罪悪 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 38
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488186036

感想・レビュー・書評

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  • 短編集、というよりかは、ショート・ショート集といった一冊。どの作品も「すっきり爽快!」とはなりませんが、強く印象に残る感じ。うまく言えませんが(汗)
    どれも甲乙つけがたいですが、個人的には『家族』が良かった。

  •  ミネット・ウォルターズの中編『養鶏場の殺人』が、とても強く印象に残っている。ウォルターズとしては珍しく、実際に起きた事件を小説化したものであり、やはり実際に起こったことのほうがむしろ小説よりも奇という場合もあるのだな、とじわじわと背筋に迫る人間の怖さを感じたりしたものだ。ついでに言えば、当該作品は、2006年イギリスのワールドブックデイにクイックリード計画の一環として刊行されたものであり、普段本を読まない人に平易な言葉で書かれた読みやすい本として提供されたそうである。

     さて、本書『罪悪』は、日本国内でも上位にノミネートされて話題を呼んだ『犯罪』に次ぐ、現役刑事弁護士シーラッハの第二短編集である。『養鶏場の殺人』を想起させたのは、シーラッハの作品がミステリという枠を超えて、どんな読者にも、ともすれば普段本を読まない人をターゲットにして読んで頂いても、読みやすく、そして感銘を残すのではないだろうかと、ぼくの中で勝手に想像が働いたからだと思う。

     おまけに『養鶏場の殺人』と同じく、シーラッハは現実に体験した事件から材を取っている。そのために、普通のミステリーでは描けないほどの人間の不思議さに迫る作品がむしろ多いように思われることだ。亡き叔父の遺した「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうものの一つだ」という言葉を刑事弁護士という仕事に取り組んでいるうちに、徐々に自らに身についてきた真摯な眼差しなのであろう。

     主人公「わたし」の登場し扱ってきた事件の題材という形をどの作品もどうであれ採用していることで、それぞれの人間の起こす奇妙な罪の群像にリアリティという光を与えている点にも注目される。刑事告発された罪は、見たままのものではないことが多い。むしろ「込み入っていることが多い」のである。

     偶然が罪を生じさせる有機現象のように見えるものもあれば、人間の弱さや懐疑心が唐突に、もしくは長い時間をかけて貯蔵され、唐突に喫水線を超えることもある。世の中のミステリ小説は、こうした人間の不条理を扱って模索されるものが多い。しかしシーラッハは極端に煮詰め込み濃縮し切った超短編という形でいくつもの例題を提示する。それはそれで恐ろしさをナイフの先のように読者の心理に突き立てる。文章のあざとさというより、文章の選ばれた短さ、断面性のようなものが、彼の作品ををよりスリリングなものに磨ぎあげているとしか言いようがない。

     シーラッハという読書的新体験ゾーンへようこそ、と言ったところか。

  • 前作の『犯罪』と同じ系統の15編の短編を収録。

    短編と言うよりも掌編小説と言った方が良いような小品もあり、前作に続き、不思議な魅力を感じた。全ての短編が創作なのだろうか。極めて淡々と冷めた視点で様々な市井の人びとの罪を描いた短編ばかりたのだが、救いのある短編もあれば、喪失感だけが残る短編、ミステリーの要素を感じる短編が混じる。

    短編に描かれる数々の人びとのの罪は現実に起こりうるものばかりだ。もしかしたら、短編に描かれる登場人物の名前は単なる記号に過ぎず、主人公は人間ではなく、人間の犯す罪なのかも知れない。これは、最後の作品の『秘密』に著者の名前が出たのを見ると、あながち的はずれではないように思った。

    • ねるねる (旧shaadi)さん
      はじめまして。いつも、レビューを参考にさせていただいています。
      以前から、前作の『犯罪』ともに、読むのを悩んでいる作品です。そしてまだ、悩...
      はじめまして。いつも、レビューを参考にさせていただいています。
      以前から、前作の『犯罪』ともに、読むのを悩んでいる作品です。そしてまだ、悩み中です…
      2016/04/08
    • ことぶきジローさん
      ありがとうございます。普通のミステリーとは違い、人間の罪悪や犯罪そのものを描いた掌編集です。気軽に読める作品でありながら、深みや含蓄のある作...
      ありがとうございます。普通のミステリーとは違い、人間の罪悪や犯罪そのものを描いた掌編集です。気軽に読める作品でありながら、深みや含蓄のある作品です。ぜひ読んでみて下さい。
      2016/04/08
    • ねるねる (旧shaadi)さん
      ありがとうございます。
      読んでみます!
      ありがとうございます。
      読んでみます!
      2016/04/10
  • 『犯罪』と同じテイストで、濃淡ある表現で、とりたてて珍しくない普通の人たちが薄氷から落ちるまでと落ちたあととを描いた物語です。

    のんびり読んだので、最初のほうは内容が抜けてしまいました……。最後の短編だけ、そのオチが他の短編とは異なり不気味さより面白さが先行していたことが印象的です。

  • シリーズ2作目で15話の短編集。3-4ページしかない話も。前作未読であっても支障なし。前作に比べて前半に胸糞の悪い話が多く一度中断してしまったが、後半は前作同様に楽しむことができた。調書のように事実を淡々と語りながらも、巧みな文章表現で事件に関わる人たちの人間性を描き出すところに文学的面白さを見出す。また事件や裁判のその後が短文ではあるが添えられており、本書の主題は人生なのだと感じる。まるでノンフィクションのように錯覚する程の没入感、リアリティが癖になる。

  • 「犯罪」とは確かに、また違った・・・
    しかしながら、この、いや~な感覚は、「犯罪」以上か?

    なんていえばいいのだろう

    罪を犯しているのに、罪に問われなかった

    からこその、いや~な感覚なのか?

    やっぱり、この世で一番恐ろしいのは「人間」なのか・・・

  • 感情を抑えた文体で、とつとつと語られるように感じるが事件の内容自体は非常に凄惨なものも多くあった。翻訳小説が苦手な私でも読みやすく感じました。

  • 2018/02/18読了

  • 簡潔で歯切れの良い文でとても読みやすい。
    読みやすいが軽くはない。

  • 20160617

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