「伝える」ことと「伝わる」こと 中井久夫コレクション (ちくま学芸文庫)
- 筑摩書房 (2012年2月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480093646
感想・レビュー・書評
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愛読してきたこのシリーズ、今回は短い文章が多く、多様で、発表年代も80年代を中心に、70年代、90年代、2000年代とまちまちである。
いつも感想で書くように中井久夫さんの精神医学は、めざましい体系を持たないかわりに、臨床医学に徹した、実際経験に基づいて練られた思考に満ちている。医者が自らの治療行為について、どのように意識化し、内省しうるのか。中井さんはひたすらに誠実であり、本職の精神科医師で中井さんを尊敬している人が多いらしいこともうなずける。
実践的な思考といっても、それは驚くべき博識や文学・芸術センスにも支えられていて、やはり、読んでいて刺激的だ。
この巻ではとりわけ、統合失調症と「言語」について書かれた部分が興味深かった。
「妄想と言語との間には、非常に密接な関係があって、ある種の言語的な営みのうちに妄想というものが作られて行くのではないか。」(P.129)
「会話とは、二人で一つの文章をつくり上げることをめざすのだ。統合失調症の人相手の場合は、これが起こらない。この相手とつなぐ継ぎ穂が弱まっているように思える。」(P.143)
さらにヴァレリーを引用しながら、「交換」における言語活動を指摘するが、ソシュールではなくここでヴァレリーが登場するあたり、独特である。中井さんはポール・ヴァレリーにとても興味をもっているようだ。
フロム・ライヒマンのことばながら、この本に引用されていた「統合失調症者のもっともよく治った形は芸術家である。」(P.209)というのもおもしろいと思った。
ついでに、最後の方に文章作法、翻訳の作法に関する短い文章も載っている。詳細をみるコメント0件をすべて表示