探偵術マニュアル (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488197544

感想・レビュー・書評

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  • タイトルといい帯の煽り文句といい、どうかしてるなぁ、いい意味で。
    「カリガリ・サーカスって!」と、ページを捲る前から黒い笑いが込み上げてきた。
    探偵が失踪したため、事務方だった主人公が否応なく格上げされ、
    探偵必携のマニュアルを頼りに覚束ない足取りで捜査に乗り出す、
    推理ものというより夢現をさまよう不条理な幻想小説なのだけど、
    一応、殺人が起き、終盤で犯人と動機が明らかになるので、
    ミステリの一種には違いない……かな?
    主人公が巨大組織の末端構成員で、所属先の全体像も把握しきれていない点は
    イスマイル・カダレの『夢宮殿』に似て、
    夢遊病者たちと彼らを支配する「カリガリの旅回りサーカス」
    =サーカスを隠れ蓑にした窃盗団の存在は、ちょっと野阿梓「眼狩都市」を連想させるなぁ、
    なんて勝手に思ってしまうのは私だけですかそうですか。
    やっぱり物語には wonder と wander が必要なのだと痛感。
    これを「バカバカしい、でも面白い~!」って言ってくれる人と仲良くしたい(笑)

  • 自分を読書の世界に引き込んだのはコナン・ドイルのシャーロック・ホームズで、その奇想天外なホームズだけが見事に解き明かすことのできる謎に対する推理の面白さに子供ながらにはまったのである。今の子供たちがアニメのコナンにはまるのと同じ構図かも知れない。だからミステリーの面白さは言うまでもなく謎解きにあると言いたいのだけれど、もしミステリーの面白さが謎解きだけにあるのだとしたら、ミステリーは前例の無い謎解きのケースを競い合う、ちょっと想像しただけでも無味乾燥な世界に矮小化しかねないと気づく。だから(というのも変な言葉の接ぎ穂だけれど)ミステリーの面白さは謎解きの他の部分にもある筈だ。そんな「他」の部分の魅力が溢れているのがこの「探偵術マニュアル」である。

    本の章立ては、話中で語られる「探偵術マニュアル」と同じ構成ということになっている。ただし物語の中で言及されるマニュアルには17章までしかないのに対して、この本は18章が存在する。そしてその理由が徐々に明らかとなる。もっともその章立ての意味合いは物語の連なりとはそれ程強く相関があるわけでも無く、例えば「果てしない物語」のような、入れ子の物語が展開するというわけでもない。夢という装置がタイムマシーンにおける時間のような役割を果たし、何十年も前に流行った映画のような時間の流れの無限後退の罠に陥るような(タイムマシーンに乗って未来へ行き酷い目に会って過去へ戻ってそれをリセットしようとすると丁度タイムマシーンに乗りこむ直前の自分たちの世界に戻ってしまい、時間に追いつかれて消滅してしまう前に再びタイムマシーンに乗りこんで、、、、という具合に物語がどんどん入れ子のマトリョーシカのように無限に一所を廻る)場面もあるのだけれど、そんな舞台装置の面白さだけが本書の魅力という訳でももちろんない。

    主人公のチャーリーは、ひたすら真面目に報告書をまとめ上げる仕事に従事しその仕事を中心に世界を構築している。その世界から逸脱しそうな出来事を正すため仕方なくやったことのない大冒険に乗り出すのだが、そこで報告書は完全な物語ではあり得ないことに徐々に気づいていく。報告書を書くだけの生活に戻りたいがために事件を追いかけ解決しようとしていたのに、何時の間にかその事が彼自身を変えていくことになる。報告書は勧善懲悪の一つのメタファーだ。

    世の中、勧善懲悪の物語ほど解り易くて右手の拳を簡単に宙に向かって突き上げることができるものもないけれど(愚か者は自分自身の真上に向かって銃を撃ち放つ。その行為の帰結が何であるかも想像しないで)、きっとそんな単純な物語はどこを探したってありはしない。政治や宗教や色々なイデオロギーを盲目的に信じている人なら兎も角、多様性の重要性がこれ程叫ばれている中で、一方的な価値観というのが現実(それを真実と呼ぶのは、また別の意味で躊躇われる)をきちんと(正しく、と言いそうになって、止める)捉えられはしない、というのが公平な見方だろう。その意味で本書は正しく勧善懲悪な物語ではない。そして個人的にはそのことが本書の一番の魅力だろうと思う。

    登場人物たちは、誰もが何か一つは特別に得意なことを持っている。しかし、誰一人として人格的なバランスのとれた人物はいない。そのアンバランスと特別に得意なことのせいで、この物語はジム・キャリーの主演したアニメと実写が一体となった映画のような雰囲気がある。登場人物の誰もかれもが少々ステレオ・タイプ的な(ということは表面的で平べったい)のである。ところが、その一見すると薄っぺらな登場人物たちが、物語が進むにつれて急に二次元的存在からむくむくと膨れ上がって立体的な存在となってくる。ミステリー読みの癖から、こいつは悪い奴に違いない、などと思っていた奴らが悉く一癖も二癖もある裏表どころか清濁合わせて呑み込んだような人物に見えてくる。その広がりがこの本の面白さだと思うのである。

  •  ファンタジーとミステリが融合した、摩訶不思議な探偵小説。
      雨が降り続ける名前のない都市で〈探偵社〉に勤める几帳面な記録員が突然、失踪した敏腕探偵を探すことになる。殺人犯の濡れ衣を着せられながら、『探偵術マニュアル』を片手におぼつかない捜査をするうち、夢か現実かわからない世界に迷い込んでいく。

     過去に起きた”十一月十二日を盗んだ男の事件”や”最古の殺人被害者の事件”など、題名だけでもケレン味たっぷりだが、最後はそれらのエピソードの真相も含めて、すべて謎が強引に解明されるところはなかなかのもの。
     処女長編だから仕方ないのかもしれないが、人物がもう少し書けていると、もっと良かったかな。

  • かなりファンタジック。

    解説で触れられているカフカもそうだけど、自分は不思議の国のアリスの世界観が頭に浮かんだ。話のつながりが支離滅裂なようで整合性があるようで、ミステリとしてはかなり独創的。

    中盤はミステリ色はほとんど消え、ストーリーテリングのみになるものの、解決の部分にちょっぴり色が残る。読みたいとは思わないが、次の作品はどんなスタイルで行くのかが気にはなる。個人的には、ミステリとしてはこのスタイルは単発でないと厳しいと思うのだが。

  • 〈探偵社〉随一の腕利き探偵の専属記録員アンウィンは、ある朝、突然探偵に昇格されてしまった。
    何かの間違いだと訪れた上司の部屋には、その上司の死体がー
    失踪した腕利き探偵を探すはめになったアンウィンの前には、謎めいた依頼人、死んだはずの男と次々と難題が…!

    訳者あとがきに“ファンタジー+ミステリ”のジャンル横断的作品、とあるけれど、ふたつが融合してます。
    “雨が降り続ける名もない都市”“サーカス”“夢”と、どちらかと言えばファンタジーが強い感じですが…。
    読んでても、どこからが夢でどこからが夢じゃないのか…曖昧で不思議。
    主人公アンウィンと同様によく分からないまま流されてるうちに、なんとなく分かった?と思ったらエンディングでした‐
    でも爽やかで先を感じる終わり方だと!
    ものっすごく感想の書きにくいお話です‐

    しかし付いてた帯!
    面はネタバレっぽいし、裏は難題満載短編集かと思わせる紛らわしさだと!

  • 雨が降り続ける奇妙な町を舞台にした幻想小説+ミステリ。
    〈探偵社〉で記録員として働くアンウィンは、突然探偵へ昇格を命じられた。自分には探偵なんてできない、と上司に抗議に行くが殺人事件に巻き込まれ、仕方なく捜査を開始。しかし失踪した探偵や怪しげなサーカスの犯罪者たちを追ううちに、物語は悪夢の迷宮を彷徨うようにその形を変えていく…
    最初に戸惑った不条理な出来事も中盤から少しずつ謎が解けてくるが、現れたのはやはりファンタスティックな世界。たしかにブラッドベリとかカフカっぽいかも。読むのにけっこう時間がかかった。
    「ベイカー大佐の三度の死事件」、「十一月十二日を盗んだ男の事件」などアンウィンが記録をまとめた過去の事件もなかなか魅力的。

  • 幻想的な雰囲気が濃い小説でした。
    前半は物語がどこへ向かっているのか全く分からず、不可思議で不条理な世界に戸惑いましたが、それを受け入れてしまえば楽しく読めました。

    話が進むにつれてわけのわからなかった世界に説明がつけられていきますが、スッキリしていくと同時に、前半の不条理な世界が霞んでいく寂しさも感じてしまいます。

    気弱ながらも大胆な行動をみせる主人公が魅力的です。
    切なさと希望を感じさせる結末も素敵でした。



    クールな探偵シヴァートが「十一月十二日を盗んだ男の事件」の真相になぜ気付いたか、その理由がなんだかかわいらしかったです。

  • なんとも一言では説明し辛い作品。ミステリ+ファンタジーと言ってしまえばそれまでだが、「折れた竜骨」のようにファンタジー世界で本格ミステリしているわけではなく、あくまで「幻想小説」の中でミステリっぽい事をしてみました、という感じで。
    本書の帯には「ポール・オースター+ブラッドベリ+カフカ」とありますが、確かにカフカ。特に、ストーリー前半は自分と周囲の隔絶と言いますか、自分の知らないルールの中で動いている物事の中に放り込まれた不安定な感覚。めまぐるしく転換する舞台。夢と現の区別が曖昧になりながら謎を追い求めていく「僕」。
    幻想小説系が好きな人にはオススメ。かっちりきっかりした話を読みたい人にはオススメできないかなぁ。。。

    そうそう。目次の構成やマニュアルのページ数指定など、芸が細かいですね。

  • 象徴にあふれたミステリー。自分以外の全員がルールを理解しているゲームをプレーさせられているかのような主人公と共に謎を追う楽しみ。終局の結構まで上手く出来ていた。今後が楽しみな作家である。

  • 2017/08/31
    探偵と記述者という、ある種ホームズとワトソンを彷彿させるようなペアを総合して管理する探偵社。
    ある日主人公のアンウィンは記述者から探偵へと昇進させられる。
    自分に新しく充てがわれた部屋に行くとそこには先輩の死体が……

    後半には夢の世界と催眠術が出てきて、純粋な推理小説ではないかなと感じた
    レコードで過去起きたことを観察できるのは面白い

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