文化防衛論 (ちくま文庫 み 13-13)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480422835

作品紹介・あらすじ

高度経済成長が実現し、戦後文化が爛熟して学生運動が最高潮に達した1969年に刊行され、各界の論義を呼んだ三島由紀夫の論理と行動の書。「最後に護られねばならぬ日本」を求めて展開される論文、対談、学生とのティーチ・イン。また文庫化にあたって自刃の直前に新聞紙上に発表された『果たし得ていない約束』を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 前半の理論部分はちょっと難しかったけど、後半の学生との対談が面白かった。
    三島が学生にリスペクトを持って接しているのがよくわかる。こんな議論がしたい。

  • 文化防衛論 三島由紀夫

    自由と民主主義に対する表現が非常に説得力がある
    三島の政治思想に一貫しているのは、人間性への恐れ、人間の分かり合えなさではないかと思う。それは、おそらく三島自身が自分の人間性やままならない感情に苦悩し続けた結果ではないだろうか。そして、そこに苦悩し続けられることに、三島の強さと可憐さがあると思う。普通の人であれば、自分自身の声に耳を閉ざし、大衆に迎合するか、自分は大衆とは違いながらも冷笑し、客観視することで、楽な道を選ぶ。しかし、三島はあるときから自分自身の冷笑とも戦わなければならないと決意し、自分のままならない人間性に対峙する。そして、自分の存在を考究した際には、やはり自分に流れる連綿と続く日本文化というものの美しさにひかれ、それを信奉し、自分自身がラストマンシップをもってこれを人に伝えるというところに観念的な物語を作り出した。三島のように自分のままならない人間性を対峙し、それを認めるとき、かならず自己分裂的になると思う。それは自分自身の内部の多様性を認めると言うことでもある。しかし、自己分裂的であり続けることは、自己破壊を意味する。簡単に言えば、狂ってしまう。その中で、三島は分裂と毀損することなく、自分自身を統御する物語を日本文化に規定し、その多様性を拒絶せずに受容してくれる天皇という文化的観念に最後の望みをかけたのであると思う。そこが可憐だと思う。私はその三島の強さと可憐さに惹かれる。
    以下、引用のみ

    われわれが加虐性を一切発揮しない「甘い政府」を期待するときには、その政府から一切われわれに保護を期待してはならない(中略)西洋的な意味の市民とは、要するに言論の自由の危険の腹の底まで知りながら、ということは、同時に開放された人間性の危険を腹の底まで知りながら、それによって責任ある体制に、秩序による人間の保護を求めるところの人たちであると規定することができよう。

    民主主義というのは非常にペシミスティックな政治思想です。そして人間は相許さないものだ、意見は違いものだ、ほっとけば殺し合うものだ、なんとかこれを殺し合わせないで、国会議事堂と言うところに連れてきて、つかみ合いぐらいならさせておけばよいのだ。そして、お互いに議論をし、このなかからまあまあましという門を取ればよいのだ。
    我々はペシミズムー人間がどうしてこんなに難しい存在なのか、どうしてこんなに扱いにくいものであるかという地点から出発し、そんな人間の集まりの中で、少しでも良い政治思想と言うものを考えて、民主主義を発明した。私がいうのは民主主義が最高の、あるいは最終的な政治思想ではないということ。民主主義にもよいところがあれば、専制主義にも良いところがある。政治思想にはどれもこれもみな善し悪しがある。欠点もあれば長所もある。

    おれは90%共産主義に賛成なんだが、10%が賛成できないと言うか、1億の蟻の1人になりきれない、ものがある、それが何だろうか。それが自分が自由に共産主義を選んでいるときには、その10%が気にならない。ところが、自分がそれを完全に力で選ばされてしまった場合には、今度はその10%が常に人間の自由の重大な問題のように考えられてくる。

    私は人に同情なんかできる身じゃない。自分が一番心配だ。自分と言う人間は、放っておくとバラバラに壊れちゃう。何とか観念世界に自分と言うものを維持しなければ自分がバラバラになっちゃうと言う危険を感じたから、人に同情している余裕なんかまったくありませんでした。これが文学一生懸命という可憐な姿・・・・

    私が未来がないという考えなんです。(中略)なぜ私が未来がないかと申し上げますと、未来と言うことを考える暇がないほど現在の時点における自分の存在の中に、連綿たる過去の日本伝統と日本人の長い民族的蓄積とが、太古以来ずっと続いている、その一番のラストに自分はいるんだ、自分が滅びたらお終いなんだ、自分は日本と言うものの一番の精髄となってここに今立って、そこで自分は終わるのだ。そういうことがなければぼくは人間の最終的な誇りは持てないと思います。

  • 文化をその血みどろの母胎の生命や生殖行為から切り離して、何か喜ばしい人間主義的成果によつて判断しようとする一傾向。▼日本は非武装平和に徹して、侵入する外敵に対しては一切抵抗せずに皆殺しにされてもよく、それによって世界史に平和憲法の理想が生かされればよいと主張するのをきいて、これがそのまま、戦時中の一億玉砕思想に直結することに興味を抱いた。『文化防衛論』1969

    このまま行ったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機質な、からつぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろうう。『蘭陵王』1969

    ********
    無神論も、徹底すれば徹底するほど、唯一信仰の裏返しにすぎぬ。無気力も、徹底すれば徹底するほど、情熱の裏返しにすぎぬ。

    決定されているが故に僕らの可能性は無限であり、止められているが故に僕らの飛翔は永遠である。

  • 三島由紀夫の名高い文化防衛論。巻末の1968年の年表を見ればわかるように全学連の闘争、チェコへのソ連侵攻、ベトナム戦争、R・ケネディ暗殺、そして中国の文革。こんな時代背景だからこその文章であり、講演、対話集会という感じがする。読みながら、ウクライナへのロシア侵攻、パレスチナでのイスラエルの虐殺、トランプ、中国の状況など、現代において三島由紀夫が生きていたら何を語ったのか、と考えていた。現代日本は三島由紀夫が予言したような単に経済的な利益のみを求める無機的な国になってしまったわけで、こんなに熱く語っても虚しいだけという気もする。
    しかし文体は硬く男性的で、繰り返しになるけれど時代の違いは大きい。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/764742

  • 私には理解不能

  • 哲学
    思索

  • 学生へのティーチインのたたみこむ議論が熱かった。もうこの頃は完全に死を覚悟してるんですねぇ。
    戦争体験を通してニュートラルに何かに取り憑かれちゃってる感じがする。だってすぐ横で死体が転がってるのが日常だし、自分も次の瞬間にはという緊張感をもって生きてるんだもの。三島か言うところの未来を信じないっつうのは戦争体験も大いに影響与えてるでしょ。民主主義に関する考えも、2017の日本の政治状況を示しているような。。。学生さん達の知性もハンパねーし。自分の低レベルさを痛感。

  • [ 内容 ]
    高度経済成長が実現し、戦後文化が爛熟して学生運動が最高潮に達した1969年に刊行され、各界の論義を呼んだ三島由紀夫の論理と行動の書。
    「最後に護られねばならぬ日本」を求めて展開される論文、対談、学生とのティーチ・イン。
    また文庫化にあたって自刃の直前に新聞紙上に発表された『果たし得ていない約束』を併録。

    [ 目次 ]
    第1部 論文(反革命宣言;文化防衛論;『道義的革命』の論理―磯部一等主計の遺稿について;自由と権力の状況)
    第2部 対談(政治行為の象徴性について(いいだ・もも;三島由紀夫))
    第3部 学生とのティーチ・イン(テーマ・『国家革新の原理』)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ずっと昔、読んだ。

    当時、すでに、こんな本は時代遅れで、どの書店にも、どの図書館にも、なくて、探し回って、読んだ。

    当時は三島由紀夫が好きで、熱中して読んだんだけど。
    今思えば、アホだ。

    三島由紀夫は下らない。
    三島は、ロサンジェルスのディズニーランドが好きだったんだよね。
    その程度の「文化防衛論」。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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