破壊者 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (539ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488187095

感想・レビュー・書評

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  • 100点

    この物語を読み始めて最初に思ったのは、「いやー相変わらず黒いなー」だった
    イメージとしての黒ではなく、単純な色としての黒
    もうページに文字がびっしりと隙間なくあって本当に黒いんだよね
    ただ不思議なのは表現がとても簡潔で分かりやすいんだよね
    よくある作家が自分の技術をひけらかすために日曜日の夕方の情景を4通りのやり方で表現するようなことで文字数を使うようなことじゃなくてね
    本当に不思議物凄いたくさん字があるのに余ってないんだよね
    必要なことしか書かれてない
    ミネットの文章好きだ(翻訳がいいのかな)

    それにしても100点だ
    本当に(自分が好きな)ミステリーのお手本と言ってもいい作品
    綿密に積み上げられたロジックが物語が進むにつれてほどかれて行って
    あーなるほど!って思わせる説得力がちゃんとあって
    最後は主人公にちょっぴり明るい未来を予感させる、朗らかな終わり方
    もう(ひまわりめろんの採点基準では)100点の完璧なミステリー
    面白かった!

  • 破壊されるのは、レイプされ海に捨てられ、砂浜に打ち上げられた全裸遺体の被害者だ。死してなお、彼女は「破壊」される。彼女を知っていたはずの人々から。最後の最後まで、彼女は「破壊」され続ける、真実を捻じ曲げて悪びれない加害者によって。
    ウォルターズは犯人を徹底して自己保身、自己弁護のために被害者を「破壊」する人間に書いた。だからこそ、歯がゆいほどの地道さで事件を手繰り寄せる捜査官たちがたのもしいのだと思う。

    苦々しい物語。

    だからよけいに、器用じゃなくてじれったいロマンスが微笑ましい。

    やっぱりうまいわ、ウォルターズ。

  •  海岸に女性の遺体が打ち上げられる。その海岸から離れた街では、彼女の三歳の娘が保護されていた。

     レイプし殺した犯人を追うということは、被害者のことも知るということになる。この被害者の人となりがわかればわかるほど、憂鬱な気持ちになっていくのだ。人は誰だって秘密があり、暗部がある。皆それを隠して生きている。が、犯罪に巻き込まれるということは、それを否応なしに白日にさらすことなのだ。
     しかも、彼女にはそうやってさらされることを拒否する、彼女を思う人もいない。

     徐々に明らかになる犯人の行動や心理も、残酷でやるせないのだけど、やはりこういう形で尊厳を奪われて行く被害者が哀れでしかたなかった。

     そんな陰鬱な中で、不器用な警官と、素直になれない元資産家の娘の二人が安らぎだ。

     まさに、ビター&スイートっていった感じ。
     面白かった。

  • 地味…だよね。
    特に凝った作りでもないし、意外な真相があるわけでもないし。
    だからこそ人を丹念に描けているんだと思う。
    犯人というより、話の先が気になった。

  •  ミネット・ウォルターズは年に一作程度の寡作小説家である。その上、東京創元社の場合概してそうなのだが、日本での翻訳発表が原作出版の10年後なんていうのも決して珍しくなく、本書もまた原書出版の13年後という、時を逸した感のあるこの出版事情だけは、今後是非どうにかして欲しいもの。本書のように、時代性において影響の少ない作品だから、という言い訳は絶対に不要である。読者はやはり、いい作家の、いい作品は、できるだけリアルタイムに読みたい。映画だって、『アルゴ』みたいにアカデミー賞を受賞するのと同時に、映画公開・DVD発売までをクリアしてしまう、そんな時との競争が当たり前の現代という時代なのだから、まるで魔女狩りの時代みたいにクラシックでゆるすぎる商品流通のシステムは、早々に改善して欲しいもの。海外翻訳ミステリの衰退を心配げに見つめる読者としては、さらに痛切な願いである。

     さて、作品の方だが、ローカルな海岸地帯における流れ着いた女性の死体。そのただひとつの事件をめぐって、地域に生活したり、ここを訪れたりする、実に多くの登場人物が、それぞれに語り、それぞれに動き回る。多くの人を登場させ、多くの人の目線で物語を追跡するゆえに、真相になかなか辿り着けないという、実に冗長で遠まわしでありながら、事件をめぐる社会構造の方に視点を集約したような長大な一冊である。ミステリの軸となるフーダニットの興味があったとしても、おそらくあまり満たされないだろう。そんな結末に至り、はて、この作品は果たしてミステリでさえあったのか? と疑問に思う読者も少なくないのではないだろうか?

     この物語の舞台となる地域の方が、まるで主役ででもあるかのように、この地域の地図と、サービスのよいことに写真までもが巻頭に揃えられている。この広大で美しい入江や岬を持つ海辺の田舎町に、事件と関係のある人やほとんど関係を持つとも言えないような人々の日常生活が、事件から受けた影響というようなものを、あくまでディテールにこだわり、人間たちの個性にこだわり、会話にこだわるかのように語り続ける作家のペンが、さすがに今回ばかりは、遠まわし過ぎて鼻についてならなかった。退屈な長回しのカメラ映像でできた出来の悪い映画脚本みたいに思える、というと言いすぎだろうか?

     作品のめざす主眼が、事件の真相というものではなく、事件の表面に見えなかったがやがて見えてくる、それぞれの事実の堆積にあると気づいてからは、真犯人はどうでもよく、むしろ死に至った女性の側の真実、殺されねばならなかった原因や、それを作り出す環境、また彼女の死がもたらした波紋のようなものを人々の眼を通して、映し出すことが本書の主眼であるのかと割り切るしかなかった。それはそれで狙いとしてはよいのだろうが、冗長は弛緩を産み、群像小説的視点は散漫を呼び、時間はのんびりと蛇行し始め、事件そのものへの興味も大きく育ちはしない。読書中、ついぞ心が高揚することがなかった。

     ミネット・ウォルターズは、そもそもディテールを大事にして、人間を大切にする作家ではあるものの、事件そのものの異様さ、特徴、癖のあるラディカルな犯人像といったものが、過激なまでの個性であったように思う。そしてストーリーテリングは申し分なく、独特の構成、異質な表現である新聞記事などの挿入、などによる少々エキセントリックなまでの扇情ぶりが、この人の現代的なエンターテインメント性を形づくり、読書的スピード感をもたらしていたように思う。この人がここまでどっしりと腰を据えて、当たり前のような小説を書いたのは今回初めてと言ってもいい。さほど、エンターテインメント性の面で鈍りを見せた、ぼくにとっては理解しにくい作品が本書であったのだが、この作家の継続読者としてはつくづく残念でならない一冊である。

  • 英国ミステリの女王ウォルターズの新刊。

    イングランド南端のチャプマンズ入江。
    男の子の兄弟が、浜辺で女性の死体を発見する。
    あわてふためく二人をなだめて、事態がよくわからないまま携帯で通報したのは、たまたま散歩していた俳優のスティーヴン・ハーディング。
    そこへやって来たのは、近所の馬預かり所の経営者マギー・ジェナー。30代半ばで、とても美しい女性。
    通報で駆けつけたのは、地元警官のニック・イングラム巡査。
    マギーは地元で育った人間で、地区担当のニックとは旧知の間柄だったが、良い思い出ではなかった。
    捜査はニックら警察が行うけど、内容的にはマギーの物語としても読める小説です。

    スティーブは俳優としては売れていなかったが、女性が目を離せなくなるほどのハンサムで、モデルとしては不自由ないらしい。
    暑い中を散歩するには短パンと軽装で、水さえ持っていなかったことに、ニックは疑惑を抱く。

    死体はケイト・エリザベス・サムナーという女性で、実はスティーブとは家が近かった。
    ただの知り合いだとスティーヴは言うが、ケイトの夫は妻はスティーブを嫌っていたという。
    スティーブに言い寄られていたとか、ケイトがストーカーだったとか、人によって証言は食い違う。

    ケイトは小柄な美女で、夫ウィリアムは製薬会社の研究者。年上の地味な男で、まったく共通点がないらしい。
    姑の暮らす老人ホームから距離を取って、この地でいい家に住むのがケイトの望みだったようだ。
    二人の間の娘ハナは3歳だがほとんど口を利かず、どこか様子がおかしい。
    猫かわいがりする妻と、途方に暮れる夫。
    娘は何もかもわかっているように見えるときもあるのだが。

    スティーブの友達トニーは、高校教師だが、かなりろくでなし。
    祖父は資産家という階層の出なのだが。
    スティーブは自分のスループ船「クレイジー・デイズ」号を大事にしていて、舟仲間には評判が良かった。
    自己中心的だが女にはもてて華やかなスティーブと、大人しい分だけ鬱憤が溜まっているかも知れないケイトの夫。
    対照的な二人の男を調べていくニックら捜査官たち。

    ケイトも強烈な性格。
    階層が上の夫を見事ゲットしたということで、イギリスが階層社会だという本「不機嫌なメアリー・ポピンズ」の内容を思い出しました。
    それぞれの人間が色々な面を見せ、最初は人によっても見方が違うのですが、その嘘か本当かわからない断片が次第にまとまってくるのが圧巻。
    どうしてここまで性格が変わらないのかと呆れるほど、こだわりや弱点がじつは一貫しているのだ。どうしようもないのか…?

    ニック・イングラム巡査は、大柄で誠実ないい男で、ここぞというときに活躍。
    マギーは名家の出。(ここでも階層の違いが…)
    若いときに結婚相手に騙されて財産を失い、身近な人にも迷惑をかけた過去を背負っています。
    病気の母を抱えて、古い館の手入れも出来ないまま、苦しい生活をしていた。
    その当時、イングラムは役に立たなかった悔いがある。
    誇り高いマギーの母も個性的。
    ニックとマギーのこじれた関係が、じわじわと上手くいくようになるのも楽しい。

    翻訳発行は最近ですが、原著は1998年で、6作目。
    「囁く谺」と「蛇の形」の間になります。
    「囁く谺」は男性の私立探偵と運命の女性の話で、男性作家が書いたかのような雰囲気で、こういうのも書けるのよって感じだったかな。
    「蛇の形」はウォルターズ以外には書けないだろうという傑作。
    その間にあった~なかなか力強い作品です。

  • 暴行された女性の遺体が入江で発見され、その3歳の娘は遠く離れた町で一人で歩いているところを保護された。いったい何があったのか…
    レイプ殺人は単に被害者の肉体や生命を奪うだけでなく、そのプライバシーや尊厳をも破壊する。派手な展開はなく、捜査の過程が地道に描かれる重苦しい作品だが、次第に明らかになっていく被害者や容疑者の多面性が深く、物語に深く引き込まれた。
    ウォルターズの作品は毎回ヒロイン造型が素晴らしいと思う。この作品ではそれほど突出した存在ではないが、彼女の再生が重く辛い物語に一筋の光を与えており、読後感は辛いばかりではなかった。

  • ある人物について人に語らせるということが、どれほど虚飾に満ちて恐ろしいことなのか、思い知らされる。

  • 「氷の家」と同じ作者だったので。

    前作と違って読みやすかった。
    ミステリーとラブストーリーが織り込まれていたからか。
    全体的に明るい雰囲気だからか、
    舞台が海だからか。

    いかにも怪しげな二人の容疑者が最初から現れて、
    殺されたのが一人だからか。

    もと金持ちで結婚詐欺にあった母娘が、
    生活を立て直しはじめるところが良かった。

  • ウォルターズの今までの作品に比べると、面白さはやや下がるかな。スティーヴにトニーの教養知識が、トニーにスティーヴの美貌、或いは性的魅力があれば、二人ともまともな人生が送れたかもね。この二人の人生は無い物ねだりに満ちている。逆にケイトは自分の手に入るもので精一杯生きようとしたのでは?カーペンター警視とガルブレイス警部補のキャラの書き分けがイマイチ。巡査のニックは素敵。

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