古書の来歴 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488216078

作品紹介・あらすじ

【第2回翻訳ミステリー大賞受賞作】数世紀を遡る謎解きの鍵はページに挟まった蝶の羽。焚書と戦火の時代、伝説の古書は誰に読まれ、守られてきたのか?伝説の古書『サラエボ・ハガダー』が発見された――深夜のその電話が、数世紀をさかのぼる謎解きの始まりだった。この本は焚書や戦争の時代に置かれながら、誰に読まれ、守られ、現在まで生き延びてきたのか? 古書鑑定家のハンナは、ページに挟まった蝶の羽、羊皮紙に染み込んだワインの一滴から、その来歴をひも解いていく――科学捜査に基づく謎解きの妙と、哀惜に満ちた人間ドラマが絡み合う、第2回翻訳ミステリー大賞受賞作!

感想・レビュー・書評

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  • 実際にあったんじゃないか、と思えるような描写力が印象的な作品。実際は殆どがフィクションだが、ハガター自体は本物。
    サラエボで見付かったハガターがテーマ。ユダヤ教についてはなんとなくしか知らなかったが、ドイツだけではない、長い迫害の歴史に驚いた。
    もう一度歴史を勉強しなおして、話を読んだら、もっとよく理解できそう。

  • ・あらすじ
    1400年代に作られたとされる伝説のユダヤ教の祈祷書「サラエボ・ハガダー」が発見された。
    古書鑑定家のハンナはサラエボに赴き古書の修復、科学的調査を行うことになる。

    ハガダーに残された痕跡(蝶の羽、ワインの染み、残されたサイン、塩の結晶、猫の毛)からこの古書がどのような人々と運命を共にしたのか。
    スペインで作られたこの古書がサラエボに辿り着くまでの過去パートを逆行していくパートと古書修復家のハンナがその謎を科学的に調査していく現代パートが交互に綴られる。

    ・感想
    サラエボ・ハガダーという古書があることをこの本で知った。
    サラエボ•ハガダーとは「14世紀中葉のスペインで作られたハッガッダー。ユダヤ教の過越の日のための物語と祈りの言葉が記されている。中世の細密画が描かれたヘブライ語最後の本」(by wiki)
    ・アンダルス時代以降のキリスト教が統治する土地(スペイン)で作られたユダヤ教の祈祷書
    ・偶像崇拝禁止とされていた中世のユダヤ教時代に作られたのに全ページに細密画が描かれており美術史が書き換わった。

    この2点だけでもこの本がどのようにして成立したのか…とても興味が惹かれるものがある。
    サラエボ・ハガダーの詳細な来歴は判明していないけど、作者は巧みに判明している事実と妄想を織り交ぜてドラマティックな作品にしててすごい!
    実際にサラエボ・ハガダーが現存するためにも、きっと同じようなドラマがあったんだろうな…と思わせる説得力があった。
    ドラマティックといっても使命感を持ち命をかけて本を守った英雄たちの話ではない。

    ユダヤ教に関しては無知。
    民族対立、宗教対立の他に金融業によるユダヤ資本が僻まれ迫害されていた(間違ってるかも)、割礼という風習がある程度しか知らなかったけど、本作を読むにあたっては知識の寡多はあまり問題にはならないかな。
    でももちろん教義や歴史の知識があった方がより物語を楽しめるかも。

    過去パートは年代が遡っていくんだけどどの年代もとても印象深かった。
    ・WWⅡ時代、ナチによる迫害から逃れるユダヤ人少女と焚書から古書を守ろうと奮闘する博物館に勤めるイスラム教徒の男性の話。
     少女の過酷で残酷な運命は読んでいてとても辛かったけど、イスラム教徒でありながらユダヤ人を匿い、ユダヤの祈祷書を守る男性の優しさと信念が良かった。
    ・1890年代のウィーン。ユダヤ人医師とハガダーの再装丁を依頼された装丁氏と、いつの間にか紛失していたハガダーの銀の留め金の話。
     ユダヤ人医師の性癖はNTR属性云々ではなく、宗教的倫理観からのとかなんかそういうのがきっとあるんだよね…?そこら辺ちょっと読み取れなかったw
    ・1600年代ヴェネチア。ユダヤ教、イスラム教が異端とされ検閲、焚書されていた時代。アル中の異端審問官の司祭とギャンブル中毒のユダヤ教のラビ(先生)の話。
     このターンは実際のサラエボ・ハガダーにもサインが残されている司祭「ヴィストリニ」をメインに据えているんだけど、個人的にはこの話が1番切なかったかも…。
     名前と過去を奪われ改宗したヴィストリニの苦悩とラストが切なかった。
    ・1492年スペインのタラゴナ。レコンキスタ完了の年。スペインでユダヤ教徒追放令が公布された年にスペインを脱出するユダヤ能書家一家の話。
     この話は1番宗教的だったかも。「諸行無常 盛者必衰」をモットーとする私にはこの唯一絶対神を信仰する強い心があまり理解できなかったり…。
    でも「絶対」を持つ方が人間良くも悪くも強くなれるんだよなーと思う。
    ・1480年のセビリア。イスラム教徒の少女とイスラム総督に戦利品として略奪され妃となったキリスト教徒の女性の話。
     実際にハガダーに描かれている黒人女性からインスピレーションを受けて書かれていて、成立の過程が判明するくだりが良かった。

     現代パートでも陰謀が起こってミステリー仕立てになっている。ローラが出てきてハガダーを発見するという終着点は良かった。
    あとオーストラリアのアボリジニの遺跡保護活動をしているハンナのセリフにふと自分たちのことを省みたり。
     足元の自国の文化をもっと知って、大事にしていくことも大事だなと。

     そしてやっぱり現在の状況を憂えてしまうな…長い間迫害され追放され放浪してきた民族の望みである「自由と祖国」。
     人間の歴史は戦争の歴史だから仕方ないのかもだけど。

  • 実在の「サラエボ・ハガダー」に着想を得たフィクション。宗教の歴史、ヨーロッパの歴史、どちらも何となくしか知らないけれど、物語には惹き込まれた。
    ハガダーの挿絵が欲しいところ。

  • まず、ボスニアってどこ?ユダヤ教…、紛争?
    この時代ってどんなどの辺だ?ってまるで背景が分かりませんでした。
    そういった教養ないと読めないかなと不安でしたが、大丈夫でした。でも多分そういったこと詳しい方が面白いのかもしれません。

    本に携わってきた人たちのエピソードが過酷でした。
    蝶の羽の章が第二次世界大戦のユダヤ人の人の話なので鬱々としてしまいました。
    また、本の修復者のハンナのお母さんも酷いというか…
    子供育てるの向いてない人でした。

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