指差す標識の事例 上 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488267063

作品紹介・あらすじ

1663年、クロムウェルが没してのち、王政復古によりチャールズ二世の統べるイングランド。医学を学ぶヴェネツィア人のコーラは、訪れたオックスフォードで、大学教師の毒殺事件に遭遇する。誰が被害者の酒に砒素を混入させたのか? 犯人は貧しい雑役婦で、怨恨が動機の単純な殺人事件と目されたが──。衝撃的な結末の第一部に続き、その事件を別の人物が語る第二部の幕が開き、物語はまったく異なる様相を呈していく──。『薔薇の名前』とアガサ・クリスティの名作が融合したかのごとき、至高の傑作!

感想・レビュー・書評

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  • 王政復古時代のイングランドを舞台にしたミステリというか歴史小説。
    ある毒殺事件を巡って4人の記述者が物語ってゆく。
    第1部では医学を学んだイタリア人の視点で事件が語られ、第2部では第1部に登場した別の人物の視点となる。二人ともあまり好感の持てるキャラクタではないのと、当時の政治事情が錯綜しているので、特に第2部はなかなか読み進めなかったが、第1部では隠されていた事実が明らかになっていくところは面白かった。
    ボイルの法則のボイル氏も登場して、当時の科学事情が描かれているのが興味深い。
    下巻でどんな展開を見せてくれるのか楽しみである。

  • この重厚感、読み応えあった。
    歴史ミステリー好きには堪らない逸品。

    惹句は「『薔薇の名前』+アガサ・クリスティ」とあったけど、読みながら頭に浮かんだのは、ジョン・ディスクン・カー。
    ゴシックとも言いたくなるような大仰さと、そこはかとなく漂うユーモア(「イエス・キリストは親の七光り」には笑ってしまった(笑))は、カーを彷彿とさせる。密室殺人か?と思わせるところもあるし。

    あと、ネタバレが怖くて下巻巻末の登場人物一覧と年表は目にしないようにしていたけど、むしろこれを参照しながら読んだほうがスムーズに読めたと思う。それと、訳者後書きも先に読んだほうがいいかも(読み進むにつれて1600年代イギリス政治に深く関わる話になっていくが、当時の状況について簡単な解説がある)。

    これは好みの問題かもしれないけど、複雑に絡み合ったものが解きほぐされ、最後に全てがスッキリとした新しい形で立ち現れるようなミステリーが好きなんだけど、
    これは複雑なものが解きほぐされてはいくけど複雑なまま終わってしまったというか、モヤモヤッとしたものが残ったという印象がある。

    いかにも歴史ミステリーという感じの重厚感で、その世界に浸っているのは至福だったけど、最後に至って爽快感というか、カタルシスがいまいち感じられなかった。

    いろいろ注文はあるけど、これだけの歴史ミステリーが読めるって事は幸せなことだと思う。
    この作者、次も読んでみたい。

  • コーラの手記のほうは理解できたけれど、プレスコット(東江さんの方)難しい。でもなぜ、東江せんせい…そっちの方が気になって。

  • 今何訳してる? (執筆者・日暮雅通) | 翻訳ミステリー大賞シンジケート
    http://honyakumystery.jp/1332120891

    指差す標識の事例〈上〉 - イーアン・ペアーズ/池央耿/東江一紀/宮脇孝雄/日暮雅通 訳|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488267063

  •  先ずは本書の無事刊行を寿ぎたい。

     本書の帯とカバー裏には、『薔薇の名前』とクリスティの名作が融合と謳われているが、本作を手に取り、内容ではない別の面での『薔薇の名前』との共通点を思って、しばし感慨に耽った。

     それは、日本語訳がなかなか出なかったということである。『薔薇の名前』が映画化された頃、原作ではアリストテレスやキリスト教、異端審問等に関わる内容が満載だということで、それらに纏わる蘊蓄本がだいぶ刊行されていたのだが、肝心の原作の翻訳が待てど暮らせど出ない、その出版社が東京創元社であった。

     翻訳者の一人である日暮氏が、本書についての打合せの始まった時期のことを書いた文章を読んだが、20年以上前から作業は開始されていたようだし、訳者の東江氏の御逝去という事情もあったりと、本書刊行まで難航したことが窺える。そうした困難を乗り越え、刊行に至り、この大作を読むことができたことに、何はともあれ感謝したい。

     感想は、下巻にて。

  • 17世紀のイギリスを舞台にした宗教と政争と策略をめぐる物語。4人の異なる男性(異邦人であるヴェネチアの商人、汚名を着せられ命を亡くした父親の名誉挽回に猛進する弁護士志望の若者、暗号を解く技能を使い自分も重要人物であると自負してやまない数学者、華々しい政治の舞台には縁遠いながら身分としてはジェントルマンである不器用な歴史学者)の手記で構成されていて、日本語訳はそれぞれ4人の翻訳者が担当したという凝った作品。ある出来事を別々の視点から語るという群像劇が好きなのでその点では楽しめましたが、世界史にも英国の歴史にも詳しくないので、実在の人物と史実をベースに架空の人物とフィクションを織り交ぜて良質な娯楽作品になっているものの、知識が足りずに(おそらくは)半分ほどしか理解していないのでは、という感触で申し訳ない気持ちです。読みながら芥川の『藪の中』を思い出していたら、役者あとがきにもそういう声があがっているがそれより『月長石』を挙げる方が妥当では、とありました。『月長石』も読んだと思うのですがそう言われてもあまりしっくりきませんでした。個人的には芥川と、夏目漱石の『こころ』の先生の独白を思い出しました。最後まで読むとある種のカタルシスが得られますが、そこに至るまでの長い道のりは自己愛に満ちた嫌な人物のひとりよがりな長口上を延々と聞かされるかのようで辟易しそうになったりもしましたが、そこを読み終えてこそ、4人目が語る事件後の話で気持ちがすっきりできたという面もあるように思いました。まだ記憶が残っているうちに再読したら、初見より楽しめるのではないかと思います。

  • 格調高い文章が、どうにも読みにくかったです。医学創成期の技法が興味深かったですね。輸血の方法とか。血液型も調べないでいいんかい!とは思いましたが、なかなか面白かったです。そうしたサイドストーリーには興味は引かれましたが、ベースとなるストーリーはやや浅め。下巻に期待。

  • まだ上巻なので作品のできについての判断はできないけれど、あまりにも衒学過ぎてとっつきにくいにもほどがあると最初はうんざりした。

    何しろ17世紀のイギリスの話で、第一章の語り手はイギリスに着いたばかりのヴェネツィアの若者。
    多分本人による手記よりも会話は困難を極めただろうし、それに伴う勘違いのようなボタンの掛け違いもあっただろうし、文化の違いによるバイアスもかかっただろう。
    何よりも、宗教の違いは大きい。
    語り手は敬虔なカトリック教徒であり、英国は英国国教会を国教としている国。
    日本人から見ると同じ神を信じているはずなのに、神に対する姿勢は全く違う。

    ”プロテスタントがよく聖書の引用をして競い合うのはどう考えても馬鹿ばかしいことだったし、場合によっては神への冒瀆に当たるのではないか、とさえ思っている。”

    これと同じことをモンテーニュも『エセー』の中で書いていましたね。

    さて、多少世間知らずなところがあるとはいえ、医学生として病人を見ると治療せずにはいられない好青年のマルコ・ダ・コーラの手記が第一章に当たる。
    実家は裕福ではあるものの、信頼していた人にイギリスでの財産を横領され、それを取り返すべく野蛮な国イギリスにやってきたわけだけど、どこで誰に訴えていいのかもわからないし、手持ちの金も不如意の状態。
    それでも、イギリス人の文化程度の低さも不衛生も我慢し、極力プライドを抑えてオックスフォードの学生としての人脈を広げようと努力を怠らない。
    たとえ空回りをしようとも。

    ふとしたことで一人の老女の治療をすることになるが、どう見ても手の施しようがない。
    看病している娘のサラは顔はきれいでも性格は粗暴で、これ以上関わりたくないという思いと、輸血という新しい治療法を試してみたい気持ちとの間で揺れたコーラは、結局治療をすることで否応なく事件に巻き込まれていく。

    オックスフォードの教師グローヴが、自宅の室内で誰かに毒殺された。
    どういうわけか最初からサラが犯人であるといううわさが流れ、証拠も提出される。
    サラは罪を認め絞首刑となり、一度は持ち直したサラの母も結局は命を喪ってしまう。
    コーラはサラを火葬してやり、その母親の埋葬費も払ってイギリスを去り国へ帰ることにした。

    そして二章に入ると、今度はコーラと何度か交流のあったジャック・プレストコットの手記となる。
    なるほど、この本に4人の訳者がいるというのは、そういうことか。(全体が四章ある)

    プレストコットは第一章では、オックスフォード大学の法学徒であり恩人を殺害しようとした罪で死刑を待つ囚人だった。
    しかし、プレストコットはまず、コーラの手記には嘘があることを記す。
    また、恣意的に記載されていないことのあることを指摘する。

    自身の生い立ちを延々と書き連ね、それはそれで興味深いが、いったい私は何を読まされているのだ?と思った頃、プレストコットとサラの繫がりも明らかになる。
    21世紀では考えられない関係性というしかない二人の因縁は、第一章でコーラが書いたようにサラの刑死という形で幕を下ろすのだけど、それで本当にいいのか?プレストコットよ。

    グローヴの死の瞬間を立ち会ったプレストコットは、それについてあまり衝撃を受けていないようにも見え、少々メンタルが普通じゃないのかもしれないと思ったり。

    この二人の手記は、それぞれに自分は善人であると思い、正しい行いをし、神に対して恥じることがないように書いていあるが、書かれている内容は必ずしも同じではない。
    信用できる語り手なんて存在はない、というのがこのタイトル『指差す標識の事例』ってことなんだろうか。

  • 4章からなるうちの2章までが上巻。1章は医学の描写がキツくて読みにくく、2章は語り手のキャラクターが独りよがりで受け付けない。3章と4章が気になるところだけど、いつかまたゆっくりと読み直すことにして、上巻で終了。
    表紙のデザインは素晴らしい。

  • がんばったけど序盤から胸糞わるすぎて下巻を読む気にはならないし娯楽小説はがんばってまで読むものではないなと思った

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