- Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480427649
感想・レビュー・書評
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コカイン取引による巨万の富により、コロンビア一国の政治をも動かす組織となった”メデジン・カルテル”。政治的要求を認めさせるための手段として、政府関係者の家族やジャーナリストの誘拐を組織的に行い始めたのが1990年代。本書が出版されたのは1996年。
コロンビアのノーベル文学賞作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスが3年の執筆期間を使い、自ら加害者、被害者に取材して書き上げた一冊。そうとなれば興味を惹かれないのが無理というもの。
形式的には完全なノンフィクション。著者による直接的な論評は一切ない。そうではありつつも、単純にメデジン・カルテル側を批判して切り捨てる姿勢ではなく、黒幕パブロ・エスコバルをある種”大立者”として伝えるところは、著者の政治的信条として、さもありなん。
息の詰まるような監禁生活の描写であるとか、解放される者と殺される者の運命の描き分け等、さすがマルケスと唸らされる部分は枚挙にいとまがない。
訳者による解説も、大作を読み終えた高揚感を適度に冷まして現実を見つめなおさせる意味で優れており、2010年(文庫版出版時)時点でもコロンビアでは誘拐が横行している状況を報告している。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ジャーナリストを狙った連続誘拐事件を軸に、コロンビアの一時代をあぶり出した作品。
最初から最後まで、息もつかせぬ密度で、誘拐されたジャーナリストの生活と、犯人との交渉が描かれる。
予告された殺人の記録では、ミステリーの要素を含めた物語という形で、近代化に喘ぐ人々を描いたが、本書はルポルタージュとして、よりダイレクトに現代コロンビアの闇を記録した。
ジャンルは異なるが、ガルシア=マルケスの作品のなかでは、同じ香りがする。
(2012.7) -
旅先の博多で購入。「迷宮の将軍」を読んでる最中なのに手を出したのを後悔。とはいえこうしてフィクションとノンフィクションを同時並行読みしてみると、いったいどこからが現実なのかわからなくなる瞬間がある。たしかに、どちらがどちらなのか区別はつくが。羽の生えた老人はさすがに登場しない。逆に、本書は、とてもじゃないがコロンビアの現実とは思えない。
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2010-11-27
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文庫で読めるガルシア=マルケスは貴重だけれどノンフィクションというのが引っかかって今まで手を出さずにいた作品。つい最近イサベル・アジェンデを読んでとても面白かったので、ついでに久しぶりに「百年の孤独」を再読しようかなあなんて思ってたらふと本屋でこれが目に付いたので読むことに。
1990年のコロンビア、麻薬密輸組織が政府と交渉するためにジャーナリストなど10名もの男女をバラバラに誘拐し、数か月にわたって監禁、8人はなんとか解放されたものの、2名の犠牲者が出たという大規模な誘拐事件のルポタージュ。生存者とその関係者の証言をマルケスが構成しなおしているおかげで小説ぽくなっているのもあるけれど、ごく最近のコロンビアで実際に起こった事件とはいえ、比較的平和で安全な日本人の感覚でいくと、ある意味非現実的ともいえる状況のせいで、ついフィクションを読んでいるような気にさせられてしまう。
直前まで「精霊たちの家」を読んでいたので、南米で誘拐なんかされたら、ひどい拷問を受けて指とか切られて脅迫のために送りつけられたり・・・とつい想像してしまうところでしたが、こちらの誘拐犯たちはそこまで非道ではなかったのがむしろ意外でした。もちろん狭い部屋に数人で、何か月も押しこめられ、食べ物も最低限しか与えてもらえず、お風呂やトイレにも自由に行けない・・・となると相当なストレスですが、一応テレビやラジオは視聴可能、新聞や本も読めるし、女性たちは化粧品も差し入れてもらえ、具合が悪くなれば医者も呼んでくれるし、縛られて殴られてあげく強姦されたり・・・みたいなことにはならないのがせめてもの救い。
誘拐した組織の中では比較的下っ端の見張り番連中は、それほど悪辣でも残虐でもないので、相手によっては一緒にいるうちに打ち解けて、人質と見張りが仲良くトランプしたりテレビ見たり、予想外に親切な若者もいたりする。誘拐犯とは別に、どうやらお金を貰って監禁場所を提供するだけの一般人らしき人々がいるというのもビックリ。このひとたちも比較的人質に親切だったりするけれど、家屋の一部を誘拐犯に提供して監禁されてる人がいても通報しないという感覚はちょっと理解できない。全体的に、国によって色々あるんだなあ、と知る意味では大変勉強になりました。
誘拐した麻薬密輸組織のボスであるパブロ・エスコバルは、犯罪者とはいえ切れ者でやり手だし人質の扱いも人道的。被害者とその家族を中心に据えながらも、マルケスはこの犯人や犯罪組織をさほど「悪役」として描いていない。被害者側に協力してくれたとはいえ、元は犯罪者ファミリーであるオチョア一家のことなども、むしろ魅力的にすら感じてしまうほど。解説にもありましたが、誘拐された人々は結局、元大統領の娘だったり、大新聞社の社長の息子だったり、コロンビアにおける上層階級・知識階級の人たちであり、貧困から犯罪に手を染めるしかなかった組織側の人間とは対照的。もちろん誘拐するほうが犯罪だし、被害者には何の落ち度も罪もないのだけれど、ただただ誘拐組織を卑劣で最低、という描き方をしないマルケスの視点は、単なる勧善懲悪以前の、国家、社会の在り方に対する問題意識を提起しているとも受け取れます。
ノンフィクションと意識せず最後まで集中して読めましたが、逆にノンフィクションとして読むにはもうちょっと時系列を整理して欲しかったのと、人質の一覧というか、せめて年齢くらいは明記して欲しかったかな。てっきり若い女性かと思ってたら孫がいたり、とはいえ孫がいても40代くらいの可能性もあるし、その辺曖昧でイメージしづらい部分はあったかも。 -
読み始める直前になって
ノンフィクションかこれ(わ、苦手…。)
と気付いた次第。
時間が何度も交差し
登場人物が多く
聞き馴染みのないスペイン語の人名。
内容をきちんと掴めたとは言えないので、
ちゃんと理解できるようにしたい。 -
最近、マルケスの本がよく平積みされてるから手に取って見る。
コロンビアがこんなにも荒れている国だったなんて知らなかった。まさに無法地帯な、想像を絶する荒れ方。
ジャーナリストとしてのマルケスの表現。
小説のような幻想的な表現はないが、政治的な権力闘争やマフィアの世界の栄枯盛衰の姿は、マルケスの小説作品にも通じるか。
コロンビアの現代史に興味がわく作品。 -
「誘拐の知らせ」 ガルシアマルケス
1ヶ月近く、読んではこれだれだっけ?って戻って読み直して・・・を繰り返してやっと読了・・・時間かかった。
ノンフィクションだけに人物が多く、いくつもの(もう何人誘拐されたかも忘れた・・・)誘拐事件が絡み合って、人物の名前がスペイン語で頭に入りずらく・・・ページにびっしりと文字が埋まってて・・・
読むのは大変です。ただ、その分読了感は大きく、ひとつ山を登った気もするような内容でした。
麻薬カルテルを抱えるコロンビアの特異性というのが理解しがたいところだけど、作者の構成力がすばらしくて、途中まで時間は掛かるけどラストは一気に読みきる感じ。(1ヶ月の大半は中盤まで・・・) -
ノーベル賞作家のガルシアマルケスが、コロンビアで多発する身代金目的の誘拐事件を取材したノンフィクションです。
麻薬組織による誘拐の被害の実態や、対立する組織や政府と繰り広げらる麻薬戦争の経緯から、コロンビア社会が抱える貧困などの重層的な問題が明らかにされていきます。
スピーディーな展開ではありませんし、日本人にはあまり馴染みのない問題なので、特におすすめはしませんが、内容は非常に濃いです。