捕虜収容所の死 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488238025

作品紹介・あらすじ

第二次世界大戦下、イタリアの第一二七捕虜収容所でもくろまれた大脱走劇。ところが、密かに掘り進められていたトンネル内で、スパイ疑惑の渦中にあった捕虜が落命、紆余曲折をへて、英国陸軍大尉による時ならぬ殺害犯捜しが始まる。新たな密告者の存在までが浮上するなか、果して脱走は成功するのか? 英国ミステリの雄が絶妙の趣向で贈る、スリル横溢の独創的な謎解き小説!

感想・レビュー・書評

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  • 大脱走で見た描写がある

  • 第二次世界大戦下イタリアの捕虜収容所。脱走を目論む英国大尉たちは密かにトンネルを掘り進める。しかしトンネル内でスパイ疑惑のあった捕虜が殺される。犯人は誰か?死体はどうする?死体を運び出すも脱走計画の中心メンバーが殺人容疑で逮捕され、刑執行のリミットが近づく。捕虜の中にスパイがいるのか。真犯人は誰なのか。誰が味方で誰が敵なのか。全員脱走できるのか。ドイツ軍がイタリアの加勢で近くまで来ている。間に合うのか!スリル満点、落ち着く暇がない!

  • 1952年の発表から50年を経て飜訳され、ギルバート再評価の機運を高めた作品。
    1943年7月、連合軍が間近に迫り、敗色濃い枢軸国イタリアの北部。約400人にものぼる英国人らがいた将校専用の捕虜収容所では、脱走のための地下トンネルが掘り進められていた。間もなく完成を見ようとする頃、密告の容疑の掛かっていたギリシャ人が不可解な状況下で殺される。その死が脱走計画破綻へと繋がることを恐れた主導者らは、真相を探る「探偵役」としてゴイルズ大尉を指名。だが、閉ざされた社会と、限られた時間の中で、犯人捜しは難航する。

    結論を述べれば、単に「つまらない」。
    その理由は以下の通りだが、読み手によっては全く違う読後感となることをまず断っておきたい。

    本格推理物としても、スリラーとしても中途半端で凡庸。その最大の要因は、極めて味気ない筆致にあるのだが、そもそも物語る技倆が足りないと感じた。実力のある作家ならば、同じ設定で遥かに面白い作品に仕上げただろう。
    一番のネックは、登場人物が無駄に多い上に、一人一人の造形が浅いことだ。つまり、読者に配慮した描き分けが為されておらず、収容所内の相関/因果関係が掴めない。全くイメージ出来ない容姿、表情や仕草のおざなりな描写、最低限の過去さえ分からない主要人物。〝探偵パート〟の主人公となるゴイルズさえ、どのような人物なのかが伝わらない。
    感情移入を促すための必要不可欠な要素、掘り下げが無く、要は一貫して淡白なのである。戦時下、しかも極限状態に生きる人間の焦燥や儚い希望を描き、ストーリーに深みをもたらす気など、さらさら持っていなかったようだ。ギルバート自身が、同様の状況で捕虜となった経験を持つとは信じられないくらいである。

    焦点が定まらず、緊張感や昂揚感も無く、終始ぼんやりと流れていく。物語上で最大の見せ場/山場となり、力を込めて描くはずの脱走シーンも、下手をすれば読み過ごすぐらいのあっさり感で、難なく成功させる。さらに脱走後の道中も大したトラブルも無く過ぎていくのだが、これをスリラーと呼ぶならば、私が今まで読んだ本の中に「スリラー」は存在しないことになる。
    大団円に於いて、ゴイルズは種明かしとともに裏切り者を指し示すのだが、大半が薄い登場人物の中の一人なため、これもピンとこない。
    さぞや、これから先に、巻末で解説者述べるところの「スリラーと本格ミステリの様相とが渾然一体となった奇蹟のような作品」という評価に相応しい締め括りがあるだろうと期待したが、物語はここで拍子抜けするほど唐突に終わる。
    これほど余韻の無いミステリも珍しく、まさに「奇蹟」のようではある。

    地の文中で「すでに説明されたように……」と〝語り手〟の存在が脈絡を無視していきなり現れる。この物語は神の視点ではなく、ひと言も触れられてはいない誰かが記したものなのか、と興醒めしたのだが、シリアスな展開をぶち壊す構成の甘さは、如何ともし難い。主題を絞らず、いったい何が描きたかったのかと悩むほどだが、これがギルバートのスタイルなのだろうと心を静める。

    全体を通して牧歌的な雰囲気が漂うのは、戦争の惨禍に対する批判的な視点が欠落しているためだろう。スパイが潜り込むという設定上仕方がないとはいえ、より劣悪な環境下にあった名も無き兵士らではなく、或る意味恵まれた収容所にいた将校らを対象とした点に、作者のエリート主義を感じる。トンネル掘りの合間に、スポーツや遊戯、劇を楽しむ捕虜ら。縦社会の悪しき象徴でもある軍人の鬱屈した世界だけは、しっかりと染み込んでいるようだが。

    何にしろ、深読みしてあれこれと求めすぎる癖のある私は「由緒正しき伝統の英国推理小説」の良い読み手ではないらしい。

  • 久々に、しっかり面白かった海外のミステリー。

    第二次世界大戦下のイタリア、捕虜収容所からの脱走を目論むイギリス兵(と、少数のその他の国の兵士)が掘り進めていた、大規模な脱出用トンネル。とあるカラクリにより一人では入れないはずのそのトンネル内から、一人の捕虜が崩落した土砂の下から死体で発見されます。発見当時のトンネルは密室状態。果たしてこの捕虜はどこから入ってきて、誰に殺されたのか。あるいは、土砂崩れに巻き込まれた事故なのか。

    この謎を解き明かすことと、収容所からの脱出が成功するのかどうかといこうこと、二つのストーリーが並行して進んでいきます。終盤に進むにつれて話は劇的に展開し、最後には密室での捕虜の死と収容所脱走の顛末とが同時に明かされるという、最後まで飽きない流れになっています。

    一つだけネタをバラしてしまうと、トンネル内で死んでいた捕虜は事故死ではなく、殺人です。ただ、この捕虜を殺した犯人と、この物語全体において主役側であるイギリス兵たちにとっての「敵」は同一ではありません。そして、この「敵」によってイギリス兵たちの命運が左右されているため、結果的に捕虜の死の真相を暴くことがイギリス兵たちの生存にも影響するという、なかなか複雑な作りです。

    「敵」が誰なのかを探るためのヒントや伏線は、冒頭からかなりたくさん張り巡らされています。謎解きとなる終盤の展開を読んでから、改めて思い起こすと「あの描写も伏線だったか!」と膝を打つほど、緻密にして多彩です。著者の技量の高さが分かります。

    最初、本を開いたときは登場人物の多さに辟易しましたが(なんせ3ページにわたって35人も載ってる。そこそこ登場人物が多いクリスティの長編でもせいぜい15人ぐらいが関の山)、読み終えてみるとその誰もが何かしらの重要な役割を果たしているというのも凄い。たかだか350ページ弱の小説で、これだけの密度と読み応えがあるのは珍しい。

    古い小説ですが、ミステリーが好きなら一読の価値あり。

  • 緻密、必読書。

  • 1943年、第二次大戦中のイタリア、連合国側の兵士約400人が捕らえられている第一二七捕虜収容所では脱走のためのトンネルがいくつも掘られていた。

    イタリア側に情報を密告していると疑われていたクトゥレスという捕虜がもっとも有望とされるC収容棟トンネルの内部で死体として発見された。イタリア側への報告にはどうしてもこのトンネルを内密にしておかなければならなかった。そのため、死体を他の掘りかけのトンネルに移動させ、そこで発見したことにした。イタリア側へ報告すると、何故か通常とは違い、現場の捜査、指紋の検出、死体の処置などが流れるように進んだ。そこで死体移動を実行したバイフォールドが容疑者として捕らえられ処刑が決まる。

    もうすぐ完成するC収容棟のトンネル、処刑が迫るバイフォールドの身柄、イタリア本土に迫るイギリス軍、南下し圧力をかけるドイツ軍。そんな中、ヘンリー・ゴイルズはクトゥレス殺しの真相を捜査するよう捕虜側の指揮官レヴァリー大佐から指示を受ける。

    C収容棟トンネルを完成させるべく掘り進めたゴイルズは崩落事故に巻き込まれるが助けられた。これを機にゴイルズはクトゥレス殺しの真相を掴んだ。クトゥレスはイギリスの情報将校であり、イタリア軍の戦争犯罪者を調査するため捕虜収容所に潜入していた。しかし、同じく潜入していたドイツ軍のスパイによりイタリア軍に情報が漏れて殺されてしまった。C収容棟トンネルの存在もイタリア軍に筒抜けとなっており、わざとクトゥレスの死体を真上から掘った穴を通してトンネルに落とした。

    そこに翌日、イタリア軍が降伏し、捕虜収容所がドイツ軍に引き継がれるという情報がもたらされる。そうなったらドイツまで連行され脱出の機会は失われてしまう。そこで翌日までにC収容棟トンネルを完成させ、400人全員を脱出させることに決定した。なんとか脱出に成功したが、イギリス軍はまだドイツ軍と戦闘中で救出には来られなかった。そのため、少人数のグループに分かれて各自イギリス軍のもとに向かうことになった。ゴイルズはバイフォールドとロングとともに逃避行を続け、もうすぐイギリス軍に合流できるところまで達した。そこでゴイルズとバイフォールドはロングを気絶させ逃亡した。ロングが捕虜収容所に潜入していたドイツ軍のスパイだった。ロングがドイツ軍に二人を引き渡す直前で逃げ出すことに成功した。

  • スリル横溢の謎解き小説!
    英国軍将校捕虜による真相究明劇
    果たして脱走は成功するのか?

  • ミステリとしては謎がねえとか評価は低いらしいが、とても楽しめた!面白かった!ハラハラドキドキを読書でしたのは久しぶり。色々な頭脳戦が読み飛ばせなくて、よく練られている印象だった。

  • 脱走計画が進む中で起こった捕虜の殺人事件。脱走計画の行方と殺人犯はだれか、という二つの展開が進んでいくミステリーです。

    まずは舞台設定が非常に魅力的。遺体が見つかるところは脱走のために掘られていたトンネル内で、これは一種の密室状態になっています。

    伏線もなかなか丁寧で、登場人物の書き分けも分かりやすかった気がします。また殺人犯が分かってからももう一波乱あり、最後まで楽しませてくれました。

    他にも捕虜たちの日常の様子をしっかりと描いているあたりもなかなか興味深かったです。勝手に収容所に送り込まれた人たちはものすごくひどい扱いを受けているものだと思っていたので、そういう描写もなく安心でした。

    ミステリーとしての面白さももちろんですが、脱走が成功するのか、というドキドキ感も非常にいい!二つの要素が絶妙にまじりあってはいるものの、ページ数はあまり多くなく読みやすいという点でもおススメです!

    2004年版このミステリーがすごい!海外部門2位

  • ミステリ風味の「大脱走」。舞台設定の面白さはかなり。ただ「大脱走」を観てなかったらイメージが湧かなかったかも。脱走劇の意外性、ゲーム性がもっとあればよかったな。ミステリ的には伏線の妙あり。

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