湖の男 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488266066

作品紹介・あらすじ

干上がった湖の底で発見された白骨。頭蓋骨には穴があき、壊れたソ連製の盗聴器が体に結びつけられている。エーレンデュルらは、丹念な調査の末、ひとつの失踪事件に行き当たった。農機具のセールスマンが、婚約者を残し消息を絶ったのだ。男は偽名を使っていた。男は何者で、何故消されたのか? 過去に遡るエーレンデュルの捜査が浮かびあがらせたのは、時代に翻弄された哀しい人々の真実だった。北欧ミステリの巨人渾身の大作。

感想・レビュー・書評

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  • アーナルデュル・インドリダソン『湖の男』創元推理文庫。

    レイキャヴィク警察シリーズ。主人公のエーレンデュルが地道な捜査により過去に起きた殺人事件の真犯人を特定するというストーリー。読むのに苦労した割りには得る物が少なかったというのが正直な感想。

    干上がった湖の底で発見された白骨死体は頭蓋骨に穴があき、体にはソ連製の盗聴器がくくり付けられていた。エーレンデュルの捜査の結果、過去に農機具のセールスマンが婚約者を残して失踪していた事実が浮かび上がる。

    事実を1つずつ丹念に紐ほどき、少しずつ真実に迫る過程は面白いが、誰もが見逃していた過去の国家の歴史が絡む事件の真相にまで辿り着き、真犯人を特定してしまうというのは余りにも出来過ぎではないだろうか。

    本体価格1,360円
    ★★★

  •  ヘニング・マンケルに似た雰囲気を感じるのは、翻訳者がどちらも柳沢由美子さんの名訳だからということだけではあるまい。マンケル同様、北欧を代表する作品に与えられるガラスの鍵賞を、しかも立て続けに二度受賞しているインドリダソン。そのエーレンデュル警部シリーズも、マンケルのヴァランダー・シリーズ同様に、主人公を捜査官として描くのみならず、生活を持ち、家族を持つ人間であり、その中で私的な懊悩や迷いや希望を抱え込んでいるのである。そこに単作としての事件の上をカバーする連続性持ったシリーズ小説としての魅力が感じられるのだ。

     シリーズ探偵が、誰かとつきあったとか、別れたとか、子供ができたとか、飼い犬が家族に加わった、とか、そういった悩まぬ不動の強き探偵ではなく、読者に近い側の人間であり、読者同様の様々な家族や人間関係に関する悩み、体の不調、心の荒れる様と、それを悔やむ様子、等々。そうしたものをメイン・ストーリーに重ねることによって得られるリアルな重さ、物語の厚さ、体温のようなものが感じられ、作品は活き活きと我々の下に手繰り寄せられる、そんな気がする。

     もちろん、読者と離れたところで、非現実的であれ、快適な小説を求めたい読者もいると思う。マンケルもインドリダソンも、どちらかと言えば、私生活では試練を与えられる警察官であり、個人の試練を解決できなくても事件を解決することはできる、という、少し不完全さを持ったキャラクターである。

     さて本書を読むのが、わけあって先にハードカバーで読んだ『厳寒の街』の後になってしまった。本書は、アイスランドの過去の歴史のなかから現れた古い死体の発見がスタートラインとなる。枯渇した湖の底から、古い無線機を錘として使われた白骨死体が発見されたのだ。エーレンデュル警部の捜査が始まる。

     一方で、米ソ冷戦時代のアイスランド、共産主義に憧れ東ドイツを訪れる若者たちの一団の物語がある人物によって挿入される。彼が誰なのかは読み進むまでわからない。しかし、冷戦の時代には、地理的に重要な情報戦略の要衝的にあった上、自国に戦力を一切持たないアイスランドの国には各国の出先機関が押し寄せ、軍事的にも重要な国とされていたのだそうである。

     その時代、ソ連のコミュニズムに希望を求めた若き活動家たちの行動に本書は焦点を当てる。一方の現代では、エーレンデュル、シグルデュル=オーリ、エレンボルクという三人のレギュラー捜査陣が、それぞれにプライベートな悩みを抱えながらも、彼らなりの才気を発揮して湖で発見された白骨の正体に迫る。

     アイスランドと東ドイツのライプツィヒの両舞台、両時代を往来しつつ物語は白骨死体の正体に近づいてゆく。ミステリ要素をしっかりと差し出しながら、進んでゆく過去の物語とカタストロフ、そして冷戦後の現代の捜査のコントラストを楽しみながら、超一級のストーリーテリングを楽しめる。極上の美酒と言ってよい、これは相当にハイ・クオリティな作品である。

  •  湖が干あがったために発見された一体の白骨。殺害されたことを示す頭蓋骨の穴と、体に結び付けられたソ連製の盗聴器。この死体は誰なのか、なぜ殺されたのか、姿を消した失踪者から辿ろうとエーレンデュルたちの捜査が始まる。
     現在進行の捜査活動の叙述の間あいだに、アイスランドから社会主義の理想を信じて東ドイツ、ライプツィヒの大学に留学した学生の生活が挟み込まれる。時はハンガリー動乱直前。そのときの何がが、この白骨死体に関係しているのか。

     本作は時代背景が重要なポイントとなっているが、冷戦時代のアイスランドの国際政治的な位置について、初めて知ることが多かった。

     主筋のストーリー自体はもちろん、主人公エーレンデュルとその子供たちとの関係、好感情を抱いた女性との交際の深まりなど、シリーズならではの読みどころも多い。

     

     
     

  • 素敵で感動的な終わりかた
    時代に翻弄された 素直な若者
    悲しい

  • シリーズ邦訳四作目。アイスランドの湖底で発見された白骨死体と冷戦下の東ドイツへ留学した学生の追想が交錯する作品構成は「緑衣の女」とほぼ同じだが、ここに外交問題と政治思想、シュタージ傘下の監視社会が絡み合い過去作以上に複雑な様相を呈する。無駄のない物語の運びに哀愁漂う人間ドラマ、そしてラストシーンの情景が醸し出す余韻といい、今作もシリーズの持ち味が存分に発揮されている。恐らく過去パートはこれでもまだ描き足りないのではなかろうか。ロマンス的な展開は非常に苦手なのだが、今作の心情描写は何とも優美で穏やかだった。

  • 初めからレベルが違う

  • 文庫落ちにて再読。
    落ち着いて読めたからか印象変わったので、評価一つアップ。

  • 今まで知らなかった北欧の世界、警察の様子がいつも新鮮です。

  • シグルデュル=オーリのエーレンデュルへの気持ちへの説明がやっと。ここにも父からの愛情の欠如に苦しむものが。前回はクリスマスソングを不謹慎なタイミングで歌ってたけど今回はハンバーガー食べたがってた。
    エーレンデュルはやっぱ子供への責任みたいなものがないな。子供時代から抜け出せていないからか?子供側からしたら勘弁してください!!でしかないんだけど。
    本筋自体は4作目が一番好きかも。
    マリオンってなんの役割なんだろ?

  • エーレンデュル捜査官シリーズの第四弾。

    水位の下がった湖から遺体が発見される。
    ロシア製の機械にくくりつけられていた遺体は、
    婚約者の前から姿を消した農業機械のセールスマンなのか。
    冷戦時代に東ドイツに留学した男のモノローグが重ねられていく。

    国土は日本の三分の一ぐらい、人口は約35万人
    日本のはるか北に位置するアイスランドがどういう国なのか
    今一つ掴めていないが、
    スパイ活動がありましたか、と聞いて回るとはどういうことなのだろうか。
    みんながみんなを知っている国、と解説にあったが、
    知り合いばかりの小さな国では、
    裏切り者はいないということなのか。

    ライプツィヒへの留学生たちに起こった出来事、
    さらにそのあとにアイスランドで起こった事件は、
    あまりにも予想通りで、逆にびっくりしたぐらい。

    エーレンデュルの娘は、彼の同僚にけがを負わせ麻薬中毒治療施設に入っており、
    今度は息子が登場した。
    前作で知り合った検査技師の女性は、夫と離婚することにしたらしく、
    エーレンデュルとの関係は進展した。
    女性の同僚は料理本を出版し、男性の同僚はパートナーが流産したらしい。
    元上司は病気ながらまだ生きているし、
    男性の同僚にまとわりついている、妻子を車の事故で亡くした男も謎。

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