ひきこもり文化論 (ちくま学芸文庫 サ 34-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480096838

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  • ウイキペディアで斎藤環氏のコメントを目にして氏に興味を覚えたので、手に取った。実際本書を読み進めていくと、その舌鋒の鋭さには舌を巻くという他ない。多少心理学の用語が難解に感じられ、しっかり氏の主張が認識できたか、怪しい面があった。さらには極めて分析的な論調に私の方が心持ちを苦しくしたため、韓非子を読んだ時のように私には受け付けない内容なのかと、怪訝な思いもしていたが、気を取り直して再び読むとスポンジに水がしみ入るように、愉快に読めた。氏の主張は哲学的な見地に立つ時も心理学の観点からも難解になるきらいがあるが、それでも辛抱して読み進めると、至言名言が随所にあり、それは引きこもりに適用可能であることを越えて、一般性を発揮していると言い得る。この著書で私がどれだけ実質的に進歩したかは全然自覚がないが、私の心理の追求という点からも、日本を知るという点からも、様々に有益な本だった。

  •  ひきこもり問題の第一人者として知られる精神科医の著者が、折々に発表してきた文化論的考察を集大成したもの。
     他国の若者たちの状況をふまえた比較文化論的考察もあれば、ひきこもりを描いたフィクション(村上龍の『最後の家族』など)の解説もあり……と、多彩な内容だ。

     元の単行本の刊行は13年前なので、情報として古い部分もあるが、今年4月の文庫化にあたって、巻末に長文の「文庫版 補足と解説」が書き下ろされている。ひきこもりをめぐる現状をさまざまな角度から概説する優れた文章で、独立した価値がある。

     ひきこもりについての考察にはさすがの深みがあり、たくさん付箋を打った。そのうちの一ヶ所を引用しておく。

    《現代の若者の自信と安心の拠り所は、もはや「お金」ではありません。それはほぼ「他者からの承認」に一元化されています。ひきこもっている当事者のほとんどが不安と葛藤にさいなまれているのは、誰よりもまず本人が、自らのひきこもり状態を深く恥じているからです。その状態が誰からも承認され得ないことがわかっているからです。
     当事者の多くは、「食べるために働く」という動機づけをリアルに感じることができません。彼らを働く気にさせようとして、困窮するまで追い詰めたところで、それは就労につながるとは限らないのです。社会参加を促そうというのなら、むしろ「他者からの承認」という動機づけに誘導するほうがはるかに効果的です。》

著者プロフィール

斎藤環(さいとう・たまき) 精神科医。筑波大学医学医療系社会精神保健学・教授。オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)共同代表。著書に『社会的ひきこもり』『生き延びるためのラカン』『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』『コロナ・アンビバレンスの憂鬱』ほか多数。

「2023年 『みんなの宗教2世問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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