ゴシック文学神髄 (ちくま文庫)

制作 : 東 雅夫 
  • 筑摩書房
3.90
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480436979

作品紹介・あらすじ

「オトラント城綺譚」「ヴァテック」「死妖姫」(カーミラ)に詩篇「大鴉」……ゴシック文学の「絶対名作」を不朽の名訳で味わい尽くす贅沢な一冊!

感想・レビュー・書評

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  • ・東雅夫編「ゴシック文学神髄」(ち くま文庫)を読んだ。何しろギュスターヴ・ドレ画、ポーの「大鴉」に始まり、同じくポーの「アッシャ屋形崩るるの記」、ホレス・ウォルポール「オトラント城奇譚」、ウィリアム・ベックフォード「ヴァテック」、シェリダン・レ・ファニュ「死妖姫」が一冊に入つてゐるのである。 「死妖姫」は「吸血鬼カーミラ」である。神髄と付された書名を宜なるかなと思ふのは私だけではあるまい。
    ・本書が見事なのは集録作品だけでない。その訳文がまた見事である。ポーは2編ともに日夏耿之介である。その絢爛たる「大鴉」は、「忘卻の古學の云々」 (55頁、文字がたぶんない。従つて以下省略の「云々」である。)といふ日夏の訳文通りであらう。かういふのは、正に、字句の意味が分かる人以外は分から ない世界である。「オトラント城」は平井呈一訳、「七〇年代の本邦初訳バージョン」(「編者解説」515頁)であるといふ。最初の「オトラント城」はかくも<古典>であつたのかと思ふ。もちろん訳文のゆゑである。それは「擬古文体の参考にするため日本の古典怪異小説を読み漁った」(同前)結果の産物で、会話は歌舞伎調とでも言ふべき、もしかしたら名調子であるのかもしれない。適当に引く。「スリャ姫をばお返し下さるか?」「ママ早まら ずに、わしの申すことをひと通り聞いてくりゃれい(中略)まづもって貴公らの善意により云々」(154頁)城主マンフレッドが3人の騎士にイザベラを返せと迫られる場面である。これは男性だけの会話であるが、女性でも同様である。「エッ、スリャこのわたくしをフレデリック公に! シェー、母上さま、父上にそれを言 上されましたのか」「オオ言上しましたぞや云々」(188頁)歌舞伎にかういふ台詞はある。日本の古典怪異小説といふのは秋成の正統的怪異譚や所謂戯作を言ふのであらうが、かういふ見事に歌舞伎調の会話があつたのであらうか。読めば読むほど見事な会話文で、これだけでも本邦初訳の「オトラント城」を読んだ甲斐があつたといふものである。もちろんこんなのはくだらないと考へる人がゐるのは承知してゐるが、私にはこの<台詞>から、あたかも歌舞伎の一場面を観るが如くに思はれるのである。平井呈一は怪談とくれば歌舞伎といふ時代の人であつたかと思ふ。さうでなければこんな訳はできないのではない か。同様の感想を持つたのが「死妖姫」であつた。これも平井呈一訳が広く行はれてゐるが、この野町訳はそれより10年ほど前に出てゐる。戦後であるが、所謂歴史的仮名遣ひが使はれてゐる。このせゐでもあるまい、初めのうちは何と言ふこともないと思はれた訳が、そのうちに「野町訳ならではの名調子― 一見、質 朴とも思える構文の随処に、豊かな学識や文藻を感じさせるその語り口に、棄てがたいあじわいを覚え」(「編者解説」522頁)ることになる。最後のフォルデンブルグ男爵の事件の種明かしからほんの少し、「彼は計画をたててこの地へ旅行して来ました。そして表には彼女の遺骸を取り去るのだと見せかけて、事実は彼女の墓碑の所在を人目から韜晦してしまったのです。」(505頁)これだけでも編者の言の片鱗くらゐは感じていただけようか。先の平井呈一が饒舌ならば、こちらは寡黙とでもならう。その訳にふさはしい作品がある。その点、平井のはいささかやりすぎの感あり、こちらの「名調子」にはかなはない。 古い 「カーミラ」がこのやうに復活して嬉しい。本書は古い訳が中心である。版権の問題もあつてかうなつたのかもしれない。しかし、古くても名訳はあると教へてくれる。このやうな書が多くの人に読まれんことを。

  • 「ゴシック」という言葉は現在もしばしば聞くが、それが指し示すものは何なのか、はっきりしない。
     もとは12世紀から15世紀あたりの北西ヨーロッパに見られた建築様式らしい。が、Wikipediaによると「ゴシック小説」が指すのは18世紀末から19世紀初頭に書かれた幻想小説の類のようだ。音楽史で言うとモーツァルト(1756-1791)からベートーヴェン(1770-1827)辺りの世代か。
     こんにち量産されているホラー映画でも「ゴシック・ホラー」と呼ばれるものがあるらしいが、このゴシックや、日本のサブカルにおける「ゴスロリ」のゴシックが何を指しているのか、私には不明である。かなり漠然と使われているような気がする。
     本書はヨーロッパ(英語圏)の「ゴシック小説」の古典を集めたアンソロジーである。しかもおそろしく風変わりなのは、もの凄く古い翻訳を、漢字を新字体に改めた以外はそのまま掲載している点だ。これは読む人を選ぶのではないか。マニアックなアンソロジーである。
     掲載作品は以下の通り。

    (1)エドガー・アラン・ポー(1809-1849)アメリカ
    ■大鴉(1845)
    (ギュスターヴ・ドレの詩画集は1883年)
    日夏耿之介訳(1929《昭和4》年-1949《昭和24》年)
    ■アッシャア屋形崩るるの記(=アッシャー家の崩壊)(1839)
    日夏耿之介訳(冒頭のみ。翻訳年不明)

    (2)ホレス・ウォルポール(1717-1797)イギリス
    ■オトラント城奇譚(1764)
    平井呈一訳(1970《昭和45》年)

    (3)ウィリアム・トマス・ベックフォード(1760-1844)イギリス
    ■ヴァテック(1786)
    矢野目源一訳(1932《昭和7》年)

    (4)レ・ファニュ(1814-1873)アイルランド
    ■死妖姫(=吸血鬼カーミラ)(1872)
    野町二訳(1948《昭和23》年)

     巻頭に目次が無く、「落丁本か??」と焦ったものだが、実は巻頭のドレの詩画集「大鴉」を口絵として扱っているためで、その後ろに目次が入っていた。紙質が同じなのでこれでは分かりにくい。
    (1)の日夏耿之介の訳は非常にものものしい文語調で、見たことのない難しい熟語だらけの古文で、これまた読む人を凄く限定してしまうことだろう。が、ポーの「大鴉」や「アッシャー家の崩壊」こそがまさしく「ゴシック文学」なのだ、と言われれば、なるほどそうなのか、と分かったような気になる。ただし「19世紀初頭まで」というゴシック小説の定義よりは少し新しい時代ではある。
    (2)(3)は18世紀の作品で、なるほどこれは「完全には近代小説になっていない」感じの、波瀾万丈な冒険物語のようなものだ。『アラビアンナイト』のような、まさに「物語」という感じの、読んで楽しい読み物である。
     とりわけ「オトラント城奇譚」の方はたった3日間の出来事なのに凄まじい勢いで物語が変転してゆく。本作はこうした「ゴシック小説」の嚆矢とのことで、幽霊とかも出てくるが怪奇小説というようなトーンにまとまってもおらず、ひたすらに目まぐるしくハチャメチャな物語である。翻訳は、登場人物の台詞が擬古文調で、果たしてこういう訳し方に意味があるのか、と首をかしげた。
    (3)の「ヴァテック」は結構おぞましいような悪王物語で、地獄目指して突き進み、最後はちゃんと地獄に落ちるという予定どおりの終わり方。悪行ぶりはなかなかのもので、ちょっとサド侯爵の文学をも思わせる。これの作者自身が両性愛者だったり黒魔術を研究してたり、破天荒な人物だったようである。これはなかなか面白かった。
     最後の(4)「死妖姫」は平井呈一さんの訳で創元推理文庫『吸血鬼カーミラ』に収められているものと同じ。遙か昔読んだのでストーリーも覚えていなかったが、これはなかなか傑出した小説である。レ・ファニュの本作は1872年と、本書に収められた諸作の中では群を抜いて新しく、(2)(3)と比べて明らかに書法が違う。「近代小説」になっているのである。場面ごとに臨場感が確保され、ディテールが書き込まれている。本書の中では唯一、ちゃんとした「怪奇小説」になっており、こんにち言うところの「ホラー」の源流として見ても、相当いい線行っていると思う。これは、良い。傑作だ。

     旧仮名遣いとか面妖な擬古文調とか、研究者というわけも無い我々一般読者にとっては、あまり感心しない=ほとんど意味のない日本版アンソロジーであった。原作じたいはそれぞれに価値があると思うので、むしろ現代口語で普通に読みたいところだ。

  • ・大鴉/ポー
    ・アッシャア屋形崩るるの記/ポー
    ・オトラント城奇譚/ウォルポール
    ・ヴァテック/ベックフォード
    ・死妖姫/レ・ファニュ

    私がゴシック文学に沼るきっかけをくれた一冊です。
    それぞれ毛色は違いますが、城や地下室が登場し、超常的な存在に心惹かれてわくわくします。
    お勧めは死妖姫で、吸血鬼の濃厚な百合が摂取できるので興味のある方はぜひ。

  • 名作と呼ばれるゴシック文学アンソロジー。本邦初訳バージョンが多いので、語句が古くてすいすい読みにくい面はありますが。それも雰囲気を味わうための要素になります(慣れてくればスムーズに読めるかも)。じっくり浸って読めばうっとりできる一冊。
    「詩画集 大鴉」にまずうっとり。この挿絵がなんとも素敵です。言葉はとんでもなく難しい気もしますが。雰囲気は充分すぎるほどに味わえました。
    「オトラント城綺譚」は再読なので、わりとすらすら読めた気が。「ヴァテック」は長大で壮大、豪華絢爛な物語という印象でした。でも主人公のヴァテックよりもカラチスの印象があまりに強烈で、そして恐ろしく感じました。
    「死妖姫」は「吸血鬼カーミラ」なんですね。これもまだ読んでいなくてざっとしか知らなかったのだけれど。とても魅力的な物語でした。怖いというよりはひたすらに切なくて物悲しく、カーミラがあまりに可憐で儚いのに驚きです。この「死妖姫」というタイトルがあまりにぴったりな、妖美な作品でした。

  • 今読みかけ。古書価格3000円前後で売買されているウォルポールの「オトラント城奇譚」が平井呈一訳で収録されているのが嬉しい。

  • 『オトラント城奇譚』
    筋書きは通俗的だし翻訳は歌舞伎のようだが、最後のイザベラとセオドアの顛末について書かれた文に漂う切なさが秀逸だった。私にはどうやら互いに大切だった死者への追想に心惹かれる傾向がある。
    マチルダとイザベラがセオドアを巡り相互不信に陥るがお互いの顔を見るやいなや友情を取り戻すシーンも印象に残っている。
    『ヴァテック』
    主人公にいまひとつ魅力が欠けているように思った。カラチスやヌロハニルの方が地獄への探索者として深みがある。

  • 大鴉 エドガー・アラン・ポオ/日夏耿之介訳
    アッシャア屋形崩るるの記 エドガー・アラン・ポオ/日夏耿之介訳(冒頭のみ)
    オトラント城綺譚 ホレス・ウォルポール/平井呈一訳
    ヴァテック ウィリアム・ベックフォード/矢野目源一訳
    死妖姫 J.シェリダン・レ・ファニュ/野町二訳(カーミラ)

    巻頭に、ポオ&ドレ&日夏耿之介による詩画集「大鴉」を収録。

    溜め息が出る程豪勢。珠玉の作品達。さらに訳が面白い。(ここらへんのこだわりは巻末の編者解説で確認して欲しい)
    オトラントなんかは平井呈一が狙って擬古文体に翻訳しているから、脳内で繰り広げられるイメージが完全に歌舞伎の歴史物になってて面白かった…。

  • 「入門」に続く本番その2。
    「大鴉」「アッシャア屋形崩るるの記」「オトラント城綺譚」「ヴァテック」「死妖姫」を収録。「大鴉」は詩画集から挿絵も一部抜粋。

    中身を承知で入手しておきながら、これらを「ゴシック文学神髄」と称した1冊の中で読むのはなんか違うな……という気がしてならない。なんだかアンバランスでしっくりこない印象。日夏耿之介訳の2作から肩透かしではあった。挿絵抜粋も、未完の訳を載せるのも消化不良で残念。日夏耿之介のゴシックとしてならうれしいのかもしれない。
    編者が奇をてらったというか、ニッチなところを狙ったというか、「オトラント城綺譚」もなかなか……。だってこの訳、完全に歌舞伎。どういう顔をして読めばよかったのか。台詞がそれなうえ、劇中の生き別れの親子の再会なんかもいかにも歌舞伎に見えてしまってもういけない(歌舞伎は好きだけども)。ただ、これまでの教訓話やおとぎ話に背を向けて邁進してやろうという意識はひしひしと感じられた。あからさまなだけに粗野なくらい。ゴシック最初期とはこれか。
    そんなわけで「ヴァテック」からやっと落ち着いて読めた。これはこれで、絢爛たる背徳の描写が期待したほどではなくて少々物足りない。この世の快楽は味わいつくした、という大前提の魔法の効きが悪いのかも。「入門」でダメ出しされつつも面白そうに見えたのは塚本邦雄マジックか。エブリスのもとで出会う公子と姫の物語がはしょられる憤りには共感しきり。
    「死妖姫」ことカーミラは鉄板。

    引っかかったところはたぶん、すでに同じ趣旨の本を読んだ人向けのセールスポイント。

  • 『ゴシック文学入門』(https://booklog.jp/users/yamaitsu/archives/1/4480436944)では、予告編的なエッセイが紹介されていましたが、いよいよ本命の小説のほうが収録された「神髄」が登場。

    まずはエドガー・アラン・ポオを日夏耿之介訳で。ギュスターヴ・ドレの挿画を収録した「詩画集 大鴉」はなかなかレアでお得感。原文の英詩も添えられているけど、これもしかして英語得意な人なら、日夏耿之介の日本語より英語のほうが意味とりやすいかもしれない。日夏訳、大好きだけど現代日本人にはかなり難解ではある。一応、既読だったけど(https://booklog.jp/users/yamaitsu/archives/1/4061963104)改めて美しいけど難しいと思った。アッシャー家のほうは冒頭のみ。以下初読のものは個別に。

    ○平井呈一訳/ホレス・ウォルポール「オトラント城綺譚」(1764年)

    オトラント城主のマンフレッド公の虚弱な嫡子コンラッドとイサベラ姫の婚儀の日、突然巨大な兜が現れコンラッドはその下敷きになって死んでしまう。しかしマンフレッドは息子の死を悼むどころか、貞淑な奥方ヒッポリタを離縁してでも、息子の妻になるはずだったイサベラ姫を我がものにしようと言い寄る。実はオトラント城はマンフレッドの祖父が、もともとの城主であったアルフォンゾ公を騙して手に入れたもの。イサベラ姫の父フレデリックはその正当な後継者の血筋であるため、マンフレッドは両家の婚姻に必死、かつ、嫡子を失い跡取り欲しさに若い妻を必要としている。

    一方、豪胆な百姓の青年セオドアは、マンフレッドの怒りを買い捕えられるが脱走、マンフレッドに言い寄られて尼寺へ逃げようとしていたイサベラを偶然助ける。このセオドアは大変なイケメンで、なぜか城にあるアルフォンゾ公の肖像画にそっくり。どうやら出生にいわくつき。再びマンフレッドに捕えられた際、今度は彼の娘であるマチルダ姫に助けられ、彼女に想いを寄せるように。つまりイサベラとマチルダはセオドアを挟んで三角関係になるところだが、姉妹のように仲が良く、見た目だけでなく心も美しい姫君たちは互いに譲り合う。

    しかし強欲なのはジジイども。マンフレッドは息子の嫁=つまり自分の娘のような年のイサベラをなんとしても自分のものにしたい、一方でそのイサベラの父フレデリックは娘を迎えにやってきたのにマンフレッドの娘マチルダの美しさにぞっこんとなり、双方互いの娘を相手に差し出すことで丸く収めようとする。ドン引き。そうしておっさんたちが己の煩悩のおもむくまま好き勝手しようとしてる一方で、そもそもマンフレッドの先祖に城を奪われたアルフォンゾ殿の呪いで巨大な鎧武士の幽霊がたびたび城に現れ実害を及ぼすようになり…。

    ゴシック小説の元祖のような作品だけど、個人的には、お城に出る騎士の幽霊のゴシック感よりも、セオドラをめぐる三角関係や、おっさん二人が若い娘と結婚したがるくだり、実は出生の秘密が~等の展開で、娯楽色が強くエンタメ冒険小説みたいな気持ちで読んだ。ひとつには平井呈一の翻訳が独特で、あまりおどろおどろしくなかったからかも。セオドアの口調とか、最初のうちはお百姓さんだからこういう喋り方なの?って感じなのだけど、だんだん江戸っ子みたいになってくる(笑)お姫様たちの「こちゃ」という一人称などもあって、江戸時代の戯作みたいな。

    ○矢野目源一訳/ウィリアム・ベックフォード「ヴァテック」(1786年)

    カリフのヴァテックは博識で行動的で人民にも慕われていたが、さまざまな欲望や野心も大きい人物。あるとき謎の異国人から宝の剣を手に入れるがそれを解読することができない。解読できる人間を募り、ついに読めるも、剣の文字は実は毎日変わっていた。やがて例の異国人と再会したヴァテックは、お告げにしたがい、50人の青年を生贄にささげたりしたあと、イスタカアル(古代ペルシャのペルセポリス)を目指し旅立つ。

    占星術の得意な母カラチス(ほぼ魔女)はヴァテックの野望をサポートするが、ヴァテックは旅の途中で立ち寄った国で、美しい娘ヌロニハルを知り彼女に夢中に。ヌロニハルには可愛がっている従弟の美少年グルチエンルツがいたが、カラチスは彼もまた生贄しようとする。ヌロニハルは権力者カリフである上に美男のヴァテックと恋におち、ついに二人は悪魔ジアウールの宮殿にむかい宝をわが物にせんとするが…。

    ヴァテックは『千夜一夜物語』でおなじみハルーン・アル・ラシードの孫という設定。そのせいもあって、ゴシックというより千夜一夜物語風の波乱万丈、悪魔の宝物を得ようと旅をする冒険小説風味もある。個人的にはとても好みだった。ラストは意外にも勧善懲悪。作者のウォルポールは、ベックフォードともども、作者本人もなかなかの異端児、澁澤龍彦のエッセイのネタにもなっている。

    ○野町二訳/シェリダン・レ・ファニュ「死妖姫」(1872年)

    父と二人で自然豊かな城で暮らすロオラ。あるとき馬車の事故で知り合ったカーミルラという女性をお城で預かることになる。近隣に知人もいない場所で、ロオラはカーミルラの滞在を歓迎、二人は仲良くなるが、次第にロオラは悪夢にうなされたり体調不良に。近くの村では若い娘が死ぬ事件が頻発しているが伝染病だと思われていた。

    やがて父の友人で、突然娘同然の姪を失ったスピエルドルフ将軍が、姪の死についての調査から戻り、ロオラの父に事情を打ち明ける。彼の姪はロオラ同様の症状に見舞われており、それはミーラルカと名乗る謎の女性を滞在させたときから始まっていた。彼はその正体を、150年前に吸血鬼になったカルンスタイン伯爵夫人ミルカーラであると看破し…。

    こちら平井呈一訳の「吸血鬼カーミラ」としてお馴染みの百合系吸血鬼作品。翻訳はこちらの野町訳のほうが本邦初訳。文体にゴシック感があって良かった。

    ※収録
    詩画集 大鴉(ギュスターヴ・ドレ画)/大鴉/アッシャア屋形崩るるの記(以上、エドガー・アラン・ポオ/日夏耿之介訳)
    オトラント城綺譚(ホレス・ウォルポール/平井呈一訳)
    ヴァテック(ウィリアム・ベックフォード/矢野目源一訳)
    死妖姫(シェリダン・レ・ファニュ/野町二訳)

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