や、日本の安全保障の問題について、本書で述べられている点を簡単にまとめていくと以下のようになる。


    第1に、自衛隊は攻撃されたときにのみ国土を守るための部隊として認知されている。
    その「専守防衛」という姿勢は「必ず日本国土が戦場になる」ことを意味していながら、十分な運用体制が長らく整っていなかったことが本書では指摘されている。

    例えば、ソ連からの亡命者が航空機で北海道に着陸した「ミグ25号機事件」ではソ連から攻撃される可能性が現実味を帯びていたにも関わらずほとんど何も対処できなかったことや、阪神・淡路大震災での初動の遅れなどが挙げられている。
    ただし、阪神・淡路大震災については自衛隊は4時間も待機しており、指示を出す側の問題であったことが本書では指摘されている。
    非常時に指示待ちだった姿勢を批判する方もいるかもしれないが、自衛隊が勝手な判断で活動することは「文民統制(シビリアン・コントロール)」に反する。
    ちなみに日本の自衛隊は「文民統制」ではなく「文官統制」であることが本書で指摘されている。


    第2に、日米同盟と米軍基地の関係だ。
    実は、長く続いた自民党政権下でも、自衛隊と米軍との関係については意見は一致していなかったようである。
    「国防は米軍に任せて日本は経済復興優先でいこう」という立場から「日本は独立国家として自国の軍隊を持つべきで、米軍には撤退してもらう」という立場まで幅広い。
    あるいは、自衛隊を違憲とする社会党が政権を持った時代もあった。
    しかしながら、自衛隊は存続し続けた一方、日米同盟も重視され続けている。
    特に米軍基地は沖縄が72%を占めるなど、大きな問題になっている。
    この経緯も詳細に述べられている。


    第3に、国際関係の問題がある。
    日本は湾岸戦争において1兆円程度の金銭的な支出をしたにも関わらず「金しか出さない国」として国際的な非難を浴びた。
    これがトラウマとなっていることは多くの書籍で触れられている。
    その後、カンボジアPKO、イラク派遣といった人的活動が行われているが、国際社会からの要請・期待と、現状の日本ができること、日本人が許容できることには隔たりがありそうである。


    第4に、日本の安全保障、戦争参加についての問題だ。
    本書は平和について「軍による平和」と「軍からの平和」、日米同盟については「巻き込まれる恐怖」と「見捨てられる恐怖」という対照的な表現を用いている。

    最初に書いた現在の日本の安全保障に関する意見がかみ合わない現状は、本来は上記のような両面性のある問題を一面的に捉えていることにあるのではないか、と思う。


    著者は自衛隊の存在や、集団的自衛権の行使、軍事力による安全保障には比較的肯定的だと思われる。

    それでもイラク派遣において「自衛隊は非武装地域にしか行かないから安全だと言うが、非武装地域とはどこか?」という質問に対して、小泉元首相が「自衛隊がいるところが非武装地域」という論理性のない発言をしたことや、第二次安部政権の立憲主義を無視するかのような強引な手法は批判している。

    その意味でも、現在の日本安全保障問題について考える上で、対立する意見の「間を埋める」にはオススメである。

  • 392.1076||Sa

  • 終戦後自衛隊がいかに組織され今に至るのか、日本の防衛政策がどのように変わってきたのかがわかりやすく述べられていて大変勉強になる。安全保障に関心のある人はもちろん、今多くの日本人に目を通して貰いたい本。再軍備、55年体制下、新冷戦時代、冷戦終焉、新しい脅威の時代と5つの章で、戦後の平和主義との関係、日米安保との関係、政軍関係、防衛政策の中身と実態の4つの視点から解説される。

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著者プロフィール

1958年生まれ。学習院大学法学部卒業。東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。現在、中京大学国際学部教授。専門は日本政治外交史。著書等に『現代日本政治史―改革政治の混迷』(吉川弘文館、2012年)、『自衛隊史―防衛政策の70年』(ちくま新書、2015年)など。

「2022年 『崔書勉と日韓の政官財学人脈』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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